昔々、あるところにそれはそれはハンサムで、かっこよくて、モテモテでみんなに尊敬されまくっている、
心優しい若者がおりました。
「全員土下座」
『まてまてまて』
俺、毛利春希と中学から仲良くなった古市の声が重なった。
「む」
「いや、『む』じゃないから。開口一番が『全員土下座』って暴君じゃねーか!!」
「ホントだよ、どこが心優しいんだよ。男鹿の話は突っ込みどころしかないんだよ」
「ばかめ。古市お前ばかめ。お前の母ちゃんでべそ!」
「でべそじゃねーよ。て言うか何で俺だけ?」
同じく中学から仲良くなった男鹿の言葉に呆れつつ、この部屋の外にいるであろう強い魔力を持つ悪魔を気にする。
…どーすんだよ、これ。古市とゲームやってたら急に男鹿がやって来て、一人語りを始めた。しかも部屋の外には男鹿が連れてきたであろう悪魔、しかもかなり上位ときた。まあ、俺と
「まあ、それはいいけど俺はそろそろ帰るから」
「あ?なんかあんのかよ」
「ばっか、男鹿。あれだよ、あの毛利の子供」
「ああ、そういやいたな。なんだっけ?ルビーだっけ?」
「レヴィな。あと子供じゃない。訳あって育ててるだけだ」
「でも、パパって…」
「そう呼ばれてるだけだ」
言える分けないよなあ。あの七大罪の一人、レヴィアタンの娘と契約してるなんて。信じるとも思わないだろうし。ホント、あの時は驚いたよ。ジジイが子供つれてやって来て、「このレヴィ様と契約してくれ」何て言うんだもの。幸い、海外での仕事で親が全く帰ってこない一人暮らしのような生活なので問題はないが。
「じゃあ、またな。アイツに泣かれるとキツイんだ」
凍りついてしまう。
「今の男鹿と二人きりにする気かこの野郎」
「おーう。またなー毛利。ルビーによろしく」
「だからレヴィだっつてんだろアホ」
部屋を出てすぐに、緑色の髪で裸の赤ん坊がいるが、俺はなにも見ていない。
「アダッ」
…俺はなにも見てない。
**
一人暮らしには少しばかり広すぎる我が家につき、扉に手をかけ、軽く深呼吸をする。
「よし、ただいま…ゴフッ」
「おかえりパパーーーー!!」
家のドアをあけると同時に突っ込んで来る水色の長髪の幼女を受け止める。俺の事をパパと呼ぶこの幼女は先程も話した(話してない)悪魔、レヴィアタン二世だ。もっと長いフルネームだったけど、忘れてしまったからこれでいいだろう。
「ただいま、レヴィ。いい子にしてたか?」
「言われた通り物も凍らせてないし水で壊したりもしてないよ!」
「よし、いい子だ。それじゃあ少し早いけど夕飯の支度を始めるか。手伝ってくれるか?」
「うん!」
天真爛漫な俺の契約悪魔を見ながら苦笑いして、外出用の服から部屋着に着替えるために服を脱ぐ。
上半身裸の俺の右胸には、蛇のような模様『蛇王紋』が刻まれていた。
あと、帰る途中に古市の家から何か轟音が聞こえたり猛獣の鳴き声のようなものが聞こえた気がしたけど、やっぱり気のせいだよな。
**
次の日、俺は学校の廊下を歩いていた。
石矢魔高校。それが俺の通っている高校であり、不良率120%という県下有数の不良校である。
当然、こういう奴らもいる。
「よう毛利」
「てめえ調子に乗りすぎなんだよ」
「ちょっと面貸せや」
3人か…さっさと終わらせよう。
俺の顔を覗きこむように睨み付けてくるピアスを着けた男の体に手の側面を密着させる。
「は?」
男が呆けた声をあげると同時に強く踏み込み、掌を押し出す。
「『浸透勁』…」
中国の武術の一つである技を使い、相手に強い衝撃を与える。男は軽く10数メートル吹き飛び、校舎の壁にぶつかってようやく止まる。起き上がってくる様子は…無いな。レヴィの力を使わずにやるんだったらこれぐらいか。
「次、誰が来る?」
『う』
「う?」
『うわあぁぁあああ!!』
ワオ、まさかの全員逃亡かよ。そんなんでよく不良なんてやってんな。
それにしても、男鹿に負けないように色々な中国拳法やってみたけどかなり極めてきたんじゃないか?
「!?」
急に感じた強い魔力にとっさに振り返る。この魔力…昨日の赤ん坊か…。しかし、昨日より断然強い。契約者を見つけたか?つまりそれは…
「やっぱり、お前だよなあ…」
「お、毛利じゃねーか」
「男鹿、お前の背中にくっついてるのって…」
「ああ?ベル坊のことか?そういや昨日途中で帰ったな、お前。俺、魔王の親になったみたいなんだよ…」
「知ってるよ。まさか魔王とまでは思わなかったけど」
「どういうことだよ?」
「つまり、――俺も悪魔と契約してるってことだよ」