「さぁー今回は新人対決です。まずは破竹の勢いで勝ち上がってきたゴン選手が早くも登場でーす。対するは彼が此処にくる約一か月前に天空闘技場についてたったの一試合戦っただけで他の選手を恐怖のどん底に落とし一瞬でこの200階クラスに勝ち上がってきたセリム選手!彼女にはなんとヒソカ選手の恋人何ではないかとうわさが流れもはや腫物物件です!ひゃう!すみません少しばかり冷房が強かったようで変な声を出してしまいました。さあ皆さん試合は間もなく開始されます!ちなみに戦いの解説はこのコッコがお送りします」
コッコは突然感じた寒気に他のスタッフにエアコンの設定をいじるように指示を出す。
指示を出し終えた彼女の視線は二人の選手に向かっていた。
場内アナウンスを聞きながらゴンは対戦相手のセリムを見ると、目を瞑りウイングさんに昨日教えてもらった纏があくまで防御の技であること、そして相手が格上だと大けがをしてしまうことを思い出しつつも、彼はどうしても試してみたかった。
ゴンは場内アナウンスと共に今まで弱弱しかったオーラが膨れ上がった彼女を見て、自分よりも彼女が圧倒的格上だとみて分かるし、昨日の夜さんざんキルアに彼女の強さと危険さを聞かされた。
だが、それでも彼は自分の新しい力でどれだけ彼女に食い下がれるかそして、ハンター試験でヒソカを追いつめていた彼女と闘うことによりどれだけヒソカと今の自分の差が開いているのか感じたかった。
「よろしくお願いします!」
ゴンはズシの真似をしてオッスと胸元まで持って居っていた両腕を左右に開きお辞儀をする。
彼の目には強い意志の力が宿っている。
「……………………」
しかし、彼女はそんなゴンを全く見ておらず、彼女の視線はふざけたことを抜かした奴を視界に収めることに全神経を注いでいた。彼女の目は腐っていた。
「あの女か。殺す、……それは駄目?何で?あれはスタッフだから。そう、私が負ける。それは許されない。でも殺す。私が我慢する何て許されない。ヒソカと恋人?誰が?誰と?恋人。いや、ただの噂。でも流した奴がいる。だれ?そいつは殺しても大丈夫。誰を拷問すれば分かる?誰を脅せばいい?それともヒソカをいっそ殺す?嫌だめだ。あいつは利用価値がある。でももう負の価値の方が大きい?ああああああああ!どうしよう。どうしよう。殺したい。殺したい。殺したいでもダメ。腕の一本は良い?それとも二本まで?ヒソカ良いっていてた。それなら殺さない?誰の腕を斬るの?誰だったっけ?ヒソカ。それいい。でも違う。彼女?でもダメ?あああああああ。誰だ?」
彼女の呟きは歓声と共に消え誰の耳にも届かない。
そしてリングに両者が揃ったのを確認した審判の腕が降ろされる。
「それでは、始め!」
今日もっとも歓声が膨れ上がった。
ウイングはモニターに映し出されるゴンを見て困ったように頭を掻いていたが対戦相手を見た瞬間その表情を一変させる。
「ズシ!急ぎますよ」
「えっ!師範代どうしたんすか。チケットがないと見れませんよ!」
「問題ありません。気づかれなければいいのです」
「師範代!どうしたんすかぁぁぁ」
ウイングは対戦相手が一度ヒソカと喧嘩しているのを見たことがあっただけに慌てていた。
「とにかく急ぎますよ」
『まずい。彼女はそこらの選手たちとは格が違う。彼女は今のゴン君の纏ではあってないようなものだ。急がなければ殺されてしまう!』
彼は弟子を置き去りにして走って行ってしまう。ただ、彼が走って向かった方角は間違ってはいないがあってもいなかった。
「師範代………そっちは遠回りっすよ………」
残されたズシは残念そうにポツリと呟くのである。
「んん―?これはどうしたことでしょうか両者全く動きがありません。今だ開始位置からどちらも動いていません」
