藤尭×切歌恋愛SS   作:ふゆい

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 マリアさん√は一旦おやすみしてふじきり更新。耐えられなかったんだごめんな。
 章分けるので更新した時はマリアさんもよろしゅう。

 ※更新されても最新話が変わってない時は、挿入投稿の可能性あるので目次から最新話探してクレメンス。


ExtraEpisode:ふじきり旅情はとんこつ風味
ふじきり旅情はとんこつ風味


「旅行に行きたいデス、朔也さん」

「はい?」

 

 唐突にそんなことを言い始めた切歌ちゃんに素っ頓狂な声を上げてしまう仕事中の俺。現在は今年の締めを行っており、溜まりに溜まったデータ整理の真っ最中だ。そこまで忙しいとは言えないものの、ここ二年で活発化していたノイズ関連の資料やFIS組の聖遺物関係のデータが急増している為、結構手間がかかっていたりする。

 

 そんな中、ちょっとむくれた顔で俺の肩に顎を乗せる切歌ちゃんは、可愛らしいまん丸とした目をちょっとだけジト目に変えて、見るからに不貞腐れた様子でいじいじとボヤき始める。

 

「せっかく恋人になったのに、近場のデートばっかりじゃつまんないデスよぉ」

「そうは言っても、纏まった休みが取れなかったから仕方ないじゃん」

「それはそうデスけど……でもでも、あたしはもっと朔也との思い出を作りたいデスよ……」

 

 しゅん、と自慢のアホ毛を萎れさせる切歌ちゃん。二人きりの時にしか出さない呼び捨てをしてまで駄々をこねているということは、相当我慢をしていたのだろう。もしくはマリアさん辺りに何やら言われたのかもしれない。デスデス言って元気印な切歌ちゃんだが、何気に打たれ弱くて常識人な所がある。今回ももしかしたらその類かもしれない。

 

 しかしながら年末年始。もしかしたら長期休暇が取れるかもしれない。淡い期待を込めて司令の方に視線をやると、大仰に肩を竦めながら大人の貫録で溜息をついていた。

 

「藤尭、大晦日から一週間の休暇を取れ。お前、有給休暇大量に余ってただろう」

「う。ゆ、有給削られるんですね……」

「当たり前だ馬鹿。本来の年末年始休暇以外はできれば待機しておいてほしいのが現状だ。それでも休みを取らせてやろうって言うんだから、むしろ感謝してほしいくらいだぞ」

「その辺は……はい、ほんと感謝してます」

「まぁいいさ。恋人の機嫌を取り戻すのは男の責務だ。せいぜい楽しめよ」

「司令、ありがとうございますデス!」

「いいさ。藤尭の代わりは友里が休日返上してでも働くからな」

「死ね」

「殺意が凄い」

 

 とても妙齢女性とは思えない言葉遣いにハンドサインを乗せられて正直恐怖が半端ない。これは休暇明けに居酒屋の一軒でも奢らないと来年度を迎えられないな……。もしくは友達を紹介しよう。合コン的なサムシングで。

 

 司令の厚意によって無事に長期休暇を得られたことに大満足な切歌ちゃんは、心底嬉しそうな笑顔で俺に背中から抱き着くと、内心の喜びを隠すことなくデスデスじゃれついてくる。

 

「やったデース! 今日は旅行の計画を立てる為に、朔也さんの家に泊まりに行くデスよ!」

「それはいいけど、とりあえずは仕事中だから一旦離れようか切歌ちゃん」

『チッ……イチャつきやがって』

「ね? 周囲からの憎悪が凄いから、俺の身の安全のためにも仕事終わるまで勉強してて」

「むぅ、仕方ないデスね。終わったら迎えに来てくださいデス」

 

 俺の懇願にようやく折れてくれたらしい切歌ちゃんは口を尖らせながらも、どこか高揚感に溢れた足並みで休憩室へと向かっていった。ていうか、勉強の休憩時間でわざわざ本部にまで足を運ぶあたり行動力を感じる。いやぁ、愛されているなぁ俺。

 

「話は聞かせてもらったわ」

「もうツッコムのも面倒なんですけど、いつから俺の後ろに立っていました?」

「さて、どうでしょうね」

「ポジション取りしたのはついさっきですよ、藤尭さん」

「あ、未来ちゃんもいたんだね」

「はい、響が訓練中なので」

 

 いつの間にか俺の肩に頬杖をついていたマリアさんと、困ったような表情で見守っている未来ちゃんの神出鬼没コンビに虚を突かれてしまう。この二人、唐突と言うかなんというか、何の前触れもなく視界に現れるから心臓に悪い。特に未来ちゃんはマリアさん程自己主張が激しい訳でもないので、反応が一瞬遅れてしまうのがネックだ。

 

 しかし、どうしてこう悪いタイミングで現れるのだろうかこの人は。

 

