藤尭×切歌恋愛SS   作:ふゆい

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プロットの想定以上に切歌ちゃんが過激派になってて戸惑いを隠しきれない。


俺達の聖遺物がエクスドライブ

「それで、プランとしてはどんな感じなの?」

「ふっふー。今回は尊敬する先輩方監修のもと、完璧なデートプランを練り上げてきたのデーッス!」

「まぁデートではないけどね」

「このプランならドーテーでヘタレでプライドの高い藤尭さんもメッロメロのウッキウキになること間違い無しって言ってました」

「誰が? そんなふざけたこと言ったのは誰かな?」

「マリアデース!」

「ちょっと待っててくれるかな」

「デス?」

 

 事情を知らない切歌ちゃんを一時放置し、携帯電話を構えて通話する振りをしながらインカムの向こうで野次馬晒しているクソッタレ歌姫を名指しで呼び出し開始。

 

「おいマリア・カデンツァヴナ・イヴ」

『なによ童貞』

「女の子がそういう発言するんじゃありません! 後、男子は割とそういう単語に傷つきやすいナイーヴな生き物なんだからやめて!」

『私の可愛い切歌をお願いするんだもの、これくらい許してほしいわ』

「だからそういう関係じゃないって……」

『うるさい! 貴方がどう思おうと、私がそう思っているのだからそうなの! ちくしょう……ちくしょう……』

「勝手に喜怒哀楽しないでくれ……」

 

 ついには盛大に嗚咽を漏らし始めたマリア・オカンミタイナ・イヴに何とも言えない気持ちに襲われてしまう。なんだかとても理不尽な責められ方をしているように思えるのだけど、こういう時に何か反論をすると面倒くさいことになるのは以前酔っ払った友里さんで経験済みだ。ギャルゲーでは学べない大切な事を同僚は教えてくれた。自身の尊厳と翌日の体調を犠牲にして。

 

 めそめそと年甲斐もなく泣き始めた歌姫を相方が慰めるのを聞きながら切歌ちゃんの元に戻る。おそらく本日だけで後数回はこの流れがあるだろうことを察した。あの女性陣、切歌ちゃんが素直で純朴なのを良い事に俺への制裁を加えていくのホント性格が悪いとしか思えない。日頃サポートに準じている俺にいったい何の恨みがあると言うんだ。

 

『面白いからに決まってるでしょ(だろ)』

(ですよね!)

 

 知ってた。この集団は基本的に自分の興味があることには全力で首を突っ込む人種ばかりだって。特機部二自体がそういう風潮があるって、何気に最古参な俺は知っていた。基本的に変人ばかり集まってくるから、色んな意味で危険集団と揶揄されていることも俺は知っている。

 

 その中でも割と常識人枠な切歌ちゃんは俺が戻ってくるや否や、早速ぎゅぅっと腕に抱き着いてきていた。それこそ恋人にするように密着している。十五歳とは思えない程に成長したやぁらかい胸部がむぎゅっと押し付けられているが、俺は大人特有の鋼の精神で心を水面のように落ち着けた。明鏡止水の心を忘れるな朔也。相手は子供。子供相手に煩悩を抱えるのは罪深い行いと知れ。

 

「ど、どうデスか? これでも結構成長しているんデスよ?」

「おっぱいがすごい(女の子がそんな恥ずかしいことするんじゃありません!)」

「デ、デ~ス……」

『おい二十代』

(誤解だっ……! 今のはシンフォギアの音響効果によって俺の言語中枢が調律されたことによる誤変換なんだっ……!)

『高校生にも満たない女の子に欲情する成人男性って……』

『藤尭さん……』

(やめろッッッ! そうやって社会的弱者を集団で精神的に追い詰めていくのはやめろッッッ!)

 

 目の前にはいないはずなのに女性陣からの圧力が凄い。性犯罪者を見るような目を向けられているような気がして全身から冷や汗ダラッダラだ。肝心の切歌ちゃんは俺の無遠慮なセクハラ発言に顔を真っ赤にして思考回路フリーズしかけているけど、現在一番思考を手放したいのは他でもない俺だったりする。本当に十五歳の身体かあれが。むにゅって! むにゅってしてたんだけど! ねぇ! 俺にはハードルが高すぎるよ神様!

