それぞれの行動報告
午前1時30分
それは醜くも神々しささせ感じさせた。
黒のキャスター、アヴィケブロンの宝具。
彼の宝具がただ存在し歩くだけで周囲が楽園に変貌していく自立型固有結界。
「おいおい、マジか・・・!?」
クー・フーリンは高台に移動し巨人を見る。
まだ15メートル程度だがあれは大地からの祝福を得てどんどん大きくなるだろう。
「ヤバイなありゃ」
高台からケイローンとヴラド三世の付近に降り、話しかける。
「お前らちょっと力貸せ。ありゃ俺1人でも難しいかもしれん」
ヴラド三世はクー・フーリンに問う。
「あれはそれほどの難敵か?」
「あぁ、あれは速めに片付けないと不死身の存在になる」
「不死身だと?」
「そうだ。あれは大地からの祝福を受けている。どれだけ腕や頭を壊そうが足が大地についている限り無限に再生する。そして足元から世界を侵食する。一定の大きさを越えるとどんだけ俺らが足掻こうが再生スピードの方が上回る。そうなる前に片付けねえと」
「あれが宝具なら宝具を使った者を抑えればいいのではないのか?」
「いや、あれは発動した段階で術者がくたばろうが問題がない。なんせ足元から無限に魔力を吸い上げるからな。」
「なるほど早々に破壊するしかないか」
ヴラド三世が呟く。
ケイローンは口を開き、
「私はマスターのところに行きます」
「そうか。だが直ぐに来いよ」
「わかっています」
そう言って、ケイローンは霊体化する。
「行くか」
「了解した」
クー・フーリンとヴラド三世はゴーレムの元に向かう。
午前1時33分
フィオレとカウレスはケイローンと合流していた。
「ロシェ!?しっかりして下さい!ロシェ」
「ぅ・・・うぁ・・・」
フィオレは廊下で倒れていたロシェを見つけ、介抱していた。
「フィ・・・オレ・・・?」
「良かった・・・!」
ロシェの意識が戻ったのをみて、カウレスが彼に問う。
「ロシェ、何があった?」
「ああ、そうだ敵のサーヴァントが城に侵入したと聞いて部屋に戻ろうとしたら変な男に話かけられて・・・そこからはどこか記憶が曖昧になってる」
「暗示か・・・?」
「ロシェ、キャスターと念話を繋げる事が出来ますか?」
「先生・・・?そうだ、あの男は先生に僕から奪った令呪を使ってた!」
「何!?」
カウレスが驚く。
ケイローンは冷静に分析し、
「キャスターが宝具を発動したのはそれが原因かもしれませんね」
と言った。
「宝具?まさか
「ええ先ほど膨大な魔力を感知しました」
「そう・・・なんだ」
「しかし、お前を襲った男は一体何者なんだ?令呪を奪って使うなんて。しかもサーヴァントに気付かれずに」
「令呪・・・?・・・!そうだ、令呪だ!」
ロシェが突然大声を上げる。
カウレスとフィオレは驚き、
「どうしたの?ロシェ?」
「先生は令呪の命令でおかしくなった。だったら
「でも令呪は全ての奪われたのでは?」
フィオレはそう言ったが、カウレスとケイローンは気付く。
「いや姉さん、大丈夫だと思う」
「えぇ、フィオレ。大丈夫だと思います」
「え?」
フィオレは疑問符を浮かべた。
「姉さん、この戦場には
「ルーラーには二画分の令呪が聖杯より与えられている筈です。問題はこちらの都合の良いように令呪を使ってくれるかどうかですが」
「それなら大丈夫だろ、アーチャー。あれって放っておいたら世界がヤバい事になる代物なんだろ?だったらルーラーが放っておく筈がない」
「そうですね。では私はルーラーの所に行きます。バーサーカー、貴女も来て下さい」
「ウゥ!」
「バーサーカー、無茶すんなよ」
「う・・・ん・・・!」
「待って!」
外に出ようした瞬間ロシェが叫ぶ。
「何ですか?ロシェ?」
