冒険者共   作:サバ缶みそ味

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    \ユーシャルダァーイ‼/
 
 DMC3、DMC4SEのバージルのアクションは好きですね。ダンテもネロもかっこよくていいです。
 そしてMVCの新作にカーネイジが出てきて欲しい…過去のMVCにはベノムが出たんだから、DLCでもいいから…まあアメスパとかアメリカのゲームにはよく出てるし、シカタナイネ

 今回はシュスイ編が長引いてたので一気に終わらせるため話を詰め込み過ぎて無駄に長いです。(焼き土下座)




◎11 オーバードライブ紅蓮⑨

「いくぞっ‼」

 

 シュスイがカーネイジめがけて駆け出したと同時に張り巡らされた無数の赤い触手がうねらせながら襲い掛かる。囲うようにシュスイの体へと貫こうとした瞬間に空間が歪む音と共に放たれた無数の赤い剣閃が触手を切り払った。

 

 斬り払いながら触手の中を掻い潜りシュスイはカーネイジへ迫る。握っている刀を引き抜こうとした瞬間、カーネイジの両手に何本かの触手が纏い鋭利な刃を持つ斧へと変わり、思い切り横へ薙ぎ払った。シュスイはカーネイジへと斬りかかる前に立ち止まり、刀を引き抜き無数の剣閃が放たれる。シュスイを切り刻もうとした斧の手は微塵切りにされる。逆に切り刻まれた両手はすぐに再生されるが、その間にシュスイが一薙ぎするとカーネイジの体は数発の赤い剣閃に刻まれた。

 

「Gyaaaaaaaッ‼」

 

 カーネイジは怒りと痛みが混ざった悲鳴を上げながら後ろへと下がる。刻まれた体は纏われた赤い触手が結び付き傷を塞いでいく。傷が修復されると怒りを込めた唸り声をあげ、背中から無数の赤い触手を出した。触手はうねりながら集合していき己の分身を何体も形成していった。

 

 カーネイジの分身達は魔獣の様な奇声を上げながらシュスイへと襲い掛かる。シュスイは面倒臭いと舌打ちして呟き目の前に飛び掛って来た分身を両断する。左右から襲い掛かる2体の分身の攻撃はしゃがんで躱し、居合で放たれた無数の刃で切り刻み、背後から飛び掛って来た分身は上段回し蹴りで頭を蹴り飛ばす。その間にもカーネイジはどんどんと背中の触手から分身を作り上げてシュスイへと襲い掛からせていく。

 

「っ!やっぱ本体をぶちのめさないと霧がねえか…!」

 

 シュスイは一気に分身達を刻もうと考えた瞬間、一体の分身が背後からシュスイの体を掴み身動きを封じた。それを合図に分身達が折り重なるように群がり、赤い大きな塊へと形を変えていく。それをじっと見ていたカーネイジは中指を突き立てると赤い塊から幾つもの棘が生え始めドスドスと突き刺す音を立てながら突き刺していく。

 

「‥‥っ!」

「シュスイ‥‥っ!」

 

 高台で見ていたリネアは声にならない悲鳴を上げ、レクトは見開いて絶句する。赤い塊から棘だらけの球体と変わった中はスプラッターな事になっているかもしれない。動かなくなった棘だらけの球体を見ながらカーネイジは低く笑い声をあげる。

 すると突然、赤い球体がボコボコと蠢きだし、破裂した。赤い塊が飛び散り、シュスイが飛び出して着地する。シュスイの周りには幾つもの赤い光の剣が円陣を組むようにくるくると回っていた。

 

「幻影剣‥‥まったく、触手まみれとかそんな趣味ねえのにとんでもない物見せやがって!」

 

 シュスイの合図で赤い光の剣こと幻影剣はカーネイジへと切っ先を向けて飛んでいく。カーネイジは対抗して絵鋭利な刃を形成した触手の塊を放つが、幻影剣は何ともないかの様に突き破ってカーネイジめがけて飛んでいった。

 カーネイジは跳んできた幻影剣を跳んで躱し、8つの幻影剣はカーネイジに当たらず地面へと突き刺さった。が、カーネイジが跳んで躱していた時には既にシュスイがカーネイジの目の前に迫っていた。

