ダンジョンにミノタウロスがいるのは間違っているだろうか 作:ザイグ
——あれから、どれだけの時がたったろうか。
何時間、何十時間、何日たったのか。極限の疲労と肉体の酷使におかしくなりそうになりながら——僕は戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦い続けている。目の前の
『ゥウウウウウウウウウウウウウウウッ!』
「……」
散っていく火花は収まることはなく、金属の喚く音が広大な洞窟内に幾重にも反響していった。気の遠くなる打ち合いの末に、僕の剣戟はより鋭く、より重くなっていく。——なのに崩せない。どの角度から打ち込もうと、どんな力を込めようと、どこでフェイントを仕込もうと、この冒険者は軽々と対応してくる。
表情筋の一つも動かさず、その場から一歩も動かず、休憩もなく連日戦闘をしながら、汗の一つも流さない。
これではどちらが化物かわからない。そう思いながら、黒大剣を振り下ろす。大男は真横に銀の大剣を構え、防御しようとする。でも、同じことを繰り返す気はない。
当たる直前に軌道修正。銀の大剣に当たらないすれすれを真横に薙ぐ。狙うは首。強敵を両断せんと黒大剣が迫る。獲った、と思ったその時
「——ふん」
『ヴゥバァッ⁉︎』
大男が
——あ、足癖が悪いな……! いや、これは予想してなかった僕が悪いか。剣だけが攻撃手段じゃない。
そう考えを改めて立ち上がろうとして、膝が震えて自身を支えきれずに崩れ落ちた。
体力の限界。何日も格上を相手に戦い続けてアステリオスの精神と肉体は磨耗し切っていた。
『フゥー……フゥー……!』
「……限界か」
息を荒くし、起き上がろうとする度に倒れるアステリオスを見て、大男は呟く。そして無造作に壁面に一閃。ダンジョンの壁に傷跡を作り、自身も腰を下ろした。——休憩と言うことなのだろう。
アステリオスは知らないが、ダンジョンはモンスターを産み落とすとだけでなく自己修復機能がある。そのため崩落が起きようと、地形を変えるほど戦闘が起ころうと時間が経てばダンジョンは元に戻る。
同時に壁を修復中はモンスターを産まないという特性がある。それを利用し、冒険者達は壁を壊して休憩をとる。
もっとも、アステリオスはモンスターなのでこちらから手を出さなければ危害はない。そして目の前の大男はLv.6の彼より格上だ。その存在感に怯えて、弱いモンスターは影さえ現さない。
少しでも、体力を回復させるために僕はそのまま座り込んだ。
◆ ◆ ◆
——順調……いや、想定以上の仕上がりになりそうだ。
オッタルは目の前に座り込むミノタウロスを観察する。
それにしてもよくぞ
通常、強化種が確認された場合は早期討伐が求められる。時間が経てば経つほど強化種は貪欲に魔石を求め、より強くなっていく。そのため、強化種が発見されればギルドは
目の前の強化種は、討伐にきた冒険者のことごとくを返り討ちにし、一ヶ月と経たずに第一級冒険者に匹敵する力を得たのだろう。
強くないはずがない。
冒険者の話になるが、【ランクアップ】したばかりの冒険者は、己の身体能力に振り回される傾向にある。
これは激上した肉体の出力に精神がついていかない、【ランクアップ】という『器』の激変に感覚が追いつかない故の現象。そしてこれは、
一ヶ月足らずで第一級冒険者に匹敵する
第一級冒険者達ならば、大きな戦闘を一つこなせば調整できる肉体と精神の『ズレ』。
それがオッタルという絶対強者との戦闘及びその『技』を目の当たりにしたことで、解消された。
動きの精彩が、格段に良くなっている。拙い剣技がメキメキと上達していく。この数日でLv.6に相応しい、『技』と『動き』を貪欲なまでに身につけていく。このまま成長していけば、いずれオッタルを凌ぐ怪物になるかもしれない可能性を秘めている。
今後のことを考えれば、手に負えない脅威になる前にこのモンスターに始末すべきだが。
——俺の不安などより、フレイヤ様の望みが優先に決まっている。
例え、この選択が己の死に繋がるとしても、オッタルは迷わない。
脳裏によぎった未来を即座に消し去る。いますべきはベルにミノタウロスを送り込むこと。それが奇跡が十回起ころうと倒せないだろう、
彼を影が覆う。見上げればミノタウロスが眼前に立っていた。——続きを始めろ、と言いたいのだろう。
ふっ、と笑みが零しながらオッタルは立ち上がる。そして教育が再開された。
◆ ◆ ◆
それからも僕と大男は戦闘——というより稽古と言ったほうがいい行為は続いた。
剣の腕が上がった自覚はある。体の動きも 良くなった。脳裏がなぞる軌跡に体の軌道が乗る。意識しなければ気付かないほどのズレ、それらが全て解消されている。体中の感覚が、今までにないほど
渾身の袈裟斬り——いともたやすく弾く。
斬り刻もうと放たれる夥しい斬閃——全斬撃が弾かれる。
必殺の拳砲を繰り出す——手甲を纏った左腕一本に押さえ込まれた。
強力無比なラッシュ——振り下ろされた剛腕に撃墜された。
武人が誇る完全防御を、僕は切り崩せない。思いつく限りの攻撃を仕掛けるが、彼は小揺るぎもしない。
暴風に呑み込まれようが悠然とそり立つ巨岩のごとく。
不動の壁にはね返される。勝機は欠片も見えず、攻めかかってこない代わりに、アステリオスを何度も目の前から弾き飛ばした。
途方もない『技』と『駆け引き』が、アステリオスの猛攻を抑え込んでいる。
異なり過ぎる
果てない鍛錬に裏付けられた身体能力と、戦闘技術だ。
底なしかつ、出鱈目過ぎる。傑物。才能も、不断の努力も、そして揺るがない意思も惜しまなかった現代の英傑。
産まれてから一ヶ月足らずのアステリオスでは絶対に埋められない大渓谷が彼らの間には存在する。
——それがどうしたッッ!