解説の言葉通り、試合が始まったのにゴンもセリムも微動だにしない。
その為観客からはブーイングの嵐が飛び交う。
しかし、ゴンは彼女から発せられるプレッシャーに押され、そして彼女の攻撃を警戒して動けなかった。
しかし、彼女には全く動きが無いどころか隙だらけにしか見えないゴンは最初は罠なのと思っていたのだが、だんだん彼女の発するオーラになれると、彼女が此方に全く意識を向けていないのだと気づいてしまう。
彼女の態度はゴンなど相手にならないのだと言っている様に感じられてしまいゴンは拳を強く握ると、恐怖を押し殺し、彼女に急接近する。
「おおーと。ここで最初に動いてのはゴン選手!物凄い突進だぁぁぁ。これはくらってしまうとクリティカルヒットは確実どころかダウンまで狙えてしまうのではないでしょうか!対するセリム選手は、…って反応なし!このままだとくらってしまうぞぉぉぉ。何がしたいんでしょうか彼女は!ってああ!ゴン選手の拳がセリム選手の顔につきささったぁぁぁ!」
ゴンは自分の攻撃が入ったことに驚いていたがそれ以上に自分が殴ったのが生身の人間だと信じられなかった。
「つぅぅぅぅぅ。これ、ネテロさんの腹に頭突きをした時に感じた硬さだ」
ゴンの言葉に、彼に殴られたことにより上半身を軽くのけ反らしていた彼女は反応する。
「ね、てろ?」
彼女から殺気が溢れ出す。
「あのエロ爺」
ゴンはここで彼女に攻撃のチャンスを与えてはならないと感じ、彼女の体目掛けてもうラッシュを繰り出す。
「うおぉぉぉぉぉぉおお!」
「おおーと。連打連打!もうラッシュだぁぁぁぁぁぁぁ!これはセリム選手なすすべがないかぁぁぁ。凄まじい勢いです」
攻撃しているのはゴン、その勢いはすさまじく、彼女は徐々にリングの隅に追いやられていく。
追いつめているのはゴン。しかし、攻撃している本人は全く逆の思いを持っていた。
『駄目だ。こんなんじゃ駄目だ。彼女に全然ダメージが入ってる気がしない』
ゴンは一旦彼女から離れる。
それは彼女に自分の最大の攻撃を与えるためでもあったのだが、このゴンの一手は最悪手だった。何故ならば彼女に攻撃のチャンスを与えることになったからだ。
普段の野生児ゴンならばこの様なミスを犯さない。しかしここは普段のゴンでいられる場所ではない。ゴンは無意識のうちに彼女からの恐怖を押さえきれずに下がるという行為を自分の攻撃のためだと勘違いして行ってしまったのだ。
よって、ゴンは次のアクションに移るときにその過ちに気づいてしまう。
「クリティカルヒットアーンドダウン!ゴン選手プラス3ポイント!」
ポイントがゴンに付くが、ゴンにはそれはが自分の勝利に近づいた証でも、彼女との差が意外とと近かったことの証明にもなりはしない。
ゴンは慌てて助走をつけた拳を彼女に叩き込もうとする。しかし、なかなか彼の体は前には進んでくれない。それどころか、ゴンにはアナウンスも審判の声も上手く聞き取れなかった。それは彼の体同様に周りの音が余りにもゆっくりに聞こえ始めていたからだ。
「殺す!」
それでもゴンの耳には彼女の声が何故か鮮明に聞こえるのであった。
そして彼の体の時間が元に戻ってゴンが最初に聞いた音は悲鳴であり、それ以降の彼の意識はなくなる。
彼女は自分の体が攻撃されているのを理解していたが、彼女は怒りによってそれが誰だか半ば忘れかけていた。
殺したい奴の顔がヒソカ、アナウンスをしている女コッコ、そしてうわさを流した誰かと思い浮かぶがそれでも彼女は殺意を押さえようとする。
「ネテロ……」
そこに彼女をイラつかせた名前がさらに追加され遂に彼女の怒りは爆発する。
彼女は決して屈辱を忘れない。出来ることなら洗濯機と乾燥機ごと、ネテロをゴミにしたかったのである。