 

「せいっ‼」

 

 足に纏わっている黒い甲冑こと衝撃鋼ベオウルフでカーネイジのドタマめがけて回転しながら踵落としを決めて叩き落した。地面へと激突したカーネイジへ追撃の一撃を入れる。カーネイジはそれを躱すがシュスイは逃がさないように鳩尾へブローをかました。衝撃にカハッとカーネイジは大口を開けて怯み、反撃の隙を与えないかの如く、蹴りのラッシュを放った。

 

「オラオラオラオラオラオオラオラぁぁぁぁっ‼」

 

 何十発、何百発ものキックをぶちかまし、フィニッシュに思い切り蹴り飛ばした。カーネイジは受け身を取ってすぐにでも反撃しようとした。しかし、視線の先にはシュスイが異様な殺気と力を込めて閻魔刀『紅水』を握り、刀身を引き抜こうとしていた。

 

「————覚悟はいいか?」

 

 シュスイが睨んで呟いたと同時に姿が消えた。その刹那、カーネイジの周りに広範囲に空間が歪みだし無数の赤い斬撃が現れた。地面に蜘蛛の巣の様に張り巡らされた赤い触手を切り刻みながらカーネイジへと迫り、斬撃の嵐がカーネイジを襲う。

 

「Gu‥‥Gyaaaaaaaッ!?」

 

 無数の斬撃がカーネイジの体を切り刻む。シンビオートで再生するスピードよりも速く切り刻み再生する時間を与えずに何度も何度も斬撃を入れていく。

 

「———次元斬・絶」

 

 姿を現したシュスイはゆっくりと紅水を鞘へと納めた。キンッと納まる音がしたと同時にゴリ押しと言わんばかりの赤い斬撃がカーネイジの体に刻まれる。カーネイジの体はズタボロになっており、弱弱しく呻いていた。弱った触手同士が結び付きながら傷を修復し始めると、シュスイは身を翻して懐まで駆け、ボロボロのカーネイジのど真ん中めがけて手を突っ込んだ。何かを掴むとシュスイは力いっぱい引っ張った。

 

「うおおおおおおっ‼」

 

 カーネイジは金切り声が混ざった悲鳴を上げながら悶え始めた。それでも止めることなくシュスイは引っ張り続ける。すると、カーネイジの体からずるりとゲルハルトが引き出されていく。彼を捕えていた触手がブチブチと引き剥がされていき、最後に思い切り引っ張ってカーネイジから引き離して遠くへ投げ飛ばした。

 

「これで‥‥遠慮なくぶちのめせる」

 

 シュスイは睨んで力を込めて紅水を引き抜いて刃を振るう。カーネイジの体を両断させ、更に細かく微塵になるまで無数の斬撃で斬った。カーネイジは断末魔を上げる暇なく粉微塵になっていった。

 

「‥‥よし、これで完了、だな」

 

 鞘へと納め、大きく息を吐いた。カーネイジが出現したのは驚いたが、寄生されたゲルハルトを救い出し倒すことができた。これでやっとこの事件が本当に解決した。シュスイはほっと胸をなでおろし、高台で見ていたリネア達にニッと笑顔を見せた。

 

(さてと、後はカーネイジの残骸を始末して、それからゲルハルトに問い詰めなきゃいけねえな‥‥)

 

 事件は解決したがまだまだやらねばならないことが沢山ある。どこでこのカーネイジが閉じ込められていた魔導書を手に入れたのか、リブリの魔導書を盗んだのは誰なのか、色々と聞きたい事が山ほど残っている。

 

 

 

 

 

「シュスイっ‼後ろっ‼」

 

 

 シュスイが色々と考え込んでいたその時、レクトが必死に叫んで呼びかけた。シュスイはハテナと首を傾げていたが、その瞬間後ろから殺気を感じた。後ろを振り向けば、赤い刃を持った触手が首めがけて横薙ぎしてきていた。ギョッとしたシュスイは一歩後ろへと下がり、首スレスレのところを躱した。刃が掠り、うっすらと血が滲んできた。

 

「なっ…!?どういう事だよ!?」

 

