魔法少女ゆかり☆マギカ(休載中)   作:hidon

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 #03__魍魎の庭に飛び込む勇気はあるか A

 土曜日。世間一般では休日である。空は雲ひとつない青天で太陽は燦々と輝き、小鳥も呑気そうにゆったりと翼をはためかせながら空を飛んでいるのが見える。外出するのには丁度いい天気だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 平和を象徴する様な青空を、いつまでも眺めていたかった。なのに――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒャッハアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 けたたましい咆哮が両耳に響き渡り我に返る。刹那、爆音。何処からか飛来したミサイルが、ビルの屋上に激突すると、爆炎を撒き散らした。爆風によって身体が吹き飛びそうになるが、必死で耐える。煙が晴れると、今度はバラバラと銃撃音が響いた。咄嗟に頭を伏せて目を閉じる。薄らと目を開けると、飛来した銃弾が次々と床に弾痕を作っていくのが見えた。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

「はああああああああああはあああああああああああ!!!」

 

 再度響き渡る咆哮。顔を上げると、二人の少女――――というよりは、少女の姿をした獣みたいなのが激しくぶつかりあっていた。

一方が機関銃の様な物を構えて、乱射すると、もう一方は、巨大な盾を構えて突進。

機関銃の雨が激しくぶつかるが、巨大の盾は全てそれを明後日の方向へと弾いた。機関銃を構える方が目を見開くと、巨大な盾を構えた方は一気に相手に肉薄する。

 

「…………っ!!」

 

 そんな戦争映画さながらの世界に、巻き込まれた少女――――美月 縁は思った。

 

 

 

 

 ――――何で私、こんなところにいるんだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは、土曜日の早朝に時間は巻き戻る。

 

「眠れなかった……」

 

 自室のベッドからむくりとだるそうに身を起こす縁。

 目の下にクマを作り、非常にぐったりとした様子で彼女は呟いた。

 

 

 

 

 思い返すのは、前日の出来事だ――――

 

 

 誘われた魔女の結界内で、使い魔が自分に覆い被さって、首を絞めてきた。

親友や纏の前では明るく振る舞っていた彼女だったが、命の危険を身に感じた恐怖はそう簡単に拭いされるものではない。

 

 その夜、就寝の時間になったので、目を閉じようとするが、あの時の恐怖が何度もフラッシュバックする。

その度に、死の恐怖が蘇っていき、目が開く。そして、また閉じる。

 

 それを繰り返していくこと数時間――――ようやく、寝つけたと思ったら、今度は夢にあの光景が現れた。

 

 ガバッと起きる縁。同時に、全身に悪寒が走る。ガタガタと震える身体を両手で抑えると、今度は顔に違和感を覚えた。左手で顔を撫でてみると、ヌメリとした感触があり、ゾッとした。撫でた左手は大量の水分が付着して濡れており、縁は自分が大量の冷や汗を掻いているのが分かった。

 結局、眠ることすら恐くなった縁は、仕方なく、階段を下りて台所に向かう。そして、冷蔵庫から水を取りだすと、それをコップに注いで飲みほした。

 

「ううう……」

 

 縁は頭を抱えて、その場で蹲る。

 彼女は基本的によく眠る子だ。長くて12時間、短くても9時間は眠っている。縁にとってきちんと『睡眠を取る』ということは、一日を生きる上で必要不可欠な行為だ。

 それを遮られてしまった今の彼女の苦悩は計り知れない。

 

「うううう……」

 

 とは言え、このまま台所で蹲ってもしょうがないし、両親がトイレで起きてきた場合は驚かれるので、縁はか細い呻き声を挙げながら、両足をズルズルと引き摺り、自分の部屋まで戻っていった。

 その様子はまるでゾンビの様であった。

 

 

 結局、寝付けないまま、朝が来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっそぉ~~……!」

 

 居間にて、窓から見える燦々と輝く太陽を睨みつけながら、縁は忌々しそうに呟いた。

 基本的に怒らないのを、信条としている縁だが、流石に一睡もできなければイライラするのが普通だ。

 

「縁、言葉が汚いぞ、せめてうんこにしろ」

 

「うんこ~~……! ってちょっと!?」

 

 後から男の声が聞こえる。その言葉に乗せられてしまった縁は、その男性にノリツッコミを返す。

男性は、愉快そうにケラケラ笑っていた。

 

「わっはっは! 相変わらずだなあ縁は」

 

