最強の目を持つハンター   作:kurutoSP

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彼女は最悪の人間と手を組んでいた!

「暇ね」

 

 毎日誰かが血を流すこの天空闘技場で彼女はポツリと呟く。

 

 それに対してヒソカは何を言っていいのか分からず黙っている。

 

「あまりにも暇だからつい気の迷いであなたを此処に呼んだけどやっぱり暇ね」

 

 彼女は暇だと言いながらもヒソカが静かに本を読む邪魔をちょくちょくとしている。

 

 ヒソカは彼女のちょっかいを軽くあしらいつつもどうしたものかと考える。

 

「あなたと戦う以外で何か手はない?」

 

 彼女はヒソカにさっきからちょっかいとして鞘で彼を攻撃しているのだが、彼女にとってこれは戦いではないようだ。

 

 ヒソカもこの程度は彼女と過ごす上では当たり前になり過ぎて、最初の頃こそ楽しかったが、彼も最近はマンネリ化して退屈しているのだ。だから彼女の前でわざとらしく本を読んでいたのだが、それでも少しだけ緊迫感が増すだけだった。

 

「真面目に考えてよ。そうじゃなければあなたの獲物の、…何だったけ?スカトロだったっけそのゴミ先に私が処分してしまうぞ」

 

「カストロね♥それは流石に困っちゃうな、あれは僕が大切に育てた果実なんだ♦勝手にゴミ箱に捨てないで欲しいかな♣」

 

 ヒソカは漸く本を投げ捨て彼女の鞘を掴むと少しばかり殺気を滲ませて答える。

 

「じゃあ、何か考えてえよ。此処に来てから私はたったの一回しか戦ってないんだよ」

 

「そう言われてもね♠」

 

 彼女と同様にヒソカも退屈しているのだ。まあ、ヒソカと彼女ではその内容は違う。

 

 ヒソカはそもそもこの天空闘技場では猛者を探すというよりも自分を楽しませてくれるほど強くなる将来性があるモノを探すためだけにいるようなものであり、既にそれは見つけてあるのでその彼の楽しみが熟す時を待っている間の暇であり、我慢もまた彼にとってはより楽しみを増幅させる手段に過ぎない。

 

 だが、彼女の場合は違う。

 

 彼女はこの天空闘技場にはヨークシンでの原作の出来事が起こるまでの時間つぶしのために来ているのであって、そのついでに金稼ぎをしようと考えていた。

 

 しかし来てみれば、此処では一回でしか戦えず、ファイトマネーは結局152ジェニーと言う缶ジュース一本分の値段にしかならず、そして本来の目的である時間つぶしも結局のところヒソカとの関係性や彼女の凶暴性とその実力がばれて誰も相手にしてくれないのだ。

 

 つまり彼女はこうしてヒソカをわざわざ自分の部屋に招いたのはストレス発散の意味も若干含まれている。(実際の所余りにも暇で、もしかしたらと思い招いたという気の迷いが大部分を占める。)

 

 だが、結局のところヒソカは見ているだけで彼女の怒りに油を注ぐ存在なので本当に気の迷いで呼んだというのが正しいだろう。

 

 ヒソカは彼女の様子が全く変わらないことに、何か手を打たないと本当に楽しみが奪われてしまうと感じたため、前から考えていたことを彼女に話す。

 

「それなら僕の手伝いをしてくれないかな♦」

 

「やだ!それくらいなら今ここであなたを殺す」

 

「さすがにそこまで嫌われると僕も傷つくなぁ♥」

 

 ヒソカはうなだれる様に頭を下げるが、その時に同時に地面に捨てた本を拾い上げる。

 

 そして拾い上げた本を彼女の前に差し出す。

 

「斬ればいいの?」

 

「それはちょっとやめて欲しいかな♣これ10万ジェニーするしね♠」

 

「そんなゴミが10万!世の中ふざけてると思うよ」

 

「まあ、君にとってはゴミかもしれないけど金持ちにとってはステータスになるのさ♥」

 

 ヒソカは彼女の目の前で本を開きつつ、一枚のメモを取り出す。

 

「これは団長が欲しがっている古書のたぐい♦」

 

「…………強盗しようかって誘いか。……悪くないかもね」

 

 彼女は売れば何ジェニーになるかと指折りで試算する。

 

 その様子にヒソカは慌ててその試算を止めに入る。

 

「団長が欲しがっている古書だから売らないで欲しいかな♠」

 

「ああん!私の財布を見ても同じことを言えるのか!?」

 

 まだ蜘蛛に入ったばかりだが彼女の思想は既に黒く染まり切っていると思えてならない。

 

 ともかく彼女は前にヒソカの命を買うのに1ジェニーを使いその財布の中身は151ジェニーになっているはずである。

 

 いや、彼女の財布を覗いて151ジェニーあるか確認するのは少しばかり難しかった。

 

 ヒソカは彼女が取り出し開いた財布を面白そうに覗いているのがその答えだろう。

 

「なかなか中身が………」

 

「何」

 

「いや、それで今どのくらいあるのかな?」

 

「見て分からないの、93,543ジェニーよ」

 

「…………なるほど♥」

 

 その財布の中身は何故か増えていたのだが、ヒソカは財布の中の硬貨が血まみれなのを見て納得する。

 