 寄生されていたゲルハルトを引き離し、本体を倒したはず。それでも尚、触手が蠢きだし、カーネイジは再生されていった。シュスイは焦りながら推測していく。よく見ると、カーネイジの背中から触手が伸びており、その先には赤い魔方陣のど真ん中に蜘蛛の巣の様に張り巡らされた触手と繋がっていた。

 

「あの場所は…っ!」

 

 シュスイは冷や汗を流して驚く。あの魔方陣が張られている場所はゲルハルトが行っていた魔法実験で大量のソウルが漏れていた場所。シュスイがゴリ押しでソウルを流し込んで栓をしていたのだが、カーネイジがそこへ触手を張り巡らせて根を広がせて大量に放出されたソウルを吸収し宿主が入らない身体を得たのだった。ソウルを吸収し続けているカーネイジから力が流れ込む。あちこちに張り巡らせていた触手は更に強度を増して範囲を広がっていく。

 

「オレを倒セルと思ってイタのカ?クカカカカ…!無駄ダ、オレは不死身ダ‼」

 

「…そうだよな、そう簡単に倒せる敵じゃねえもんな」

 

 高笑いしながら咆哮するカーネイジにシュスイは焦りながらも苦笑いをした。かのスパイダーマンがヴェノムや他のヒーロー達と力を合わせて戦っても投獄がやっとの凶悪なヴィランだ。一筋縄ではいかないし、ソウルを吸収し続け力を増したカーネイジはどうやって倒すか考えた。

 

 カーネイジは体から先ほどとは数が違う程の触手を放った。赤い触手たちは先端を鋭利にとがらせたり、斧や刃を形成させてシュスイへと襲い掛かる。シュスイは紅水を掴んで無数の斬撃を放って触手を切り払うが、他の触手は斬撃を躱すかのように方向を変えて横から、後ろからへと迫った。

 

 シュスイは舌打ちして赤い光の剣、幻影剣を自分の周りに発現させ、幻影剣を振るに回転させて斬り払う。しかしそれでも襲い掛かる触手の攻撃は一向に減らず、押されていく。切り払っている間に、斬撃を躱した触手が迫り貫き、斬りかかろうとする。戦っている間に刃が掠り、体に切り傷が増えていった。

 

(痛みは嫌程感じるが、ここで弱音を吐くつもりはねえ…!)

 

 ここで自分が倒れてしまったら、誰がカーネイジを止めなければならないのか。そう考えていると、触手を搔き分けてカーネイジが飛び掛って来ていた。シュスイは無数の斬撃を放って刻むが、斬撃のスピードより身体の修復が速くなっていたカーネイジは怯むことなくシュスイを押し倒す。シュスイは押し返そうとしたが、両手両足と首に触手で拘束され身動きを封じられてしまった。カーネイジは雄たけびを上げながら禍々しく鋭い爪を形成させた両手で引き裂こうとした。

 

「ちょ、まずっ、これは耐えれるか…!?」

 

 流石にあれはまずいと思ったシュスイは慌てて引き離そうとするが、がっちりと封じられて動けない。カーネイジはそのまま爪を振り下ろす。

 

「ぐ‥‥あああっ‼」

 

 体は鍛えているものの、カーネイジの爪の攻撃は思った以上に効いた。何とか痛みに耐えようとするが、カーネイジは残虐な笑い声をあげながら引っ掻き続けていく。

 

「やめろおおおおおおっ‼」

 

 その時、レクトが高台から飛び降りて赤い魔獣へと変身し、シュスイを刻むカーネイジを殴り飛ばした。

 

「ジャアアアアッ‼」

「レクト…!?」

 

 シュスイを拘束していた触手を斬り、カーネイジへと一気に迫った。しかし、カーネイジは怒りの方向を上げて狙いをシュスイから先にレクトへと変えて体から無数の触手を放った。レクトは壁や地面を蹴り跳びながら躱していったが、避けきれず刃を形成した触手の攻撃をくらってしまった。怯んだレクトに無数の刃が容赦なく振り下ろされた。

 

「グオオ…グアアアッ!?」

 