「お父さぁ~ん……昨日眠れなかったんだから、からかうのは勘弁してよぉ~」

 

 縁は涙目になってガックリと肩を落とす。

 彼女の父親――――美月正輝(みつき まさき)は普段は緑萼市の駅前に有る大手の会社に勤めるサラリーマンであるが、土日は休みなので家に居る。会社では営業マンとして、真面目に働いている彼だが、家に居る時は、娘相手に下らない冗談を言って楽しんでいた。

 父親の冗談を聞いて思わずノリツッコミをしてしまった自分。自分がアホなのは彼譲りだろうか、と縁は恨めしく思い、父親を睨む。が、彼は気にせずガハガハと豪快に笑っていた。

 そんな下らない事を思っていると、台所の方から、縁と同じ桃色の髪の女性が現れた。

 

「あら縁、おはよう」

 

 縁とよく似た容姿の女性が、挨拶する。縁とは違って、髪は腰程まで有る。

 女性は焼いた食パンや、サラダが盛られた皿が乗った御膳を、居間のテーブルまで運んだ。

 

「おはよう、お母さん」

 

 縁が女性に挨拶する。

 女性の名前は、美月 緑(みつき みどり)。縁の母親である。父親とは対照的に、真面目で落ち着いた雰囲気の女性だった。

 余談であるが、以前、縁は自分の容姿が母親の若い頃にそっくりだ父親から聞かされて、喜んだが、性格は若い頃の父親そっくりだと母親に言われて絶望したことがあった。

 

「今日は良い天気だなぁ縁」

 

 食パンを頬張りながら、父親が窓の外を眺めてそう呟く。

 

「そうだね……」

 

 縁は死んだ魚の様な目付きでそう呟く。頭が正常に働かない。

 

「どうしたの。元気無いわね縁」

 

 母親が心配そうに問いかける。

 

「眠れなくって……」

 

「……珍しいわね」

 

 寝る子は育つ、を身で現す縁が、まさか眠れなくなる日が来るなんて思いもよらず、母親は目を見開いて驚いた。

 

「何か有ったの?」

 

「まあ、ちょっと……」

 

 縁は苦笑いして呟くが、その目は笑っていなかった。

 謎の化け物に襲われて死に掛けました、なんて話を両親に伝えた所で、『怖い夢を見た』程度で片付けられるのがオチだと思ったからだ。

 

「……ふむ」

 

 父親も流石に心配になったのか、深刻な表情を浮かべた。口を結んで顎に手を当てて、考え込む。

しばらくすると、意を決した様に、口を開いた。

 

「よし、気分転換に、家族全員で出かけようじゃないか!!」

 

「……おい」

 

 何でそうなる。自分は一睡もしてないんだぞ。どこか連れて行ったところで疲れが増すだけだ。家で大人しく横にさせろ。

 縁が心の中で、父親に対する呪詛を呟く。本当は口に出したかったが、精神的疲労が困憊しているせいで出せなかった。

 

「…………」

 

「…………」

 

 ちらりと母親を見ると、彼女は申し訳なさそうな顔をしていた。こうなった場合の父親を止められるのは家族には居ない。

 父親は、縁の気持ちを知らずに、ちゃっちゃっと朝食を済ませると、外出の準備をし始めた。

その様子を見て、自分が何を言おうと始めから出かける気だったのだろう。

諦めるしか無かった。

 

 

 

 

 

 

 車に揺られる事、三十分。縁達が辿り着いたのは、緑萼市駅前に有る大型ショッピングモールだ。

店内には、映画館、ホールでは度々芸能人によるショーが行われ、屋上には小型の遊園地が設置されている。

そのため、休日は老若男女構わず人で溢れていた。

 

「…………」

 

 それをぼんやりと、死んだ魚の目付きで眺める縁。一応身支度は整えており、財布が入ったショルダーバッグも方から下げている。

 車に乗ってる時も、寝ようと試みたが、父親が際限なく喋り捲るので不可能であった。

 

「よ~し、行くぞ~~!!」

 

 父親は元気溌剌な様子で、ショッピングモールへ向かっていく。彼は、年不相応にゲームマニアであり、この店のゲームセンターで、一通りのゲームをプレイすることを何よりの楽しみとしていた。

 縁も普通だったら、ノリノリで父親に付いていって一緒にゲームを楽しむのだが、今日はそういう状態でない。

 

「縁、もし辛かったら、休んでても良いわよ」

 

