冒険者共   作:サバ缶みそ味

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 ようやくシュスイさんのターン……長らく待たせてしまった(遠い目


 白猫、新卒少女のイベント真っ最中ですね…リルテットがめちゃんこかわいいのとこれぐらい新卒にやさしい世界だったらなぁと思っちゃいます(白目


◎12 飛行島の白猫と砂漠のキング

「シュスイ、起きて!」

 

 体を揺すられてシュスイはゆっくりと微睡みから覚める。重たい瞼をゆっくりと開け、ぼやけた視界がはっきりと見えてくるとやや不満げに頬を膨らませていたリネアが顔をのぞかせていた。

 

「もう、いつまで寝てるの!もうそろそろ到着するわよ!」

 

 リネアに催促されながらもシュスイは大あくびをして眠たげな瞼をこする。

 

「ふぃー…なんかすっごい長い時間待たされて寝てた気がする」

「?一日しか経ってないわよ?」

 

 リネアはお前は何を言っているんだと言わんばかりに首を傾げた。飛行島行きの飛行船に乗り、シュスイは人生初めて白猫の世界の飛行船に乗れたことと飛行船から見える一面に広がる白い雲と青い空と真下に広がる大海原とちっちゃく見える島々に大興奮し大はしゃぎをしていた。

 

「たぬきちと船内をあちこち見て回って大はしゃぎした後は大満足したのかぐっすりと寝て、その結果大寝坊よ」

「おぉうマジか……あり?レクトとたぬきちは?」

「レクトとたぬきちなら先にデッキへ行ってるわよ。ほら、早く準備して!」

 

 リネアに再び催促されながらシュスイはいそいそと荷物をまとめてデッキへと向かう。外へ出てみれば同じみの一面に広がる白い雲海と青い空の景色が目に映った。視野に広がる景色は変わらないがこの広大な光景にはシュスイは心躍らせる。

 

「シュスイ!こっち‼」

「キュキュー!」

 

 青空の景色を眺めながら歩いているとたぬきちを抱きかかえているレクトと抱きかかえられているたぬきちが手を振っているのが見えた。彼の今の姿を見てなんか絵になると思いながらシュスイは手を振り返して向かう。

 

「レクト、おはよー。いやもう昼だっけか?」

「ぐっすりと寝てたもんね。僕とたぬきちが何度も起こそうとしてたけど全然起きそうになかったよ?」

「ああたぶんあれだ、まだ出番じゃないと押さえられてたんだろ」

「?言ってる意味がよくわからないのだけど?」

「うん俺もわかんねえ」

 

 どういう意味なのかレクトもシュスイもはてなと首を傾げる。そんなことしている間にリネアが二人を小突く。

 

「二人とも、もうすぐ見えてくるわ」

 

 リネアが指さす方角へと視線を向ける。白い雲と青い空の景色の先に『それ』は見えた。『それ』を見たシュスイは目を丸くし、感動のあまり息を漏らす。

 

「すっげえな…リネア、あれが?」

「ええ、あれが飛行島よ」

 

 青空に浮かぶ石造り巨大な飛行船が浮かんでいた。自分たちが乗っている飛行船よりも何倍も何十倍もそれよりもはるかに大きく、そのてっぺんには緑の木々に覆われた山々が囲うように連なっておりその中央には緑の草原と街が見えた。

 

「思ったよりもでかいな…!」

 

 前世ではスマホの狭い2Dの平面でしか見れなかった飛行島。どれほどの大きさかあまり実感が無く、大きいとは思っていたがどれほどのスケールなのかもイメージがつかなかった。だが実際にこの目で目の当たりすると自分の常識では収まりきれない程の巨大さに驚き感動した。感動のあまりプルプルしているのがリネアにバレてリネアは悪戯気味に笑う。

 

「あれー?思わず感動しちゃったのかしら?」

 

「お、おうとも!実際に見れたからうれしいんだよ!ほら、荷物を降ろしてちゃっちゃと行くぞ!」

「ちょ、シュスイ!?まだ着いてないって‼」

 

 照れ隠しでデッキから降りようとしたシュスイをレクトが慌てて止ようとしたがシュスイは笑って手摺に跨る。

 

「HAHAHA、何を言ってんだレクト。もう飛行島につい……うおおっ!?落ちる落ちるぅ!?また空から落下するのは勘弁だって‼」

「あ、危ないって!?しっかりつかまってて‼」

「ちょっとなにやってんのよ!?」

 

 落ちそうになっているシュスイをレクトとリネアが止める。シュスイのうっかり様にたぬきちはやれやれと呆れてため息をつく。その最中にも飛行船は飛行島へと向かって飛んでいく。

 

___

 

「あ゛ー……落っこちるかと思ったぜー」

 

 ようやく飛行島に到着し、飛行島に足を踏み入れたシュスイはほっと胸を撫で下ろした。そんなシュスイをリネアはジト目でほほを膨らませてにらむ。

 

