「くっ……当たれ!」
「そんなに乱発してても当たらないわよ!」
マスタースパークを手に入れ、早速マインとの稽古に出る。
ブレイジングスターは捨て身の攻撃であると同時に超スピードで敵の近くに接近できるという利点もあることから覚えない理由もないとサヨの発言から後々練習するプランも立ててあった。
「……っ!?」
謎の殺気にも似た何かを感じ取り、後ろを振り返る。
しかし、そこには何もない。
「……まさか……」
正邪はその殺気に覚えがあった。
だが、それは有り得ないとサヨたちの修行を見守る。
「……それは、早すぎるんだよ……」
ーーー
「……あっ……ば、バカな……」
帝都腐敗の諸悪の根源であるオネスト大臣。
そんな彼には最強ともいえる帝具とエスデス将軍という大きな切り札があった。
「バカな、ではありませんわ」
そうして常に上に立っていたオネスト大臣が、一人の女性によって地に這いつくばっていた。
「やっと天邪鬼の居場所を突き止めたと思えば、やはり人間は学習をしない。せっかくこうちゃんが頑張ってた国もこのザマとはね」
「ッ……皆下がれ! 余はこの女の誘いを受ける!!」
「ふふ、やっとですわね♪」
現在、帝都ではオネスト大臣を椅子代わりにし、皇帝とのお茶会というなの圧迫面接が行われていた。
最初は目の前の女性を撃ち殺そうと企んだが、何故か弾は全て撃った兵に当たり、死亡。
次にオネスト大臣が動こうとしたが、気付けば今のように椅子になっていた。
エスデスは外出中だった為にこの場所にはいない。
ブドー将軍も何故かこの場に現れることはなかった。
「……で、本当に鬼人正邪がどこにいるのか知らないと?」
「あ、あぁ、エスデス将軍から確かにその名は聞いている。唯一将軍に傷を負わせた賊だと……」
「ふふ、てことは噂のナイトレイドにいるのかしらね? 何にしても一度は私の手で天誅でもしないと気が済まないのよ」
女性は一枚の紙を見せる。
皇帝はその紙にニ、三歩と退る。
「私、昔の皇帝と仲良しでとてもとても信頼されていたのよ。彼の推薦書でこうちゃんが死んだ時は私に好きな地位を譲ると書かれているわ♪」
「嘘だ!! それが本当ならお前は人ではなく化物ということになるではないか!!?」
皇帝は目の前の女に怯える。
何故なら、そこにある文字は確かに自身の知る始皇帝の文字と一致しているからだ。
そして、それならブドー将軍が来ない理由も大体察しはついていた。
「えぇ、だからこそ彼は私に託したのでしょう。後に帝国が腐った時は私が正すようにと」
完全にペースは女性になっていた。
始皇帝の遺書ともなれば末裔である皇帝は逆らうことは出来なかった。
「私はこの遺書の権限を利用し、将軍になりたいわ」
「……将軍は、そのように簡単に……」
皇帝の最後の意地も突然首元に突き立てられた針で口を閉ざしてしまう。
「帝具のいくつは私の知恵もあるのよ? デモンズエキスでさえ解除できる術を私は知っているし、帝具も作り直せる」
それに、推薦書がある限り拒否権はないと言わんばかりの圧力にとうとう皇帝は諦めてしまった。
目の前の女性が将軍になることを許してしまったのだ。
「怖い怖い。心配せずとも天邪鬼を懲らしめればさっさと帝都から去りますとも」
「……そうしてもらいたいものだ」
結局、流れを変えることは出来ずに話は進んでいく。
そして、新たな将軍の名は瞬く間に広がっていく。
ーーー
「……くそっ!!」
嫌な予感しかしなかった。
正邪は走り続け、帝都の中心地へと向かう。
新たな将軍が現れたと騒ぎになり、その女は立っていた。
「……は、ははははは……」
笑った。やはり、一度喧嘩を売った相手から逃げることなど出来ないのだと現実を突きつけて来たのだと感じた。
だからこそ、正邪はもう逃げないであろう。
いや、逃げることを奴は許さないだろう。
「……いいだろう。逃げてばかりでは確かに貴様を倒せん」
新将軍の名前が書かれた貼り紙を手に取り、踏みにじる。
「私もやる気がでるというものだ、八雲紫……!!」
三人目の将軍、八雲紫はただ笑っていた。
正邪の下剋上を無意味だと嗤うように上から見下し、笑っていた。