「うん……そうする」

 

 隣に立つ、母親の言葉を聞き入れ、縁はショッピングモールの裏口から入ろうとする。

 

 

 

 

 

 駐車場と、店の入り口を挟む道路を渡ろうとした瞬間、事件が起きた。

 

「?」

 

 入口の近くの道路脇で、バイクに跨りながら、スマホをいじっていた黒いヘルメットを被った男性が、突如バイクを発進させた。

 

「!?」

 

 バイクは勢い良く縁達の傍に近づく。驚いて立ち止まってしまった縁だが、次の瞬間、バイクに跨る男は右手を伸ばしてきた。そして、縁のショルダーバッグの紐を掴むと強引に取り上げて走り去ってしまった。

 

「縁、大丈夫!?」

 

 ショルダーバッグを奪われた時に、身体が引っ張られてしまい、その場で転ぶ縁。

母親が慌てて駆け寄るが、縁はすぐに、起き上がると走り去るバイクの後部をキッと見た。

 

「こんのっ……」

 

 あのバッグは高校入学の時に、父親がプレゼントしてくれたものだ。

 それを容赦無く奪ったひったくり犯。死んでいた縁の脳内に闘志が宿る。

 

「待てええええええええええええええええええええええええ!!!」

 

「縁っ!?」

 

 縁が咆哮を挙げて、疾走する。母親が咄嗟に止めようとするが、間に合わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待てええええええええええええ!!!」

 

 縁が全力疾走して、ひったくりを追いかける。

 しかし相手はバイクだ。追いつける筈が無く、次第に姿が小さくなっていく。

 更に……

 

「うっ……」

 

 突如、意識が遠のく感覚に襲われた。

 

「……!!」

 

 足が鉛の様に鈍重になり、思う様に動かなくなった。急停止したためにバランスが崩れ、勢い良く地面に前のめりに倒れる縁。

 

「…………」

 

 そのまま、縁の意識は暗い闇の底に沈んでいった。

 

(ああ……真っ暗だ……)

 

 意識が段々と闇に呑まれていくのを感じながら、縁は頭の中でポツリと呟く。

 

(私……このまま、死んじゃうのかな……)

 

 そう考える縁の頭に、物ごころが付いた頃からの思い出が走馬燈の様に走る。

最後に浮かんだのは、家族と、友達と、親友の笑顔であった。

 

(みんな……さようなら……)

 

 残りの意識が闇に呑まれる寸前、縁は大切な人達に別れを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 哀れ。この作品の主人公は、たった15年の短い年月で、人生の幕を下ろしてしまった。

しかも、死因が寝不足――――馬鹿馬鹿しいことこのうえない。一周忌も経てば、家族以外からは笑い話にされるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 縁は夢を見た。

 

「ここって……!」

 

 ギョッとする。そこは、昨日の魔女結界の中であった。

 

「……っ!?」

 

 身体を動かそうとするがどうも可笑しい。頭は動くのに、身体は金縛りに遭った様に全く動かせない。

一体自分の身に何が起きているのか、縁は頭を動かして状況確認しようとする。

そして、首を横に向けた時に見えた姿に、悪寒が走った。

 

 

 

 ――――あの使い魔だ。

 

 

 

 昨日自分を襲った英国紳士の姿をした使い魔が居た。彼は、何も無い顔を縁に向けているだけだったが、彼女にとってはそれだけでも、恐怖心を煽ぐのに十分だった。

 

「ひいっ……」

 

 途端、涙目になった縁が呻き声を挙げて、その場から逃げようとするが、身体を動かすことができない。

 

 ――――また、昨日の様にされるのか。

 

 縁の脳裏の絶望の二文字が浮かんだ。首を必死に動かす。せめて、誰か居て欲しい。だが、残念な事に、使い魔以外は誰の姿も確認できなかった。

 再び使い魔の姿を見遣ると、使い魔はゆっくりとした足取りで近づいてくる。

 

(……もうおしまいだ)

 

 それを悟った瞬間、縁の目から大粒の涙が零れる。使い魔に殺されるのをこのまま待つしかないのか。

刹那、

 

 

 

 

 

「ウッホ―――――――――!!」

 

 

 

 

 

 

「!?!?」

 

 獣の咆哮が聞こえて、縁は困惑する。使い魔も驚いたのか、動きを止めた。

首を動かすと、使い魔が立つ反対側の方向に、それは居た。

 

「うっほ♪」

 