「ほんと何やってるのよ。飛行船でついうっかり落ちそうになる人を初めて見たわ」

「そ、それほど楽しみにしてたんだよね?」

 

「ありがとうレクト、でもなんかフォローになってないような気が…」

 

 とりあえず二人に謝り気を取り直して飛行島の中へと進んでいく。生い茂った森の中の先に囲うように聳え立つ大きな壁と門が見え、門を押して入るとそこは街となっていた。土と草原の道にぽつぽつと家や小さな屋敷のような建物が立ち並んでいる。シュスイは歩きながら見まわし、ゲームのように訓練所や研究所や採掘所が隙間なく敷き詰められて変な建物があちこち建てられてカオスな街並みではないことに安心した。

 

 ふと見まわせば緑色のフルプレートの騎士やらアライグマのような赤毛の獣人、リーゼントが目立つ男性や褐色のエルフ等々個性的な人々が行き交っているのに気づく。

 

「結構人が住んでんのな」

「飛行島は冒険家ギルドでも有名な場所ですもの。ほかの冒険家ギルドの中でもここが沢山の国からやってくるのよ」

 

 どこから取り出したのかガイドブックを読んでいたリネアの説明になるほどと納得して頷く。この飛行島は白猫プロジェクトの主人公と白の巫女ことアイリス、そして白猫のキャトラと彼らが出会う仲間達だけでなく他の国からやってくる人たちがいる。軍人やら国の王女やら天使とか悪魔とか種族人種問わずいるのだ。

 

「シュスイも冒険家になりたいんだし、ここに冒険家ギルドがあるなら丁度いいんじゃない?」

「まだ仮だもんなぁ。レクトの言う通り丁度いいな……でもお金かかるんじゃないかなー…」

 

 スキエンティアで仮登録したままであり、ここで本登録すれば正真正銘の冒険家になれる。だがライセンス料とか登録料とかどれくらいかかるか些か心配であった。

 

 

「あら見ない顔ね?新しい冒険家の人かしら?」

 

 ふとどこか聞き覚えのあるような声が足元から聞こえた。視線をゆっくりと足元へと見降ろすと、そこには雪のように白く綺麗な毛並みをした首に青いリボンの首飾りを付けた白い猫がこちらを見ていた。白い猫を見てシュスイは目が点になる。

 

「………」

「どうかしたの?あ、もしかして私の美貌にry」

 

「ギイヤアアアアアアアっ!?猫がシャベッタァァァァァァァァっ!?」

「ギニャーっ!?」

 

 シュスイは足元にいる白い猫に、白い猫はシュスイの驚きの声に驚き驚愕の声を木霊させる。

 

「すげっ、猫がしゃべっ、ちょリネア、レクト‼ね、猫がしゃべっ…‼」

「あんたはいちいち興奮しすぎ。少しは落ち着きなさい」

「ほ、ほらシュスイ深呼吸。お、驚かせてごめんね?」

 

 リネアがシュスイを落ち着かせレクトが「ギニャー」と驚きの声をあげている白い猫に謝る。ようやく落ち着いた白い猫がぷんすかと怒りだす。

 

「もう驚いたじゃないの!」

「す、すまん。ついあまりにも唐突だったもんで…」

 

 同じく落ち着いたシュスイは白い猫にぺこぺこと謝った。しかし驚いたのは猫がしゃべっただけではない。この人語を話す猫こそ白猫プロジェクトの顔(?)ともいわれるマスコットキャラクターことキャトラだ。まさかいきなり出会うとは思いもせず驚きを隠せずにはいられなかったのだった。

 興奮が落ち着いたとほっとしたと思いきや赤い髪の少年と白い服を着た銀髪の少女がキャトラのもとへと走ってきのが見えた。

 

「キャトラ!驚いた声が聞こえたから何かあったの?」

「……!」

 

 赤い髪の少年と銀髪の少女を見たシュスイは驚きで目を丸くした。

 

(ほあああああああっ!?ちょ、ちょっ…!?もしかしてもしかしてだけど!?まさかこちらにおわすは白猫プロジェクトの主人公とヒロインのアイリスかぁぁぁぁっ!?)

「ちょ、シュスイ!?なんかすごくがくがくしてるわよ!?」

「キュキュッキュ!?」

 

 まさかキャトラの次に白猫の主人公とヒロインにまでも出くわすとは思いもせず、喜びと驚きの奇声を殺して心の中で叫んでも感動と興奮で体ががくがくしていた。そんなシュスイを見て銀髪の少女はあせあせとシュスイに尋ねる。

 

「あ、あの、大丈夫ですか?」

「はっ、はぃい‼大丈夫でありますでしゅ‼」

「シュスイ、噛んでる」

 

 再びリネアとレクトとたぬきちになだめられようやく落ち着いてきた。そんなシュスイにキャトラがジト目で見つめる。

 

「あんた驚きすぎよ」

「いやははは…悪い悪い。俺はシュスイ、冒険家(予定)の男だ。あとこの星たぬきは俺の相棒のたぬきち、同じく冒険家(予定)だ」

「キュキュッ!」

 

