藤尭×切歌恋愛SS   作:ふゆい

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 マイナーカプなのにお気に入りと評価増えててイガリマ嬉しいデス。ありがとうございます。


野次馬根性装者色

 集合時間はお昼過ぎ、集合場所はなんとリディアン女学院の校門前だとのこと。女子高前で女子学生とデートの待ち合わせとか考えようによっては相当マズいと思うのだけれど、切歌ちゃんはまだリディアンに入学していないからギリギリセーフらしい。というか、その言い分だと俺は今から女子中学生とデートをすることになるんだが、その辺は大丈夫なのだろうか。道中で警察沙汰になるのだけは限りなく避けたいところだ。

 

『大丈夫ですよ~。藤尭さんと切歌ちゃんのデート大作戦は、私達が全力を以てサポートしますからっ』

「まずもって野次馬根性丸出しで観戦されている方が凄いやりづらいんだけど……」

『ごめんなさい藤尭さん。響がどうしても聞かなくって……』

『わっ、ずるい未来! 未来だって二人の様子が気になるからって緒川さんに尾行をお願いしていたじゃんかー!』

『それは、まぁ……』

「女子ってのはどうしてこう余計に首を突っ込みたがるんだ……」

 

 右耳の小型イヤホンから聞こえてくる女性陣の喧騒に一人溜息を零す。声が聞こえていないが、いつもの二人以外にも調ちゃん、クリスちゃん。それと今日はたまたま仕事がオフだったらしい翼さんとマリアさんという装者勢揃いのご様子。響ちゃん達はさておいて、こういうことに興味がなさそうな歌姫の二人まで野次馬しているというのは非常に不思議なところではある。意外と好きなのかな。

 

 そして、話を聞く限りだと緒川さんが俺の事をどこかで盗撮しているらしい。一応それとなく周囲に気を配ってはいるが、まったく姿を捉えることができていない。緒川さん、こういう時に限って忍者としての特権を最大限に利用してくるのはどうなんですかね。ていうか、貴方はそういう扱いでいいんですか。

 

「完全に見世物じゃないか……」

『藤尭さんが女性慣れしていないっつうからアドバイス代わりに助けてやってんじゃねぇか。あんまりボヤくなって』

『クリス、意外と乗り気だね。こういう色恋沙汰は苦手だと思ってたけど』

『他人事だからな』

『じゃあ次回はクリスちゃんと師匠のデートだねっ! 楽しみだな~』

『ぶっ!? ななな、なんでそこでおっさんの名前が出るんだよ! かっ、関係ないだろ!?』

 

 完全に裏返った声で動揺を隠そうともしないクリスちゃんだが、その他大勢の微笑ましい雰囲気をインカム越しに感じる。そもそもあれだけ司令に対して露骨な反応をしておきながら、どうこうないとか言い張るのはあまりにも今更が過ぎるのではなかろうか。まぁむこうはクリスちゃんのことを女性というより娘、近所の子供として扱っている節があるから、本人的には複雑なところではあるのだろう。年齢もかなり離れているし、司令自身そういった情事には疎そうだし。子供が思っている以上に、大人にとっての恋愛事は縁遠いものなのだ。

 

『藤尭さんの言い分も分かりますが、暁のアレは紛れもなく貴方に向いていると思いますけれど……』

「大人には迂闊に踏み出してはいけない一歩というものがあるんですよ。翼さんのアピールに気が付いていないふりをするどこぞの忍者みたいにね」

『『げっふぉぉ!?』』

 

 図星を突かれたらしい翼さんがキャラも忘れて盛大に咳込んでいるが、それ以上に隠密業務を忘れるくらいに動揺している緒川さんの咽せ方がエグイ。詳細の位置までは未だに掴めないながらも、なんとなくの方向くらいは分かった。ていうか、社内恋愛激しいなこの職場。いつか相当にギスギスした部署になりそうだ。

 

『現在はその当事者落下地点が藤尭さんなんですけどね』

 

 未来ちゃんが何か言っているがまったく聞こえない。

 

 そんなこんなでインカム越しに野次馬集団の会話を聞き流すこと十分ほど、様子を見ていた緒川さんの『お、来ましたよ』という発言に全員が思わず静まり返る。トタトタという可愛らしい軽快な足音が聞こえてきたかと思うと、もはや聞き慣れた子供っぽい声が飛んでくる。

 

「藤尭さんごめんなさいデース! 服選んでたら遅れちゃってー!」

「――――――――っ」

 

 ニコニコ笑顔で走り寄ってくる切歌ちゃんだが、彼女の言葉に何かを返す余裕が今の俺にはなかった。嫌がっているという訳ではない。ある程度覚悟はしていたというのに、オシャレをしてきた彼女そのものに見惚れてしまっていた。

 

 彼女のシンボルカラーであるライトグリーンを基調とした、フリルがあしらわれたオフショルダー。下半身は反対に活動的な印象を見せるホットパンツながらも、彼女の健康的で引き締まった太腿を存分にアピールしている。あえてスニーカーをチョイスしているのは、女性的な魅力よりも切歌ちゃんの印象を優先したのだろうか。彼女の魅力を殺さず、多方向に最大限引き出した最高のコーディネートだ。

 

