魔法少女ゆかり☆マギカ(休載中)   作:hidon

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ストックが溜まったので投稿させて頂きます。



     魍魎の庭に飛び込む勇気はあるか B

 

 

 

 

 

 

「う~ん、美味しい!!」

 

「そうか、そりゃよかったな!」

 

 縁は大柄な女性から手渡されたお握りを幸せそうに頬張る。女性はそれを見て満足気に笑った。

 長い銀髪、大柄の体躯に、獣のような鋭い目付き、簡素な黒いTシャツとGパンを着ており、首から髑髏のネックレスを下げている―

 

 ――――どうみても、不良そのものな容姿の女性は『萱野優子(かやの ゆうこ)』と名乗った。

 

 実際、彼女は不良ではなく、白妙町に有る定食屋の看板娘だそうだ。

 食材の買い出しに緑萼市に出かけたところ、たまたまひったくりを追いかけて、気を失った縁を発見し、介抱したのだという。

 縁が気が付いた頃にはすっかり、公園の時計の時刻は正午を刺していた。よく寝たお陰で、縁の頭は冴えきっていたが、お腹が空いてしまったようで、グゥ~~、と腹の虫が鳴った。

 それを聞いた優子が、呆れた表情を浮かべながらも、弁当として携帯していたおにぎりと、スポーツドリンクを手渡してくれた。

 おにぎりは、米の炊き加減、塩の味付けが程良く、母親が作ってくれたものや、コンビニで購入するものとは別格に感じた。

 

 やがて、おにぎりを食べつくした縁だったが、ある事に気付きハッとなる。

 

「……そうだ!」

 

「今度はどうした?」

 

 表情をコロコロ変える縁を可愛く思う一方で、忙しい奴だな、優子は思った。

 

「ひったくりにバッグ取られちゃったんです!! あれが無いと」

 

「それってこれか?」

 

 焦る縁の言葉を遮って、優子が自分の隣に置いてある物体を見せる。それを見た縁の表情がパアッ、と輝いた。

 

「そうです!! これです――――っ!!」

 

 縁は優子が差し出した物……ショルダーバッグを勢い良く抱き締めた。

 

「優子さ~~~~~ん!!本当にありがとうごじゃびゃす~~~~!!」

 

 縁は感激の余り、涙を滝の様に流しながら、優子に抱き付く。

 ……当然のことながら、涙を大量に流すということは、鼻水も大量に流れるので、優子の衣類に付着する形となった。

 

「うわあっ! 鼻水出てるぞっ! 定食屋にとって人の体液ってのは何よりの天敵なんだっ!!」

 

 優子は慌てながら、抱き付く縁を引っぺがすと、ポケットからティッシュを取りだした。

縁はそれを受け取ると、紙を大量に取りだして、チ――――ン!! と勢い良くかんだ。

 

「あんま勢い良くかむと、耳痛めるぞ……」

 

 優子が忠告するが、縁は聞こえない。

 しばらくすると、鼻水は収まり、縁はもう一度、優子に向かってお辞儀した。

 

「ありがとうございます。でも、どうやって、ひったくり犯から取り戻したんですか?」

 

「ああ、それはな、魔法しょ……っ!!」

 

 うっかり何かを言いそうになってしまった事に気付いた優子は慌てて、両手で自分の口を塞いだ。その様子に怪訝な表情を浮かべる縁。

 数泊間を置くと、再び口を開く。

 

「魔法……みたいに、バイク野郎を取っちめて、取り返したんだ」

 

 バイク野郎は警察に突き出したけどな、と最後に付け加えて、満面な笑顔を浮かべる優子。

 

「へえ~~、すっご~~い!! まるで魔法しょ……っ!!」

 

 今度は縁が、勢い任せで何かを言いそうになり、慌てて両手で口を塞いだ。

 だが、優子はそれを聞き逃さなかった。

 

「……お前、今、何て言おうとした?」

 

 縁はギクリと、肩を震わせた。

 瞬間、優子の顔つきが変わる。驚いた様な、困惑した様な、どちらとも取れる表情だ。

同時に、彼女が纏う雰囲気もピリピリと張り詰めて行く。

 

「ま……スーパーヒーローって言おうとしたんです……」

 