 悲鳴を上げるレクトにカーネイジはトドメと言わんばかりに飛び掛った。カーネイジの目の前にシュスイが迫り、思い切りカーネイジを殴り飛ばし、紅水から放たれた無数の刃が触手ごとカーネイジの体を切り刻んだ。

 

「レクト、大丈夫か!?」

 

「ジャアアア…」

 

 心配するシュスイにレクトはゆっくりと頷き、カーネイジへとお互い構える。身体に切り傷が深く入ったカーネイジは低く唸りながら傷を修復していく。最初の時より傷は浅くなっており、更に回復のスピードは早くなっていた。

 

(ソウルを吸収し続けて更に厄介になってきてる。このままだと俺でも手に負えなくなるぞ…)

 

 レクトはネヴィルとの戦いで疲弊している。自分がしっかりしなければ守りきれずにレクト達が殺されてしまう。シュスイは自分に慢心しないように言い聞かせた。

 

 その時、赤い魔方陣が急に光り出し始め、地響きが起きた。地面は揺れながらあちこちにヒビを広げ、そこからソウルが放出され始めた。カーネイジの触手が張り巡らせている魔方陣のど真ん中から光が大量に漏れ出していた。

 

「なっ…嘘だろ、おい…‼」

 

 シュスイは驚愕した。カーネイジがソウルを大量に吸収し続け、シュスイと戦っている間に術式が暴走し始めたのだ。このままだと術式の暴走でこの遺跡どころか街が、スキエンティアが吹き飛んでしまう。自分達は間違いなく吹き飛ぶが、力を得たカーネイジ及びシンビオートは生命力が強く、しぶとく生き残るだろう。そうなると世界中でカーネイジの虐殺を繰り広げて暴走を誰も止めれなくなってしまう。

 

―――どうやって倒せばいいのか。もう倒すことができないのでは―――

 

 一瞬、頭の中に過る。不安が伸し掛かろうとするがシュスイは首を振って不安を振り払う。自分が弱音を吐いたら誰が止めるのか。自分がやらねばらない。

 

「街が吹き飛ぶ前に…あいつを急いで倒すぞ」

 

 シュスイの声かけにレクトは頷いた。カーネイジを速攻で倒し、もう一度ソウルを流し込んで栓をする。そうしなければ街は救えない。けれどもソウルの力を吸収し続けているカーネイジを倒すには手を焼くだろう。それならば、奥の手を使うしか‥‥シュスイは力いっぱい刀を握って引き抜こうとした。

 

「待って、シュスイ‥‥」

 

 その寸前、いつの間に高台から降りていたリネアに止められた。シュスイはまさかと息を呑んで尋ねた。

 

「リネア…あれを止められるのか…?」

「一つだけ、方法があるわ…でも、ソウルの放出とアレを一時的にでも止めれば‥‥でも…」

 

 それはリネアに秘められた禁忌の術式を解放して封じ込める禁忌の秘術。しかし、失敗すれば彼女自身の命はない、それどころかこのスキエンティアも消し飛ぶ。確実な方法なのだが、リネアは躊躇っていた。彼女が術式を展開する間、暴れるカーネイジを食い止めなければならない。つまり、誰かが囮にならなければならない、犠牲が必要な手段だった。それでも、彼女の憂いている表情を振り払うかのようにシュスイは優しく撫でた。

 

「なーんだ、そういう事か。俺がやるよ」

「ッ!バカッ…それだと、あなたが…!」

 

「心配すんなって、俺は大丈夫だからさ」

「でも…っ!」

 

「それに‥‥栓は多くあった方がいいよね」

 

 リネアはそれでも止めようとしたが変身を解いたレクトが微笑みながら頷いた。

 

「‼‥‥あんた達‥‥」

「チャレンジしたいんだ、僕は。ヒーローは無理でも、ヒーロー気取りならね」

「何言ってんだ、レクト。お前はもう立派なヒーローだぜ?」

 

 シュスイはニヤニヤしながら軽く小突いた。シュスイはレクトの覚悟を分かっていた。折角覚悟を決めている彼を止めるのは野暮だ。それならば一緒に力を合わせて止めた方がいいだろう。レクトは笑って頷き、もう一度赤い魔獣へと変身する。

 