「二人きりで旅行だなんて、良いご身分ね?」

「いやまぁ、恋人同士ですしそれくらい普通なのでは?」

「あら、知らないのかしら朔也。高校生未満が旅行に行くときは、保護者の許可が必要なのよ?」

「アンタつい何か月か前に切歌ちゃんは自分で責任が取れるどうこう言ってたでしょ」

「言ってない」

「いや、言ってましたって」

「言ってない! 言ってないもん! というか、二人きりで旅行だなんて羨ま……けしからんことお母さん許しませんよ! 風紀を乱しているわ!」

「えぇ……」

「すみません藤尭さん、マリアさんがどうしても聞かなくて……」

「未来ちゃんが謝ることじゃないよ」

 

 本当に優しい子だなぁ、と素直に感心する。……隣に子供みたいに駄々をこねている歌姫がいるから、なおの事。

 

 しかし、このまま話が停滞するのはできるだけ避けたいところだ。そもそもこちとら仕事中である。さっき無理言って休暇を貰った身であるのに、これ以上仕事が滞ると司令からどんな肉体的指導を受けるか分かったものではない。旅行前に肉体損傷で入院とかいう結末だけはなんとしても回避しなければ。

 

 装者の中で最年長とは思えない言動を見せるマリアさんをとにかく落ち着かせるべく、俺は心の中で切歌ちゃんに謝罪の意を表明しつつも、彼女の手を優しく握ると一つの提案を行った。

 

「か、帰ってきたらご飯奢りますから。……だから今回は大人しくしていてください」

「……ほんと?」

「えぇ本当です。なんでも奢りますから、楽しみにしておいてください」

「…………」

「……ね?」

「…………し、仕っ方ないわねぇ! ま、まぁ? 私は天下無敵の歌姫だし? そうやって感謝の気持ちを忘れないって言うのなら? 今回ばかりは貴方の帰りを待たせてもらおうかしらね!」

「ちょろい……」

「ちょろいですね……」

「二人とも何か言った?」

『お綺麗ですねって言いました』

 

 提案一つであからさまに舞い上がっている様子のマリアさん。自分で言っておいてなんだが、この人あまりにもちょろすぎやしないだろうか。さっきから傍観者決めている未来ちゃんでさえ顔を引きつらせるレベルでちょろい。大丈夫かこの人。知らない内に悪い男に引っかかりやしないだろうな。

 

 完全に上機嫌な彼女はるんるんという擬音が具現化しそうな程の足取りでトレーニングルームへと戻っていく。一から十まで嵐のような人だ。彼女の手綱を握っている調ちゃんは相当に苦労しているのだろう。

 

「それじゃあ、私も響の様子を見に戻りますね」

「キミも大変だね未来ちゃん」

「いえ、マリアさんにはお世話になっていますし」

「まぁ、面倒見は良さそうだしね……」

「はい。……それじゃ、私もご飯楽しみにしていますから。響も一緒に、ね?」

「えっ。ちょ、ちょっと待って未来ちゃん。そんな約束はしていな――」

「失礼しましたー」

「未来ちゃーん!?」

 

 制止の声も空しく軽やかに本部から消えていく未来ちゃん。案外強かな女性らしい未来ちゃんはもしかしたら装者の中でもトップクラスの実力を持っているのではないだろうか。そりゃああの響ちゃんが完全に尻に敷かれる訳である。流れる様に俺の出費を増やした実績は只者ではないらしい。

 

 き、休暇明けにいくら使うんだ俺は……。

 

「プレイボーイも大変だな、藤尭」

「面白がっているでしょ司令……」

「当然だ。色恋沙汰は酒の肴にピッタリだからな。この間みたいな状況ではないのなら、外野として楽しませてもらうのは当然だろう」

「さいですか」

 

 豪快に笑ってバシバシと背中を叩いてくる司令に返す言葉もない。いつかクリスちゃん関係で慌てふためく様を見た時にうんと仕返しをしてやろうと心に決めた。二人の関係性を見る限り、その光景はしばらく来なさそうではあるけれど。

 

 

                ☆

 

 

「お風呂あがりましたデスよぅ」

「はいはい。晩御飯作るから居間で待っててね」

「はいデスッ。いやぁ、家庭的な彼氏を持って、あたしは本当に幸せ者デスねぇ」

「そう思うなら家事の一つでも覚えてみたらどうだろうか」

「さ、さぁて旅行先でも検討するデスよっ」

 

 完全に聞こえないふりをしている切歌ちゃんに呆れの溜息をつくが、俺は俺で好きで家事をしている面もあるのでそれ以上追及はしないでおく。それよりも下着にだぼっとしたシャツ一枚で部屋の中を歩き回られる方が心臓に悪いのでそちらを先に注意した方が良さそうだ。

 

 視線をそらしつつ指摘すると、切歌ちゃんはソファに寝転がったまま、あっけらかんとした表情を浮かべる。

 

「……あの、今更それくらいで恥ずかしがる仲デスか」

「ち、違うけど、そこは、ほら、羞恥心とか女の子らしさの問題とか……」

「はぁぁぁ。草食系もここまで来ると絶食系デスよ朔也……」

「う。め、面目ないです……」

「まぁいいデスけど。そ、の、か、わ、りぃ? あたしがちゃぁんとリードしてあげますから……ね?」

「き、今日は旅行先決めないといけないから寝るまで禁止です」

「了解デスッ。むふふ、楽しみデスねぇ」

 