「確かに金の使い方は人を殺すのに使うのがよさそうだ♦」 

 

「でもその本も買えないくらいよ。おかしいよね、可笑しいだろ!笑えよ、笑ったら殺すけど。何なんだこれ、ハンターはもうかるんじゃなかったの?私の財布はハンターになってから軽くなってばかりだ。本当にどういうことだ。私は今全く無駄遣いもしていないのに、これだけお金を上手いこと使っているのにハンター試験を受ける前よりも財布の中身が軽いのはなんでだ?この世界は狂ってやがる。私は最強だぞ!ふざけるな!ああふざけるなよ。ふざけてる奴は皆殺しだよ。サーチ&デストロイだ!クソ、クソクソクソクソクソガァァァァァァ!そんなゴミが私の財布よりも価値があるなんて。私の価値がこれ以下だとでも。ああああああああ。ねえヒソカそれやっぱ切り裂かない?そうすれば私は幸せになれる気がするんだけどいいよね。切るよ。邪魔すると斬るよ。…………やっぱ邪魔してもいいや。アンタごとブッタギル!」

 

 ヒソカは彼女の怒りのスイッチがどこで入るか分からないが、このモードになってしまった彼女には既に何度か遭遇しておりそのたびに五体満足で生還している。

 

 彼女はこのモードになるとオーラが跳ね上がるためヒソカは意外とこの時の彼女は好きである。何と言うかもう彼に対して変態と言う言葉以外浮かばない。

 

 しかし、ヒソカは今日の昼、強い二人組の子供がこの天空闘技場に現れたのを聞いているため、此処で楽しむのはもったいないと考えたのか、まだまだ楽しみのために我慢することにして彼女に本を投げ捨てる。

 

「フッ」

 

 キレイに斬られる十万ジェニー。

 

 それと同時にそれほどのモノを斬った爽快感が彼女に走る。

 

 そして彼女はふと気づく。

 

『あれ?これ、ヒソカから奪ってれば私の財布は今頃二倍になっていた?』

 

 何事もやった時には満足しても、後になって冷静になって見ると人は気づきたくもない事実に気づいてしまうモノである。

 

「ちょっとヒソカァァッァァ!何で止めてくれなかったの!」

 

「それはちょっと♦」

 

「私の十万ジェニーがぁぁぁぁあ!」

 

 彼女は酷く落ち込む。

 

 人は落ち込んでいる時、崖っぷちにいるときは藁にもすがりたくなると言う。つまり、困っている時が人に何かする狙い目だということだ。

 

 もちろんヒソカがそんなことを知らないはずなく。

 

「これとこれは既に団長は持っているはずだから、二つ合わせて売り払えば350万ジェニーになるはずだよ。どう♥」

 

「本当?」

 

 彼女は上目遣いでヒソカにサーベルを突きつけながら問いかける。

 

 ヒソカは心の中で『かかった!』と思いながらも顔には毛ほども出さずにサーベルの切っ先を少しずらすと囁くように彼女に最後の一押しを言う。

 

「ちなみにここの近くにある店にこれとこれも置いてあったよ♠」

 

「それ何ジェニー?」

 

「少なくとも今斬ったのよりは高かった筈だよ♣」

 

 彼女は立ち上がると部屋を一人出て行く。

 

 一人彼女の部屋に残された彼はテレビをつけてこの天空闘技場の選手情報や試合内容を確かめ、自分が知りたかった情報を仕入れる。

 

「ふふふ、強化系は単純一途♦性格はあれだけど、彼女の基準の中ではかなり冷静に判断できるし、頭も決して悪くない♠これで彼女は少しは落ち着くだろうし、上手くいけば団長に手土産ができて僕の望みに一歩近づくかもしれない♣やっぱ、変化系の僕と気が合うね♥」

 

 ヒソカは彼女との生活で彼女が何らかの制約で怒りのゲージに振れ幅があるのではないかと推測していた。

 

 だからこそ彼は彼女に切り刻まれずにすんでいた。もちろん彼の類まれなる戦闘技術が無ければ不可能なことだが。

 

 とにかく、ヒソカと彼女の相性はある意味で最高にいいようだ。周囲に与える悪影響を一切無視したら最高の相性であろう。

 

 しかし、彼は彼女を自分の思い通りに動かそうとはしない。

 

 それは彼女を完全に自分の思い通りに動かすのが難しいのもあるが、彼は自分の楽しみのために自分の命さえベットする男である。つまり、彼は彼女の前に餌こそ投げて進む方向性くらいは決めるがそこからは彼女の自由にさせた方が楽しめると考えているためだ。

 

 狂人と狂人を組み合わせても最悪な結果にしかならない。決してマイナスとマイナスの掛け算とはならない。

 

 そして狂人の片方は思考がぶっ飛ぶが何処か冷静な一面を持つ戦闘狂であり、もう片方は自分が満足できる戦闘をするために何でもやる思想が狂った知的な狂人。もう最悪である。

 

「さってと、彼女の力もある程度推測できたし、後は彼女をどう利用するかだね♣」

 

 ヒソカはゴンとキルアの情報を見ながら先の楽しみと、目の前に見える楽しみにとてもワクワクしているのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 この日一つの古書店が潰れた。




次回、彼女が主人公の前に立つ!かも?

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