あとティナも確定と‥是非もないよね!え?違う?
魔法も剣も効かなかった魔獣を殴り飛ばした。無茶苦茶でごり押しだけれども誰しもできなかったことをやってのけたシュスイにリネアは驚きを隠せなかった。しかしシュスイは身構えたまま土煙が舞うその先を睨んでいた。
「やったの…?」
「いや…まだだ」
シュスイは苦虫を嚙み潰したような面をして視線を鋭くした。すると土煙を吹き飛ばすほどの咆哮が響き、白い魔獣ことクーリアの魔獣は立ち上がってこちらを睨んだまま唸っていた。リネアは一瞬身構えたが、白い魔獣の片腕には傷がついているのが見えた。
「シュスイの攻撃は確かに効いてる…!これなら…」
リネアは剣を握る力を強めて構える。連携していけばきっとあの禁忌の魔獣を討伐することができる。しかし、シュスイは困ったような表情をしていた。
「‥‥うーん…加減ってむずいなこれ…」
「え?今なんか呟いた?」
「ふぁっ!?い、いやぁ?何も言ってねえですよ!?」
シュスイは慌てながら何とか誤魔化し、呟きが聞かれていないことに安堵のため息をついて天井を見上げた。ここでクーリアの魔獣に変身しているネヴィルを倒してしまってはリネアやレクト、そしてネヴィル本人にとっても何の成長も得ることもできないし展開がおかしく成ってしまう。
(ここでネヴィルさんを倒しても何の意味もない…!早く来い…‼)
シュスイが願っている間に体勢を立て直した白い魔獣が雄叫びを上げてこちらに向かって来た。シュスイは舌打ちして身構えたその時、大きな音と共に天井に穴が開き、大きな赤い人型の魔獣が落ちてきた。
「ウソっ…魔獣が、二体!?」
白い魔獣とは別に赤い魔獣が現れたことにリネアは驚愕していたが、シュスイは無言のままじっと赤い魔獣を見つめた。
(よかった…間に合った)
赤い魔獣が来たことにシュスイは内心ほっとしていた。白い魔獣の前に現れた赤い魔獣、正体はヴァリアントの力を得て赤い魔獣に変身したレクトである。流れ的には、リネアにお勘定で出たおつりを渡すためにここまでおいかけていたところ、リネアが白い魔獣に襲われているのを見て、ヴァリアントの力で変身して颯爽と登場という流れだ。
(‥‥あれ?じゃあお店にいるのってたぬきちだけじゃね…?)
この場面に自分も含め、ネヴィル、レクトがいるためお店にはたぬきちしかいない。今頃粉骨砕身して店番をしているに違いない…と考えていたが、今はそれどころじゃない。
赤い魔獣は雄叫びを上げながら白い魔獣に攻撃をし始めた。白い魔獣も負けじと襲い掛かる。爪と爪、拳と拳がぶつかり合い衝撃と振動が響き渡る。
「すごい…なんて戦いなの…!」
リネアは驚きの声をこぼし、ヴァリアント同士の戦いを初めて見るシュスイもその迫力に息を呑んだ。
「グオオオッ‼」
「ジャアアアアアッ‼」
今の戦況は赤い魔獣の有利に進んでいる。白い魔獣に変身しているネヴィル本人もまさか同じような魔獣が目の前に現れたことに動揺しているようだ。速さは赤い魔獣の方が一枚上手で相手を翻弄させていた。
「グゥゥウウウッ…‼」
今は不利だとわかった白い魔獣は低く唸り、空へ高く舞い上がって消えた。残された赤い魔獣は辺りを見回し、シュスイとリネアの方へと視線を向けた。視線を向けられたことにリネアは身構えたが、様子がおかしいことに気付いた。
「…襲ってこない…?」
「大丈夫、彼に敵意はない」
「え?シュスイ、何で分かるの?」
「あっ、えー…な、なんとなーく!なんとなくだ!」
思わず口を滑ったことにシュスイは慌てて誤魔化す。そうしている間に赤い魔獣も空高く舞い上がって消えていった。リネアは突然現れた赤い魔獣に一度は驚愕したが、白い魔獣とは違う雰囲気を感じていた。
