「初めまして。ホグワーツ教員の鬼灯と申します」
「バーノン・ダーズリーです。こちらは妻のペチュニア。そして息子のダドリーです」
二人──いや、一人と三人の邂逅は、この一言から始まった。
「ペチュニアさん……ああ、リリーさんのお姉さんですか」
「ええ、そうです。妹からあなたのことは聞いていますが……人間ではなく、鬼である、とも聞いているんですが」
鬼灯に茶を出しながら、ペチュニアが質問する。それに対し、鬼灯は懐中時計を取り出し、時間を確認した。
「?どうなされました?」
「いえ……あと一分、と言ったところでしょうか」
ダーズリー一家とハリーが首を傾げた途端、鬼灯のの耳が動き出し、尖り始めた。同時に、角も生えてくる。
「なっ…………」
「ホモサピエンス擬態薬、と言う薬がありまして……一口で一時間ほど人間に擬態できる薬です」
鬼灯がバッグからその薬を取り出すが……その瓶は、致命的にキモかった。なんとも言えない顔が瓶のコルクに描いてあった。
「私が家庭訪問に来た理由ですが……ハグリッドさんからの報告で、彼が迎えに来た時のポッターさんがとても痩せていて、貴方方に色々と言われていた、と……まあ、ハグリッドさんが魔法を使ったことは厳重に注意しておきましたので」
「できれば、この家の中でその言葉を──『魔法』と言う言葉を使わないでいただきたいのですがな。わしやペチュニアは、そのような非科学的なものが嫌いなもので」
「そうですか。では、本題に入らせていただきますが……ポッターさんの待遇改善を求めます。これまで貴方方が彼に対し
「人の家の教育に口出しするのは、いい事とは言えないとおもうのですがな?」
「ええ、それはわかっています。現世の者に対して色々と言うのは、立場上やるべきではない行為で…………あ、その仕事辞めてホグワーツにいるんだった」
話の合間合間におにぎりを食べる鬼灯。話に加わらずに横から見ていたハリーは、おにぎりの消費スピードが早いことに気がついて、追加を作ると言う名目でキッチンに避難した。
「それに、ダドリーさんについても二つほど。肥満は死にやすくなります。暴飲暴食は寿命を縮め、
「うぐっ……しかし、それを言えるほどお前は偉いのか?それを経験していない者に言われたくはない!どうせ、まともな教育を受けていないだろう!」
「ええ、みなしごですから人だった時に教育は受けてませんね。そもそも神代の山奥の村ですし、まともな教育機関がありません」
「ほうら、見ろ!さあ、さっき言ったことを撤回しろ!」
「まあ、生贄にされて死んで、鬼として復活したんですけどね。会社でもよくあることでしょう。上司の不正の身代わりとして末端の人間が切り捨てられる……そうなった時、彼は絶望しないでいられるでしょうか。努力して入った会社だろうと、親のコネで入った会社だろうと」
「お前に常識はあるのか!ええ?あったら人の息子をボロクソに言うことなどないだろうがな」
「ありませんよ。私は今、貴方方の今までの教育態度をへし折ることだけに尽力してますので」
言いたいことを言ってスッキリしたのか、鬼灯が立ち上がる。
「では、これで失礼しますが、最後に一つ」
「ふん……一体なんだ」
頭を下げた鬼灯に、バーノンが傲慢な態度で問う。その途端、鬼灯から闇としか形容できないオーラが溢れ出た。
「もし、待遇が改善されなかった場合についてですが……私は昔、日本の地獄で獄卒をしていましたが、閻魔大王──こちらで言うサタン王やハデス王のような人に、弧地獄の使用許可を貰っています。本来なら生者を刑場に連れて行くような真似はしませんが、私の生徒に手を出すようなら話は別。弧地獄は人によって刑が変わる地獄でして……その人にとって一番辛い仕様になります。貴方方に使用することになったら、私が直々に監督させていただきます。納得がいかないようなら、私個人に対して果たし状でもお送りください。その時には喜んで、貴方方を金魚草のエサにしてあげますので」
頭を上げた鬼灯は、ホモサピエンス擬態薬を飲むと玄関へ向かった。
その後ろから、ハリーが包みを持ってついてくる。
「どうしましたか、ポッターさん」
「いえ、その……ありがとうございました。これ、おにぎりです」
「ああ、ありがとうございます」
こうして、ダーズリーへの地獄は終わった。しばらくの間、ハリーは平和に過ごし、バーノンやダドリーはハリーへの嫌がらせを控えるようになるのだった。
うむ……出来栄えに納得がいかない。鬼灯様ならもっとシンプルかつより心を抉るようにするはずだ。これでは生温い。