天邪鬼が斬る!   作:黒鉛

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覚醒(壱)

 笛を使った帝具使いはおそらくそこまで強くはないはず。

 そう決めてつけていたのは何故だろうかとタツミは後悔する。

 

「……ダメージ受けててこれかよ!」

 

「っ、ダメージさえ受けてなきゃ……」

 

 敵の動きは素早く、相手がかすり傷数カ所に対してタツミはかなりの傷を負い始めていた。

 そこで、一対一ではこちら側が不利になると考えるとサヨの方を振り向く。

 

「サヨ、いけるか!?」

 

「大丈夫、八卦炉は使えるようになった……!」

 

 タツミと入れ替わりになるように今度はサヨが攻撃をしかける。

 だが、タツミと互角のレベルでは目の前の敵に勝てはしない。

 

「二人の力を合わせれば!」

 

「帝具か……!」

 

 懐から八卦炉を取り出し、星の弾幕を放つ。

 

「そんな攻撃じゃ当たらないよ!」

 

「けど、動きは単純になる!!」

 

 星の弾幕に紛れてタツミが現れる。

 自身でも最速の速さで一気に決めようと剣を振るう。

 

「これで、決め……!!」

 

「ふっ、甘いね」

 

 瞬時に後ろに回り込み、タツミを蹴り飛ばす。

 

「さっきの攻撃さえなければもっと早く終わらせれたのにさ〜」

 

「……っ!」

 

 次にサヨが狙われる。

 急いで剣を持とうとするが、あっさりと剣を飛ばされてしまう。

 

「その帝具、奥の手の火力は凄いけど持ち主がまだまだだね」

 

 防御の構えも意味なくタツミの隣に転がる。

 

「サヨ……!」

 

「っ、この程度の、傷で……」

 

 よく見ると、サヨの体にはいくつもの傷があり、そのいくつかは帝具の負担で出来たものだと考えられるものがあった。

 

「……! 兄貴の、所に……!」

 

 満足に動けない体を動かし、ブラートのいる方に向かう。

 その肉体はボロボロになり、インクルシオも纏ってはいなかった。

 近くには笛の帝具使いが吹き飛ばされたような状態になっていた。

 

「兄貴、俺たち……」

 

「……初の帝具使いとの戦いで、しかもタツミは帝具なしで生き残ってるだけ上等だ」

 

 ブラートは前に立つ。

 武器を構え、剣を取り出す。

 

「無駄だ。インクルシオも解除された今、勝負は既に見えている」

 

「強がるなよ。耳の穴から血が出てるぜ、リヴァ」

 

 見ると確かにリヴァの耳から血が流れているのが分かる。

 そして、お互いが既に限界に達していることを理解した。

 

「……以前なら、私はお前を仲間に加えようと考えていた。だが、今は違う」

 

 リヴァの瞳には確かに燃えているものがあった。

 だが、それはブラートのような熱い魂ではなく、もっとドス黒いもの……。

 

「……鬼人正邪と手を組んでいるナイトレイドの貴様を、生かしておくことは出来ない……!!」

 

 復讐心のみだった。

 

「鬼人正邪……。いや、そういうやエスデスは一度正邪と戦ったことがあったんだったな」

 

「私は奴を許すことは出来ない。そして、奴に関わる者も全て始末すると誓ったのだ……」

 

 リヴァは液体を注入し、剣を構える。

 

「ドーピングをさせてもらうぞ」

 

「……いくぞ!!」

 

 お互いに帝具は使わず、手負いであることを忘れさせるほどの気迫と技でぶつかり合う。

 だが、その勝敗は間もなく決まった。

 

「……動きに無駄が増えたな。あまり剣を使ってなかった証拠だ」

 

 ブラートが競り勝ち、リヴァの腹部を斬る。

 誰もが、ブラートの勝ちを確信していた。

 

 リヴァは笑い、ブラートをしっかりと見た。

 

 

「――奥の手、血刀殺!!」

 

 ブラートは瞬時に反応し、致命傷を逃れるために足や手は敢えてくらう。

 その為、いくつかダメージは負ったものの死ぬことはなかった。

 

「ブラート!」

 

「大丈夫か兄貴!!」

 

 タツミとサヨは残った力でブラートの元に近寄る。

 立っているのがやっという状態だったが、しっかりと立つことは出来ていた。

 

「命を振り絞った攻撃、対応するとは……見事だ」

 

 次の瞬間、ブラートは血を吐いた。

 

「だが、貴様の命だけは貰って逝くぞ!!」

 

「兄貴!?」

 

 ブラートはそのまま何も話すことはなかった。

 瞳から光が消え、息を引き取ったことが分かる。

 

「帝具で毒すら治す鬼人正邪を確実に即死させる為の毒だ。私もあとを追うとするか……」

 

 それを遺言のように残してリヴァも息を引き取った。


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