ダンジョンに狂気の芸術家がいるのは間違っているだろうか 作:.<ぼくの 絵 かっこいい
メアリー「邪魔だなぁ」
ミノ「ヒェッ…」
ベル「どういうことなの…」
出てってよ!(ベキベキィ!!!)くらいできるからメアリたんもミノたんボコれると思った結果ミノタウロスは犠牲になったのさ。めでたしめでたし。
ゲルテナ・ワイズ
世界に三人しか存在しないLv.7であり、ロキファミリア最強の冒険者……いや芸術家である。
そう、芸術家なのだ。彼は冒険する為にダンジョンに潜っているわけではなく、あくまで私的な趣味でモンスターを狩り続けている。
彼が残した逸話は数知れず。
曰く常にモンスターの生まれ出るダンジョン、それも下層で突如インスピレーションが働いた等と宣いモンスターそっちのけで創作活動にのめり込み始めた(襲ってきたモンスターは勿論駆逐された)。
曰く作品制作の材料とする為に、未だにロキファミリアの遠征隊が突破出来ていない未開の地に一人で下りてモンスターを狩り、芸術の素材にしてしまう。
曰くダンジョンにはゲルテナの残した芸術品が絶妙な調和を醸し出して展示されていたり、いつの間にか壁画が描かれていたりと最早彼の作品の展覧会会場の一部と化している(盗もうとした輩は何故か動き出した作品自身に返り討ちにあった)。
語られ出すとキリがないので割愛するがまあ兎に角ロクな噂が無い。原因は彼の妙に陰りを感じるような作風だったり、そもそも製作者自身の隈とボサボサの髪を携えた容姿だったりという自業自得ではあるのだが。
「ゲルテナさんについてはこの位かな」
「分かってたけど改めて、その、凄い人なんですね」
そうベルはエイナの話に若干引き攣った笑顔で返す。
色んな意味で、というのは口に出さなかった。やはり飛び抜けて実力がある人はどこかネジの一本や二本外れていてもおかしくないのかもしれない。
ちなみにあの後混乱の極みに至り無自覚で逃走を図ったベルは、ミノタウロスの血に塗れた己の身体など知った事では無いと一直線にギルド受付嬢であるエイナ・チュールの元へ駆け込み先程出会ったゲルテナの話を聞きにきたのだ。初めの方は彼女の悲鳴と混乱により話が進まなかったが、徐々に落ち着きを取り戻し現在に至る。
なんというかやはりゲルテナさんは凄かった。何度も言うが色んな意味で。
特に目に付くその特異性は"強くなる事に"重きを置いてないにも関わらずに最強に近い地点に登りつめていること。
ロキファミリアは有名な探索系ファミリアであり、団員の実力は言わずもかなこのオラリアで一二を争う程の戦力を持つ。そしてその中核である"勇者"団長フィン・ディムナ、"九魔姫"リヴェリア・リヨス・アールヴ、"重傑"ガレス・ランドロック、───そして"奇才"ゲルテナ・ワイズ。
しかし中核に組み込まれているというのに、彼の本業は冒険者ではなく芸術家だ。遠征の編成による強制参加、また自身の作品の材料を収集しに行く以外は全く部屋から出てこないというのはファミリア内だけでなくオラリア中が知っている事だ。
だと言うのにLv.7という規格外の能力持ち。突っ込まざるを得ないと思っていたがもはや突っ込む気さえ起きない。
しかもメインの獲物はパレットナイフ。剣だとか槍だとか弓だとかの正規品とは言えない、挙句リーチの短い悪効率の武器で簡単にモンスターを狩る姿は、あちら側からすればさぞ悪魔のそれに見えるであろう。
その特殊な形の刃物を思い出した時、ふと自分をミノタウロスから救ってくれた金髪の女の子を思い出した。名前は確か、
「……パレットナイフ、そうだ! エイナさん! ロキファミリアだと思うんですけど、メアリーって女の子居ますよね?」
「メアリー? ……うーん、聞いたことないなぁ。……いや、そんな名前で登録している人は居ないみたい」
「あれ……いや、そんな筈はないと思うんですけど……あ、じゃあゲルテナさんに子供いますか?」
「ううん、ゲルテナさんは未婚の筈よ。そういう情報はないわ」
エイナの不思議そうな顔にあれ、とベルは首を傾げる。だが確かにあの女の子はゲルテナの事を「お父さん」と呼んでいた。あんなに小さい子でもダンジョンに入っているということは冒険者だし、そもそもミノタウロスを瞬殺できるくらいの力があるのにギルドに登録していない事は無いだろう。