「先生を殺さないで・・・!」
泣きそうな声でケイローンに訴える。
「善処します」
彼らは外にでた。
午前1時36分
ルーラー、ジャンヌ・ダルクと天草四郎時貞。
セイバー、モードレッド。アーチャー、アタランテ。
彼らは巨人の近くまで走っていた。
「くそっ!次から次へとイレギュラーばっか起きやがって!」
モードレッドが愚痴る。
アタランテとシロウは、
「シロウ、あれはどうやって倒すのだ?」
「近づいて観察しない事には何とも言えません、ただ・・・」
ジャンヌはシロウを見て、
「天草四郎時貞、あれの破壊の協力感謝します」
「礼はいりません。あれは放置するとまずい、という啓示が降りて来たからには対処しないわけにはいきませんから」
そうこうしている内に巨人の至近まで近づく一向。
すると巨人が何者かからの攻撃を受け、反撃していた。
「む・・・おい!貴様ら!」
「あれは赤のバーサーカー・・・ヴラド三世ですって!?」
ジャンヌは驚きの声を上げる。
「この巨人の破壊に協力しろ!」
「わかってます」
ケイローンとフランも到着する。
「すみませんルーラー。彼と会話をしても構いませんか?」
「彼?」
「ええ」
ケイローンは巨人の肩に乗っている、アヴィケブロンを見る。
「アヴィケブロン!君が敵の魔術師から奪われた令呪を受けてこのようなことをしたのはわかっている!」
以外にも返答があった
「だから・・・なんだと言うんだい?僕の理想は、夢は叶った。令呪で君たちを裏切るような形になってしまったのは業腹だけどね」
「仲間意識はあった・・・ということですか?」
「あぁ、特にマスター・・・ロシェに『先生』と呼ばれるのは存外に心地好い体験だったと伝えてくれ」
「それは貴方自身の口で伝えて下さい」
ケイローンは会話を終えた。
そしてジャンヌに向き直る。
「ルーラー、彼の第三勢力と戦いになった場合、彼のゴーレムを造る能力はとても有用に働く筈です。ですので彼は殺さないで頂きたい」
「・・・・・・分かりました」
彼女は大きく息を吸い込み、
「ルーラーの名において黒のキャスター・アヴィケブロンに命ずる、我々と敵対するな!」
「!?」
アヴィケブロンは驚く。バカな、あり得ない。自身は今まさに彼らと叛逆している。なのにそれを許すというのか?
ジャンヌは彼をみる。
「これは、現在の状況を見て合理的に判断しただけです。こちらに来て下さい。あの第三勢力と戦うには貴方のゴーレムが必要です」
巨人の肩から降りてきた彼は、
「彼らがまた来ると?」
と聞いた。
「えぇ、確実に」
「そうか」
「それよりあの巨人を破壊してもよろしいですね?」
「正直承諾したくはないが、『敵対するな』と命じられている以上協力しなければいけないのだろう?」
「そうですね。協力するなら貴方用の令呪を貴方のマスターに渡してもいいです」
「・・・わかった。あれの核は炉心となった魔術師がいるであろう心臓付近と頭部近くにある。どちらか一方ではなくどちらも同時に破壊しなければならない。さらに大地からの祝福を得ていて、どれだけ攻撃しても即座に修復する」
「つまり、大地からの祝福を断った上で核を破壊しなければならないというわけですか?」
「そうだ。そしてそれが出来るのは一回が限度だ。それを外したら取り返しがつかなくなる可能性が高い」
「分かりました」
「話はまとまったか!?」
ウラド三世が巨人の剣を受け止めながら叫ぶ。
「あれの足を大地から引き剥がした上で二つの核を同時に破壊します!」
そしてシロウとアタランテに向き直り、
「貴方達も協力お願いします」
「初めからそのつもりです」
「あの木偶の棒を倒せばよいのだな?」
