天邪鬼が斬る!   作:黒鉛

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覚醒(弍)

 タツミは仲間を失ったことがなければ人を殺したこともない普通の少年だった。

 故に、心のどこかではこのまま誰も死ぬことなく革命は成功すると、心強い仲間やいざという時の正邪もいるから大丈夫だろうと甘く考えていたのだ。

 

 その結果が今だった。

 

 彼が慕っていた漢、ブラートがあまりにも呆気なく死んでしまったのだ。

 

「あ、あに……き……?」

 

 ブラートは何も話さない。

 そして、改めて実感してしまう。

 

「……これが、殺し合い……」

 

 これまでにも任務でオーガや警備隊の人間を自分は殺しているのだ。

 仲間だって、例外でないことは分かっていると思っていたはずだった。

 

「……ふぅ、何がなんでもお前たちはここで殺す」

 

「そんな、まだ奥の手を隠してたの……!?」

 

 さらに追い打ちをかけるように敵は奥の手を発動し、先程の小さかった姿とはかけ離れた姿になる。

 二対一でも負けた相手にどう立ち向かえばいいのか……。

 

 冷静に考えようとするサヨに対してタツミは剣を構えた。

 

「……許さねえ。仇を、討つんだ……!!」

 

 タツミの瞳には復讐心のみしか残っていなかった。

 必ず目の前の敵を倒すという怒りが湧き上がっていた。

 

 サヨは愚かではない。

 

 

「――落ち着け、バカ!!」

 

 

 だからこそ腕を振り上げ、タツミを殴った。

 

「っ、何すんだよ!! 兄貴が死んだんだぞ!?」

 

「……ブラートを倒した奴等よ。それに、彼にはさっき私たち二人で挑んでも負けた相手」

 

 八卦炉を取り出し、敵に向けて構える。

 

「私が足止めしてみせる。タツミだけでも、生きて」

 

「な、なに言ってんだよ!! 俺たち二人で戦えばサヨの奥の手もあるしもしかすると……!!」

 

 サヨは笑った。

 その笑顔を、タツミは知らなかった。

 知りたくないからこそ止めようとするが、突然の風圧に足を止めてしまう。

 

「……村を救うんでしょ? 約束、破ったら許さないよ」

 

 もう後ろを振り向くことはなかった。

 本当に死ぬ気だった。

 

「まだそんな奥の手を隠してたのか。確かにそれに当たれば死ぬかもしれないな」

 

「あの大男を消し炭にしたやつより高火力の技よ。あんたを道連れにしてでもタツミを助ける」

 

 タツミはただその光景を見るしかなかった。

 そこで初めて後悔する。

 

「……俺は」

 

 今までタツミが助かってきたのは皆の力があったからだ。

 皆に守られながらタツミは生きてきた。

 そのことを今、こういう形で気付いてしまう。

 

 それが何よりも悔しかった。

 

 失って気付いてしまう自分に怒りを覚えた。

 

――強くなりたい

 

――皆を守れるぐらいに、自分の力で敵を倒せるぐらいに強くなりたい……!!

 

 

 

 

「……諦めるのか?」

 

 何かが目の前に刺さる。

 それをタツミはよく知っている。今さっきまで見ていたものだ。

 

 ブラートの所持していたインクルシオが、そこに刺さっていた。

 

「ここで諦めるのは男らしくねえぜ」

 

 その声を知っていた。

 だからこそ目の前のインクルシオをしっかりと手に取った。

 

「……兄貴ならそう言うだろうな」

 

 声の正体にはすぐに気付いた。

 だが、タツミは一人でしっかりと前に進んだ。

 そして、いつも聞いていた言葉を今度はタツミが叫んだ。

 

 復讐心からではなく、仲間を守りたい、その為に強くなりたいという熱い魂で。

 

 

「来い! インクルシオォ!!!」

 

 その声に応えたのか、鎧がタツミに合わせるようにかつての姿を変えていく。

 インクルシオは元々タイラントという危険種を素材にして作られた帝具だった。

 

 既に完成された力を持つブラートとは違い、タツミはまだ進化の可能性を秘めている。

 それがインクルシオに更なる進化を遂げさせたのだ。

 

 

「……あれは!?」

 

「まさかインクルシオを……!!」

 

 

 瞬間、サヨと男の間に鎧を纏ったタツミが立つ。

 男は咄嗟に距離を取ろうとするが、心身共に覚醒状態であるタツミから逃れることは出来ない。

 

「……遅い!」

 

 タツミの拳が男の頭部を狙う。

 そこにインクルシオの力も加わり、男は壁まで吹っ飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

「こりゃ三人の中で最初に化けるのはタツミかもな」

 

 インクルシオを解き、ブラートの前で泣き崩れるタツミとサヨの姿を見る。

 正邪にとってブラートの死はタツミを覚醒させるためのいい鍵だったとしか思わなかった。

 

「……ブラートも決して使えない駒ではなかったのにな」

 

 一つ心残りなのはブラートという現時点で大きな戦力を失ったことに対する後悔程度だった。

 だが、タツミが覚醒させるきっかけを与えることが出来ただけでもここで戦った意味はあると満足した。

 

「あーあ、残念だったな」

 

 雨が降り始める。

 ブラートの死を悲しむ二人をただじっと待つことにした。

 

 

 

 ブラート、任務を全うし殉職。

 インクルシオはタツミの手に渡ることになる。

 尚、帝具は二つは回収することが出来たがあと一つはサヨのマスタースパークにやって消滅。

 

 同時刻、帝都にて新たな組織が結成されようとしていた。


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