もっと複雑な話なのだろうか。
あまり触れない方がいいことなのかもしれないなと勝手に頭で完結させたベルは、次に同じく金髪の剣姫を思考の先頭に持ってきた。
「……そう、ですか。あ、じゃあアイズ・ヴァレンシュタインさんの事について教えてください!」
「ベル君、私人の個人情報を言いふらすのが仕事じゃないのよ……」
◆◇◆◇◆◇◆
ロキファミリアの本拠地である黄昏の館、その廊下に一つの人影が静かに歩いていた。
遠征が無事終了し団員は休息、鍛錬、ステイタス更新と各々の目的の為に散った為か、まだ日が高いというのに普段より静かに思える。
と、考えている途端に目線の先からパタパタと忙しい、しかし可愛らしい足音が近づいてくる。
最早姿を見ずともその正体が分かる。
「そんなに慌てると転けるぞ、メアリー」
「あ! リヴェリア!」
やはり。予測していた笑顔を浮かべる少女の姿を確認して、リヴェリアの顔に穏やかな笑みが浮かんだ。帰還中とはいえ遠征に参加したというのに、疲れた様子も見えない。やはり
「リヴェリアはお父さんに用事?」
「ああ、そうだ」
「そっかー、アトリエに居るよ。多分話聞いてくれないと思うけど」
これも予想通りだとリヴェリアは若干苦笑する。彼女のお父さんことゲルテナは一度アトリエに籠ると蛹の如く出てこない。あれを動かせるのはそれなりの条件を携えた主神くらいではなかろうか。
メアリーはじゃーね、と手を振ってこちらの忠告など無かったようにまた元気に走り去っていった。年頃にあった無邪気な性格に、もう小言を言うのも諦めて自身も目的地である奇才のアトリエに歩みを進めた。
大窓から漏れる陽の光のみが照らし出したその部屋はどこか幻想的であり、そして鬱々しい。
首だけの、また首の無い像群。妖艶に、しかし裏のある笑みを浮かべる女の画。青い身体に真紅の瞳を嵌められた、禍々しい人形とその絵画。
そんな奇怪な空間の中央で、陽光を受けた男が一人キャンバスに向かっていた。
(集中している時の面は綺麗なんだがな)
絵具で汚れたその横顔と白いシャツ。素は端正だというのに本人は自分の容姿など微塵も気にしないものだから目立つのはいつもその仄暗さだ。なんとも勿体ない男だと思う。
そして随分と集中しているところ悪いがこちらも主神の伝言である以上後回しにはできないと絵の前の画家に声をかけた。
「ゲルテナ、ロキがお前を呼んでいるぞ」
「……いつか行くと言っておけ」
こちらに顔も向けずに返されたいつも通りの言葉へ、隠す気も起きずに溜息を吐いた。彼のいつかは本当に来るのか分からない程途方も無いいつかだ。いや恐らく意図的に忘却しているのではなかろうか。
しかしこちらも引く気はない。この為にロキは新しい
「そう言わずに行ってやれ。『来てくれたら新しい部屋を用意する』そうだ。少しくらい時間を割く気になるだろう?」
「………………分かった」
アトリエという言葉にやっとの事でこちらに視線を向けたゲルテナは、面倒臭そうな目をこちらに向けてそれはそれは深い溜息をついた。 ここ最近別にある作品置き部屋も埋まってきているのだから、製作の中断を強く嫌う男であってもこれについては頷く他無いだろう。
パレットを近くのサイドテーブルに置き、ゆっくりと立ち上がる。意外にもそれなりに姿勢が良く背が高い為に立位だと妙な威圧感を感じる影が、リヴェリアの立っている扉へと近付く。隈の目立つ顔、手入れのされてない髭と見慣れた顔。
ふとその背後にある一枚の絵画が目に入った。描かれたのはずっと前だというのに未だに彼のアトリエに飾られた絵画。
翠色の髪をした女の画───自分の肖像画だ。
彼の絵画は抽象画と呼ばれる作風が殆ど。肖像画はもとより自画像を書く事など滅多にないゲルテナが、何故か自分の絵を描いた。ずっと訳が気になっていたと言うのにそういえば聞く機会が無かったと何気無しに、自分の横を通り過ぎる男にその疑問を投げかけた。
「……ゲルテナ、何故私を描いた?」
「何だ、今更」
「気にはなっていたんだ。教えてくれてもいいだろう」
