首斬りザンクの死後、ナイトレイドではスペクテッドを誰が使ってみるかという話し合いになる。
タツミ、イエヤス、サヨは全員揃って好印象を持てなかったらしく、拒絶反応を起こしていた。
とはいえ、既に三人の力はそこらの帝具使いに傷をつけれる程には強くなっていた。
もしザンクがタツミたちを襲っていたとしても、三人の力ならば或いは倒せていたのかもしれない。
「んじゃ、スペクテッドはどうするんだ? 使わないなら私が貰っておきたいが」
「これは革命軍の本部に渡すつもりだ。正邪は一つ帝具を持っているだろ?」
ナイトレイド全員にはまだこの小槌が帝具だと言わせている為、他の帝具は使えないと思っていた。
その証拠に一番強い帝具は何かというタツミの質問に、ナジェンダはエスデスの帝具ではなくこの打ち出の小槌なのではという返答がきた。
「……いや、いけるかなーってさ」
ラバックの件で一瞬で創り上げた村雨は正邪の魔力切れで完成直前に砕け、正邪も魔力切れによる代償で倒れた。
そのことから小槌は魔力切れを起こした際に代償をあたえる代物だったのではないかと考えるようになった。
それから正邪は自室にていくつか試行錯誤をした。
その結果、危険種を使っているものや呪いの類が起きるものといった帝具はその後の代償も考えると創ることは出来なかった。
しかし、村雨は創れなくても村雨のような即死させるほどの猛毒の剣は一定の衝撃で消滅するが、創ることが出来た。
「やめておけ。もしそれで正邪が戦えなくなればその魔力とやらが必要な小槌を誰が使える?」
「そう言われると、確かにいないな」
最終的にスペクテッドは革命軍の本部に持っていくことになり、その日と翌日はラバックが上司として修行を行った。
「……一つだけ聞いてもいいか?」
ラバックが突然声をかけた。
何か不手際でもあったのかととりあえず耳を傾ける。
「セクハラなら殴ってもいいって許可は出てる」
「……流石に泣きそうだぜ。いや、そうじゃなくてだな」
ラバックは何かを言いにくそうにしていた。
「お前、タツミのこと好きなのか?」
「…………は?」
少しの間が空いた後、正邪はとても間抜けな声が出る。
「いや、明らかにタツミを見てる時の目が他と違う気がするっていうか……そんな感じかなって思ったんだよ」
「……頭かち割ってどう考えればそんなこと思うのか調べてやろうか?」
「怖いなおい!?」
正邪は一呼吸する。
確かに、タツミはどことなく姫さまに似ている気がすると思ってはいた。
それが顔に出ていたのだ
「……あいつは私の知り合いに似ていただけだ。それ以外で特に見ていた理由はない」
「知り合いねぇ。正邪も地方から来たんだよな?」
「そうだ。私が成り上がる為にな」
その場所も、今では追放されたけどな。
そう言いかけた口を閉じた。
「そういう姿勢は、マインと似てるよな」
「真の弱者にしかこの気持ちが理解できないさ、生まれてきた瞬間に弱者だと決定付けられているという非常さはな」
遠くを見つめる。
帝都を、世界を、強者を睨むようだった。
「……悪かったな」
「お前が気にすることか? 話したのは私だから気にする必要ないだろ」
それから間もなくして、次の任務が言い渡された。
正邪とラバックはマインとシェーレの任務の援護部隊として出動することになった。
「チブルって野郎意外と用心深いな」
「マインとシェーレだけじゃ時間かかったかもな。ラバック、魔力やるからさっさと仕留めてやれ」
小槌の魔力がラバックの帝具に集まる。
クローステールの糸の強度が増し、簡単に人が切れていく。
「……全く、俺じゃなきゃこんな危険な糸操れねえっての」
少し掠っただけでも切れてしまう強化クローステールにラバックの動きもかなり慎重になっていた。
「……ん、小槌の魔力が返ってきてるな。マインがやったみたいだ」
「そんじゃ、さっさと帰ろうぜ」
今回の任務はマインたちと合流後、アジトに向かう。
……その予定だった。
「……え」
銃声が鳴り響く。
撃たれたのは、正邪だった。
「向こうから来ている一人はナイトレイドのシェーレと断定。もう片方も帝具を所持していることからナイトレイドと断定!!」
小さな生き物も同時に現れ、それが帝具だと正邪は認識した。
「そこのフード男も、角付け女も警備隊を殺したことでナイトレイドと断定……!」
正邪は身を構える。
彼女からは、ザンクとは違う強者のオーラを感じ取っていた。
「やっと……やっっっっと巡り会えたナイトレイドォ!!」
彼女の凄みから正邪は狙いを生物型帝具に変える。
あの小ささなら勝てると、そう判断していた。
「帝都警備隊セリュー・ユビキタス」
「絶対正義の名の下に悪をここで断罪する!!!」
「悪だと……?」
正邪の中で何かが冷める。
そうして正邪は考えた。
目の前にいるのがどんな人物なのかを。
「……なんだ、傀儡か」
セリューはきっと姫さまのように無知な脳みそに嘘偽りだけを吐かれ続けて洗脳された人間なのだと思った。
そして、そんな女に負けるわけにはいかないと……
「教えてやるよ。お前の正義の底は知れてるってことをな」
小槌を握りしめた。