「あの魔獣…私達を助けてくれたの…?」
「‥‥さあな。でも、襲う気は全く感じられなかったぞ?」
シュスイはさり気ない感じで赤い魔獣ことレクトをフォローした。そのままストレートに赤い魔獣の正体を言ってしまってはいけない。
「‥‥分からない事がさらに増えて余計に分からなくなってきたわ‥‥」
リネアはため息をついて剣を納め、ジト目でシュスイを見つめた。その視線にシュスイは冷や汗をかいた。これは色々と尋問されるのではないか。
「シュスイ、色々と聞きたい事があるんだけど…?」
「しゅ、修行の成果じゃよ?」
「誤魔化してもダメ。というかどうやってここまで来たのよ?」
「木箱で。スニ―キングは初めてだけど得意だぜ!」
「言ってる意味が分からないのだけど!?ああもう、詳しいことはまた聞くわ」
リネアは肩を竦めて大きくため息をついた。色々とツッコミたいところがあるが、今やるべきことは今回の事を調書にまとめておかなければならない。帰ろうとした時、シュスイに声を掛けられ止められた。
「ちょ、もしかしてそのままお帰りですか?」
「そうだけど?シュスイも買い出しの途中なんでしょ?」
「‥‥」
「‥‥」
「…え、もしかして本当に迷子だったの…?」
「スキエンティア、広いでゴザル」
苦笑いするシュスイにリネアは呆れながら頭を抱えた。彼は本当に凄いのか、そうでもないのか、よく分からなくなってきた。
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「ほら、着いたわよ。今度は迷わないようにしなさいよ?」
「ほんとありがとな…」
リネアの案内のおかげで買い出しも何とか終わり、夕刻前に戻ることができた。昼過ぎ頃に出てどれくらいの時間が過ぎた事か、店内にレクトかネヴィルさんが戻ってきていることを願いつつ恐る恐る扉を開けた。
「た、ただいま戻りましたー…あっ」
店に入るや否やまず最初に視界に入ったのはカウンター席で真っ白に燃え尽きた様に座り込んでいたたぬきちであった。案の定、自分もレクトもネヴィルさんもいない中で立った一匹で店を切り盛りして、疲れ果ててしまったようだ。
「た、たぬきちぃぃぃっ‼」
「ちょ、真っ白になってる!?」
自分達がいない間、店をたった一人(匹)でフルに動いたのだろう。一人にさせて島って本当に申し訳ない。そんな事をしている間に、厨房からネヴィルが苦笑いしながらやってきた。
「すまないね。急用で私も外へ出ている間、この子が1人で頑張ってくれていたようだ」
「あ、ネヴィルさん!遅れてすみませんっ‼道に迷ってしまって…」
「気にしなくていいさ。この街はかなり広いからね、迷ってしまってもしょうがない」
頭を下げるシュスイにネヴィルは笑いながら、「ご苦労様」と言いながらコーヒーを渡した。ふと、ネヴィルの右手、右腕に包帯が巻かれているのにリネアが気づいた。
「ネヴィルさん、その怪我は…?」
「これかい?外出中に転んでしまってね…なに、大した怪我じゃないから大丈夫だ」
「‥‥」
その言葉を聞いたシュスイは一瞬顔を曇らせた。本当はその怪我は自分が白い魔獣に変身したネヴィルにつけた怪我だ。ネヴィル本人はシュスイに気付かれないように嘘をついているが、全てを知っている自分にとって辛い所がある。
「ネヴィルさん‥‥すみません。俺がもっと早く戻ってくれば‥‥」
「‥‥いいんだよ。君は気負わなくていい」
