最強の目を持つハンター   作:kurutoSP

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彼女は駄々をこねる

 暗い室内でヒソカは彼女に両腕を抱かれていた。

 

 室内にはベットの近くに置いてあるインテリアとしての照明が弱弱しい光を放つのみであり、その光はヒソカの表情を映し出すことは叶わず、同時に彼女がどんな表情をしているのかさえ分からない。

 

 静かな室内に響くのは、両者の荒い息遣いだけである。

 

「もう、放してくれないかな♥君の気持は嬉しいけど、他の子が僕を待っているから君だけの相手はしてられないんだ♦」

 

 ヒソカは己の両腕を抱く彼女を自分の胸に誘うようにして力強く引っ張る。

 

「いや!この手は離さないし、私は騙されない!今、やらないといけないの!」

 

 それに対して彼女は引っ張るヒソカの力を弾くと、喉を枯らすように叫ぶ。

 

 それに対してヒソカは彼女のかたくなな様子に困り果てる。

 

 彼は彼女を説得するために彼女と離れてしまった距離を縮めるために、腰を掛けていたベットから立ち上がり彼女との距離を詰めようとする。

 

 その際彼の汗を吸ったタオルがはらりと掛けられていた首から落ちる。

 

「本当に困ったね♦僕は君のことをこんなに好きなのに♠」

 

 騙すはずがないじゃないかと言葉を連ねようとしたヒソカだったが、それよりも早く心を閉ざしてしまった彼女が、さっきの彼女の熱い思いが籠った叫びとは違う熱量も感じられない冷たい声をだし、ヒソカの耳朶を打つため彼の思いは彼女に伝わらないし、伝えられない。

 

「私は、嫌いだ」

 

「……………………」

 

「……………………」

 

 ヒソカは彼女に掛ける次の言葉が見つからないし、彼女もこれ以上嫌いなヒソカに口を開く気になれない。

 

 両者の間に沈黙がおりる。

 

 しかし、両者の目はしっかりと相手を捕らえている。どちらも相手の一挙手一投足を見逃さない様にその顔を見る。

 

 彼女が好きだと言うヒソカ、そしてヒソカが嫌いだと言う彼女。二人の思いは相反するモノでありながら、二人の相性はばっちりであるのか、二人の間の熱は冷め止まらず、沈黙が支配するこの場ではあるが、その空気は冷たさなどない。 

 

 ヒソカを睨む彼女の目にはヒソカに対する怒りが、ヒソカはその怒りを許容する愛が二人の視線を絡み合わせ、そして静かにこの場のボルテージを上げていく。

 

 ヒソカが沈黙を破り、口を開く。

 

「君が僕を嫌いなのは知っているよ♣」

 

 ヒソカはベットにつく少量の血の跡を一瞬チラッと見ると、視線をすぐに彼女に戻すと、その足を前へと進める。

 

「そして僕の思いを君が受け取れないのも知っている♦だけど、今は放してくれないかな♠」

 

 彼女はヒソカの動きに合わせてジリッと一歩後ずさる。

 

 そして、遂に下がり切れず、壁に背を付けた彼女を見て、ヒソカは彼女に血を幾度と吸ったであろう鞘から抜き放たれたものをちらつかせながら、追いつめた彼女に更に滲みよる。

 

「君の大切なモノを奪ったのは謝るよ♥責任も必ず取るよ♦だから今は……」

 

「返せ!」

 

 彼女の拳がヒソカがぶら下げるものに向けられる。

 

「返せと言われて返せるはずもないし、諦めて欲しい♣ちゃんと後で君の言う責任を取ってあげるから、だから君も離して欲しいかな♦」

 

 はぁ~。

 

 室内が急に明るくなり、二人の視線は室内を明るくしため息を吐いた人物に向けられる。

 

 そんな二人の様子をずっと見ていたマチが呆れたように二人に声を掛ける。

 

「何してんだいヒソカ?サッサとして欲しいのだけど。それとセリム、あんたも私の仕事の邪魔をしないでくれない。アンタら二人と違って私は忙しいのだけれど」

 