「さあ行こう、レクト。あの化け物野郎を封じ込めるぞ‼」

「ジャアアアアッ‼」

 

 シュスイとレクトはカーネイジへと駆け、光と共にソウルが大量に放出されている魔方陣へと押し込もうとした。カーネイジは抵抗するかのように触手を放ち、二人を切り傷を与えていく。カーネイジと戦う二人の雄姿を見て、リネアは覚悟を決めて頷いた。

 

「わかった‥‥二人の気合い、無駄にはしない‼全拘束解除!禁忌術式・限定解放‼」

 

 すると、リネアの足下から睡蓮の花の形をした桃色の魔方陣が展開される。薄く光り始めるとリネアは目を瞑り、詠唱を始めた。

 

「黒き憎悪の淀みの中で――光なき欲望の泥にまみれ――花は開く――」

 

 魔方陣の光は桃色に光り始めると、周りに漂っていたソウルの流れは徐々にソウルを放出し続けている魔方陣へと引き戻され始める。

 

「グオオオオ…アアアアッ‼」

「へばるんじゃねえぞ、レクト!気合い入れろぉ‼」

 

 押されるソウルとカーネイジの力に耐えるレクトを励ましながらシュスイも負けじと力いっぱい押し込む。リネアの禁忌の術ならばカーネイジをソウルごと封印できるが、押し込んでいる自分達も封じ込められる。しかしシュスイは封じられる気は毛頭ない。閉じられる寸前にレクトを引っ張って脱出するつもりだ。

 

(しかし…やっぱリネアの力はすごいな…)

 

 内心、リネアの力に感心する。彼女の力は想像も超えていた。徐々にカーネイジのシンビオートもカーネイジごと魔方陣へと封印しようと引き込まれている。

 無論、カーネイジ自身も徐々にソウルが放出されている魔方陣のど真ん中へと引き込まれているのに気づいていた。

 

「Guooooo…‼オレが引き込マレテいるダト…‼」

 

 この押し込む二人ではなければ誰の力か。カーネイジはキョロキョロと探し、詠唱をしているリネアに気づいた。

 

「アノ女か‥‥‼」

 

 カーネイジはリネアの体を貫こうと背中から鋭利な無数の触手を出して放った。詠唱中のリネアはカーネイジの触手が迫っている事に気づくが、詠唱を中断するわけにはいかず動けけなかった。

 

「そうはさせるかよ‼幻影剣っ‼」

 

 リネアの目の前に8本の赤い光の剣が現れ、彼女に迫る触手を回転しながら斬り払った。触手達はリネアを殺さんと何度も迫るが幻影剣はそれを食い止め続けた。

 

「リネア、続けてくれっ‼」

 

「絶望の地獄に、ただ一条、光よあれ――」

 

 次第にリネアの足下に展開されていた睡蓮の形をした魔方陣は大きく広がっていき、カーネイジごとソウルをソウルが放出されている魔方陣へと引き戻していく。あともう少しでカーネイジが魔方陣の真ん中へと引かれた時、カーネイジが高々と咆哮をあげて押し返した。

 

「ジャアァァッ!?」

「ぐおっ…!?」

 

 カーネイジは張り巡らされた赤い触手を全て自分の下に戻し、吸収し続けたソウルを一点に集中した。力を増したカーネイジのパワーに二人は押された。カーネイジの力はリネアにも響く。

 

「ふうい…ん…ああああっ‼」

 

 リネアは全身に激痛が走り、悲鳴を上げた。それと同時に彼女の足下の魔方陣の光が弱まり、徐々にカーネイジが押し戻していく。

 

「ううっ…負ける…もんか…っ‼」

 

 リネアは苦痛に堪えながらも魔力をフルに込め続けた。それでもカーネイジは暴れ続け押していき、体から更に触手を放ってレクトとシュスイに傷を与えて、両腕で二人を薙ぎ払う。

 

「グアァァアアッ…グゥッ‼」

「くっ…そうだ、レクト。ぜってえ諦めんじゃねえぞ…‼」

 

 二人は傷だらけでボロボロになりながらも何度もカーネイジをソウルごと押し込む。力の限り、限界を超え、力いっぱい押し込んだ。

 

