第三次試験会場である。トリックタワーに受験生が到着し、72時間以内に一番下まで降りることが試験内容だと言われ、皆が戸惑っている中、一人の男が得意げに自身が一流のロッククライマーであることを言い、タワーの天辺から下に向けて、タワーの外壁の僅かなでっぱりを頼りにスイスイ降りて行った。その様子を見てレオリオが、
「こいつはすげーな。マジで命綱なしでやれるもんだ。こりゃあ奴が一番乗りか。こうしちゃいられねえな。お前らも急ぐぞ」
レオリオが真似て降りようとしたとき、ゴンが、
「ちょっと待って、向こうから何かくるよ」
その言葉に反応したレオリオは遠くの方から何か近づいているのが見え、少ししてそれが鳥と言って良いのか分からないが不気味な顔をもった生物が数羽飛んで来ているのだと分かった。
「何だありゃ」
「気持ちわりーな、あれ」
キルアがその気持ち悪さに顔をゆがめている間に、その鳥(?)達は壁に張り付いていた男に向かい、そして、
「うわ、なんだクソ、近寄るな、やっ、やめろおぉぉぉぉぉ」
「「「きしゃああ」」」
「ぎゃあぁぁぁぁぁ」
鳥の鳴き声とともに男はその体をその巨大な口で啄まれ、羽から送られる風を受けて、手を壁から離し落下していく。それを鳥につかまれ何処かに運ばれ見えなくなった。
「よし、サッサとこのタワーを攻略する方法を見つけるか」
「何言ってんだ、レオリオはもうその方法見つけてるだろ。俺はしないけど」
「何言ってやがる、このクソガキが、あんなの見て同じことできるわけねーだろ、何か別の方法があんだろうがよ」
レオリオが一瞬にして、考えを改めたのを見て、キルアがおちょくったが、レオリオの最後の発言を聞き、クラピカが、
「確かにこのまま降りるのは不可能だろうな。となるとレオリオの言う通り別の方法があるはずだ」
「だろう」
「で、そんなにどや顔しているレオリオは何か見つけたのかよ」
「…………」
「役に立たねえの」
「何だと、このクソガキィ」
「やめないか!二人とも。時間は限られているのだし、下に行く方法を考えよう」
「そうだよ。クラピカの言う通り。今は下に行く方法をみんなで考えようよ」
レオリオとキルアの漫才をクラピカとゴンで止め、方法を考えているその頃、彼女はというと…………寝ていた。
彼女以外の受験生が降りてから半日近く眠りほうけた彼女は、
「うーん、よく寝た。さてとどのくらい時間が経ったかな。どうやら受験生は全員トリックを見破り下に降りたようだね……って、私半日も寝てたの!はぁ、まあいいか」
そう言った彼女は、タワーの端に歩いてゆき、下を覗き見て、怪鳥がかなり下方にいるのを確認し、その左目の眼帯を外しながら、
「やっぱり、この私がクソ鳥なんか下等生物のせいでこのトリックタワーをこそこそと攻略しないといけないなんて間違っているわ。正面に入口があるのだから、わざわざ仕掛けを利用する意味などこの私にはないわ」
彼女は何の躊躇もなく足を前に運んで……、落ちていった。
彼女が落下を決意した時より少しして、タワーのゴールでは、
「第二号!301番ギダラクル、所要時間12時間2分」
タワーの壁の長方形に凹んでいる一部が上がり人が通れる空間ができ、そこから301番のプレートを付けたギタラクルとアナウンスで呼ばれた男が姿を現した。ギダラクルの姿は異様であり、一言で言い表すなら、モヒカン鋲男というしかないだろう。そんな彼は周囲を見渡し、すでにヒソカがゴールしているのを見つけ、
「君はすでにゴールしていると思ったよ」
「そう、それはありがたいなぁ♥、それで君に頼みたいことがあるんだけど♦」
「金を払ってくれるなら、考えてあげる」
「簡単なことさ♣402番を殺って♠、あっ、でも本気でやらなくてもいいよ、実力が知りたいだけだから♥」
「口座に振り込んでおいてね」
「了解♥」
ギダラクルとヒソカは知り合いなのか、かなり物騒な話をし、それが終わったころに何故か外から光の入らないはずのトリックタワーのゴールの広間に月明かりが差し込み、
「第三号!402番セリム、所要時間12時間3分」
彼らの話題の中心人物が入ってきた。
「あれだよ♦、おいしそうだと思わない♥」
「ターゲット確認っと、それとヒソカ、理解できない」
「残念♠」
ヒソカとギダラクルが確認しあっていると、今度は凹みの一部が上がり、そこから、
「よっしゃあ~!一番のりだぜ~」
「第四号!294番ハンゾー、所要時間12時間3分」
彼女に忍者モドキと酷評された彼が出てきて、喜びをあらわにしたかと思うと、周りを見てガッカリした様子で、
「ノォォォ、なんてこった、まさか四番だなんて、というか上で寝てたイカレ女よりも遅いだなんて屈辱だぁぁぁっ、ゲボ」
「ウッサイ禿、いちいち、癪にさわるなぁ、そんなに私を怒らせたいのかそうなんでしょ、死ねぇぇぇ」
「ちょっまっ、ぎゃあぁぁぁぁぁ」
哀れ忍者なり、とでも言ったところであろうか、だが爆弾並みに扱いについては厳重に行わなければならない彼女に挑発まがいなことをした時点で自業自得である。そんな彼は腹に一発、その後、低くなった頭にケリを叩き込まれ、宙を舞った。その様子は、闇夜に浮かぶ満月のようであり、薄暗い広間ではよく輝いていた。
