ナジェンダは一度だけ確実に死んだと思ったことがあった。
エスデスに片目を潰された時、このまま全身を氷漬けにされて死ぬのだろうと初めて生きることを諦めかけた。
しかし、たった一人の少女によって生きることを許された。
その少女にもう一度会えたならば礼だけでもしたいと思っていた。
そして、それは予想していなかった形で叶うことになる。
「……確かにエスデス相手にどうやって無傷でいれたのか気になっていたが……」
会議室で三日前の出来事の報告を終え、次にタツミたちの勧誘が始まった。
ナイトレイドは革命軍の情報収集、暗殺といったことを行う部隊の名前であること、最終目標は諸悪の根源であるオネスト大臣を討つことだと聞かされた。
タツミたちは村を救うために正式にナイトレイドに入ることになり、現在初陣に出ている。
本来なら正邪も前線に立たなくてはならないが、一つのことを理由に今回は動かなかった。
「……まさか、帝具を強化するような帝具があるとはな」
正邪の持つ打ち出の小槌と呼ばれた帝具と思わしきものを使い、ナイトレイド全員の帝具が強化されたのだ。
しかし、そのデメリットが正邪自身の能力の低下ということらしく、それが理由で仕方なくアジトに残ることを許した。
「いや、元々この小槌にはここまでの力はなかった。こいつはレプリカだからな」
「……レプリカだと? なら、それの元になったものが存在しているのか?」
ナジェンダはそれほどの強力な帝具ならば文献にも載っているものだと思ったが、文献になかったことを考えると帝具とはまた違った代物なのかもしれないと考える。
だが、凄いという気持ちは確かだ。
もしインクルシオやライオネルといった身体強化系の帝具一つに力を注げばもしかするとエスデスやブドーといった将軍相手にも手が届くかもしれないとさえ思っていた。
「その筈なんだが……。この小槌がオリジナルに近い力を発揮しているのを見るとレプリカをオリジナルと認めたのか……」
初めは小さな違和感だった。
この小槌はオリジナルではないため使用した魔力を回収するには一苦労がかかる。
だと言うのに、ここに来てから自動で魔力が戻ってきている感覚を覚えたのだ。
まさかと思い、ここ暫くは魔力は好き放題使っていた。
すると案の定特定の時間帯に魔力が回復することが分かったのだ。
ただし完全に回復するわけではなく、自動回収だと決められた量のみを決められた時間に回復するため、やはり使用したものに魔力が残っている場合は自分で回収する必要はある。
だが、その性能はただのレプリカ相応のものからオリジナル寄りに変わったのは嬉しい誤算だ。
おそらくオリジナルの小槌がこの世界にないため、依り代をレプリカに完全に移行したのだろう。
こうして、小人以外でも使える最強の打ち出の小槌は誕生したことになった。
ナジェンダの前では抑えたが、この昂る気持ちが抑えられなかった。
なんて素晴らしいのだ、これなら誰にも負ける気がしないとさえ思える。
だが、ナイトレイドには一斬必殺村雨があり、あれを防ぐ方法はないため裏切るようなことはしない。
「まあ小槌の説明は皆が戻ってから話す。私が他に使ってた道具も小槌の力のお陰で機能してるだけだしな」
「……ほんと、サポート面では優秀すぎるほど強力な帝具だな」
「……まあ、今は帝具って認識でいいや。私自身これが帝具か分かってないしな」
もちろん嘘だ。
しかし、一々幻想郷のことから説明するのも面倒なので話すことはおそらく今後もないだろう。
暫くしてアカメたちが帰ってくる。
帝具に使用した魔力を全て回収すると全員が力が抜けたように座り込み、疲れていた。
これは慣れない力を使って戦った代償なのだろうとアカメは言う。
「……まあ、そうおいしい話はないか」
少し残念げにナジェンダは話すが、正邪はそれほどの魔力を使っても問題ないことが分かり、かなり上機嫌だった。
「てか、そんな凄い帝具ならなんでもできそうな気がするけどな……」
冗談のつもりで笑いながらラバックは言った。
正邪は笑い返し、ラバックに近付いた。
「万能器具ではないが、こういう使い方は出来るはずだ」
小槌の力を発動し、一つの刀を創り上げていく。
それを見て全員の顔が青ざめていくのが分かる。
「……おいおい、それは反則すぎるだろ」
「ウソでしょ……? そんなことが可能なはずないわ!!」
「……あれって、アカメの持ってる刀と一緒のやつか?」
一斬必殺村雨が、創り上げられる。
誰もが考えた。
つまり、それはエスデスの帝具ですら創り上げてしまう禁断の帝具なのではないかと。
「……フハハハ! 流石は小槌の力だ!! これがあれば帝都をひっくり返すこと……も………あ…?」
次の瞬間村雨が砕け散り、正邪は意識を失って倒れた。
確かに今のレプリカ小槌はオリジナルのような力があった。
しかし、小槌は元々なにかを代償にする鬼の道具であった。
その性質上正邪は気絶程度で済んでいるのはやはりレプリカのお陰だと言ってもいいだろう。
そんな正邪の姿を見、全員が心配するが、タツミ、サヨ、イエヤス以外のメンバーは少しの残念さとかなり安心を覚えた。