「無駄ダ‼」

 

 カーネイジは嘲笑うかのように咆哮をあげて無数の触手でレクトとシュスイを薙ぎ払い、リネアめがけて刃を形成した触手を放った。二人は止めようとしたが、カーネイジが放った触手の塊が絡みつき動きを封じられた。迫る触手に幻影剣がリネアを守ろうと振るうが、数の多さに全てを切り払えず何本かの触手がリネアに迫った。

 

「しまっ…」

 

 シュスイは焦り、リネアは見開く。触手が彼女を貫こうと迫ったその時、白い魔獣に変身したネヴィルが彼女の前に割り込んで立ち、ネヴィルの体に触手が何本も突き刺さった。

 

「グオオオオオ…ッ」

 

「ネヴィルさんっ‼」

 

 シュスイは悲痛な声を上げ、幻影剣で触手を切り払う。ネヴィルは血を流しながら膝をつき、人の姿へと戻る。

 

「ネヴィルさん…なんで…!」

 

「これは報いだ‥‥それに、若者がこの街を救うために命をかけているというのに、私がただ見ているわけにはいかんだろう?」

 

 ネヴィルは体から血が流れながらも、激痛に耐えながら微笑み、よろよろと立ち上がった。

 

「私はこの街の強さを、この街に住む人々の強さを信じず、己の心までをも魔獣に変えて、命を奪って来た…シュスイくんが言っていたように、まだ踏み外した道へ戻れるというのなら、罪を償えるのなら…今がこの時だ…‼」

 

「ネヴィルさん‥‥?まさか…ダメだ‼」

 

 シュスイはネヴィルが己の命を犠牲にしてカーネイジを押し込み道連れにしようとしていたことに気づき、止めようとしたが拘束されて動けない。ネヴィルはシュスイ達にふっと優しく微笑んだ。

 

「リネア嬢、君の正義を冒涜してしまったことを詫びよう…君の持っている正しい心、決して諦めないでくれ」

「マスター…」

 

「レクト、お前は変われ。なりたかったお前になるんだ‥‥お前はもう一人じゃない、勇気を持つんだ」

(おじさん‥‥‼)

 

「シュスイくん…ありがとう。君のおかげでかつての私を取り戻せた、もう一度街を愛せることができた‥‥レクトを、リネアを、二人を頼んだよ…」

「ネヴィルさん‥‥‼」

 

 シュスイは力いっぱい拘束を解こうとしたが、カーネイジの力が強く解くことができない。ネヴィルは再び白い魔獣へと変身すると雄たけびを上げてカーネイジへと迫った。カーネイジは触手を放ち、ネヴィルの体を貫き、切り刻むが、彼は止まることなくカーネイジの体を掴むと一気に魔方陣の真ん中へと押し込んだ。

 

「グオオオオオオオオオッ‼」

 

「コノ…っ‼離セッ‼‥‥Guaaaaaaッ!?力が、オレの体ガ吸い込マレテいく…っ!?」

 

 いくら刻もうが、体を貫こうが、ネヴィルは怯むことなく、カーネイジをソウルごと押し込んでいく。力が失ってくカーネイジは最後の手段としてネヴィルへと寄生しようとした。しかしどういう訳かネヴィルの体はシンビオートが受け着かない。

 

『お前の様な化け物に‥‥この街を、あの子達を壊させはせんぞ…‼』

 

 ネヴィルは折れることない意思でカーネイジを魔方陣の真ん中へ押し込みソウルの光とカーネイジの触手が魔方陣の真ん中へ封じられていく。ソウルとカーネイジの力が止まり、ネヴィルはリネアとシュスイとレクトに今だと視線を送った。

 

 隙できたとカーネイジは心の中でほくそ笑み、背中から斧を形成した触手を出してネヴィルの首を切り落とそうとしたその刹那、幻影剣が飛んできてカーネイジの顔に突き刺さった。

 

「Gyaaaaaaaッ!?」

 

(シュスイくん…!)