ゴールする前まで、少し時を遡り、彼女が宙を舞ったとき、最初に降りた男性のように怪鳥に狙われていた。なんと彼女は一切絶を行っていなかったのだ。それは彼女が自信の目に絶対の自身を持ち、どんな戦場だろうが自身の最強が揺らぐことのないことを信じていたからである。実際に、彼女は凄い勢いで落ちていく中で、夜にもかかわらず、全部で5羽の怪鳥の三次元的動きを完璧に把握していた。なので
「甘い、その程度では、私に攻撃は届かない」
彼女は前から突撃して来る怪鳥に対し体をひねり、怪鳥と同じスピードで右腕を動かしその頭を掴み、その攻撃をいなしながら背中のサーベルを瞬時に一本抜き、怪鳥の巨体が通り過ぎる間に左手にあるその剣を逆手に持ち替え突き刺し、空中での取っ手の代用とした。
「ぐぎゃぁ」
「煩い。空中なら勝てると思った愚か者どもが、なめてんじゃねぇぞぉおぉぉぉ」
突き刺したサーベルを利用して怪鳥の胴体に乗ると同時に引き抜き、体にまわしていたオーラを全てその剣に注ぐ硬を即座に行い首を切り落とすと、最初の怪鳥が突っ込むのと同時に他の四羽が後ろ、左右とその下から迫っていたので、僅かなタイミングのズレを見切った彼女の目は『王の書』から最適な行動を選び、先ず最初の怪鳥を切ったときに正面に来るようになった怪鳥に向け、瞬時に飛び込みその首を掻っ切ると、そこに飛び込んできた左右の怪鳥に対して、左手に持ったサーベルを振ったそのままの軌道で同様に左の敵を屠り、右の相手には左肩のサーベルを抜刀し、勢いそのままに切りつけ、下から迫る敵についてはその開かれた大きな口の牙に足を乗せるという曲芸じみた技により攻撃を回避し、タワーに向けて飛び去る際にその顔面にクロスさせた斬撃を浴びせかけ、タワーの壁にサーベルを突き刺し自身が落下するのを防いだ。この間数秒の出来事、さらに彼女は硬しか使っていない、つまり全ての行動に完璧なオーラの移動をこなしていたことになる。これはどこかで硬をする箇所を間違えた場合、サーベルが途中で止まる、踏込が足りなくなるなど、空中戦という翼を持たない人間にとってそれは致命的な隙もしくはダメージとなる。 しかし、彼女はそれらを完璧にこなし、ほぼ空飛ぶ象といった巨体の怪鳥をそれぞれたった一刀のもとに切り捨てている。
「ちっ、まだまだゴミがいやがる。だがゴミどもめ、私に向かってくるとは、…世界の広さを知らん!教えてくれるわ」
彼女は自分に向かってくる敵が多いことに怒りの感情を増していたが、同時にとても満足していた。それもそのはず、かの存在の名言の一つをそこまで無理なく言えたのだから。だから、彼女は彼らを同時に愛おしくも思っていた。
怒りと愛が交わるとき彼女はとてつもなくハイになる。
「うふふふふふ、…最高だよ君たち、最高にくずだよ。だから、私が裁いてあげるよ。感謝して、感謝して死んでいけぇぇぇ」
彼女は壁から離れ、今度は数十羽になるであろう大群に向け、彼らが視界から消えたと思うほどのスピードで突っ込んだ。
「ひぎゃぁ」「くぎゅぅ」「ぎゃあぁ」
群れの中から突然悲鳴があがったと思うと彼らの仲間は血を吹き出し墜落していく、そこに目を向けても何もいない。彼女は彼らの背中、頭、羽を足場にして下へ下へと、階段のように利用しながら造られる道は、彼女の振るサーベルが月明かりに照らされ、血飛沫が合わさり、幻想的な軌跡を残していた。
彼女は相手の圧倒的有利な土俵ですら、彼らが闘うには何も意味をなさず、ゴミのように切って捨てられる光景はまさしくこの空間を支配する絶対の王であり最強を名乗るのに相応しいものである。
最後の一匹を切り捨て地面に降り立った彼女は、
「あぁぁぁ、さいっっっこぉぉぉの気分」
ヒソカのことを変態と評したが、この周りに赤く染まった木、何かが刺さっている木、赤い地面、赤い何かが地面にこびりついてる光景の中、一人恍惚とした表情を浮かべる彼女は、どうしようもなく同類であろう。
「さてと。何処から入ろうかしら」
落ち着いた彼女は、入り口を探し始めたのだが、数十秒ほど探し、
「何処にも入り口がねえじゃないの。なめてんのかクソが、これは私に対する挑戦か、適当に切って道を作れということだね。ヤッテやろうじゃないの」
彼女の忍耐の緒は常人よりも短いため、一瞬にしてキレた。と同時に、
「試験の合格を確認した。少し左手側に歩けば入り口がある。そこから入り給え。もちろん壊したら失格にするよ」
「……ちっ」
こうして彼女はトリックタワー三番目の合格者となった。
戦闘シーンてやっぱり難しい。なんかテンポが悪い気がするぜ。
ついでに気付いた人が多いと思いますが、主人公の名前が判明。しかし、名前はもちろん偽名でございます。
なぜその名だというと、さすがにキング・ブラッドレイを名乗るのが恐れ多くて、代わりに彼の養子のセリムの名を使ったのです。
セリムは傲慢ですが、そちらの意味合いよりも息子という側面を重視しており、自身が彼への愛から生まれたとも彼女が考えていたからなのです。