アタランテは巨人の眼球に向けて矢を放つ。
眼球に直撃するもその矢を吸収し、眼球が回復する。
「ちっ・・・」
アタランテとケイローンが巨人に向けて矢を放ち続ける。
ウラド三世は巨人の剣を躱わし腕を破壊する。
クー・フーリンとジャンヌは巨人の核を破壊すべく巨人の腕の上を駆けるも振り落とされる。
入れ替わるようにモードレッドとフランは巨人の体を駆け頭部を破壊しようとするも巨人の腕に阻まれる。
地面に着地したフランとモードレッドに巨人の剣が迫るが青白い魔力に破壊させる。
「やっぱ黒のセイバーはてめぇか!!ランスロット!」
「モードレッド・・・!よもやこのような形で再開しようとはな・・・!!」
両者共に怒気を孕んだ声を出す。
すると、巨人の剣が彼らを殺そうとする。
「「邪魔だ!!」」
ランスロットとモードレッドは巨人の剣を粉砕する。
「・・・状況はアーチャーから聞いた。あれは倒し切らないとまずいのだろう?」
「てめぇと共闘なんて最悪だ」
「それはこちらも同じ事だ」
「んだとコラァ!!」
そんなやり取りをしているとフランがモードレッドの鎧を叩く。
「なんだよ・・・」
「うぅ・・・」
「・・・ちっ、分かってるよ」
「ァァ?」
「ああ、ホントだって!!」
モードレッドは髪をかきながら言った。
「モードレッド、彼女はなんと言ったのだ?」
「『協力してあの巨人を倒して』だとさ」
「なるほど、彼女はお前よりまともな状況判断ができるらしい」
「ぶっ殺すぞ!?てめぇ!!」
「ウゥァァ!」
ランスロットに突っかかろうとするもフランが彼らの間に立つ。
「分かった!分かったから!正直いけ好かねえけど協力するから!」
「ウン!」
「はぁ・・・」
するとジャンヌがモードレッドの近くに立つ。
「では皆さん、あれを破壊しますよ!」
直後にモードレッドがジャンヌに問う。
「その前にルーラー、こいつの討伐を終えたら令呪一画を寄越せ」
「はい?」
ジャンヌは呆けた声を出す。
「なに呆けた声を出してやがる。あれの破壊をオレたちサーヴァントの要請するんだろ?だったら報酬を寄越すのが道理だろ?」
「で、ですか・・・」
ジャンヌは助けを求めるような目でランスロットを見る。
「ルーラー、私のマスターには令呪があと一画しかありません。正直な所あの第三勢力と戦うのであれば令呪があと一画は欲しいです」
「そ、そんな!?」
「そうか余も頂きたい」
「俺も欲しいなぁ」
「私も頂きたい」
「私にも寄越せ、ルーラー」
「私たちにも欲しいな」
ヴラド三世、クー・フーリン、ケイローン、アタランテの声が響く。
「あ、あなた方・・・いえ待って下さい!?最後の少女
の声は誰ですか!?」
ジャンヌは困惑する。
「ウゥ・・・」
フランは「諦めろ、どうせ渡す事になる」と言っているかのような哀れみの声と共に肩に手を叩いた。
「・・・分かりました!一画ですね!」
「よし!」
モードレッドは巨人に向き直り攻撃を開始した。
数分前 ジャックside
「わぁ、おっきい巨人さんだ!」
ジャックは城塞の窓から外の様子を見ていた。
するとヴラド三世から念話が入る。
『ジャック今すぐ此方に来い』
(でも私たち足手纏いになるよ)
『少しでいい、あの巨人の視界を霧で奪ってくれるだけでいい』
(分かった)
ジャックは城から飛び出し巨人の元へと向かった。
現在
巨人の顔面を霧が覆った。
それにより巨人の動きが鈍る。
それが合図だった。
「二代神に奉る―――
アタランテが宝具を発動する。
巨人は体を両腕でガードする。
両腕が完全破壊される
「そらぁ!」
「たぁぁ!」
クー・フーリンとジャンヌが右足を破壊する。
同時にシロウの右腕に魔力が籠る。
