藤尭×切歌恋愛SS   作:ふゆい

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 ――待たせたなッ!
 待望の、切歌√アフターだ! R-15描写注意デス。


切歌アフター

『――敵ノイズの設定数は50。場所は市街地を想定。そこまで厳しくはないと思うけど、リンカーはいつもの半分しか使っていないから無理はしないでね』

「了解デスッ。でも大丈夫デスよ。一人での訓練デスけど、朔也さんのサポートもありますし」

『まぁ今回は実験的な面もあるしなぁ。……内容的には少し恥ずかしいけど』

「そうデスか? あたし的には嬉しいデスけど」

 

 ギアのスピーカーから聞こえてくる愛しい彼のボヤきに表情が綻ぶ。いつも先を見据えた弱音を吐きまくる彼であるが、それは誰よりも状況観察能力に長けている証明でもある。心強さは段違いだ。それに、戦闘訓練であろうとも、彼の声を聞けるというのは非常に嬉しいものであった。

 

 さて、朔也さんが言う今回の目的であるが、「シンフォギアの適合率は愛情で向上するのか」という内容だ。以前に未来さんが神獣鏡を纏った時にウェル博士が「シンフォギアの適合に必要なのは愛」だとかなんとか言っていたが、今回はその仮説の証明が目的になる。正直眉唾ものではあるけれど、あたしとしては願ったり叶ったりだ。

 

 それに、少しばかり突撃癖のあるあたしをオペレートでサポートしてくれるというのは、実際の戦闘効率としても理に適っている。まぁ、ものは言いようデスけれど。

 

「あたしと朔也さんの愛で、ノイズなんか蹴散らしてやるデス!」

『す、ストレートに言われると照れるから勘弁してくれ』

「何を言っているデスか。せっかく二課公認で恋人関係なのデスから、誰にも遠慮することはないのデス!」

『私は認めないわよっ! 訓練は訓練、プライベートはプライベート! 公私混同は困るわね!』

「げ、マリア」

『何よその害虫見た時みたいな反応は』

 

 あからさまに不機嫌な姉貴分の声が朔也さんの後ろから聞こえてくる。歓迎旅行の一件から何かと突っかかってくるマリアだが、いい加減諦めてほしいところだ。しぶといというか諦めが悪いというか、そういうところは子供っぽいんだから始末に負えない。

 

 ……ていうか、朔也さんの声と同じように聞こえてくるってことは。

 

「マリア。もしかしてあたしの朔也さんとベタベタしてないデスよね?」

『え~? どうかしらねぇ~?』

「ひ、卑怯デスよマリア! あたしが離れている時に!」

『私はマリア・カデンツァヴナ・イヴ。チャンスは必ずモノにする女!』

「ぐ……ポンコツマリアのくせに生意気デスッ……!」

『え、何その呼称』

「朔也さん。後で戻ったら覚えておいてくださいネ」

『何もしてない! 何もされてないから怒らないで切歌ちゃん!』

 

 あたしの宣告に悲鳴をあげる朔也さん。分かってはいる。彼が無実なのは分かってはいるけれど、それでも女にはときに譲れないところがあるのデス! 具体的には、あたしが近くにいないのを良い事におそらくボディスキンシップを取っているであろうマリアが! マリアが!

 

「かかってこいやノイズ共デェエエエエエエッス!」

『き、切歌ちゃん落ち着いて……』

「朔也さん!」

『は、はいぃっ!』

「三十秒で終わらせるデスから、最適動作の計算と指示をお願いしますデス!」

『りょ、了解!』

 

 朔也さんの返答と共にシミュレーションが開始される。周囲をビルや家屋に囲まれた市街地の中で、道路の向こう側からゾロゾロとやってくる大量のノイズ。飛行型や大型ノイズも相当数いるようだが、何も恐れることはない。

 

 愛する人からの指示が、間髪入れずに飛んでくる。

 

『イガリマは中近距離型のシンフォギアだから、飛行ノイズが相手となるとちょっと手間がかかるかもしれない。まずは陸上を殲滅しよう。その最中に飛行型が近づいて来たら逃がさず駆除。タイミングはこっちで伝えるから、歌いながらも意識は向けてね』

「大丈夫デス! 朔也さんの声なら、たとえ寝てても跳ね起きてみせるデスよ!」

『その意気だ。じゃあ行こうか、切歌ちゃん!』

「デスデス、デース!」

 

 朔也さんの合図に鎌を振り上げる。向かってくるノイズの群れを睨み付けると、胸の内から湧き上がってくるイガリマのイントロ。湧き上がる思いを歌に乗せ、地を駆ける。

 

「~~~♪」

『四時の方向から武士ノイズ! 二秒後、十二時から飛行型ノイズが飛来注意!』

「デスッ!」

 

 指示通りに向きを変え、鎌を振るう。カチ、という起動音が鳴ったかと思うと、肩のアーマーから発射されるアンカー。直上から飛来してきていた飛行型ノイズを捉えると、バーニアを噴かせて急接近、叩き斬る。

 