 

 ネヴィルはシュスイの方を見つめた。ぐっと堪えた表情をしているシュスイが俯いてそっぽを向く。本当は助けたかった、彼の気持ちを裏切ってしまったが、それでも彼は許してくれた。

 

(シュスイくん、最後までありがとう…)

 

 ネヴィルは雄たけびを上げてカーネイジを更に押し込んでいった。

 

 

「リネア‥‥頼んだ。ネヴィルさんの覚悟、無駄にはしない‥‥!」

 

「———やってみせる!———光よあれ!在るべきものを、在るべき場所に‼」

 

 睡蓮の花が満開に開花したかのように彼女の足下の魔方陣は大きく広がり、光が強く輝きだした。

 

「封印術式展開‼いっけえええええええええええええっ‼」

 

 

 

 

 

 

 凄まじい閃光と共に、2匹の魔獣は消滅した。あちこちに張り巡らされた赤い触手と放出されたソウルは消え、魔方陣は光を失い消えていき、遺跡の中は静寂の空間へと戻った。力を使い切ったリネアは肩で息をしながらへたりと座り込み、レクトは変身を解き静かに俯き、シュスイは大きな穴がが開いた天井から見える青空を見上げていた。ただ、彼の拳は強く握りしめられ震えていた。

 

 こうして、クーリアの魔獣の戦いは幕を閉じた。

 

____

 

 

「‥‥たぬきち、忘れ物はないか?」

「キュキュッ!」

 

 事件から数日後、シュスイとたぬきちは港にいた。荷物をまとめ、宿を出て、このスキエンティアから出るつもりだった。

 

「キュキュキュ?」

「え?どうしてコーヒー豆を買ってるのかって?…そりゃお前、コーヒーを飲みたいからに決まってんだろー」

 

 シュスイは笑い飛ばしていたが、少し寂しそうに空を見上げる。

 

「転生者は無敵じゃない‥‥俺はまだまだ未熟だな」

 

 慢心するつもりはなかったのだが、自分は何でもできると慢心していた。助けたい人を救えなかった、自分の非力さを思い知った。だからこそ、自分の力を過信せず、旅をしながら力をもう一度磨いて行こうと決めた。

 

「ネヴィルさん…この街は大丈夫。色んな人が守ってくれますよ」

 

 リネアやレクトだけじゃない、色んな冒険者や住人達がいる。だから決して挫けることは無い。

 

「さて…もう一つ、やるべき事があるよな」

 

 シュスイは調べなければいけない事を思い出した。事件から数日後、シュスイはこっそり『花園』に告発され逮捕されたゲルハルトに出会って問い詰めたのだった。どこで魔導書を手に入れたのか、リブリの魔導書を盗んだのは誰の差し金なのか。多少『手荒く』もてなしたおかげでゲルハルトはすぐに吐いてくれた。

 

「赤い鎧を纏った男、か‥‥」

 

 ゲルハルトはクーリアの魔獣が現れる一週間前、夜中に彼が寝ている時に現れたのだという。全身を赤い鎧を纏った男は『自分は怪しいもんじゃァない。ゲームメーカーでセールスマンだ』と言い、ゲルハルトにカーネイジが封じられていた魔導書を渡したのだ。

 

 鎧の男は『これらはもともと俺達の集めていた本で連中が奪って集めたもんを取り返しただけだ』と、リブリから大量の魔導書を盗んだと言った。そして『一週間後、お前さんの計画を邪魔する連中が現れるだろう。いいもんだからコレはタダでやるよ』と言い残し、煙となって消えたのだとゲルハルトは語った。全てを聞いたシュスイは一つの答えに至った。

 

「‥‥同業者(転生者)の仕業だなこれ…」

 

 恐らく、自分と同じようなイレギュラーの存在が仕組んだのだろう。それならば何の目的で、何故リブリの魔導書を『もともと自分達の物』だと言ったのだろうか。まだまだ分からないことが多いが冒険しながら調べてみる必要がある。

 

「やることはあるけど…一先ず冒険者になって冒険を楽しまないとな」

「キュキュッキュ?」

「えっ?船はないけどどうするのかって?あー‥‥」

 

 シュスイは自分達の船は座礁してしまっていることを忘れていた。溜まっていたお金は食料と水に費やしてしまったし、船を買う予算も、船に乗る予算もない。途方に暮れたシュスイとタヌキはどうしようか呆然とした。