ネヴィルは不安そうにしているシュスイに優しく肩を叩いた。優しくしてくれるネヴィルにいずれ対峙する時がくるとなると、自分はどう立ち向かえばいいのか、シュスイは心の中で未だに迷っていた。とりあえず今は疲れを取って、宿に戻ったらたぬきちをいっぱい労ってやらねば。そして、明日は魔法学園に体験入学してレクトに会いに行かねば。
__
レクトside
本当に僕はどうしようもない‥‥
「よぉ~、落ちこぼれのレクト。今日もまた魔法のテスト、ビリけつだったんだってなぁ」
「情けねえなぁ。やっぱお前ってバカにされるために生まれてきたんじゃねえの?」
今日もまた先輩達に色々と言われ、色々とされる。
あの日から怪物になったというのに、変わらない毎日が続いている。この前なんかゴミ箱に突っ込まれたり、中庭の池に突き落とされたり、ロッカーに閉じ込められたりと酷い目にあった。
「あー…喉が渇いたなぁ。そうだレクト、ちょっと飲み物買って来いよ」
「え、で、でももうすぐ次の授業が‥‥」
「てめえが授業を受けても何の意味がねえよ!さっさと行けや‼」
「早く行け!まずいもん買って来たらぶっ飛ばすぞ!」
抗う事はできない。僕には一体どうすればいいのか、分からないしどうすることもできない。何も変わらない、魔獣に変身してしまう力を得ても僕には何も変わりはしない。
「わ、わかっry」
「お客様、お飲み物の方をお持ちしましたぁぁぁぁっ‼」
突然、大きな声が聞こえた瞬間にシュスイが駆けつけてきて、両手に持っていたエビチャーハンを先輩の顔面に思い切りぶつけた。
「ええええっ!?」
驚くのも仕方ない。シュスイはネヴィルさんのお店でアルバイトをしているはずだ。何故、学園に来ているのか。僕も驚いていたが、突然現れたシュスイに先輩も驚いていた。先輩はエビチャーハンをもごもごしながら起き上がる。
「て、てめえ何しやがる!?」
「誰だてめえ‼というかなんでエビチャーハンなんだよ!?」
「おっす先輩。今日から体験入学するシュスイだ。後これはお近づきの印の冷えたボソボソのエビチャーハンだ」
どこからエビチャーハンを取り出したのか、シュスイは再びエビチャーハンを先輩の顔面に押し付けた。
「チャーハンばっかじゃねえか!?何その飽くなきチャーハンの執念は!?」
先輩もどういうツッコミを入れているのかと思っていたら、先輩達の顔が急に青ざめ、お腹を抑えだした。心なしか先輩達のお腹からゴロゴロと非常にまずい音が聞こえてきた。
「て、てめえ…‼何を入れやがった…っ!」
「ちょっとしたトッピングですよ、先輩」
シュスイはゲスな笑みをこぼしつつ、先輩の胸倉をつかんで睨んだ。
「いいか?俺の目が黒い間、親友のレクトに酷い事はさせんぞ?ちょっとでも何かしやがったら…今度は下剤ですまねえからな?」
その視線から威圧を感じた。先輩達は青ざめながら何度も頷く。恐らくそれどこじゃなくて聞いていないかもしれない。シュスイはそのまま突き放すと先輩達はお腹とお尻を抑えながらその場を去って行った。先輩達が去ったのを見届けるとシュスイは軽くため息をついた。
「やれやれ、魔法学園でどんな魔法の授業があるのかとウキウキしてたってのによ…ま、気にするまでもねえか」
肩を竦めて一息ついたシュスイは僕の方にニシシと笑みを浮かべて手を差し伸べた。
「と、いう訳でしばらくお世話になる。よろしくな、レクト!」
初めて会った時は不思議な雰囲気で話しかけづらかったけど、本当は無邪気で、楽観的なんだと分かった。そして勇気があってどこか…どこかヒーローのような面影が見えた。
長くなりそうなので中途半端な所ですがくぎゅります(焼き土下座
エビチャーハン、美味しいよね(オイ