咲き枯れて星いざないの詩   作:麻戸産チェーザレぬこ

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ももよぐさ 序章
とある日のおだやかな


 

 正午にさしかかろうとする小雨の帰り道。

 灰色の厚い雲は少しづづ光を帯びて上空の風に吹かれ、かすんでゆく。

 空の向こうがわには青い色が見え隠れをしていた。そう遠くない処から鳥の鳴き声が耳にはいってくる。その方を見ればめずらしい、仲好くならぶ3つの虹。

 

 じゃぁぶじゃ~ぶ~じゃぶりんりんぱっぱっ………傘布(かさぬの)は紫をふんだんに使い、露先(つゆさき)にあたるところから9センチを黒いろに染める洋傘の下。花葉色(はなばいろ)の長髪でのほほんとした女の子が歌う。

 そしてその子の隣には、漆のような黒髪を後ろで結った、発育のよい凛とした女の子がいた。

 

 2人の後ろで、もう1人の少女が足を止めて空を見上げていた。その子はこの3人の中で一番背が低く、シルバーグレイの少し雨に濡れた髪をポニーテールのようにセットしていた。

 普段活発な少女であったがこの時だけは酷く静かに見惚れていた。

 

 ともだちである須美と園子に教える。

 

「ねえ……! 見てみなって!!」

(ぎん)。もうすぐお昼なんだから静かに………っ」

「うおお~~お虹さんがみっつだ~! あの左の虹さんわたしみたぁ~い。そして右の虹さんは~わっしーだ~!」

「言えてるぞ園子っ。あの虹、園子みたいにぼんやりブラブラ揺れてるし、あっちの虹なんかどことなぁーく須美みたいにツンツンしてる」

「そのっち、銀。それはどういう意味かしら。教えてくれると嬉しいなぁ」

「わっしーみたいにクールだなぁ~って」

「それそれ」

 

 3人とも神樹館(しんじゅかん)――いっぱん的な小学校とは違い家柄が関係する教育施設――の6年生。

 園子の言い分を聞いた須美は「それそれ」と言った銀にだけ睨みをきかす。

 

「あー、ツンデレってやつよ」

「私のどこがツンデレよ!」

「……初めて会った時というか、勇者になってそこから色々あってこう、今みたいに一緒に帰る前さ。ほら……勇者になる前の私たちただのクラスメートだったじゃん。須美は近寄り難いザ委員長で、園子は変な子。まぁ悪い意味はないさ。もちろん」

 

 その通りだった。あの時の3人は住む世界がそれぞれ違い、狭い交差点を歩いていたとしても袖触れ合うことすら無いように過ごすのだと。

 

 そして須美、園子、銀は勇者でもあった。勇者とは人類の〝のぞみのひとつ〟。

 

 まず、3人の「今」は(しん)(せい)()298年6月24日。西暦は旧世紀となっていた。

 

 旧世紀である西暦にバーテックスという化け物が突如としてあらわれ人々を喰らい、人間が作ってきたビルや役所などを次々と壊していき人類を排除していった。そして人類を護るべく神樹様(しんじゅさま)という神様の集合体も四国に顕れてバーテックスは通れない壁をつくる。

 

 それと同時に大赦(たいしゃ)という人間の組織と、神樹様の御力(おおんちから)をたまわった勇者がバーテックスを滅するため表の世界にでてきた。そして生き残った人々は四国をめざした。

 ほぼ同時期に西暦は終わり、新たに神世紀とうつりかわる。

 

 これが神世紀におけるおおまかな歴史なのだけれども教科書では、

 

『人類を滅亡(めつぼう)の危機に(おちい)らせた死のウイルスです。外の世界で蔓延(まんえん)している死のウイルスから、神樹様(しんじゅさま)がわたしたちを護ってくださっているのです。』

 

 と記載されている。バーテックスの存在、勇者の存在は一般の人々に知られていない。神樹館の児童は勇者の存在はおぼろげに記憶しているがバーテックスの存在は知らない。

 大赦のとある位が高い者が言っていた。

 

「バーテックスは人類だけでなく神樹様も標的とした。神樹様の力をお借りするが勇者システムを、勇者を使った方がよいのだ。神樹様と我々大赦とともに創りだした、神樹様の負担を減らすシステムなのだから!」

 

 そうして須美、園子、銀は勇者として3体のバーテックスと闘った。最初こそ連携がとれず、普段の生活もさんざんであった。園子は銀にすこしの苦手意識を持っていたり、銀と須美はお互いを気にとめていなかったり、須美と園子は図書室で一緒になることがあったけれど園子と親しくなれるとは、あまり思っていなかった。

 

 だが、日がたつにつれお互いがお互いの善いところ、悪いところを知るようになった。励ましあった。褒めあった。一緒に怖い思いをした。一緒に楽しい思いと、思い出を須美と園子と銀の三人で築きあげた。勇者を鍛える合宿は傷がや豆が痛かった。

 園子の発案で須美の家でお泊り会をして須美の怪談に怯えながら寝た。勇者だから、など下らないモノはバーテックスと共にくたばった。

 

 

 銀が横目で園子と須美をちらり。 

 

 今こうして虹を見るのが楽しい。

 雨上がりの空の下をいっしょに帰るのが楽しい。

 

 でも、さよならをしたくない。

 

 ああ、そういえば、雨はどうしてやんだの? もっと降っていればどこかで雨宿りできたのに………。それか、雨に濡れながらバシャバシャ鳴らし走って園子か須美か銀の家におじゃまになりお風呂でおふざけしあたたまる。服がかわくまでなにをしようか。ああただ考えるだけなのにどうして心がはずむのだろう。

 

(ずっと、ずうっと)

 

 このままを……このさんにんでいたい。そしたらつらいのも、かなしみも、悪いのも、三人でならはねのけられる。そしてよろこびに楽しさ、おもいでは3倍どころではないのだ、と。

 

(…………ズッ友なぁ……)

 

 誰にも聴こえない声で銀はもらし、横にならぶ虹に目をきらめかせている須美と園子を見てはにかんだ。

 吸って、吐いて、うつむいて、そままま銀は抱きついた。

 

「わわっ、だいたんだよ~ミノさぁ~ん」

「はっ、はしたないわっぎん――ぎ、ん?」

「ミノさんが泣いちゃった!? どどどうしよ……」

「銀、傷がいたむの? ちょっと待っててすぐ応急処置するから」

「………にじ。きれいだね」

 

 あっけにとられた須美と園子は顔をみあわせ、これからイタズラをしでかす様にニンマリ口角を上げる。

 

「いよっ! 新雪の乙女・銀!!」

「なっ! なんだよそれぇ!」

「今のミノさんを次書く小説のヒロインの題材にしとよっかな~」

「恥ずかしいからやめてって! もう忘れろお前ら!!」

 

 ツンツンクールだがそれは静かに見守る虹、ぼんやりと揺らめき和ませる虹、2つの虹と少々黒い空と大地を明るくつなぐ虹が、須美と園子と銀のまえに、この閉じられた世界の中でマーチを描いている。

 

 

 

 


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