 とても十五歳とは思えない妖艶な雰囲気を纏う彼女に胃痛が止まらない。これはもう年齢とか世間体とかそういうの一切合切抜きにしてちょっとマズいのではないだろうか。あまりにも色魔が過ぎる。このままでは彼女の教育にも差支えが……。

 

「おぉっ! 福岡グルメ散策の旅なんてどうデスか朔也! あたし、美味しいものが食べたいデス!」

「……はぁ」

「むむ? どうしたデスかなんか気の抜けた顔で溜息をついて。それよりほら! ゴマサバとかモツ鍋とか美味しそうデスよ! 検討しましょう検討!」

「そうだね。滅多に行く機会ないし、九州なんていいかもしれないね」

 

 さっきまでのサキュバス感はどこへやら、すっかりいつもの天真爛漫暁切歌に戻っていた。あまりの振れ幅にこちらの意識の切り替えが追いつかない。可愛いし気立てもいいし自慢の恋人ではあるけれど、あまりにも振り回されてしまってちょっと疲れてしまうのは少々問題だ。幸せな悩み、と以前に未来ちゃんに怒られてしまったのは記憶に新しい。

 

 作り終えたビーフシチューを切歌ちゃんと共にテーブルへ運ぶ。共同作業が嬉しいのか満面の笑みで手伝ってくれる彼女に癒された。こうしていれば可愛いのに……女の子というのはよく分からない。

 

 ソファに腰かけると、こちらに身体を預けて猫のように甘えてくる切歌ちゃん。横髪を弄ってやると、気持ちよさそうに喉を鳴らす。ちょっと楽しくなってくるが、これ以上やると晩御飯どころではなくなる為、名残惜しさを感じつつもテーブルに向き直る。

 

「はい、いただきます」

「いただきますデス!」

 

 隣で美味しそうにシチューを食べる切歌ちゃんが本当に可愛くて死にそう。見ているこっちが嬉しくなるような食べ方をしてくれるので、俺も料理の作り甲斐がある。

 

 ただ、少しばかり行儀が悪いらしく、口の端にシチューを付けたままスプーンを動かす彼女に微笑ましいものを感じた。

 

「ほら、ついているよ」

「むぐ」

 

 ティッシュで拭ってやると、少しむくれながらもされるがままの切歌ちゃん。子ども扱いされることが未だに不服らしい。今回ばかりは俺には非がないのでは、と思わないでもないけれど、その辺は指摘すると痛い目を見るのであえてスルー。

 

「朔也だって子供みたいなのに、こういう時だけ大人ぶるのはずるいデス」

「まぁそこは経験の差というか、純粋に年の功というか」

「ムッツリスケベなところは中学生みたいデスけどね」

「悪い事言うのはこの口かな~?」

「い、いひゃい! いひゃいでふよひゃくや! ごめんなひゃいでふ~!」

「分かればよろしい」

「うぅ、朔也はたまに意地悪デス……」

 

 抓られた頬を擦りながら涙目でこちらを睨み付けてくる切歌ちゃん。自業自得だとは思うけれど言わない。それよりも、珍しく庇護欲丸出しで弱弱しい姿になんかこう、イケナイ気持ちになってしまう。

 

 心の中にドス黒い感情が膨れ上がるのを感じながらも、彼女の手を取った。

 

「さ、朔也……? ひゃっ」

 

 何をされるか分かっていない様子の彼女を他所に、俺は無言のまま人差し指を加えると、まるでキスをするかのように少しずつ舌を絡めていく。指先にもシチューが付いていたのか、香ばしい匂いと味に舌鼓を打ちながら彼女の様子を窺う。

 

 こういったじれったい行為はされ慣れていないのか、混乱したように目を白黒させると、未知の快感に瞳を潤ませながら必死に声を抑えていた。それでも、我慢しきれない嬌声が水音と共に俺の鼓膜を刺激する。

 

「あっ……なに、を……っっ」

「……ごめんね切歌。ちょっと今日は、俺が我慢できそうにない」

「それ、は、いいんデスけ、どっ……! なん、で、指を……ひぅっ」

「…………」

「何か言ってくださいよ朔也ぁ!」

 

 我慢ならないとばかりに声を上げる切歌ちゃんだけれど、ちょっとこっちも限界だから無駄口を叩いている余裕はない。すっかり水気でふやけてしまった指を離すと、そのまま腕、首筋、そして口へと唇を何度も落としながら彼女のシャツを捲っていく。健康的な肉付きのお腹を少し擦ると、ぴくっと切なそうに全身を震わせた。

 

「さくやぁ……もう、あたし……」

「……後片付け手伝ってくれるなら、お望みどおりに」

「て、手伝います! 手伝うデスから……早くっ……」

「切歌は本当にいやらしいね」

「そ、そんなこと――むぐっ」

 

 減らず口を叩こうとした彼女の口を塞ぐと、そのまま下着に手をかける。徐々に大きくなる悲痛な声を背景に、俺は思いのまま彼女の身体を貪っていく。

 

 

 




 という訳で福岡旅行編始まります。

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