『ふふふ。驚いていますね藤尭さん。そう、これは私とマリアさんが二人で徹夜の末に考えた無敵コーデ。その名も【童貞を殺すコーデ】ですっ!』

「未来ちゃんちょっと黙ろうか」

『あぁ切歌……ついこの間まであんなに小っちゃかったのに、もうすっかり魅力的な美少女に成長しちゃって……』

『マリア、その発言はちょっとお母さんみたいだからやめた方がいい』

『そっ、そんな年齢じゃないわよっ。でもでもっ、藤尭さんも可愛いって思うでしょ!?』

 

 色々とツッコミどころはあるが、マリアさんの言う通り滅茶苦茶可愛いと言っても過言ではないだろう。実際、俺が今まで関わってきた女の子の中でもトップ3には入る。元がいいというのもあるけれど、未来ちゃん達のコーディネートセンスが卓越しているのが大きい。余計な一言については後日問い詰めるとしよう。

 

 息を切らして駆けてきた切歌ちゃんは思わずと言った様子で膝に手をつくと、何度か大きく息を吸って身体を落ち着かせていた。前屈みになったことでオフショルダーの胸元が軽くだらしなくなっているが、俺は大人なので全力で目を逸らす。大丈夫。警察沙汰にはならない。

 

『藤尭さんサイテー』

「おい今の誰だ」

「どうしたデスか藤尭さん? 急に独り言言って」

「な、なんでもないよ。ちょっと暑いなぁって思ってさ」

「そうデスか? 結構涼しいと思いますけど……」

「だとしたら切歌ちゃんが可愛いからだね! うん! テンションが上がってるんじゃないかな!」

「え、えへへ……急にそんなに褒められると照れるデ~ス」

『(ニヤニヤニヤニヤ)』

(ちっくしょう!)

 

 女性陣だけでなく緒川さんのいる辺りからも微笑ましい雰囲気が伝わってきて羞恥心がピークだ。いくら不自然な発言を誤魔化す為とはいえ、相変わらずアドリブが利かない自分自身に嫌気が差す。くそぅ、完全に自分から墓穴を掘ったぞ今……。後でどれだけからかわれるか分かったものではない。

 

 はぁ、と軽く溜息をつく。まさか高校生にもならない女の子と二人っきりで出かける日が来るなんて夢にも思わなかった。それも年齢差十歳以上の少女とだなんて。こんなに緊張感に溢れた初デートがあっていいのだろうか。軽く憂鬱になりかける俺だったが、表情が優れない理由を何か勘違いしたらしい切歌ちゃんが少し申し訳なさそうに声をかけてくる。

 

「あ、あの……もしも迷惑だったら、今日はやっぱりこのまま解散しましょうデス……」

「はい? なんでいきなりそんな話に」

「だ。だってさっきから藤尭さん楽しくなさそうデスし……無理矢理誘っちゃったから気を遣われているのかと……」

「……参ったな。子供にそんな顔をさせるのは、大人として落第点だ」

「あ、あたしは子供じゃ……わぷっ」

 

 何か言いかけた切歌ちゃんを遮るように乱暴に頭を撫でる。不意の攻撃にどうすればいいか分からないらしい彼女は目を白黒させながら慌てふためいているが、そんなのはお構いなしにわしわしを続ける。『お、女の子の髪をそんな乱暴にぃーっ!』と過保護な歌姫の悲痛な叫び声が鼓膜をぶん殴ってくるが、キンキンする耳を犠牲にしつつ、勝手に傷ついている不器用な少女へ話しかけた。

 

「俺がジト目でボヤいているのなんか、今に始まったことじゃないんだよ。分かりにくいかもしれないけど、これは俺の性格の問題、捻くれた俺の表情なんざ気にする必要は全くないんだから」

「デース……」

「それに、切歌ちゃんが思っている以上に俺は今日のことを楽しみにしていたよ。色んな所に連れていってくれるんだろう? だったら、俺の顔から笑顔が消える暇がないくらい楽しませてくれよ」

「っ……あ、当ったり前デース! 不肖この暁切歌、藤尭さんがメロメロに、骨抜きになっちゃうようなデートを提供してみせるデス! 子供だからって舐めていたら、とんでもないんデスからね!」

「語彙力的に心配だけど、勢い的には大丈夫そうだね。今日はよろしく」

「よろしくデース! じゃあ、早速出発するデスよー!」

 

 すっかりいつもの快活さを取り戻した切歌ちゃんは俺の手を取ると張り切って歩き始める。不意に手を引っ張られてつんのめりかけるが、そこは大人としての意地と体幹でなんとか耐えた。俺の性格の悪さで切歌ちゃんが悲しんでしまうのは極力避けたいところであるから、今日一日くらいはボヤき癖を封印できるように努力しよう。子供を泣かせる大人にロクな奴はいない。相手が俺の事をどう思っていようが、それは変わらない。同級生達に見られたらなんて言われるか、想像もできないが。

 

 ――――まぁでも、

 

「藤尭さんとデートっ♪ 藤尭さんとデートっ♪」

 

 全身から喜びオーラを溢れさせる切歌ちゃんの笑顔を見られるのなら、多少は世間体を我慢してもいいかもしれない。

 

 


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