「すみません、理亜まで結局……」
鹿角姉による爆弾発言から1時間後、本当に俺はデートに連れ出された。
「いや俺はいいですけど……」
「ふんっ、姉様に変なことしないか見張る必要がある」
「しねぇよ。俺彼女いるって言ったろ」
「八幡は浮気しそうな顔してる」
「おまっ……はぁ、別に本当に何もする気ないから見張っててもいいけどよ」
「こら理亜!八幡さんに失礼な事言わないの!」
「……あ、あの」
「はい?」
「いや、なんで呼び方変わってるのかなぁ……と」
「……ダメでしたか?」
「そ、そういうわけでは……」
最初は比企谷さんだったのに名前呼びに変えるとか俺からしたら地味に痛いぞ。
妹の方はまぁそんな気がしたからなんとも思わなかったが。
「八幡さんも私のことは聖良と呼んでもらって構いませんから。あと敬語もなしです」
「いやそれは」
「……」
「……わかりまし……わかった」
「はい!それでは行きましょう!」
どうして俺は女子にこんなに弱いのだろうか。
「八幡さんは北海道は来たことありますか?」
「あー初めてだな。言ってみたいとは思ったことあるが遠いしな」
「なら案内のしがいがありますね。今日は函館の魅力をたくさん教えてあげます」
「お、おう」
なんか目が燃えていらっしゃる。妹の方は「姉様……かっこいい!」とか言ってるし。重度のシスコンである模様。
「……理亜って言ってるでしょ」
「地の文読むな」
「とにかく!鹿角妹とか妹の方はとかやめて!ちゃんと理亜って呼んで!」
「わかったわかった。そう怒るなよ理亜」
「っ……あ、頭撫でないでよ!」
「はいはい」
「〜っ!」
これはなにかに目覚めそうだ。理亜の恥ずかしそうな顔が俺の中の悪戯心をくすぐる。
「八幡さん、私も撫でてください」
「……無理です」
「嫌とは言わないんですね。ではお願いします」
「いやだから」
「お・ね・が・い・し・ま・す」
「……はぁ、これでいいか」
「はいっ」
俺は昼間から道の真ん中で何やってんだ。周りからチラチラ見られるし。
「八幡さん、これからずっとこのままでお願いします」
「いやさすがに無理」
「美味しかったな」
「お口にあって良かったです。あそこは私たち行きつけの海鮮丼屋さんなんですよ」
「鮭も蟹も美味かった。さすが北海道だな」
「八幡さんは今日はいつ帰られるんですか?」
「んー……あと23時間ってところだな」
「そうですか……」
いやそんな名残惜しそうな顔しないでもらえますかね。帰れなくなっちゃうから。帰るけど。
「じゃあ最後に行きたい場所があるんです」
「いいぞ」
聖良についていった俺達がついたのは高台。綺麗な夕焼けが目の前に広がっていた。
「へぇ……こりゃすごい」
「夜は星空が綺麗なんですよ。昔遊んでた時に偶然見つけたんです。ここは私と理亜しか知らない場所」
「いいのか?そんな大事な場所俺なんかに」
「あなただからこそです。私達だけの秘密ですよ?」
「お、おう」
「今日はありがとな」
「いえ、また機会があれば遊びに来てください」
「理亜もありがとな」
「別に……頭撫でるな!」
「そう言っても逃げないあたり嫌じゃないんだろ?ソースは小町」
「うぅ…っ!」
「じゃ、行くわ」
「はい。あ、八幡さん」
「ん?なん……だ」
聖良に呼ばれ振り向くと……頬に柔らかい感触が伝わる。
「ね、ねね姉様!?」
「唇は私も恥ずかしいので……曜さんにも悪いですし。今日来てくださったお礼です」
「は、はは八幡!」
「お、おおお落ち着け!俺は悪くない!」
「あんたが落ち着きなさいよ!」
「ほらほら、飛行機が行ってしまいますよ?」
「誰のせいだ誰の……また会おうな」
「はい」
「……またね」
こうして俺の短い北海道旅行は終わりを告げた。
……お土産忘れた。