 

「うーん‥‥もうひと稼ぎする?」

「キュー…」

 

「やっぱり、シュスイの事だからそんな事だろうと思ったわ」

 

 後ろから呆れた様な声が聞こえた。振り向くとリネアが二人を見て呆れていた。

 

「り、リネアっ!?」

「まったく、私達を置いて勝手にどっか行こうとするなんてシュスイも気が利かないわね」

 

 よく見るとリネアは旅行鞄を提げていた。まさかと思いながらシュスイは恐る恐る尋ねた。

 

「リネアさん…?もしかして、旅行ですか?」

「旅行、じゃなくて一緒に連れてってもらうんだから。シュスイはすぐに迷子になりそうだしね」

「ええええっ!?ちょ、いいの!?花園の仕事は!?」

 

 焦りながら尋ねるシュスイにリネアはニッコリと笑って頷いた。

 

「一応、仕事も兼ねての冒険よ。ゲルハルトの供述でリブリに保管されていた禁忌の魔導書を盗んだ犯人の目星もついたし、調査もやるの」

 

 自分だけじゃなくてリネアにも吐いちゃったんですね…とシュスイは苦笑いをした。

 

「それに‥‥シュスイとの冒険は楽しそうで、やりたかった旅行もできるんだからいいでしょ?」

 

 リネアは少し顔を赤くして微笑んだ。シュスイはドキリとして照れながら笑って濁す。そんな時、遠くからシュスイを呼ぶ声が聞こえた。

 

「あ、それにシュスイと一緒に冒険したいのは私だけじゃないわよ?」

「え?…もしかして」

 

「はあ…はあ…やっと追いついた!シュスイ、お待たせ!」

 

 シュスイの下にレクトが息を切らせながら走って来た。レクトも大荷物をしょっていつでも冒険できるような支度をしていた。

 

「レクト…お前も一緒に冒険したいんだな」

「も、勿論!リネアと同じように一緒に冒険したいし…自分の事を知りたいんだ」

 

 シュスイはリネアとレクトの熱い視線に押し負けた。ネヴィルとの約束を思い出す。

 

「任されたもんな‥‥しょうがない、俺とたぬきちの旅は無計画だから迷子になるなよ?」

 

「う、うん!頑張るよ‼」

「でも逆にシュスイが迷子になりそうよねー」

「よ、よせやい‼」

「そういう事だから、一応行先は私が決めておいたわよ?」

「わお‼やっぱリネアさん、やるー‼」

 

 リネアが自分よりしっかりしてて逆に頼りになる。やれやれと肩を竦めるリネアは二人に飛行船のチケットを渡した。

 

「行先は最近冒険家ギルドで有名になってる飛行島よ。私も調査しなきゃいけないからね」

「飛行島‥‥」

 

 つまりは白猫プロジェクトの主人公とヒロインのアイリス、そして白猫のキャトラに出会うチャンスだ。シュスイは次の冒険に胸躍らせる。

 

「それじゃあ行こうか‼次の冒険へ‼」

「キュー!」

「しゅ、シュスイ!船じゃなくて飛行船はこっち‼」

 

「ほんと、大丈夫かしら‥‥」

 

 

 こうしてシュスイはリネアとレクトと共に飛行島へと向かったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『‥‥やれやれ、シンビオートの回収及びイクティニケのサンプルは回収できず、か。ついでに英知のルーンも手に入るかと思ったけど…欲張ったのがダメだったかー』

 

 スキエンティアの高い建物の屋上で、景色を眺めていた赤い鎧を纏った男は籠った声でため息をついた。

 

『まあいい。楽しい遊び相手は見つけたし退屈はしなくなった‥‥俺達の仕事を続けるとしよう』

 

 男の体は煙となって消えていき、その場には静寂が包まれた。




 ようやく、♠のオーバードライブ紅蓮編が終わりました。

 カーネイジの凶悪さ、残虐性が上手くできていなくて、カーネイジファンの方、すみません…
 スパイダーマン本編でもカーネイジはしぶとく生き、投獄しては脱獄し、復活するたび強くなる…マーベルでのカーネイジの凶悪さ、残虐性は恐ろしいです…

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