 それは愉快そうな表情を縁に向けていた。縁はその姿を見た瞬間、唖然。

 

「…………ゴリラ??」

 

 全身から銀色の体毛を生やした、筋骨隆々のそれからは、とてつもない力強さと頼もしさを感じた。

何故か、縁はこのゴリラが自分を助けにやってきたのだと、直感で思った。恐怖心が消え去り、安堵する。

 

「うっほっほ」

 

 銀色のゴリラは縁の全身を縛っていた縄を掴むと、強引に引きちぎった。

自由の身となった縁は、ゴリラに抱きつく。

 

「ありがとう、ゴリラさん!!」

 

「うっほ」

 

 銀色のゴリラはペコリと頭を下げた。どういたしまして、と言いたいのだろうか。

ゴリラから離れ、反対側を見ると、使い魔はあたふた足をバタつかせて背中を見せて逃げようしていた。

 

「やっちゃって!!」

 

「うほ」

 

 縁が指示を下すと、ゴリラは待ってましたと言わんばかりに、使い魔に飛び掛り、全身を紙くずの様にバラバラに引き裂いた。だが、倒した直後に、大量の同じ使い魔が上から降ってきた。

 

「あんなに、沢山……どうしよう」

 

「うっほ!」

 

 うろたえる縁だが、銀色のゴリラは任せろ、と言わんばかりに、胸を叩いた。

すると、何故か背中にチャックが現れ、それを自分で開ける。

 

「えっ……?」

 

 縁が呆気に取られた瞬間、チャックの中から、巨大な爬虫類の怪獣――――ゴジラが現れ、口から巨大な炎を吐くと、一瞬で大量の使い魔を消し炭にした。

 

「すごい……!」

 

 縁が驚いていると、ゴジラは後を振り向き、縁に向かってサムズアップした。

縁もそれに答える様に、サムズアップを返す。

 やがて、魔女の結界は消え失せ、広大な花園と、雲ひとつない空が広がった。縁は歓喜の表情を浮かべて、ゴジラに近づくと、再び勢い良く抱きつく。

 

 

 かくして、縁を襲っていた悪夢は正義のゴリラ(ゴジラ)によって、消え去ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……んん?」

 

 縁が目を覚ますと、そこは、公園の中であった。公園の中央に聳え立つ大きな木の下にあるベンチ。そこで自分は寝ていた様だ。

 ゆっくりと身体を起こすと、目の前に見えたものに、縁は目を見開く。

 

「ゴリラさん!?」

 

 思わず驚いて大声を挙げる縁。そう、先程自分を助けてくれた銀色のゴリラが目の前にいるではないか、

 

「はあ?」

 

 ゴリラが、人間の女性の様な声を出して、怪訝な表情を浮かべてこちらを見下ろす。

 

「ん? ……んん??」

 

 夢の中でウホウホとしか鳴かなかったゴリラが普通に人間の声を発した事が不思議に思い、縁はゴリラをまじまじと見つめる。すると、ゴリラの姿が徐々に消え失せ、代わりに大きな人の姿が現れた。

 

(人……っていうか、女性?)

 

 

 人の姿を上から眺める。夢の中のゴリラと同じく、長い銀髪を垂らしていたが、その胸には豊かに実った双球があった。

 その女性は整った顔つきをしているが、鋭い獣の様な目付きをしている。

一瞬それに睨まれている様に思えて、縁は顔を強張らせる。

 そして、ようやく状況を理解した。目の前のゴリラ――――もとい銀髪の女性は自分を介抱してくれたのだろう。ベンチに寝かせてくれたのだ。

 どうやら自分は、寝ぼけて幻覚を見てしまってたらしい。

 命の恩人に対して、いきなりゴリラと呼ぶなど恥知らずも良いとこだ。睨まれるのも仕方が無い。縁は咄嗟に頭を下げた。

 

「あ、あの、いきなりゴリラなんて呼んでしまって、すみません!!」

 

「ゴリラってお前……」

 

 女性は獰猛そうな銀色の目を細めて、ギンッと光らせた。それに身震いする縁。

 

「……せめてゴジラって呼べ」

 

「えっ?」

 

 そして微妙にズレた突っ込みを返されたので、縁は桃色の目を丸くした。

 

 

 

 

 

 

 

 




出勤直前に焦って書いたら、色々アホな内容になってしまいました。
でも、その時のノリでないと、作れないものもあるので……ううむ。

例の如く、長くなったので分けます……。

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