オスクロルさんのコスチューム…もろ好みです(オイ)
遥か東にある島、クジョウ。神や妖など神秘的なものが数多に存在しており、神社や巫女も多い島国である。
そんなクジョウの島のとある樹海、深く生い茂る森の中を一人の少女が駆けていた。この島の気候にそぐわない厚みのあるモフモフとした服を着ており、青い髪の上には狼のような耳を、お尻の方には毛量の多い尻尾が生えていた。
その少女は髪と同じ青い毛色の小さな子犬を抱えて駆けているがその表情は何やら焦っているように見える。少女の後方から人よりも大きい蜘蛛の魔物が数匹、その少女を追いかけていた。
長い時間を駆けていたのか少女の息は荒く、次第に駆ける速度が落ちていっていた。遂に息を切らせて走るのをやめてしまう。振り向けば追いかけていた蜘蛛の魔物はこちらに追いついてきた。
「‥‥っ」
少女は身構えるが足は震え、涙目になりつつある。少女が抱えている子犬は彼女を守らんと蜘蛛の魔物たちへと唸り声を上げた。しかし蜘蛛の魔物達は怯むことなく鋏角を剥き出し、前脚の鋭い爪を構えてすぐにでも襲い掛かろうとしていた。
「‥‥?」
蜘蛛の魔物達が襲い掛かろうとしたその時、蜘蛛の魔物達の前に墨で書かれた『-』という文字が現れた。宙に浮かんでいるその文字に少女も蜘蛛の魔物達も突然現れたことに困惑する。するとその『-』は爆ぜるように消えた途端、何かが斬れる音と共に蜘蛛の魔物達を横へ両断したのであった。一体何が起きたのか、少女は戸惑い、あたふたと辺りを見回した。
「いやー…軽く『一閃』を描いたものの、こうもあっさりたぁここの妖は脆過ぎやしねえか?」
何処からか男性の声がすると少女は獣の耳をピコピコと動かしながら辺りを見回す。鼻が利くのか何処にその男性がいるのか探った少女はすぐ傍にある木の上を見上げた。その木から赤と白の混じったぼさぼさとした髪型の、浅葱色に布地に赤い文様が描かれた着物を着た、眠たそうな目をした青年が下りてきた。その青年の片手には大きな筆が握られていた。
「よっと…怪我はねえかい、犬耳のお嬢ちゃん?」
優しく微笑む青年に少女は不思議そうに首を傾げながら見つめる。
「…にーには誰なの?」
「俺かい?俺は…えーと…あー‥‥シャラクだ。通りすがりの仮面ラry…ちゃう、通りすがりの絵師だ」
_シャラクside_
(犬耳娘キタァァァァァァァッ‼モフモフしてぇぇぇぇぇっ‼)
転生者であるシャラクは内心、舞い上がる様に喜んでいた。相手は見た目は幼い少女、ここで内心をさらけ出しては変質者として見られてしまう。シャラクはその溢れんばかりの喜びを抑えながら落ち着くように振る舞う。
(思えばかなり厳しい道のりだったぜぇ…)
何故死後の世界で何度も死ぬような苦行の数々を熟せばならないのかと思いつつ、これまでの事を振り返った。
(事の発端は俺がふと思った事から始まったんだよなぁ)
それは大学の帰り道、今日の生物学の授業で猫は季節性発情動物であり、交尾排卵動物であるという事を聞いて彼はふと思った。
よく同人誌である猫耳娘や猫娘とかは発情してアッハンウッフンするというネタがよくあるのだが、上記のように発情期の猫は効率的に子孫を残す様にするための性質を持っているため、もしそんな事をしたら確実におめでたになるんじゃね?と思ったのであった。
そんな事を考えながら帰り道を歩いていたら、大型のダンプカーが人を撥ねて歩道に乗り上がりその歩道を歩いていた人達を轢きながら猛スピードでこちらに向かってきた。そのことに気付いておらず、やっと異変に気付いた頃には時すでに遅し。目の前に鉄の塊が迫って来ていて強い衝撃を受けて暗転した。
(ほんで、目を覚ましたらどっかの破壊神くりそつの神様が…あれ?これ何回か説明したような気がするぞ?)