それじゃあ仕方ない、と言えるほど僕は諦め良くはない。地を這いずり回っても生き延びようという意地汚さと、どんな強敵にも勝ちたいという執念深さが僕を奮い立たせた。
でも、そんな想いだけで勝てるほど目の前の武人は甘くない。だから、せめて一太刀。たった一度でいいからこの英傑を見返したいと思った。
それができる道はただ一つ、正面突破だ。剣技が見違えるほどうまくなろうと、別人のように精彩された動きになろうと、この武人の前では些細な差に過ぎない。
ならば、己が持つもので唯一武人に対抗できる『力』で勝負するしかない。
僕は馬鹿だから、知恵を振り絞ってもいい考えは浮かばないし。小細工をしても、全てねじ伏せられるに決まっている。だからこそ、この一撃に全てを込める!
金属音はより激しさを増していき、並の冒険者では両者の腕がかき消えているように見えるだろう。
ありとあらゆる角度から打ち込まれる剛閃を、武人はものともせず、正確に撃墜した。その打ち合いがしばらく続き——アステリオスは仕掛けた。
——ここだッ!
アステリオスが真横に一閃。武人は銀の大剣の鋒を上に向け、真っ直ぐに構えた。幾度も弾いた方向からの斬撃。彼ほどの達人ならば無意識でも対処できる。だが、今回は違った。
『ヴヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ‼︎』
「!」
武人が初めて顔色を変えた。アステリオスは肩の筋肉を隆起させ、黒大剣の柄を両手で握り締めていた。
いままで片手で振るっていた黒大剣を両手で振るう。単純に威力は二倍。フルパワーの大薙ぎを見舞った。
完璧な体捌きと、確立した剣技。それらを全て一つにしてアステリオスは銀の大剣に叩きつけた!
拮抗は——なかった。大銀塊はまるで粘土細工のよいに、あっさりと切断された。その断面は綺麗なもので、それはただ力任せに
何日もの打ち合いの末、アステリオスは武人から一本取ってみせた。
『フゥー……フゥー……!』
だが、代償も大きい。極限の集中力と限界まで酷使した肉体。それが達成感から緊張の糸が切れ、一気に僕に襲いかかった。
踏ん張ることもできずに僕は倒れこみ、意識が遠ざかっていく。
「……仕上がったな」
折れた大剣の断面をまじまじと見ていた武人は、そう呟く。それを最後に僕の意思は闇に堕ちた。
◆ ◆ ◆
——ん、んぅ……寝てみたいだね……。
疲労から寝ていた僕は目を覚ました。体を起こして状況を確認する。
真っ暗だが、光が乏しいダンジョンで暮らすモンスターは夜目も効く。すぐに四角形の大きな箱に入れられていると気付いた。あの武人は僕を何処かへ運ぼうとしていたらしい。拘束などがされていないので捕縛するのとは目的が別のようだ。
——さて、どうしよう。このまま運ばれて訳のわからない場所に連れて行かれるのは嫌だ。でも、武人に歯向かってもねじ伏せられる未来しか見えない。どうすればいいのかなぁ……。
そんな風に頭を悩ませていると、外から声が聞こえた。
「やったな、カヌゥ!」
「ああ、中身は第一級冒険者の戦利品に違いねぇ! 一体どれほどの価値があるのか……先日のリリの件といい、俺達はついてるぜ!」
「そうだな、それにしても【フレイヤ・ファミリア】も【イシュタル・ファミリア】も馬鹿だぜ! 互いを潰し合うことに夢中でカーゴを取られたことにも気付かねえなんてよ!」
「だよな! それより早く開けようぜ。中には何が入ってんだろうな」
「そういや、【猛者】はずっと中層に留まってたって聞いたぜ?」
「中層? なんだよ、第一級冒険者の戦利品だから、深層のお宝だと思ってたのに……」
「いやいや、それがよ。噂は聞いたことないか、あの片目のミノタウロスの話を!」
「片目……『隻眼のミノタウロス』か⁉︎」
「ああ、目撃情報だと【猛者】は『隻眼のミノタウロス』とずっとやりやってたらしい」
「マジか⁉︎ じゃあ中身は『隻眼のミノタウロス』のドロップアイテムか、死体か!」
「そりゃ、スゲェ! アレの懸賞金は1億ヴァリス! それだけあればチマチマ稼ぐ必要もねぇ!」
——ええ、入ってますよ。死体じゃなくて生きてるのが。それにしても聞いてもないのにベラベラと頭の悪い会話を……第一、同族がいるモンスターならまだしも、僕みたいな単一個体は誰が討伐したかわかるんだから、バレるに決まってる。コイツ等、馬鹿だな。
でも、お陰で状況は把握した。武人は襲撃を受けて、カーゴから目を離し、泥棒に盗まれたと。——正直、あの
そんなことを考えているとガチャガチャと鍵を外す音が響き、扉が開かれた。——さて、泥棒なら遠慮はいらないよね?