「
右腕の魔力を暴走させ擬似的な破壊空間を作り出す魔力弾を破壊された瓦礫にぶつけ瓦礫を消し去った。
「血に塗れた我が人生をここに捧げようぞ―――
ヴラド三世は肉体から無数の杭を射出し、左足を破壊する。
「ナァァァァァァァアアアアオォゥ!!」
フランは破壊された足の瓦礫を電撃で焼き付くす。
「今です!」
ジャンヌは叫ぶ。
「おぉぉぉぉぉ!!」
「どりゃぁぁぁぁ!!」
モードレッドとランスロットが剣に魔力を纏わせ宙に舞った。
そして二つの霊核に向けて宝具を放つ。
「
「
赤と青の極光が巨人の霊核を焼き付くす。
核をなくした巨人は崩れ去った。
「ヘッドショットだクソッタレ。楽園ならあの世で探してろ」
モードレッドは親指を下に向けながら言った。
「相変わらず口が悪いな貴殿は」
ランスロットは彼女に注意する。
「相変わらず生真面目だな、お前」
彼女も彼に言い返す。
二人の間にジャンヌが割って入る。
「お二人とも喧嘩はやめて下さい。これから協力して貰いたいのですから」
「は?」
二人の声が重なる。
「あの第三勢力・・・一応『灰の陣営』と呼称しておきます。彼らはまた来る筈です。その際対抗できるサーヴァントは多い方がよいと思います。天草四郎も一応協力してくれるそうです」
「あの胡散臭いやつまで味方扱いすんのか?」
モードレッドは愚痴る。
「気持ちはわかりますが、今は彼の協力も必要です。それから作戦を練るにしても拠点が必要なので、黒の陣営の城を使ってもよろしいでしょうか」
ジャンヌはケイローンに話しかける
「分かりました。マスター宜しいですか?」
『構いません』
「マスターは良いといっています」
「それは良かった!では一応この場にいるサーヴァントはマスターと共に黒の陣営の城に来て下さい」
「ちっ。だとよマスター」
『わかったよ。メアリーと六導さんも連れてくるよ』
かくして、第一の戦いは終わった。
第三勢力という不確定要素を取り払う為、彼らは一時的に協力する。
午前2時30分頃 ミレニア城塞 大部屋
赤と黒の陣営のマスターとサーヴァントが顔を合わせ机を囲んでいた。
「初めまして、赤のマスターの皆さん。私はフィオレ・フォルヴェッジ・ユグドミレニアです」
フィオレは彼らに挨拶する。
「初めまして、フィオレ・フォルヴェッジ。私はシロウ・コトミネ、聖堂教会から派遣された監督役であり、第三次聖杯戦争でルーラーとして召喚された天草四郎時貞です」
「受肉したサーヴァントだと!?」
シロウの正体にゴルドが目を剥く。
「ええ、そうです。あなたは?」
「ッ!・・・ゴルド・ムジーク・ユグドミレニアだ。セイバーのサーヴァントのマスターだ」
「僕はロシェ・フレイン・ユグドミレニア。キャスターのサーヴァントのマスターだよ」
「俺はカウレス・フォルヴェッジ・ユグドミレニア。バーサーカーのマスターだ」
ゴルド、ロシェ、カウレスは自己紹介をする。
「次はお前だ。アルツィア」
「は、はい!ランサーのサーヴァントのマスターのアルツィアです。宜しくお願いします」
今度はメアリーが口を開く。
「赤のバーサーカーのマスター、メアリー・ベールです」
「赤のセイバーのマスター、獅子劫界離だ」
「黒のアサシンのマスターの六導玲霞です」
玲霞の紹介の時、ゴルドとフィオレが反応する。
「マスターだと?見たところ魔術師では無さそうだが?」
「ええ、相良豹馬に生け贄にされていた所をこの娘に助けてもらったんです」
彼女は膝の上に乗せたジャックの頭を撫でながら答える。ジャックはとても嬉しそうにしていた。
「マフィアや魔術師を殺害し、魔力を得ていたのですね?」
フィオレの問いに玲霞は、
「はい。この娘を生かす為に」