何かしらデジャブを感じながらもシャラクは回想する。神様が言うには天使のミスで何人か死なせてしまった、その詫びとして自分が望む世界へと転生させようという事であった。シャラクは何処の世界へ行くか悩んだ挙句、自分の他に死んだ人達と同じ世界へと望んだ。
(結局は白猫うんたらかんたらとかいう世界へと行くことになったが…問題はその先だよ)
神様はそこへ転生するのならば他の者たちと同じように何か特典が欲しいかと聞いてきた。シャラクは前世で水墨画や習字をやるきっかけになった一番お気に入りのゲーム『大神』の『筆しらべ』の能力とその他諸々を望んだ。
しかし神様はすぐに与えることはせず、シャラクに幾つもの試練と修行を与えたのであった。筆業を習得するために12もの神と手合わせをするわ、腕が捥げてしまうくらいに水墨画や習字を数多描くわと長い長い年月を経た修行をしたのであった。
(でもまあ、何とか諦めずに頑張った甲斐があったぜ…)
こうしてシャラクは特典を得て、この世界へと転生したのである。しかし舞い降りた地は緑生い茂る樹海。ここが一体何処なのかと木々を渡って移動していると、蜘蛛の魔物達に追われている犬耳の少女を見かけたのであった。
(ふむ…どうやらこの世界には獣人がいるのか‥‥)
ここがどんな世界なのかはシャラクはあまり詳しくは知らない。白猫うんたらかんたらについては聞き覚えと見覚えのある程度だが、獣人がいると分かったシャラクは内心にんまりとした。かわいい獣っ娘の犬耳や猫耳、その尻尾をモフモフしたいという願望が叶う事に大喜びした。
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「わ、私はコヨミ。この子は弟のタローっていうの。あの…助けてくれてありがとうございます」
コヨミと名乗った少女はタローと一緒にぺこりとお辞儀をした。なんと礼儀正しい、可愛らしい獣っ娘であろうかとシャラクは内心感動しつつ、モフモフしたいという欲望を抑えつつ、優しく微笑んだ。
「いいってことさ。それにしてもコヨミちゃん、どうしてこの樹海に?」
「その…薬草を摘んでたら、変な臭いが臭ってきてそれを嗅いで探してたら迷っちゃったの」
「変な臭い‥‥?」
この世界にとって自分はイレギュラー。もしかして自分のせいでこの子を迷わせてしまったのかとシャラクは内心焦りながら袖のにおいを嗅ぐ。そんなシャラクにコヨミはくすりと笑った。
「シャラクにーには変な臭いじゃないよ。なんというか…お日様のにおいがするの!」
「お、お日様かぁ…あながち間違っちゃねえかもな」
尻尾をぱたぱたと振るコヨミを見てシャラクは思わずへにゃりと笑う。ピコピコと動かすコヨミの耳をすぐにでもモフモフしたいという一心、これは下手したら事案になるのではと、ワキワキする手を抑えながら冷静に保とうとした。
「コヨミィィィッ‼」
ふと、何処からともなくコヨミを呼ぶ声が響いてきた。それと同時に勢いよく駆けている音がこちらに向かってきていた。何事かとシャラクはその声のする方へと視線を向ける。すると茂みから狐耳と狐の尻尾を生やした巫女装束を着た少女が勢いよく飛び出しシャラクへと飛び蹴りをお見舞いした。
「みえたぁぁぁっ‼」
シャラクは防ぐことなく叫びながら蹴とばされた。狐耳の少女は着地するとすぐさまコヨミに駆け寄った。
「コヨミ、大丈夫!?変な事されてない!?」
「コリンねーね!」
「キャンキャーン‼」
コリンと呼ばれる少女にコヨミとタローは嬉しそうに尻尾を振った。二人の安全を確認したコリンはふっと笑い、シャラクの方に視線を向ける。
「さて…あんた、コヨミに手を出したからには覚悟はできてるんだろうねぇ?」
ぽきぽきと指の関節を鳴らしながらコリンは睨みながらシャラクへと近づく。当のシャラクは目を丸くしてコリンを見つめていた。
(狐耳の巫女さんキタァァァァァァァッ‼)
シャラクの内心は爆発せんばかりに大喜びしていた。狐耳に、狐の尻尾の巫女さんというもろ好みの属性に出会えたことに歓喜し、この世界のすばらしさ(?)に感動していた。目の前に近づいてきたころにようやく彼女は誤解している事を思い出し慌てて弁明する。
「ちょ、ま、待ってくれ!俺はそんな疚しい事はしてない‼(めっちゃ耳をモフモフしたいんだけどね!)」
「ほお~?それが最期の言葉かい?」
「耳なだけに聞く耳をもってねえ!?」
コリンがシャラクの胸倉をつかみ、力任せに殴ろうとする寸前にコヨミとタローが慌ててコリンを止めた。
「コリンねーね、待って!シャラクにーには悪い人じゃないよ‼」
「クーン…!」
コヨミは魔物達に襲われそうになったところをシャラクが助けてくれたことを話した。事情を聴いたコリンはほっとひと息をついて苦笑いをした。
「そっかー…コヨミを助けてくれたんだねぇ。それなら早く言ってよねー」
「言っても聞いてくれそうにないんですけどねぇ‥‥シャラクだ」
「コリン・ツチミカドよ。コヨミを助けてくれてありがとね」