 目線を反らし、苦笑いを浮かべながら、縁が呟く。だが、冷や汗がダラダラ垂れているので、優子には誤魔化しているようにしか聞こえなかった。

 

「おいコラ待て待て!! スーパーヒーローの『ス』の字も無かったろうが!! お前今『魔法少女』って言おうとしたか!? そうなんだろ!?」

 

 優子が縁の両肩を掴んで、グラグラと揺らしてくる。あまりの勢いに、縁の意識は再び飛びそうになった。

 

「言ってませんって~~~~~~~!!」

 

 揺らされながら縁は震えた声を挙げる。

 

「いやいやいやいや確かに聞こえたぞ!! 優子さんの地獄耳を舐めるなよ!?」

 

 優子は揺らしながら問いかけてくる。縁は拙い、と思った。このままだと正直に白状するまで揺らされてしまう。

 だが、『魔法少女』という単語を聞いて慌てふためく優子が気になった。

どうやら、彼女は魔法少女について何か知っている様だ――もしかしたら魔法少女なのかもしれないが――が、ここまで必死になる理由が理解できない。

 

「……そこまで、萱野」

 

「ふにゃにゃ~~……」

 

 ふと、どこからか第三者の制止する声が聞こえた。優子が縁を揺さぶるのを止めて、そちらを見る。

 そこには、灰色の髪をボブカットにした、白いポンチョとショートパンツを身に付けた、小柄で大人しそうな少女が居た。

解放された縁は、目をぐるぐるにして、気の抜けた声を挙げながらベンチの上に倒れ込んだ。

 

「……狩奈か、何の様だ」

 

 優子は来訪者をギンッと睨み据える。ベンチに身を預けながら縁は不思議そうにお互いを見遣った。

どうやら顔見知りの様だが、友人……とは違う様だ。二人の少女の纏う雰囲気は電気の様にビリビリと張り詰めて居るのを感じた。

 

「……昨日、『私の』陣地の魔法少女が二人、やられた」

 

 狩奈と呼ばれた少女は、どこか眠たそうに細めた目付きで、自分より遥かに大きい体躯の優子を見据えながら、淡々と喋る。

縁には、彼女の言葉の意味が分からなかったが、何やら只ならない事態になっているのは間違いない。

 

「……宮古、あいつのせい」

 

「証拠は?」

 

「逃げ延びたのが、蒼く光る矢に襲われたと言った……」

 

 それを聞いた優子は、そんなことか、と言わんばかりにわざとらしく溜息を吐いた。

 

「凛から聞いたが、お前のシマの下っ端共が、新人相手に恐喝していたそーじゃないか。

 凛がそういうのを許せない奴なのは知ってんだろ? アタシに問い詰めるよりも、自分の管理能力の無さを直した方がいいんじゃないか」

 

「でも、宮古が暴れたのは事実」

 

 それに、と狩奈は呟く。

 

「下っ端の不始末は私の責任。私があとであいつらを処罰するつもりだった。余所の陣地の貴女達に手を下してもらう必要性は……無い」

 

 相変わらず淡々とした口調だが、その言葉尻には強靭な意志が籠っていた。だが、優子はフッと笑う。

 

「その前に、何も知らない新米の子が酷い目に遭っちまったら元も子もねえだろうが。

 凛はそいつを助けて、そっちの馬鹿どもをこらしめて丸く収めたんだ。感謝される理由は有っても、責められる理由はねえよなあ?」

 

 優子はフン、と鼻を鳴らして問いかける。

 

「もう、話しても無駄か……」

 

 狩奈の周囲に風邪が吹き荒れる。右手の薬指に填められた指輪から、卵の形をした宝石が現れる。

 

(ソウルジェム……!)

 

 縁がそれを見て驚いた瞬間、狩奈の身体を灰色の光が覆った。思わず目を塞ぐ縁。

しばらくすると、光が収まり、狩奈の姿が露わになる。

 

「……」

 

 縁はそれを見てギョッとする。

 軍人の様な衣装を纏い、真黒な軍帽を被った少女がそこに居た。なお、両腕の袖と、両足の裾は捲られており、白く綺麗な生腕と生足が露出していた。

 

「おいおい白昼堂々やろうってかあ? ち、まあ、しょうがないか」

 

 対面する優子も、忌々しげに呟くと、同じ様に右手の中指に填められた指輪から、宝石――ソウルジェムを発現させた。

 

(やっぱり!)