 

 ロリコン呼ばわりと社会的立場の狭間で揺れ捲っている内心を必死に抑え込みつつ、頬に両手を当てて意識が遠くへ行ってしまっている切歌ちゃんを引き戻す。

 

「ほ、褒められた、のかな? 女の人として見てもらえている、のかな?」

「デスデス語尾がなくなっているところ悪いけど切歌ちゃんしっかり! ほらほらまだ何一つプランを遂行できていないから! このままだと俺がただの少女性愛趣味の変態になっちゃうだけだから! 戻ってきて切歌ちゃん!」

『この場にいる半分以上の女性を敵に回すような発言をしますね藤尭さん』

「十歳も違う子に色々意識向けるのは世間的にマズいの! そこらへんに複雑な大人の事情があるの! 切歌ちゃんかむばぁーっく!」

「デスデス……はっ。す、すみません藤尭さん。落ち着いたデス」

 

 ようやく本来の口調を取り戻した切歌ちゃんに安堵の溜息。あのまま一人放心したまま残されていればいつか通報されていてもおかしくはなかった。恥ずかしそうに立ち尽くす女の子と慌てふためく成人男性とかどんな絵面だ。地獄か。

 

 とりあえずようやっと正気を取り戻した切歌ちゃんを伴い街中へと向かう。腕には相変わらず切歌ちゃんがひっついているが、それについて指摘する元気はもう残っていない。周囲からの視線が痛いが、そこはなんかも兄妹的なサムシングで寛大に見逃してもらうのを祈るばかりだ。通りすがりの奥様達がひそひそこっち見て何か言っているのなんか聞こえない。きーこーえーなーいー!

 

「まず最初はデスね、映画を見に行こうと思うのデス!」

「あ、意外とマトモな滑り出し。てっきり初っ端から非常識突っ走るのかと心配していたよ」

「……藤尭さんってたまに辛辣デスよね」

「それで、何の映画見るの?」

「清々しい程に誤魔化していますが、まぁいいデス。今回は何と、響さんチョイスなのデスよっ」

「一気に心配だ」

『えぇ~っ!? 私への信頼度低すぎませんかっ!?』

 

 逆に聞きたいがどうして信頼度が高いと思っていたのか。日頃の自身の言動をよくよく踏まえた上でもう一度言ってもらいたいところだ。「へいき、へっちゃら」などと言って大抵のネガティブ要素はぶっとばしてしまう超絶ポジティブ少女である響ちゃんがチョイスするデートにぴったりな映画なんて不安要素の塊しかない。しかも彼女はあの風鳴弦十郎司令官の一番弟子だ。ここで中国拳法映画3連続セットとか言われてもたいして驚かない自信がある。

 

 さて、どんなゲテモノ映画を持ってこられるのか。考え得るあらゆる選択肢を脳内でシミュレートし、できるだけ切歌ちゃんがショックを受けないようなリアクションができるように万全の体勢を整えつつ、予め響ちゃんから前売券をもらっていたらしい彼女が可愛らしい財布からペアチケットを取り出す姿を外見だけは余裕たっぷりに眺め――――

 

「【喘ぎ~昼夜の雑音に混じる男女の叫び。歌声は淫らな欲望と共に~】だそうデスよ!」

「立花」

『ヒェッ。ふ、藤尭さんらしからぬドスの効いた低音ボイスは怖いから駄目ですよぅ!』

「うるせぇ! 成人男性と未成年少女のコンビになんてエグいもん見せようとしているんだ! どういう関係にさせたいんだよキミはぁ!」

『い、いやぁ。師匠曰く、「まどろっこしいことは抜きにしてさっさとくっつければ問題ないだろう?」と……』

「問題しかないわ!」

 

 さすがに予想の大気圏外すぎて切歌ちゃんの前だということも忘れ怒鳴り声をあげる。幸い切歌ちゃんは観賞予定映画のあまりの官能っぷりに思考回路がショートしているらしく、「あたしのイガリマと藤尭さんのシュルシャガナがエクスドライブ――ッ!?」とおおよそ正気とは思えない発言を漏らしていた。なんだ聖遺物がエクスドライブって。どんな隠語だ。

 

 そんでもってまさかの最年長からの不意打ちで俺自身も思考を放棄しかけてしまう。なに考えているんだあのおっさんは。仮にも中学生相手に何をやらせようとしているんだ。

 

 いくらなんでも年齢制限ギリギリ、もしくは視聴禁止モノをこのまま見せるわけにもいかないため、どうにか代替案をあげてはみる。

 

「切歌ちゃん切歌ちゃん。そんな風紀的にアウトな危険映画じゃなくて、こっちの超人気俳優が主演している学園系メロドラマにしない?」

「い、いや大丈夫デス! あたし、見れます!」

「え」

「確かにタイトルで少しキャパシティを越えてしまいましたデスが、これは響さんが選んでくれた映画。なにか特別な理由があるはずデス!」

「ないよ! 仮に含みがあったとしても、それはたぶん野次馬根性から現れる余計なお世話ってやつだよ!」

「それに、今後こういうことをする未来が来たとして、この機会に勉強しておくっていうのはひじょーに大切だと思うのデス。うん」

「別に今回は性教育がメインのお出掛けじゃないから! 普通に映画見て楽しむのが目的だから!」

「ふ、藤尭さんにお恥ずかしいところを見せない為にも、イガリマ四八手をマスターしなければならないのデス」

「いやだからまだ子供の切歌ちゃんとそういう関係になるつもりは毛頭……ちょっと待ってその単語は誰から教えられたの」

「響さんデス」

「立花ァ!」

『そ、そんなに怒らないでくださいよぉ!』

『響、切歌の件で少し話があるわ。2、3発は顔面に拳が入ることを覚悟しなさい』

『ま、マリアさん!? うわーん許してくださーい!』

 