だから彼女はヒソカとの約束を忘れる。と言うか、ヒソカとの約束など彼女の中にはあってないようなものだったが、僅かばかりの理性を繋ぎ留めておくには役に立っていたのだが、彼女にはもう怒りしかない。
彼女は向かってくる拳に憎いモノの顔を浮かべながらも、まずその攻撃を片手で受け止める。
そこからはもはや常人には追い付いていくことは不可能であった。彼女の動きが物凄く速いという訳だは無い。だが、誰も彼女の動きについて行けない。
彼女は一歩踏み出すと先ずゴンの顎を軽く蹴り上げ、即座にその足を振り下ろしては彼の肩の骨を砕く。
そしてその振り上げた足が完全におりる前のとても不安定な一本足で立っている体勢から彼女は肩の四本あるうちの一本のサーベルを軽く抜くとそのまま振りぬきその体を立てに裂こうとする。
しかしここで少しばかりの奇跡が起きる。不安定の体制のせいか室内で拭くはずのない風に彼女の体が少し煽られ彼女の剣の軌道が少しだけズレたこと。それとゴンの野生の感と、野生動物みたいなそのハンターとしての資質と才能がたっぷりな体が無意識のうちに体を捻った結果、彼は致命傷を避けることに成功する。
それでも、ゴンの命は風前の灯だ。彼女は殺す相手は確実に殺す主義である為、即座に返す刀でゴンの首を狙うがそのサーベルは途中で軌道を変えて観客席のとある一席に飛び込む。
ここまでの彼女の攻撃は一瞬のうちに行われ、観客がゴンが攻撃したと思い見ていたリング上の次の光景は大量の血を流し倒れ込むゴンの姿であった。
会場からは悲鳴があがる。それと同時に去る彼女と、慌てて駆け寄り担架を呼ぶ審判をみて解説役のコッコは意識をとり戻し、慌てて解説に戻る。
「なっ、何が起きたのでしょう!ゴン選手が攻撃をしたと思ったら、そのゴン選手がいつの間にか血まみれでダウンしています。彼は生きているのでしょうか!」
彼女は後ろで喚く観客、そしてスタッフを尻目にただ前を見つめ去って行く。
「やっば。彼死んだらどうしよう。これ死んでたらもう、ヒソカも含めて原作主要キャラ皆殺ししないとイケナクナルカナ?」
彼女は早足にこの場を去る。
やってしまったという後悔とその自分のミスを見る気が起きず足早に去っているのだが、それ以外にももう一つ。彼女が何とかゴンに止めを刺さなくて済んだようにした人物の今後の行動が読めたからでもあった。
「危なかった♦彼女は後でお仕置きだね♥」
ヒソカは観客席で彼女が自分の殺気に反応して飛ばしてきたサーベルを近くにいた観客で防いだため、返り血を浴びていた。しかし、彼はゴンが生きていることに安堵し、サーベルを死体から抜き、これを返す時どうしようかと不気味な笑みを浮かべつつ彼女の部屋に向かうのであった。
おまけ 奇跡の裏側
「おーい。コッコさんが冷房強すぎるだってよ」
一人のスタッフが空調室まで向かい、空調室にいた別のスタッフに声を掛ける。
「ええ?空調は昨日も今日も全くいじってないぞ?コッコさんの気のせいじゃないか?」
「でも温度を上げろだってさ」
「はあ、分かったよ」
「よろしく」
コッコの伝言を伝え終えたスタッフは出るがここで彼等の情報伝達に一つ誤りがあった。
ここに来たスタッフはアナウンスするコッコの部屋が寒すぎるから、その部屋の空調を何とかするように言ったのだが、此処にいたスタッフは闘技場内のリングと客席の温度が冷えすぎたと思ったのだ。
かくして彼は設定をいじり、一時無風状態を作り上げてしまったのだ。
もちろんそんなミスは現場の人間が直ぐに気づき、即座に訂正に入る。
そして戻される設定温度と室内の温度が観客の興奮で少し上がっていたためまた急激に冷やそうと風を思いっきり送る空調設備。
かくして奇跡は起こるのである。