 

 縁をそれを見て確信する。彼女もやはり魔法少女だったのだ。道理で『魔法少女』の単語に強く反応した訳だ。

 なんであんなに困惑したのかは分からないが……。

 優子の巨体を銀色の光が包むと、やがて光が収まり、魔法少女姿の優子が出現する。

銀色のマントを背負い、胸囲は分厚い鉄の鎧で覆われている。が、胴周りは黒いタイツで覆われており、下半身は銀色のミニスカートで、両足もまた、黒いタイツを着こんでいた。

 

「おい、狩奈、分かってるだろうが今日は日曜日だ。アタシとやろうってんなら、せめて人が居ないところで――――」

 

 優子が背中に手を回すと、巨大な棒状の物体を取り出して、そう注意しようとする。

 狩奈もまた、腰のホルスターから一丁の拳銃を抜いた。

 

「黙れ」

 

 刹那――――無表情だった狩奈の表情が、豹変する。うす開きに細められた両目を、カッと強く見開いた。

 

 

 

「…………このド腐れチンパンジーがあああああああああああッッッ!!!!」

 

 

 

 眉間に皺を大きく寄せて、声が枯れるぐらい大きく叫ぶ。血走った眼から、猛獣の如き眼光が放たれる。

 ありったけの猛気と同時に、発砲。弾丸を優子へ見舞った。

 

「ちょ、うおおおい!?」

 

 優子は慌てて獲物を盾にしてガードして、銃弾を弾いた。と、そこで周りを見渡す。

 

「何だアレ?」

 

「仮○ライダーか、スーパーヒーローショーかな」

 

「やっべ! あんなん初めて見たぜ!」

 

 周りには、何事かと、公園で遊んでいた子供達がぞろぞろ集まっており、自分達に注目している。

 

(まずい……!!)

 

 魔法少女が一般人に姿を見られるのはタブーだ。ましてやこんな喧嘩に巻き込んでしまえば、間違い無く阿鼻叫喚の事態になる。  

 

「ヒャアアアアアアアアッハアアアアアアアアアッ!! 散れェッ!! 消えろォッ!! 潰れろォッ!! ハチの巣に成りたく無かったら私にひざまづけええええええええええええええッ!!!」

 

 変身前の無表情で大人しそうな印象の少女はどこにもいなかった。飢えた獣と化した狩奈は、拳銃を発砲しながら快笑を響かせる。

 

「コノヤロ……!」

 

 銃弾を弾きながら優子は忌々しく、目の前の少女を睨みつける。

 

「おい、あの小っちゃいねーちゃんヤバクね?」

 

「頑張れでっかいねーちゃん!!」

 

 目の前の戦いが、ヒーローショーだと思い込んでいる子供達は、そんな優子の苦悩など露知らずに二人を囲んでどんどん近付いてくる。

 

「くっそ……」

 

 冷や汗を流す優子。

 場所を変えるか……そう思った優子は、目の前で何が起きているのか理解できずベンチの上で硬直している縁に駆け寄ると、その身体を抱え上げた。

 

「……へ?」

 

 突然の事に、目を丸くする縁。次の瞬間、視界から一気に地面が離れた。

 

「ひええええええええええええ!!」

 

「ヘッ……逃がすかあ!!」

 

 優子が縁を抱えて、10m以上高く飛翔する。恐怖の悲鳴を挙げる縁。狩奈はそれを見て、不敵に口の端を歪めると、同じく飛翔して追撃する。

 

「おお、何だアレ、すっげ~!!」

 

「何処まで行くんだ!?」

 

「っていうかあのベンチのねーちゃんも、ショーの一員だったんだな! 分かんなかったぜ!」

 

 子供達は飛び去ってゆく二人(と、それに巻き込まれた一般人)を見ながら歓声を挙げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 という訳で、魔法少女vs魔法少女、勃発でございます。

 狩奈の魔法少女衣装……ドイツ軍服っぽく描きたかったんですが、絶望的なまでに自分の表現力が無い為断念しました。
 優子さんの衣装は、このすばのダクネスさんっぽい衣装に、環いろはの魔法少女衣装を足して二で割った感じです。

 次回投稿は、一週間ぐらい間をおくかもしれませぬ……。

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