『着地地点に敵ノイズ十五体接近! 少し離れたところにもう十体いるから、そのまま蹴散らしちゃえ!』

「デ――――ッス!」

 

 アーマーに内蔵されていたもうひと振りの鎌を取り出すと、バーニアの勢いを利用して投擲。着地地点が確保されたのを確認し、鎌の切っ先を発射。

 

 いつもより身体が軽い。イガリマも、今まで見たことがない機能を見せてくれている。適合率の向上や装者のバトルスタイルに合わせて機能ロックが解除される、と翼さんは言っていたが、運動性といった面でもそれは適用されるらしい。リンカーは通常の半分程度しか服用していないにも関わらず、まるでこの身一つであるかのように身体の運びがスムーズだ。

 

 一閃。粉砕。切断。

 

 歌声に力を乗せて、片っ端からノイズを切り裂いていく。一人なら気が回らないところは、朔也さんの的確な指示で完璧にカバーできていた。

 

 二人の共同作業で進んでいくシミュレーションがなんだかとても嬉しくて、思わず彼の名前を呼ぶ。

 

「朔也さん!」

『どうしたの切歌ちゃん?』

「――好きデス、貴方が!」

『き、急だねほんとに。でも、俺も好きだよ、キミが!』

「~~~っ! 終わったらお家デート、忘れないでくださいデス!」

『なっ!? ど、どういうことよ切歌! その話、詳しく――』

 

 完全に場に取り残されているマリアの絶叫はスルーして、残り一体となった大型ノイズに向き直る。欠陥適合者のあたし一人では厳しい相手かもしれない。でも――

 

『行こう、切歌ちゃん。俺とキミなら大丈夫!』

「――っはい、デス!」

 

 この人と二人なら、何も怖くない!

 

「はぁあああああああッッッ!」

 

 ビルに挟まれるようにして位置している大型ノイズ。吹き出される溶解液を、ビルにアンカーを刺してバーニア噴射で回避する。徐々に高度を上げていき、到達するはノイズの頭上。

 

 振り上げるはイガリマの鎌。歌声が響くにつれて、その大きさは巨大さを増していく。

 

 どうやって持っているのか自分でも分からないくらいに長大な鎌の切っ先を向け、決めに決めるは恋の口上。

 

「この鎌の大きさは――――あたしと朔也さんの、愛そのものデースッ!」

 

 恥ずかしい、照れくさい。でも……悪くないッ!

 

 天を衝かんばかりに伸びた大鎌を振り下ろす。大型ノイズが手当たり次第に溶解液を噴き散らすが、その程度であたしの愛は敗れない。

 

 最後まで抵抗を見せていたノイズを脳天からかち割り、真っ二つに左右へ切り裂く。炭となって消えゆく残骸が雪のように降り注ぐのを眺めつつ、シミュレーションは終了した。

 

 

                ☆

 

 

「お邪魔します、デース!」

「お邪魔されます、よ」

 

 朔也さんが自宅の鍵を開けるや否や、我先に飛び込むあたし。既に勝手知ったるなんとやらといった具合だけれど、もう付き合い始めて三か月。世間はクリスマス目前という事で浮足立っているが、あたしは常に浮ついているのデス。

 

 私服のままソファでゴロゴロしていると、朔也さんが両手にマグカップを持ったまま隣に腰を下ろす。

 

「はい、あったかいものどうぞ」

「あったかいものどうもデスッ」

「まぁインスタントなんだけど」

「な、なんですとッ!? 最初に朔也さんの家に来た時には、客人にはそんな粗末なものは出さないとかなんとか言っていたじゃないデスか!」

「だって切歌ちゃんは客人じゃなくて……だし」

「デス?」

 

 何かうまく聞き取れなかった。なんで彼は顔を赤くしてそっぽを向いているのだろう。いや、決して聞こえたうえで改めて聞いているとか、打たれ弱い彼の照れ顔にゾクゾクきているとか、そんなワケではないのデス。えぇそうデスとも。あたしはそんなに捻くれた女じゃありませんデス。

 

「朔也さん、今なんて言ったデスか? んん? もう一度言ってほしいデス」

「くっ……切歌ちゃん、こういう時はいつも以上にイキイキしているのがすっごくムカつく……」

「何を言っているデスか。あたしはただ、朔也さんの言葉を一言一句聞き漏らしたくないからお願いをしているだけデスよ。さぁ、さぁさぁさぁ!」

「うぬぬぬぬぬ」

 

 あたしの追及にさらに赤面度を増す朔也さんに興奮が止まらない。あぁ、可愛い……可愛すぎるデスよ朔也さん……。成人男性らしからぬ動揺っぷりがあたしのツボをいい具合に刺激するデス……。

 

 ぐい、と彼の袖を引っ張り距離を詰める。密着するかどうかといった絶妙な距離感を維持しつつ覗き込むようにして顔を見上げると、朔也さんは観念したように溜息をつき、しばしの葛藤の後ようやく口を開いてくれた。

 