「なぜそこまでするのですか?魔術師でもない貴女が?」
「この娘に助けてもらったから。死に際の『生きたい』という願いを叶えて貰ったからです。下らない私みたいな人間を無償で死の淵から救ってくれた。なら今度は私が彼女の願いを叶える為に、この娘を助けるのは当然でしょう?」
「その為に、無関係の人の命を奪ってもですか?」
「はい。だってしょうがないでしょう?私は魔術師ではありませんし、それにマフィアや魔術師が死んで誰が悲しむのでしょうか?」
「・・・成る程。では貴女にはこの羊皮紙に名前を書いてもらいます」
フィオレは羊皮紙を取り出す。
「
「知っているのですか?」
「そこのメアリーさんに書かされました」
フィオレはメアリーを見る。
「ええ。彼女達を此方に引き入れる際に使いました」
「成る程、そうですか。ですが一応契約して貰えますか?」
玲霞は、
「わかりました」
と言い、羊皮紙の契約内容を見る。
内容は、
『黒の陣営に敵対するな』
『黒の陣営は彼女を聖杯大戦終了まで守らなければならない』
と言う物だった。
「では、これでいいですね?」
彼女は名前を書いてフィオレに渡した。
「ありがとうございます」
フィオレは礼をいい次の話題に移った。
「ではこれからが本題です。彼ら、『灰の陣営』についてです。ここからは聖杯大戦のルーラーに話をしてもらいます」
フィオレからジャンヌに全員の視線が移る。
「彼ら灰の陣営は全員が受肉したサーヴァントです。アーチャー、セイバー、キャスターの真名は不明ですが、ランサーは孫悟空、アサシンはハサン・ハッザーハ、ライダーはチンギス・ハンです」
「孫悟空・・・西遊記の主役じゃないか・・・」
ロシェは嘆息し、
「ハサンはともかくチンギス・ハンとは・・・」
ゴルドは驚愕する。
「そのチンギス・ハンなんだが・・・」
カウレスは口を挟む。
「あいつ、ついこの間まで警備会社を経営していたテム・ウォンだと思うんだ」
彼はテム・ウォンの写真を見せる。
写真の男とチンギス・ハンを見比べ、
「確かに似てるな(ますね)」
モードレッド、シロウ、ジャンヌはそう言った。
「チンギス・ハンのあの軍隊を呼ぶ宝具、あれは脅威ですね」
シロウは不快そうに言う。
「そうか?確かに数こそ多いが、そんな苦戦する程でもなかっただろ?あのボオルチュとか言う奴以外は」
「いえ、その数が問題なのです。全盛期の彼の軍の兵は数十万と言われていますから」
「な・・・」
「それに亜種聖杯を複数所持しているとしたらその魔力量は計り知れない。最悪灰の陣営全員が宝具を連発できる状況になるかもしれません」
「ちっ・・・考えただけで嫌になるな」
モードレッドは心底嫌そうに言う。
「少し良いか(でしょうか)?」
ヴラド三世とケイローンは口を開く。
ジャンヌが彼らに聞く。
「どうしました?」
ケイローンは、
「キャスターとアーチャーに関してなのだが、アーチャーは赤のランサーや赤のライダーに近い神気を感じました」
と言い、ヴラド三世は、
「それからキャスターなのだが・・・『チャールズ』という名前の鉄塊・・・というか巨大な機械のような英霊だった」
と発言した。
「それは・・・」
ジャンヌは、というよりその場にいた殆どの人物が信じられない、といった顔をした。
モードレッドとフラン以外は。
「赤のセイバー、そしてバーサーカー、何か知っているのですか?」
シロウはモードレッド、フランに聞く。
その場の全員が彼らを見る。
フランは迷った。真実を言うべきか。しかし信じられないのも事実だった。
しかし、モードレッドは口を開いた。
「そいつは蒸気を噴出してたか?」
「あぁ」