何とか誤解を解くことができたシャラクはコリンと握手を交わす。
「さてと、コヨミを無事に見つけることができたし…シャラク、コヨミを連れて神社へ向かってくれないかい?」
「神社?何故に?つかここどこ?」
「‥‥もしかしてここが何処か分からないの?」
コリンはキョトンとしているシャラクに尋ねた。即答する様にすぐさま頷いたシャラクに肩を竦めて呆れた。
「あんた、一体何処から来たんだい…?」
「うーん…気づいたらここに?」
「わけがわからないよ。仕方ないねぇ、迷子になっちゃいけないし…ついて来て。一仕事してから案内してあげるわ」
一仕事とは何かとシャラクとコヨミは首を傾げつつコリンの後に続いた。暫く樹海を突き進んでいくと少し開けた場所に辿り着いた。しかしその場所はないやら黒いモヤモヤした淀みが漂っており、木々や草花が枯れて辺り一面黒ずんでいた。
「この臭い…あの時嗅いだにおいと同じ…!」
コヨミはコリンの後ろに隠れて黒ずんでいる大地を見つめる。一方のシャラクにはこの光景は見覚えがあった。『大神』にもあった黒ずんだモヤモヤに、枯れた大地…これは間違いないと確信する。
「こいつぁ…穢れか?」
「そうだね…ここ最近クジョウの島の大地に現れてるの。あたい達巫女の力でも中々祓えない厄介なもんだよ」
コリンは鈴の装飾が付いた剣を引き抜き、ちらりとシャラクの方を見つめる。
「…悪いけど、少しばかりコヨミを頼めるかい?ちょっと荒作業になるからさ」
「いや…これは俺に任せてくれや」
シャラクは大きな筆を持ってツカツカと黒く淀んだ穢れへと足を入れて進んだ。いきなりの事にコリンはギョッとしてシャラクを止めようとした。
「ちょ、あんた危ないよ!?」
「ままま、ちょっくら見てなって…よっ‼」
シャラクは筆に力を込める。すると筆先が墨がついたように黒くなり、そのまま筆を振るった。黒ずんだ草花には黒く塗りつぶし、木々には囲うように『〇』を描いた。
すると黒ずんだ草花は彩りを取り戻し、枯れていた木々には桜の花が咲いて息を吹き返すように元に戻った。そして漂っていた黒い靄がみるみるうちに消えていき、そこから浄化するように緑あふれる大地へと戻ったのであった。
「ふむ‥‥ざっとこんなもんだろ」
穢れを祓えてシャラクは満足するように頷く。一方、この光景を見たコヨミとタローは目を輝かせ、コリンは驚きが隠せず仰天していた。
「シャラクにーに、すごーい‼」
「穢れをこうも簡単に‥‥あんた、一体何者なんだい…?」
「俺かい?俺は…名前とこの筆しか知らねえ。自分が一体何者なのか、分からねえ…」
シャラクはそう告げて空を見上げる。そんなシャラクをコリンはしんみりと見つめた。
「…という設定を考えてみたんだが、どう?」
「設定かーい!?」
ケロッと笑顔を見せたシャラクにコリンはツッコミを入れてずっこけた。シャラクはニシシと笑いながら話を続けた。
「まあ何というか、遥か彼方の島で神様みたいな仙人の下で修業を積んで学んだ業さ。そんで自由気ままに旅をしていたんだが…右も左もわかんねえままここに来たってわけさ」
「成程…行く当てのない旅をしてたんだねぇ」
納得する様にコリンは頷くと暫く腕を組んで何かを考え込む。考えがまとまるとコリンはシャラクへ提案した。
「シャラク…あんたはワタシ達がうまく祓えなかったあの穢れを簡単に祓えた。それはクジョウの島にまだ点在しているの。その穢れを祓う為にワタシ達に力を貸してくれないかい?」
「‥‥それぁつまり、コリンとコヨミとタローと一緒に諸国行脚の旅をするってことか…?」
「まあ旅って程じゃないけど、あんたすぐに道に迷いそうだし一緒についていあげry」
「いよっしゃあぁぁぁぁ‼モフモフゥゥゥゥッ‼(いいぜ!こういう旅も悪くはねえ!)」
思わず台詞と心の声が反転してしまう程、シャラクは歓喜する。両手に花ならぬ、両手にケモ耳、こんな最高な事はない、とシャラクは感激していた。そんな喜びの舞いを上げているシャラクにコリンはくすりと笑った。
「あんた、中々面白いキャラだねぇ。ま、よろしく頼むぜぇ」
「シャラクにーに、よろしくね!」
「ワン!」
「ああ、よろしくな!」
こうしてクジョウの島を廻ることになったが、シャラクは穢れがあった大地の方を振り返る。
(それにしても…なんでこの世界に『大神』に登場する穢れが在るんだ?)
あれは本来ならばこの世界には存在しないはずのもの。なぜ存在しているのか、シャラクはその理由を考えた。
「ところで、ワタシがあんたを蹴とばした時に『みえたー』とか言ってたけど…何を見たのかなー?」
「‥‥察してくれ」
コリンは笑顔でシャラクにドロップキックをお見舞いした。
シャラクさんは大の『大神』好きなので、筆しらべの他にも剣、鏡、勾玉も使いこなせます。『大神』は大好きなゲームです。音楽もキャラも、そしてストーリーが何よりも感動する
少しばかりご都合主義な感じになって申し訳ございません…
コヨミやコリンの耳をモフモフしたい…