「……こ、恋人、って言ったんだよ」

「……へぇ」

「何その顔」

「へぇ~。ふぅ~ん。デェ~ス?」

「な、なんだよぅ! ニヤニヤしてるんじゃないよ恥ずかしいだろ!」

「いやぁ、恋人に愛されているのを実感できて、素晴らしい彼氏デスねぇ」

「……なんか、付き合いだしてからキミの尻に敷かれまくっている気がするんだけど」

「それも愛ゆえ、デスよ」

「さいですか」

 

 大仰に肩を竦めると、少しいじけたように口を尖らせソファに深く埋まる朔也さん。ただでさえ眠そうな目がさらに糸のようになってしまっていて、不機嫌さをこれでもかという程に露呈している。子供のように不貞腐れる姿も可愛らしいが、このまま放っておくと面倒くさいことになるのは今までの三か月間で経験済みの為、ここいらでいじめるのはやめておいた方が良さそうだ。

 

 そっぽを向いてコーヒーを啜る朔也さんに寄り添い、彼の胸に身体を預ける。ピク、と相変わらず女性慣れしていない彼は童貞感丸出しのリアクションを見せるが、あえてそこには触れず声をかける。

 

「ごめんなさいデス、朔也さん。あまりに朔也さんの反応が可愛くて、ちょっといじわるしちゃったデスよ」

「……すぐそんなこと言って。今日という今日は許さないから」

「むぅ、今回は手強いデスね。だったら……」

「……?」

「必殺、押し倒しデスッ!」

「ッッッ!?」

 

 油断している朔也さんを全体重を乗せてソファに押し倒す。ちゃんとコーヒーをテーブルの上に置いてからなので安全面は保証済みだ。ワイシャツ姿の朔也さんは驚いたように目を白黒させているけれど、あたしは構わず馬乗りになり、身体を重ねる様にして耳元に顔を寄せる。

 

「な、なんのつもり……」

「野暮なこと言わせないデスよ、朔也さん。別に初めてでもないんデスから、慣れたものデショウ?」

「そ、そういうことをあんまり女の子が言うのは感心しないなッ!?」

「そんなこと言って、いっつもなんだかんだ主導権握りたがるところ、ほんと可愛いデスよね」

「――――っ! こん、のっ!」

「んっ」

 

 あたしの挑発に見事に乗せられた彼は身を翻すと、あたしを下にして体勢を逆転させる。体重がかからないように器用に股越しているあたり彼の優しさを感じるが、今回ばかりは少々プッツン具合が過ぎてしまったらしい。首元に噛みつくようにして吸い付いている朔也さんは、完全にスイッチが入ってしまっていた。

 

 ……まぁ、かくいうあたしも、スイッチ入っちゃってるんデスけど。

 

「ふふ、明日は休日デスし、今日は存分に相手してあげるデス」

「その強気、いつまで続くか見物だね」

「ぁっ……い、いきなりそこは、駄目、デスッ……!」

「うるさい口は閉じてしまおうね」

「んむっ!? ん……ふ、ぅ」

 

 いつものヘタレで優柔不断な彼らしくない様子に、少々どころではなくやりすぎてしまったことを今更ながら後悔。いつになく積極的な朔也さんに唇を埋められつつ、あたしは抵抗を諦める。こうなったら、ヤれるところまでヤってしまった方が良さそうだ。

 

 徐々に身に纏う衣服が減っていくのを感じつつ、彼の背に手を回す。華奢であるが最低限の筋肉がついた朔也さんの身体は、頼りないようで男らしいギャップを感じさせる。粘着質な水音が響く中で酸欠によって頭がぼうっとしていく。

 

 息継ぎで口が離れ、透明な橋が架かった時、彼はあたしを抱き締めながら囁くように耳元で息を吐いた。

 

「愛しているよ、切歌」

「は……ッ。今、そぉいうの、は、ずるっ……」

「切歌は? 俺の事どう思ってる?」

「耳、を……舐める、なぁっ……!」

 

 次第にエスカレートしていく彼の行為に息も絶え絶えになりながらも、不意に名前を呼び捨てにされ頭の奥がチカチカと火花を打ったように気持ちよくなる。普段ならばそろそろ責める手を弱めてくれる頃合いだけれど、今日に限っては弱まるどころか強さを増していくばかりだ。どうやら完全に怒らせてしまったらしい。

 

 眠れる獅子を何とやら、とは言うものの、ここは彼の言うようにしないと体力が保ちそうにない。元より想いを伝えるつもりだったから問題はないが、主導権を完全に握られているのは少しばかり悔しい。だけれど、たまにはこういう男らしい姿も見たいところではあるので、乙女心とは複雑なのデス。

 

 震える身体で彼の首に手を回し、真っ直ぐ目を射貫く。熱っぽい視線を向けてくる彼に迸るモノを感じながら、あたしは精一杯の笑顔を浮かべ――

 

 

「あたしも……あたしも超絶愛していますよ、朔也」

 

 

 ――唇を、重ねた。

 

 

 

 

 




 書いてて砂糖吐きまくったけど満足している。後悔はしていない。

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