「だったら多分そいつはチャールズ・バベッジだ」
「おい、そいつは・・・」
カウレスが口を挟む。
ケイローンが問う。
「知っているのですか?カウレス」
「コンピューターの前身となる演算装置を作った数学者だ」
「数学者?しかしあの容姿は・・・」
ヴラド三世は困惑する。
「あの姿はチャールズ・バベッジの夢が具現化した宝具、固有結界だ」
「・・・」
聞いていたマスター達は息を飲む。
ヴラド三世はモードレッドに更に問う。
「なぜそこまで知っている?お前は奴等のスパイか?」
「それは、奴と戦った事があるからだ」
「亜種聖杯戦争か?」
「違う。信じられないかもしれないが、別の世界の特異点と化したロンドンで戦った」
「平行世界ということか?」
「そうだ。魔術王ソロモン・・・いや■■■■■■■■■■によって焼却させられた人理を修復する過程で戦った」
ゴルドが口を挟む。
「人理を焼却だと?そんな事は不可能だ!」
「普通ならな。だから奴は人理を焼却させるための起爆点に自身の配下を送り込み聖杯を使った。オレはその過程で三度と召喚された。一度目はロンドンで、二度目は人理を破綻させる側として、そして三度目は■■■■■を倒すために。その過程を経てオレは再びここに召喚された」
「再び?まさか・・・」
ケイローンは察する。
「そうだ。オレは一度この聖杯大戦を経験してる。ついでに言えばフランもだ」
「・・・本当なのですか、バーサーカー」
ケイローンはフランに聞く。
「う・・・ん」
「どうやら本当のようです」
ケイローンはそう言った後、カウレスを見る。
「カウレス、あなたこの事を知って居ましたか?」
「何で俺に聞くんだ?」
「あなたがバーサーカーのマスターですから」
「・・・そうだな。バーサーカーが一度この聖杯大戦を経験していることは夢で見たから知っていたよ」
「知っていたならなぜ隠していたのですか!?カウレス!」
フィオレが叫ぶ。
カウレスは落ち着きながら
「ダーニックがそんな話信じるか?姉さんだって信じないだろ?その聖杯大戦でバーサーカーは俺の令呪で自爆したんだ。そんな事言いたくなかった」
「・・・他に隠していることは?」
「エルメロイ教室で魔術を教わっていたこと位かな」
「何だと!?」
ゴルドが叫ぶ。
「ユグドミレニアが魔術教会に逆らう前に、向こうから勧誘されたんだ。隠していたのはスパイだと思われたら姉さんの立場も危うくなる。だから言わなかった」
「本当にスパイではないのですね?」
「当たり前だろ?姉さん」
カウレスはフィオレを見ながら答えた。
その時突然ジャックがジャンヌを見て一言言った。
「ねえねえ、聖女さま。令呪はいつくれるの?」
「へ?」
ジャンヌは今まで玲霞の膝の上でおとなしくしていたジャックを見る。
「そうだな。忘れてたぜ。ありがとよジャック」
モードレッドはとても嬉しそうに言った。
「て訳でよ、ルーラー。さっさと寄越すもん寄越しな」
「今この場でですか?!」
「別にいいだろ?服を脱がなきゃできない訳じゃないんだし」
「しかし話し合いが終わってからでも・・・」
「別に今でもいいだろ?」
「で、ですが黒のアサシン!貴女はあの戦闘に参加してませんでしたよね!?」
「え?いたよ。霧で巨人さんの目を見えにくくしたんだよ?」
「あの霧ですか。しかし・・・」
「ダメ・・・なの?」
ジャックは目に涙を溜めジャンヌを見る。
玲霞が口を開き。
「ダメよジャック、わがままを言っては。ルーラーの令呪はサーヴァントの暴走するのを抑える為の物なんだから、二画も貰うなんて。一画位にしときましょう?」
(何ですかこの人!さらっととんでもないこと言ってますよね!?二画貰う気だったのですか!?)
