ナイトレイドのアジトでは眠っている正邪を除いたメンバーで会議が行われていた。
「……おそらく、正邪も帝具を創るのは初めてだったのだろう。幸いにも気絶しているだけだったが、今後はあまり無茶な頼みは避けた方がいいだろう」
「分かってる。そもそも帝具の話だってラバも冗談で言ってたんだ」
「……本当に成功しかけるとは思ってなかったけどな」
会議室に重い空気が流れる。
帝具を創る帝具「打ち出の小槌」。
もし、これが革命軍に知れ渡ればどうなるかを考えると、この事実は隠し通すしかなかった。
「……空を飛べ、打ち出の小槌っていう反則帝具を所持しているんだ。もしかしてまだ何か隠し持ってるとか……。他には分からねえのか?」
全員の視線がタツミに向く。
この中で唯一話した回数が多いのはタツミだけだった。
故に全員が何か知っているのではという風に考える。
「……悪い。正邪は帝都で成り上がるためにここに来たってことしか知らないんだ」
「私たちの村は多少他の村とも交流があったけど、あんな変わった服を着たのは見たことがないわ」
「一緒にいたタツミや頭のいいサヨも分かんねえなら俺も分からねえよ」
結局何も情報が得られず、ただ正邪という人物の謎ばかりが増えていくだけだった。
「……ったく、勝手に私の話してるんじゃねーよ」
正邪だった。
先ほどのことが嘘のようにヘラヘラとしながら立っていた。
「今回のことは私が甘く見すぎていた。でも、死ななかっただけ儲けもんだ」
正邪はただ笑っていた。
倒れたばかりだというのにそこには無理をしている様子もなく、無邪気な子供のように笑っていた。
「……単刀直入に聞く。正邪、お前は何者だ?」
正邪について最初に聞いたのはナジェンダだった。
正邪は一瞬耳を疑ったような仕草をするが、すぐに理解したような素振りを見せる。
「さっき言っただろ?」
後ろを向き、こちらを見返りの姿で語る。
「――我が名は鬼人正邪。それ以外の何者でもない」
正邪はそれだけを言うと他には何も言わなかった。
ナジェンダもお手上げのようでそれ以後の言及はしなかった。
■ ■
「……くっそぉ! この強者め!!」
「あんたが弱すぎるのよ……」
正邪は脅威になりうる。
その考えは翌日に訂正されることになった。
確かに彼女は道具を使った戦闘に関してはナイトレイドの中で誰よりも優れていたが、実践となるとラバックでも勝てるほど弱かった。
「……あーもう無理。降参してやるよ」
「あんた、ほんとに弱いのね」
動きは素人同然で現在、マインに敗れたことで肉弾戦最弱の称号を手に入れてしまったところだった。
しかし、正邪はタツミたちと違って早速殺しの仕事に向かうことになった。
「あんたたちは大人しくキュウリのヘタでも落としてなさい!!」
「なあタツミ、なんでこいつこんな偉そうなんだ?」
「知らねえ。俺が聞きてえぐらいだよ」
今回の任務は少し手強い上に敵の数が多い。
そこで、敵を一掃するために小槌で強化したパンプキンで一気に敵を殲滅するという作戦になった。
……なったのだが
「すまん、最初に時みたいな魔力は今使えねえ。村雨の時の魔力が完全に回復しきってないんだ」
「えぇ……。いや、まあそれぐらいのデメリットがあった方が奪われた時に安心はするけど……」
ということで、正邪の力をもっと探る為に敵の親玉は正邪が討つことになった。
ナジェンダ曰く今回の目標は少しだけ強い上にいつ現れるか分からない人物だと言う。
「……ま、これなら余裕だな」
陰陽玉、身代わり地蔵、そして小槌を装備して準備は万全だった。
「……はぁ、私が殺るよりブラートやマインの方がさっさと済むだろ。私じゃ一撃では仕留められないぞ」
「ま、その時は正邪は戦闘では全く使えないって報告しとくわ」
その言葉が正邪を動かした。
マインに指を指す。
「……面白いじゃないか。仕方ないから私も最後の手の内を明かしてやるよ」
意外と正邪は喧嘩は買う方だった。
「最後の手の内……。あの帝具以外にもまだ見せてないのがあったわけ?」
「今までは使う必要がなかったからな。でも、こいつは絶対に誰にも回避できねえし奪われないものだ」
「絶対に奪われないもの……?」
それを聞いて最初に考えたのは肉体改造だった。
しかし、だとすると正邪は組手の時に肉体の違和感を感じるはずだが、ブラートでさえそれに気付くことができなかった。
結局、答えは出ないまま目的地に辿りついてしまう。
「……はぁ、陰陽玉での移動範囲がかなり長ければな」
「いいだろ? 後ろを取れるだけ」
「ラバ、それは一対一の時だけだ。複数相手には魔力の消費も考えると使えねえよ」
全員が身構える。
「……こいつらは私が殺る」
正邪が手を広げた瞬間、敵が剣を持って襲いかかる。
だが、次の瞬間敵は全員逆さまになって頭から地面に落ち、下に張っていたラバックのクローステールで全員の頭が切れる。
「っ! ……今俺のクローステールを小槌で操ったのか!? それだけの魔力? があればパンプキンの強化ぐらい出来ただろ?」
「……はぁ、はぁ……出来なかったら小槌で殴り殺そうとか考えたけど、なんとか出来たな」
それに、と正邪は言葉を続ける。
「クローステールはパンプキンと違って複雑な操作はないからそこで使う魔力を抑えることが出来る」
疲労を覚えながら正邪は目標の場所に向かおうとする。
普通ならばここまで疲労を覚えることはないが、現在の正邪は小槌の魔力が流れているため魔力がリンクしているのだ。
その結果、小槌の魔力切れは正邪のガス欠と直結するようになる。
「……ちょ、待ちなさいよ! 今あいつらがひっくり返ってたけどあれも帝具なの?」
マインは残党を狩りながら正邪に質問をする。
だが、正邪は何も話さなかった。
「ぐぁぁぁ!!?」
正邪の初見回避不可能ともいえる道具のオンパレードに敵は圧倒され、遂に親玉のみだけが残った。
建物の中に隠れていた親玉を短刀で足を切り落とすが、まだ抵抗する意思を見せていた。
「このまま……やられるかぁ!!」
咄嗟の判断で下に落ちていく。
だが、その先にはシェーレが立っていてもはや彼の命は詰みであった。
「……よし、そろそろ私の隠していたことを教えてやろう」
正邪は再び手を広げた。
すると、いつの間にか親玉は頭から下に落ちていき、そのままエクスタスの錆となった。
「何でもひっくり返す程度の能力。私の能力だ」