 ガングニール装者二人が仲睦まじくじゃれ合っているが、こちらとしてはそれどころではない。あのトラブルメイカー少女はアイドル大統領と幼馴染に任せておくとして、問題は切歌ちゃんだ。なんか変なスイッチが入っているせいでいっこうに退く様子がない。そもそも年齢制限とか倫理的観点とか色々と大丈夫なのか懸念はあるが、それよりもまず心配すべきことはポルノ映画を未成年少女と二人で観賞しようとしている俺の社会的立場である。先程タイトルを口に出したせいで近くにいる方々からの視線がすでに痛い。切歌ちゃんが立派な大人であるならばなんら支障は……いや、ないことはないけれど、いくらかはマシであっただろうが、現在彼女は齢15の中学生である。下手したら明日のお茶の間を色んな意味で賑わす展開になりかねない。俺はまだ公務員として働いていきたいので、最後の一線を越えるわけにはいかないのだ。

 

 妙な決意を秘めた顔で俺を見上げている切歌ちゃんにカッチコチの笑顔を浮かべつつ、

 

「き、切歌ちゃんがもう少し大人になったら見てもいいけれど、ほら、ね?」

「むー! 子供子供って馬鹿にしないでほしいデス! 確かに年齢は幼いかもしれませんが、だからってあたしの気持ちを粗雑に扱うのは納得いかないデス!」

「い、いや、そんなつもりはないけど……」

「もう怒りましたデス! こうなったら意地でもこの映画を見て、精神的にも肉体的にも藤尭さんに寄り添うしかありません!」

「何がどうしてそういう結論になったんだ!? ぎゃーやめてやめて切歌ちゃんゆるしてー!」

 

 俺の子供扱いにへそを曲げたらしい切歌ちゃんはぶすーっと不貞腐れた様子で俺の腕を引っ張って無理矢理受付へと歩いていく。痛い痛い痛い力が強い! その華奢な身体のどこにそんな怪力が眠っているんだ切歌ちゃん! 

 

「あたしは本気デス! 子供フィルターとかそういうのは取っ払って、ちゃんとあたし自身と向き合ってほしいデス!」

「うぐ、確かに正論すぎる……。で、でもでもそこは俺にも譲れないものがいくつかあるのであってその」

「あ、大人一枚と学生一枚でお願いしますデス」

「話を聞こうよ切歌ちゃん!」

『確かに、年齢を言い訳にして切歌ちゃんの気持ちから逃げるのは褒められたことじゃありませんよ藤尭さん』

「このタイミングで心に突き刺さる追い討ちはやめようね未来ちゃん!」

「楽しみデスねー」

「むっ、胸を押し付けるのやめようか切歌ちゃん。気づいていないかもしれないけれど、その攻撃は俺にとって効果抜群が過ぎる」

「(……カァァァッ)」

「顔真っ赤! 確信犯か!」

 

 若者特有の謎行動力でアピールを繰り返す切歌ちゃんに戦慄が止まらない。そもそも何を勘違いして俺に恋慕しているのかまったく分からないのだけれど、子供特有の友好関係と恋愛関係を取り違えているパターンであろう彼女の気持ちをまっすぐ受けとるわけにはいかない。俺はあくまで大人として、彼女を正しい方向に導く義務がある。たとえ俺自身が彼女からの好意に対して満更ではないとしても、それはそれ! もっと相応しい男が現れるから! 俺なんかより高性能で切歌ちゃんにお似合いの男性が!

 

 ……でも、そこら辺の馬の骨に貰われるのはなんか嫌だなぁ。

 

「はっ、まさかこれが父親の気持ちッ!?」

「バカなこと言ってないで入るデスよ」

「謝るから爪先踏まないで」

 

 割とマジな強さで右足の爪先を踏み抜かれて悶絶しかけるが、そこは大人のプライドでなんとか乗り切る。それと切歌ちゃんの表情がノイズを殺せそうなくらい殺意に溢れていたのでそれ以上余計なことを口にするのはやめた。女の子は怖い。

 

 溜息をついて大人しく映画館の中へ向かう。今なら緒川さんの気持ちが痛いほど分かる気がした。少女からの好意を素直に受け取れないこの感じ、すっごいモヤモヤする。でも確かに、切歌ちゃんの言い分にも一理あるわけで……。

 

「切歌ちゃん自身に向き合う、ね……」

 

 簡単なように見えるその意識を俺が持つには、もう少し難関を突破しないといけない気がした。

 

 


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