「行っちゃったね、梨子ちゃん」
「まぁ大丈夫だろ、あいつなら」
「千歌ちゃーん!八幡ー!早く戻ろー!」
「あ、うんー!はちくん行こ!」
梨子を駅で見送った俺達。きっと梨子なら心配いらないだろう。
問題と言えばどちらかと言うとこちらにあるのだ。
「それじゃあ最初から……」
さっそく学校へ戻って練習を始めようとしたわけだが、今回の曲では梨子と千歌がセンターを務める予定だった。しかし梨子はピアノコンクールのためいない。つまり梨子のポジションが空いてしまっているのだ。
「ど、どうしよう?」
「まぁ普通に考えたら千歌と相性のいいやつが梨子の代わりに踊るしかないな」
「相性……」
その一言で視線はある人物に集中する。
「……ん?え、わ、私!?」
そう、曜だ。曜なら千歌とも幼馴染で昔から仲良しでずっと一緒に居るし適任と言える。
「曜ちゃん!」
「で、でも」
「曜、多分これはお前が1番適任だ。お前で無理だったら他のやつでも無理だと思う」
時間も限られている。たくさん練習すれば他のメンバーでも出来るかもしれないが大会は刻一刻と迫っているのだ。
「……できるかな、私に」
「……お前なら大丈夫だ、自信持て」
「あ……」
そう言って俺は曜の頭を撫でてやる。おいそこ、ニヤニヤすんな。
「……うん!私頑張るよ!」
「ありがとう!曜ちゃん!」
「決まりだね。曜には負担をかけちゃうけど、みんなでカバーしよ」
果南の掛け声と共にみんなのやる気もよりいっそう上がった。
これなら何とかなりそう……だと思っていたのだが。
「ワン、ツー、スリー、フォー」
「わっ」
「えっ」
千歌と曜のタイミングがなかなか合わない。
もうかれこれ10回は練習した。
「まただ……」
「とりあえず、今日のところは終わりにしましょう。時間も遅くなってきましたし。まだ時間はありますわ」
2人のタイミングが合わない理由。それを解決しない限り先には進めないだろう。俺の感が正しければ……原因は曜にある。
「美味しいずら!」
「ずら丸、あんた太るわよ」
学校を出てコンビニで寄り道をしていた俺達。
そこでも千歌と曜は練習していた。
「……千歌ちゃん、梨子ちゃんと練習してた時みたいに踊ってみて?」
「え?う、うん」
「それじゃあ行くよ。ワン、ツー、スリー、フォー」
「あ!合った!」
「天界の合致!」
「さすが曜ちゃん!」
「これなら問題ないでしょ?」
「うんっ!」
一見、成功したようにも見えた踊り。確かに成功はしているのだろう。
「すまん、俺と曜は先に帰る。行くぞ」
「え、は、八幡!?」
「……どうしたんだろう?はちくん」
曜の手を引いて俺は展望台にやって来た。別に場所は関係ないが。ただ話したかったのだ。ここをハッキリさせないと本番で多分失敗する。
「どうしたの?こんな所に来て」
「……俺はずっと違和感を感じていた」
「え?」
「時々曜が暗い顔してるときがあって、最初は気の所為かと思った。でも違った。確信に変わったのは前の海の家のときだ」
「ちょ、ちょっと待って八幡なんの話?」
「……はっきり言うぞ、今のままじゃ多分本番で失敗する」
「え?でもさっき成功したじゃん!」
「見た目はな。でも根本の部分じゃ全く成功してない」
「え……」
「曜、お前千歌と梨子が仲が良くなっていくことに嫉妬してるだろ」
「っ!な、何言って」
「お前が暗い顔をしてる時、その目線の先にはいつも楽しそうに話す千歌と梨子の顔があった」
「……」
「千歌ちゃんは私より梨子ちゃんといた方が楽しいんじゃないか、って感じか?」
「……あはは、よく見てるね」
「彼女だしな」
「……うん、八幡の言う通りだよ。……初めて千歌ちゃんにスクールアイドルを誘われた時は嬉しかった。千歌ちゃんと一緒に何か出来るんだって思って。でも、それから梨子ちゃんやみんなが入って……別に私である必要はないんじゃないかって。梨子ちゃんと話してる方が楽しそうだし……」
「……はぁ、今のお前は千歌よりバカだな」
「えぇっ!?」
「あのな、お前何年あいつの幼馴染やってんだ?」
「は、はひぃふぁん?いひゃいよ!」
「千歌のことを1番知ってるのはお前だろ。千歌がどういうやつなのか思い出せ」
「千歌ちゃんを……」
「お前、人に合わせるタイプだもんな。さっきの時と千歌に合わせてた」
「……うん」
「そんなんじゃ誰も感動しないぞ。お前ももっと我儘言っていいんだ。素直になっていいんだよ」
「……八幡には言われたくないけど」
「……ま、まぁとりあえず本心をあいつにぶつけてみろ。曜が素直になれさえすればきっと簡単なことなんだよこれは」
「……簡単なこと」
「俺に言えるのはこれくらいだ。あとは自分で考えろ」
「ね、もしかして他のみんなにもバレてる?」
「千歌や1年は知らんが……3年生あたりなら気づいてるんじゃないか?」
「あはは……恥ずかしいなぁ」
「ほら帰るぞ。そろそろここも閉まるし」
「あ、うん。……八幡!」
「あん?」
「ありがと」
「……おう」
そしてライブ当日。
「おはヨーソロー!」
「曜ちゃん!頑張ろうね!」
「うんっ!」
曜の顔は以前と比べてまるで別人のような顔をしていた。どうやら解決したようだ。
「……もしもし」
「八幡くん?どうしたの?」
「もうそっちもコンクール始まるか?」
「うん、そっちも?」
「あぁ。……ありがとな」
「ううん、でも突然曜ちゃんに電話してあげてくれ、なんて言うから驚いたわ」
「お前と話すのが1番かと思ってな」
「……嫉妬しちゃうわ」
「は?」
「八幡くんからこんなに想ってもらえる曜ちゃんが羨ましい」
「……別に、マネージャーだしこんなもんだろ」
「照れてるの?」
「切るぞ」
「あー!待って待って!……頑張ろうね」
「……俺は踊らないけどな」
「もぅ、すぐそういうこと言うんだから」
「八幡?誰と話してるの?」
「っ!よ、曜か」
「曜ちゃん?」
「梨子ちゃん?」
「えっ!梨子ちゃん!?」
曜を初めにそれを聞いたメンバーが全員俺の元へ寄ってきた。
きつい。電話ひとつに群がりすぎだ。
「みんな、頑張ってね」
「うんっ!梨子ちゃんも!」
「それじゃあ八幡くんから一言!」
「おい」
今すぐ電話を切ってやろうか。
時すでに遅し、メンバーは全員こちらの言葉を待っていた。
戻ってきたらあいつには仕返ししてやる。
「……あー、まぁ、あれだ」
「もう八幡、もっとはっきり!」
「う、うるせぇな慣れてないんだよ……楽しんでこい」
「うんっ!」
「そうだね」
「もちろんですわ」
「ヨハネの魅力を思い知らせてあげるわ!」
「が、頑張ルビィ!」
「練習の成果を見せるずら!」
「ベリーでキュートなライブにするわ!」
「そうね、私も楽しんで弾くわ」
「ヨーソロー!」
離れていても心は1つ。なんてものは嘘っぱちだ。
クラスが変わればそれまで話していた友達とも絶縁みたいな感じになったりするし進学なんてすれば音信不通なんてこともよくある。
だが俺は今だけは、柄にもなくその言葉を信じていた。