その言葉に意図がわからないとでもいうような怪訝な表情をしたゲルテナは、その灰色の瞳をリヴェリアに向けて特に躊躇することも無く、
「明確な理由は無い。俺が描きたいと思ったから描いた。……それだけだ」
そう短い返答とリヴェリアを残して出ていった。
『描きたいと思ったから描いた』
「油断ならない奴だな本当に……」
実にゲルテナらしい端的で、少々粗暴な言葉。
残されたリヴェリアはその場から動けないまま、誰も居ない部屋で少し赤くなった顔を隠すように口元を抑え、呆れ混じりの息を吐いた。
◆◇◆◇◆◇◆
「お、ちゃんと来たやん。良かった良かった」
「……アイズもいるのか。で、何のようだロキ」
「なんや相変わらず可愛げのない奴やなー。ええやん、労いは快く受け取っとくもんやで」
「いらん世話だ」
相変わらずなのはお前の軽薄さだろうとも付け加えられたその言葉に容赦はない。どうやら製作中に彼を呼び出したようで、アイズは彼の不機嫌さの理由を何となく察した。
ステイタス更新に来たアイズだがゲルテナが何のようで来たのか少し気になるので自室に戻ろうとしていた予定を変更して居座る事にした。二人での話なら席を外せと言われるであろうから問題は無いだろう。
アイズは不思議そうな顔をしてゲルテナを見るが、相手は軽くこちらを見ただけで直ぐに視線をロキに戻した。何となく、その素っ気ない様子が寂しい気もする。
ロキはわざとらしく悲しそうな仕草をしながらも、直ぐに切り替えて本題に入る姿勢になる。
「とりあえずステイタス更新せんか?暫くしてないしなぁ」
「……してやるからさっさと本題に入れよ」
「分かっとるって。つれへんなぁホンマ」
そう深い溜息を落とすゲルテナにロキは苦言を呈す。しかし断ると更に面倒な事になりそうな為か、彼は存外大人しくシャツのボタンを外してロキに背を向けた。
少し経って、ステイタスの更新が始まる。
「『赤色の目』、使うたんやって?」
ピクリとゲルテナが反応した。何故知っているとでも言いたげな目をしているが、あの遠征の前衛に立っていた者は殆ど確実に見ているだろう。誰が告げ口したか分からないが、フィン辺りではなかろうか。そういえばゲルテナが結構前に描いた絵と同じ状況だとふと思った。
「……仕方ないだろ。あの場面じゃさっさと決着をつける必要があった」
「状況は聞いとるしウチも仕方ないとは思っとる。判断は間違うてないから怒ってへんよ。けどな……」
「ああ、分かってる。多用するつもりは無い」
ゲルテナが遮るように口を開く。ロキの言いたいことは分かっていると。それこそフィンやリヴェリア、ガレスにも口酸っぱく忠告を受けていた様子をアイズも目撃しているから。
しかし今回ばかりは見逃してあげてほしい。そのおかげで私達が助かったのだから。
「ん、分かっとるならええんや。……更新終わったでー! ……おお、暫くぶりとはいえ凄まじいなぁ」
そうこうしている内に更新が終わったようだ。気になるが、他人のステイタスを盗み見るというのはマナー違反であるのでグッと堪えることとする。……でもいつかコッソリ見てしまいたい。
特になんの感想も無くすぐにシャツを着直したゲルテナは、ロキからステイタスの紙を受け取りそそくさと部屋を出ていってしまった。着替えから退室、その間僅か16秒、呼び止める隙もなく。
正直に言うと少し稽古の相手になって欲しかったのだが、彼が製作に取り掛かっている間は聞いてくれるような状態じゃないのは知っている。
その男の背中に少し寂しそうな顔をしたかと思えば、即座に切り替えセクハラ紛いな行為を仕掛けたロキに手馴れた目潰しを返しながら、アイズはゲルテナが出ていった扉をじっと見つめていた。
次回遠征時の出来事とゲルテナのステイタスを記載したい。
描写下手くそですがリヴェリアヒロインポジな雰囲気にしました。彼女照れてますが、彼が描きたい女性=好意と思ってはいけない(戒め)
赤い服の女がいい例である。
まあリヴェリアたんは行いがいいから悪意では無い筈なんだろうけどね。
ちなみに原作ではゲルテナ最後の作品がメアリーとなってますがそうするとこれに出せなくなるんで割と早めに描いた事にした。
メアリーが可愛いから出したいだけ。