この場の全てのサーヴァントとマスターがジャンヌをみる。
「分かりました!いまから配布するので待ってください!」
ジャンヌはカウレス、フィオレ、ゴルド、ロシェ、アルツィア、獅子劫、メアリー、玲霞に令呪を渡す。
シロウはにこりと笑い令呪を受け取ろうとしたが、
「あなたには他のマスターから奪った令呪があるでしょう!?」
と拒否された。
令呪の受け渡しが終わった後、ランスロットがシロウに尋ねた。
「天草四郎、日本の英霊で剣と鏡に縁のある英霊を知っていますか?」
「鏡ですか?」
「ええ、かなり古い時代のもののはずなのですが」
「敵のセイバーが持っていたんですね?」
「ええ。私の隠蔽宝具の効力があの鏡に反射した月明かりに照らされた時、打ち消されました」
「打ち消された?」
「透明化したはずなのですが、鏡の反射光に照らされた部分が敵に見えるようになっていたのです」
「日本系の英霊・・・鏡・・・光の反射・・・もしかして
「ヤタノカガミ?」
「ええ、日本神話に出てくる鏡です。天照大神が岩戸に閉じ籠り日本から日の光が消えたために多くの災いが起こりました。天照大神を外に出すために作られたのが八咫鏡だったと言われています。鏡に写った自分自身に興味を持って天照大神が岩戸から出たという逸話があります」
「強引な解釈をするなら隠された物を顕にする能力と言ったところでしょうか?」
「ならば灰のセイバーは
「成る程、ありがとうございます」
時間は一時間半ほど過ぎていた。
マスター達の体力も限界に近かったので一度休む事になった。
シロウ以外の赤のマスターとサーヴァントはアジトに戻り仮眠と取ると言うことになった。
黒のマスターとシロウは城塞で仮眠を取ることにした。
午前4時頃
トゥリファス郊外 森の中
灰の陣営―――チンギス・ハンはキャンピングカーの中で次のプランの為の準備をしていた。
クロのアジトから持って来たジュラルミンケースを傭兵達がトゥリファスに運ぶよう指示され運んでいた。
トィリファスに向かっているのは4人。今ここいる傭兵達は4人。残り36人は二つの班に分かれ城を見張っていた。
この場のリーダー格と思しき男がチンギス・ハンに発言する。
「テム、城から出てきた一団を追跡していたAチームが全滅した」
「そうか。Bチームはそのまま待機と伝えとけ。それから例の物は発送したか?」
「ああ。4時間後に届くようにした」
「OK。ありがとう。下がっていいよ」
リーダー格は下がる。
彼がキャンピングカーから出るとチンギス・ハンはクロに話しかける。
「クロ」
「なんだい?」
「先の襲撃で大聖杯の位置は補足できたか?」
「うん」
「良し。後はダーニックの所持していた羊皮紙を手に入れれば・・・」
「ああ。僕たちの計画を前に進めることが出来る」
ミレニア城塞
「ケイローン、アヴィケブロン。話がある」
「?」
クー・フーリンから呼び出された二人はダーニックの隠していた羊皮紙を見せられる。
「これは・・・!」
ケイローンは驚く。
その中身は
「ダーニックを殺した奴が持ち出そうした形跡があった。奴らの目的はこれかもしれない」
「これが奴らの手に渡るとまずいね」
アヴィケブロンは冷静に言う。
「ええ。彼らは亜種聖杯を熟知している。この資料と彼らの知識、そして彼ら自身に大聖杯を解析させられては・・・」
「ああ。
そうして夜があける。
混沌に満ちた聖杯大戦、6日目が始まる。
長らくお待たせしました。
ようやく中間地点まで書けました。
赤の陣営には黒と協力して貰うために出来るだけサーヴァントを減らす必要がありました。
少なくともセミラミス、カルナ、アキレウス辺りは確実に消えて貰って、シェイク、アタランテ辺りは残って貰おうと思ったのですが、結局シェイクは消えて貰いました。
黒の陣営は『赤の残存サーヴァント(剣、狂除く)では太刀打ちできない戦力差であり、なおかつ灰の陣営とは赤の陣営の協力なしでは勝率が4割ぐらいの戦力』を目指しました。結果として敗退したのが黒のライダーだけになりました。
これから灰のライダーさんが本気出します。ヤバい方向にな!
では今回はここまでです
次回 最悪の贈り物