浦の星学院に入学してから2ヶ月ほど経った。この学校は元女子校。俺が普段なら絶対こんな所は選ばないが、ここは女子校だったのだ。つまり、女子ばっかり。共学になったのは去年からなので男子なんてほとんどいない。そう、ほぼ確実にぼっちライフが過ごせる。わざわざ男子に話しかけるやつなんてその男子がイケメンでもない限りいないだろう。
「比企谷くん!一緒にお昼食べよ!」
…と、思っていた頃が昔はありました。
「…お前はなんで毎度毎度俺のところに来るんだ、渡辺」
渡辺曜。同じ中学だった。同じクラスに一度なった。ただそれだけ。なのにこいつはやたら俺に絡んでくる。
「一緒に食べたいから?」
「お前いつも一緒にいるやつと食べればいいだろ。あれ、たかなんとかさん」
「千歌ちゃん?普段一緒にいるしお昼くらい比企谷くんと食べてもいいと思って。というか千歌ちゃんとも同じ中学なのに覚えてないんだね…」
「俺がどんな存在だったか知ってるだろ。わざわざ人の名前覚える必要が無い」
「でも私の名前は覚えてくれたね!」
「…お前があまりにもしつこいからだ」
こいつのせいで俺のぼっちライフは崩壊状態だ。ここはバシッと言った方がいいな。
「…渡辺、はっきり言うぞ。俺がぼっちだからとか同情の気持ちで関わってるならやめろ。迷惑だ。不愉快だ」
「…そういうつもりじゃないんだけど…迷惑だったらごめんね?無神経だったよね。もう誘わないから!じゃ、じゃあ私教室戻るね!」
「…」
去っていく渡辺をふと見ると、目から涙が見えた。
「それじゃあ気をつけて帰れよ」
「今日は立ち読みしてくか…」
「比企谷くん!!」
「ん?…なんだ?」
「ち、千歌ちゃん!」
声をかけてきたのは、た…たか…忘れた。
「ちょっとこっち来て!」
「お、おい!」
「…で、なんだよ」
「どうして曜ちゃんを泣かせたの!」
「…なんで俺が犯人みたいになってるんだ」
「だって曜ちゃんが比企谷の所から戻ってきたら泣いてたんだもん!」
「…別に俺はただ何回も飯を誘ってきて迷惑だって言っただけだ」
「どうしてそんな事言うの」
「迷惑だからだ。俺は1人がいいの。ぼっちライフを望んでるから」
「………そうは見えないけどな」
「なに?」
「確かに1人の方がいい時もあるよ?でも教室での比企谷くん、時々羨ましそうにグループとか見てるよ?」
「…んなわけないだろ。大体なんでそんなこと分かるんだよ」
「だって曜ちゃんが仲良くしたいって思ってる人だもん。私だってできたら仲良くなりたいし、比企谷くんのこと時々見てるもん。……比企谷くんか人をあんまり好きじゃないのはわかるよ?私も同じ中学だったし…でも、曜ちゃんは違うって分かるでしょ?あの時だって比企谷くんが一人になっても曜ちゃんは変わらず話してた。それに、今日の涙で分かったでしょ!曜ちゃんがどれだけ比企谷くんと仲良くなりたいか!」
「…じゃあ逆に聞くが、何故そこまでして俺と仲良くなりたがる。さすがにしつこすぎる所はあったぞ」
「…それは、言えない」
今まで口をつむんでいた渡辺がふとしゃべりだす。
「でも…比企谷くんと仲良くなりたいって思ってるのはホントだよ?諦めなければいつかは比企谷くんと仲良くなれると思ったんだけど…ごめんね?あんなに嫌がってたなんて思わなくて…も、もう話しかけたりしないから」
渡辺は感情が昂ったのかまた涙目になる。
「……はぁ、頼むから泣くのはやめてくれ。渡辺みたいな可愛いやつに泣かれると罪悪感やばいから」
「へっ?か、可愛い?」
「…なに、俺なにかおかしなこと言ったか?」
「う、ううん!ご、ごめんね。もう泣かないから!」
「…………………たまになら」
「…え?」
「…たまになら、いいぞ。毎日はさすがにきついから。時々なら一緒に食べても…いい」
「…………ほ、ほんとに?」
「あぁ」
「良かったね!曜ちゃん!」
「あ、ありがとう!比企谷くん!」
「1年に1回な」
「それ時々じゃないよ!?…もう…じゃあこれからたまに一緒に食べようね!」
「じゃあじゃあ!私も!」
「お前は無理」
「えー!?なんで!?」
「うるさそうだもん」
「直球!?静かにするからー!お願い!はちくん!」
「おい待てなんだその呼び方」
「え?だって本名比企谷八幡でしょ?八幡からはちくん!」
「そういうことを聞いてるんじゃねぇ」
「あだ名の方が仲良くなれそうだもんね!曜ちゃんも名前で呼べばもっと仲良くなれるよ!」
「え!?わ、私は…さ、さすがに恥ずかしいかな」
良かった。渡辺は普通の女子だ。
「じゃあ改めてよろしくね!はちくん!行こっ曜ちゃん!」
「え、う、うん!」
「あいつ1番関係ないのに1番うるさかったな…」
「比企谷くん!」
「ん?」
「ヨーソロー!」
…確か船乗りのことばだったっけ?
「……あぁ」
さすがにヨーソローという勇気はない。
続く