タツミと一時的にだが行動を共にすることになり、小一時間程が経過した。
急いで兵舎に向かったタツミに付いていくことはなく、自分のペースで歩く正邪。
正邪にとって帝都というのは華やかで栄えた場所という認識だった。
この場所でなら美味しいものは沢山あるだろうなと思うと今からでも腹が鳴る。
タツミには早く用事を済ませてほしいと思っていた。
「分かったらどっか行けクソガキ!!」
近くでおっさんの怒鳴り声が聞こえ、何事かと興味本位で向かってみるとタツミがいた。
正邪はタツミのやりそうな行動を考えて結論に至り、溜め息をついた。
「……おいおい、必要なのは力だけじゃないんだぜ? こういう時は周りを見て頭を使うんだ」
「……そんなこと言ったって、一々一兵卒からやってられるかよ」
文句を垂れるタツミを見て本物の田舎者なのだと思う。
しかし、これでタツミの用事は終わったのだ。
「約束通り私に飯を食わせてくれ!」
「分かったよ……。てか、よく無一文で帝都に来ようと思ったな」
正邪はむむむと唸る。
実際、この場所に辿りついたのは結果でしかない。
食べ物を探し続けていたらたまたま偶然ここに行き着いただけなのだ。
「……まあ、追い剥ぎとか色々あってな」
しかし、帝都で成り上がるために来たと言っているために下手なことは言えない。
食にありつくまではタツミを手放すわけにはいかなかった。
「そっか、実は俺も夜盗に襲われてな……その時に一緒に来てた二人ともはぐれちまったんだ」
なんとか騙せたことに安心する。
そして、いよいよ何か食べられると心を踊らせる。
「ちょっとそこのお二人さん、お困りのようだね」
後ろから声をかけられ、明らかに不機嫌だというアピールをしながら振り向く。
「……そんな露骨に不機嫌アピールされるとお姉さんも困るんだけどなー」
余程嫌な顔をしていたのか、金髪の女は困ったような顔をしている。
タツミはというと……。
「……デケェ。さすが帝都」
と、思春期の少年のようにデカい乳を見ていた。
……すごく、大きかった。
「話があるなら食事しながらでいいですか? 私、腹が減って、死にそうなので」
「お、丁度よかった! 私もゴハンが食べたくてさ〜」
そこからはトントン拍子で話が進んでいく。
金髪の女が話しかけてきた理由はタツミが手っ取り早く仕官できる方法があるから飯を奢ってもらうのを条件にその方法を教えるというものだった。
「……プハーッ! いやー、昼間っから呑む酒は最高だね!!」
「さすがに昼間から呑もうとは思わないな……でも、ここの飯美味いな……」
正邪は食事を楽しんでいた。
なにせ数日間川の水なんかを飲んで過ごしてきたのだから、こうしてまともな食事ができる感謝しかなかった。
(思えば、逃走中もこんなに食事に困ったことはなかったな……。早く食えるものとそうでないものの違いを覚えなきゃいけないな)
正邪は金髪女とタツミの会話に入る気はなかった。
既に正邪は彼女が盗人の類だと気付いていたのだ。
だが、正邪には止める理由はない。
タツミにそこまでの大金があるとは思っていなかったし、仮にあったとしても野宿生活には慣れていた。
寧ろ沢山の強者に襲われない分この場所ならば安眠できるとさえ思っている。
「つまり、人脈と金だ。私の知り合いの軍の奴がいる」
「金……?」
正邪は退屈そうに二人の会話を聞く。
タツミは嬉々と金髪の聞き、お金の入っているであろう袋を取り出した。
「――ちょいと待ちな。金を払うには早すぎる」
正邪は立ち上がってしまった。
気が付いた時には金袋をタツミの元に置かせ、会話の中に参加していた。
「あんたの知り合いって奴と直接合わせるべきだろ。まさか帝都ってのは実力も知らない人間を金と人脈だけで仕官させるのか?」
金髪は少しだけ焦った顔をする。
タツミと同じで騙されやすい人間だと思っていた彼女にとって鬼人正邪という人物は厄介な相手だった。
「なぁ、本当に知り合いなら会うことぐらい容易いよなァ? タツミの腕を見ればもっと相応のところに就けるだろ?」
「い、いや〜。それはだな……」
「ふん、行くぞタツミ。こいつはお前の金を盗もうとした盗人野郎だ」
「はぁ? そんな人間がいるわけ……」
この店の主人と思わしき男が裏で声を出さないように笑っている。
……笑い声が聞こえてる時点で声が出ているというのは黙っておく。
「……マジか」
「……ま、まあこれもいい経験だと思って!! じゃあね、少年と少女!!」
金髪は強引に逃げていく。
とても逃げ足が早く、タツミも反応に遅れて取り逃してしまう。
「お前さ、帝都に入る前にいた男の話ちゃんと聞いてたのか? もっと警戒するべきだぜ?」
「悪い、助かった。……えっと……」
急にタツミが変な顔をする。
何事かと正邪は考えたが、すぐに理由が分かる。
「……正邪でいいよ」
「正邪、改めてよろしくな!」
感謝の言葉。
それは正邪にとって嫌のものの一つだ。
それに加え、嫌なものでも思い出したかのようにそっぽ向く。
そして、何故正邪がタツミを助けたのかが何となく分かってしまう。
「別に、私が気に入らなかっただけだ」
彼の笑顔は、その純粋さはどことなく姫さまのようだと感じていた。