「予定って…まあいいわ。私はキャトラ、よろしく!それでそこの二人は?」

「私はリネア。スキエンティアから禁忌の魔法の調査とシュスイ達と一緒に冒険をしにきたの」

「よろしく、僕はレクト。ぼ、僕も冒険家に…なる予定、かな?」

「まあこんな感じで冒険家になるためにまずは飛行島へと来たんだ」

 

 シュスイの話を聞いてキャトラはなるほどと頷いた。

 

「なるほどなるほど、つまりは新人さんってわけね!それだったらアタシ達で案内してあげましょ!この大先輩であるキャトラに任せなさい!いいでしょアイリス?」

「もうキャトラったら…はじめましてシュスイさん、私はアイリスといいます」

「そしてアイリスと一緒にいるのがクロロっていうのよ!」

「……♪」

 

 赤髪の少年ことクロロは笑顔でぺこりと挨拶をした。シュスイはこの白猫の世界では主人公はどういった名前なのか気になっていた。ゲームと同じようにクロロは声がなく喋らないが心なしか喋らなくても何となく何を言っているのかわかる気がした。

 

「よろしくな!アイリス、クロロ!」

「さてとさっそくアジトへ行って登録しましょ!私につづけー!」

 

 いざいかんとキャトラは意気揚々にシュスイ達を先導してアジトへと向かう。アジトとやらは街の中央にある大きな建物だった。中に入ればかなり広く、一部は酒場としてまたその一部は冒険家の窓口になっており多くの人で賑わっていた。キャトラはシュスイ達を連れて窓口へと向かった。窓口から緑のリボンで結んだ黒く長いポニーテールをしたおっとりとした女性が顔をのぞかせた

 

「あらキャトラいらっしゃい!」

 

「こんにちはヘレナさん!冒険家登録したい人を連れてきたの!」

 

 キャトラはエッヘンと胸を張ってシュスイ達を紹介する。その間にシュスイは不思議そうにアジト内を見回した。

 

「ここって……酒場?窓口?」

「その両方よ。酒場をしつつ冒険家の窓口もやってるの。私ともう一人、ラーレッタとでギルドの窓口を請け負ってるのよ。それでシュスイ君達は冒険家登録しにきたのよね?」

「ええ、俺とたぬきちはスキエンティアで仮登録したんだ」

「それなら本登録ね。本登録の際にライセンスを発行するんだけど……」

「あっ……」

「キュッ…」

 

 シュスイとたぬきちはライセンスと聞いて察する。ライセンスの発行、つまりは登録料とかいろいろとお金がかかる。今の自分とたぬきちは無一文、払えるお金がないのだ。シュスイの「あっ」の声に同じようにヘレナは察していた。

 

「もしかして、お金持ってないの?」

 

「……は、はいぃ…」

 

 きょとんと首を傾げて尋ねるヘレナにシュスイはものすごく申し訳なく頷いた。ちらっとリネアとレクトに視線を向けるがリネアは「無理」と、レクトは「僕も」と首を横に振った。どうやらここで働いて稼ぐしかないようだとシュスイは腹をくくる。そんなシュスイにヘレナはにっこりと笑った。

 

「それなら……これからキャトラ達と一緒に行って依頼を受けてくれないかしら?それが成功したらあなた達のライセンスは無料で発行してあげるわ」

「え、ええっ!?ほ、本当!?」

 

 驚くシュスイにヘレナはにっこりと笑顔で頷く。なんとありがたいことか、シュスイはありがたやと何度も頭を下げた。

 

「ありがとうヘレナさん!あなたは女神だ!」

「うふふ、ありがと。新作のパイを焼いて待ってるから楽しみにしててちょうだい。そいうことでキャトラちゃん、お願いね?」

「この大先輩キャトラにまっかせなさーい!新人をビシバシ指導してあげるわ!」

「キャトラ、厳しすぎるのはいけないわ」

「……」

 

 アイリスがあってるようなあってないようなツッコミをし、クロロが苦笑いをした。さっそく依頼を受けて冒険することにシュスイは胸を躍らす。ふとリネアが首を傾げながらキャトラに尋ねた。

 

「それでキャトラ、依頼っていうけどどこの国へ行くの?」

 

「私達が行くのは『世紀末都市サザンクロス』っていうところよ!」

 

「……えっ」

 

 キャトラ達が向かう場所を聞いて先ほどまでわくわくしていたシュスイがビシリと凍り付く。シュスイはわなわなとゆっくりとキャトラへと視線を向けた。

 

「あの…キャトラさん?行先をもう一度言って?」

「???だから、『世紀末都市サザンクロス』っていうところよ?」

 

 

「……さ、サザンクロスゥゥゥゥゥゥ!?」

 

 『世紀末』と『サザンクロス』という言葉を聞いてシュスイはまたしても驚愕の声をあげた。

 


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