レオーネたちが突然の遭遇に困惑する。
八雲紫はスキマから現れると隙だらけの格好で私の目の前に立つ。
忘れていたが、この女はそういう野郎なのだ。
私たち弱者のやることなすことを全て無意味だと言わんばかりの力で圧倒する。
……そして、そんな弱者を受け入れるといっては幻想郷での仲良しごっこを強制する。
私は、この八雲紫という女が大の苦手だ。
「……御託は結構だ。まさか、ここでおっ始める気か?」
「冗談。私が戦う時があるとすれば、それはイェーガーズとナイトレイドの戦いの時だけね」
「ほう、両者の抗争時に私たちも決着をつけようって話か」
理解した。
この女はいつでも私を捕えられるとタカをくくっている。
それが命取りになるとも知らずに。
「いいだろう。お前を倒し、弱者の為の理想郷をこの手で築いてみせる……!」
「……はぁ、あの時宴会に参加していればここまで大事にならずに済んだものを」
八雲紫の視線が私からレオーネたちに移る。
マインとレオーネが構えようとするが、それをラバックが止める。
「……将軍様が、何のようですか?」
「安心なさい。私は別に敵というわけではないわ」
「はっ、エスデスと一緒にいる時点で敵じゃないなんて言わせないよ」
「私も気に入らなけれどね、彼女のもとにいれば正邪と戦える。それが理由で嫌々入ってるのよ」
気だるそうにエスデスの座る席を見つめる。
八雲紫の口から出る言葉が全て本当だと思ってはいないが、少なくともエスデスを好きではないというのは表情から伝わってくる。
「……つまり、なんだ? 話から察するにエスデスが率いるイェーガーズに所属しているけど、ブドー側の人間なのか?」
「私はブドー側というわけでもないの。反オネスト大臣側の新しい派閥というのがしっくりくるわ」
八雲紫は自分がナイトレイドの味方側であるかのような話し方をする。
だが、肝心なことを聞いてはいない。
「でも、革命軍に入る気はないということだな」
「一応あの子は皇ちゃんの末裔でしょ? なら、裁かれるべきはオネスト大臣とその一味共だけでいい。あの子は良識の文官たちが教育し直せば、まだいい皇帝としてやり直せる」
「……なら、結局ブドーとほぼ同じじゃねーか」
「いいえ、私は貴方たち賊の力も必要だと考えているわ。革命軍の中には将軍候補だった人間や有能だった文官の人たちもいるはずよ」
なるほど、と正邪は思った。
八雲紫のやり方はどこかナジェンダと通じるものがある。
不必要は排除し、必要なら敵でも利用する。
「現に、私が保護している人間の中には革命軍側と知っていて助けたのもいるわ」
「……それが本当だとしても、お前はどうやって帝都を変えるつもりだ」
同じ志しだったとしても、だ。
内部から変えていく集団と私たちのように革命という形で変える二択がある。
ただ、この隙間女こことだからおそらく……。
「それを貴方たちに教える筋合いはないわ」
「……はっ、そうだろうな」
隙間女の目的は鬼人正邪の拘束。
それが終わるまではそもそもこっちと共闘する気は毛頭ないという姿勢だ。
……ふと、思い出したかのようにタツミの様子を見る。
「…………あ?」
目を疑った。
いや、待て。まさかバレたのか?
「――タツミ、私のものになれ」
………、
……、
…、
は?
「……あらあら……これは、さすがに考えていなかったわ」
八雲紫が珍しいものを見たかのようにエスデスを見ている。
それに気付き、状況を察したレオーネたちも信じられないという表情をしていた。
「おい、あの表情ってもしかしなくても……あれか?」
「……ちょっと面白そうね。私はイェーガーズのほうに戻るわ」
隙間女がスキマの中に入ろうとする。
「ま、待て! 八雲……」
「それではまた。ナイトレイド御一行さん」
言い終えたと同時にスキマが完全に閉まる。
……更に、最悪なことにタツミがエスデスに拉致された。
「……やべえぞおい」
タツミを失うだけならまだしも、インクルシオまで失うのはかなりの痛手だ。
一同は即座にその場から立ち去り、アジトへと向かう。