曜の地獄の説教も終わり、さっそく海の家の手伝いを開始する。
皆それぞれ自分の担当につき、働く。俺?俺はほら……
「八幡さん、何帰ろうとしてますの」
「いやほら、俺することなくね?」
「八幡さんには曜さんと同じく料理担当ですわ」
「俺料理は得意じゃ」
「曜さんから妹さんと交互でご飯を作っていると聞きましたが」
あいつのお墨付きかよ……これは逃げ場がない。
「わかったよ……」
「わかればよろしいですわ。さっさと終わらせて練習ですわ!」
「見てはちまん!マリー特製シャイ煮よ!」
「いやなんだこのおぞましい料理は……何入ってんだよ」
「色々よ色々♪ちなみにお値段は10万円!」
「たけぇよ。どこの高級料理だ。誰が買うんだよ」
「いいからほらひと口食べてみて?」
「……ん、う、美味い」
「でしょ!」
「この見た目でこの味が出せるとはある意味天才だな」
「それほどでもあるわね〜!」
認めちゃうのかよ。まぁとりあえず値段は考えるとして味が問題なければ売れるかも。曜は普通に美味そうな焼きそばを作っている。
さて……
「おいヨハネ、お前何作ってる」
「だから善子!……ってあってた!……ふふふ、刮目しなさい!堕天使の涙!」
「……鞠莉、こいつをここから出せ」
「なんでよ〜!食べてみなさいよ!食べてみないとわからないでしょ!」
ふむ、一理ある。実際鞠莉のは美味しかったわけだし。
「じゃあひと口…………つっっっっつつつつ!!?!?」
声にならないほどの味が舌に襲いかかる。
甘さ、苦さ、辛さ、色々なものが凝縮されて恐ろしい味だ。
色々ないろを混ぜて黒を作ったあの感じ。とりあえず死にそう。
「は、はちまん!?曜〜!ヘルプミー!」
「どうしたの鞠莉ちゃん?八幡!?大丈夫!?」
「ふふふっ、どうやらこの堕天使の涙の魅力に取り憑かれてしまったようね」
「鞠莉ちゃん、八幡を運んで!善子ちゃんちょっと」
「え?よ、曜?か、顔が怖いわよ?ちょ、ちょっと誰かぁ!」
なんか周りがうるさいが……あ、ダメだ意識が。
「っ……ここは」
目を覚ますと辺りは真っ暗。部屋にいるのは分かったがなにやら腕に柔らかい感触が。
「いやなんでこいつら引っ付いてんの」
曜と鞠莉が両腕に抱きついていた。とりあえずゆっくりと離れる。
「かなり気を失ってたな……」
目も完全に覚めて今から寝る気にはなれないな。外でも出るか。
「寒っ……ん?」
海岸へ向かうと人影が2つ。
「何してんだ?」
「あっ、はちくん起きたんだ」
「大丈夫?色々あったみたいだけど」
「まぁ俺はほぼ気を失ってただけだからな……お前らこんな遅くに何かあったのか?」
「えっとね」
千歌から話の事情を聞く。
ラブライブの予選と梨子のピアノコンクールの時期が重なっておりどちらを選ぶべきかという話らしい。梨子はピアノコンクールに出るつもりは無かったらしいが……
「私はね、出て欲しいんだ。梨子ちゃんにとってピアノはとっても大切なものだと思うから」
「……」
梨子のピアノに対する想い。それは俺も少しくらいならわかる。
時々音楽室で弾いてるところも見たし。なによりピアノを弾いてる時の梨子は楽しそうだった。
「私ね思うんだ。また前向きに取り組めたらきっとそれは素晴らしい事なんだって」
「千歌ちゃん……」
「だから出て欲しい。ピアノコンクールに」
「……ほんとに、変な人っ」
「わわっ、梨子ちゃん」
「……出るよ、コンクール」
「っ!うん!私、待ってるから!」
今の梨子の目には確かな決意が宿っていた。どうやら決心したようだ。
……俺今回ほぼ何もしてなくね?