 マチはぐるりと室内を見渡し、床にヒソカの血で汚れたタオル、そして彼女と相対する両腕の無いヒソカ、それに対してヒソカの千切れた両腕を抱きかかえ、ヒソカに奪われたサーベルに片手を伸ばす彼女を確認すると、またため息を1つ吐く。

 

「さっさと治療をしたいのだけど」

 

「ヒソカが今ここで私に嘘を吐いた責任としてヤラせてくれるなら腕を返してあげる。その後治療をすれば良い」

 

「私に死体を治療する趣味は無いし、それだと代金をぼれないんだけど」

 

「大丈夫。ヒソカはこれでも幻影旅団の一味、その首売るところに売れば十分だと考えられるから問題ない」

 

「それもそうね。こいつは死んだ方が価値が上がるかもしれないわね」

 

「おいおい、勝手に人を殺さないでくれ♥セリムもいい加減返してくれないかな、このサーベル返してあげるから♦」

 

「人のモノを奪っておいて何様のつもりだ!」

 

 ヒソカの両腕を強奪しその腕にもつ彼女が果たしてこのセリフを言っていいモノだろうか?

 

 同様のことを思っているのかマチは、

 

「セリム、こいつに何言っても無駄だよ。いい加減諦めてヒソカにその腕返しな」

 

 二人のやり取りにこれ以上突っ込むのを止め、さっさと自分の依頼された仕事をこなして帰ろうとする。

 

 もちろん、納得のいかない彼女であったが、冷静な時ならいざ知らず、ヒートアップして冷静じゃない彼女は結局ヒソカの体に5,6発拳をお見舞いしただけで、後はヒソカの達者な弁術により有耶無耶にされたのである。

 

 ヒソカの体はカストロ戦で追ったダメージよりも深刻なダメージを彼女から与えられたが、それでも彼女は割に合わないと呟き、ヒソカの治療の邪魔をするように、部屋の照明を壊し、ベットにダイブし、顔を枕にうずめず、ヒソカの使用していた枕をその辺に捨て、その下のキレイなシーツに顔をうずめ足をじたばたさせ、すねていた。

 

 女の子がベットで足をじたばたさせ、顔をうずめてじたばたさせる。これだけ聞くと可愛らしい映像を思い浮かべる人が多いだろうが、彼女の場合可愛らしくなかった。

 

 その足をじたばたさせる行為はキレイなシーツをボロボロの布切れに返させ、その下のベットは物凄い勢いでホコリと部品をあたりに散らばせており、どっからどう見ても可愛らしくない。彼女にとってこれはヒソカに対する嫌がらせ以外の何者でもないのだ。

 

 そんな、げんなりする光景をヒソカと一緒に見ているマチは、治療をする前にあれをどうにかしなくてもいいのかとヒソカに目で訴えかけるも、当のヒソカは金銭的被害は全て彼女が負う為、その様子を楽しそうに眺めるだけであり、マチの視線の意味など分からず、首を傾げるのでる。

 

 そんなヒソカを見たマチは彼等について全てを諦めて治療をしてさっさとこの場から出ることにし、ヒソカの治療を始めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっそうだ。帰る前に、ヨークシンについてだけど、暇な団員改め、全員参加するようにだってさ」

 

 さっさと帰ろうとするマチは帰り際に大切な連絡事項を二人に伝える。

 

 それを聞きヒソカは、マチの治療に感嘆して、満足げだった表情を一変させ、自分が知りたい情報を訪ねる。

 

「それ、団長もくるのかな♣」

 

「全員よ」

 

 ヒソカは目を細める。しかし、ヒソカの鋭い表情は直ぐに隠される。

 

「ふーん♦それは絶対に参加しないといけないね♥それよりも今日は一緒にディナーでも…」

 

 マチはヒソカのお誘いにこの部屋を出るという形で断る。

 

 マチに振られたヒソカは彼女を次に誘おうとする。

 

「僕と一緒に……」

 

「二番目か!ふざけるな!」

 

 ヒソカの一番になりたいわけではない。でも、ヒソカ如きにマチの代わりみたいに扱われるのは我慢ならなかった。

 

 彼女は今日もヒソカの命を買うために散在をする。(主に修理代)

 

 ヒソカの命はかなり高額のようだ。なので今日も彼女は夜の街を駆け、強盗をするのである。

 


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