扉から光が射した瞬間、冒険者目掛けて疾走。三人の中で左側にいたヒューマンに黒大剣を振り下ろした。
鮮血が爆ぜる。狙われた冒険者は何が起きたかもわからずに、頭から
——うへぇ、汚いなぁ……思ったより脆かったな。
本来なら真っ二つにするつもりが、相手の『耐久』補正が弱すぎた。Lv.1の冒険者は黒大剣が当たる前に、
「ひぇあっ……⁉︎ ひひゃああっ⁉︎」
「な、何でっ⁉︎ 何で生きてやがんだよぉおおおおおおおお⁉︎」
残り二人はようやく一人殺されたことに頭が追いついたらしく、今頃になって悲鳴を上げる。
そして蜘蛛の子を散らすようにバラバラに逃げ出した。
生存本能。
——Lv.1の『
アステリオスが思った通り、逃げ惑う冒険者は、迫る濃厚な死の気配に冷静な判断を失っているのかルームの隅へと自らを追いやっている。
これは走るまでもないと、悠然とした足取りで、のしのしと背を晒すヒューマンの男へと歩み寄っていく。
ドロップアイテムで装備を固めたアステリオスの姿は不自然なほど様になっていて、カヌゥ達には、見ているこの絵が酷く現実離れしているように見えた。
「いっ、行き止まっ……⁉︎」
『ヴゥンンンンンンンンッッ……!』
「うあああああああああああああああああああああっ⁉︎」
壁面と猛牛に挟まれたことを理解したヒューマンの男は惨めな一人芝居を演じる。でも、それに付き合う気はない。命を刈り取らんと迫る。
『フゥゥーッ……!』
「何でだよっ、何でてめぇがっ、ココにいやがるんだよぉおおおおおおおおおおおお⁉︎」
壁面を背にして喚き出すヒューマンの男を、僕は見下ろす。
ずるずると音を鳴らしながら地面にへたり込む相手を前に、黒大剣を構える。
引き締まりスリムな印象さえ与えてくる筋肉質な体をギリギリと絞られ、まさにその姿は断頭台を彷彿させた。
黒い巨影がヒューマンの男を覆い隠し、絶望が彼の顔に差す。
もはや言葉になっていない喚き声がルームを盛大に木霊し、転瞬。
『ウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウンッッ‼︎』
ドゴンッ、という黒大剣が振り下ろされた轟音が炸裂し。グチャ、と僕の眼前で、真っ赤な飛沫が飛び散った。また一つ潰れた肉塊が出来上がった。
——うわぁっ、くそぉ……また汚れた。なまじ強敵ばかりとしか戦ったことないから、雑魚はやりにくいなぁ。
「……ぁ?」
またも顔を
カヌゥは脱兎のごとき勢いで、佇んでいたアステリオスの視界から消えた。
◆ ◆ ◆
——ふ、ふざけんなっ⁉︎
カヌゥは反転し、あらん限りの力で地面を蹴りつける。彼は全速力でその場から離れた。
呼吸がおかしい。舌が干上がる。意味をなさない思考が再三にわたって弾けていく。
頭の中に埋まっている脳が沸騰しているかのようだった。熱い。とにかく熱い。狂ったように、汗が溢れ出してくる。
カヌゥはなりふり構わず走り続けた。足が何度ももつれそうになる中に 、ひたすら趨走する。
現在は深夜。周囲に冒険者の影は見当たらない。無人のダンジョンは今のカヌゥにとって迷宮のようであり、いくら走れとも同じ景色から脱出できていないような気がした。
——振り切れねぇ、振り切れねぇっ、振り切れねえぇぇ……⁉︎
どれだけ逃げようと、大き過ぎる存在感が消えない。
強烈な違和感。あのモンスターはさっきの場所から動いていない。気配は遠ざかっているのでそれはわかる。——なのに常に捕捉されているような、死神が首に大鎌を突きつけているような死の気配が消えない。
決して抗えない死を臭わす猛牛のモンスターとは掛け離れた化物に、話が違うと、カヌゥは叫び散らしなくなる。
「はっ、はっ、はぁぁっ!」
呼吸を乱すカヌゥはとにかく前へ、とにかく距離を。と我武者羅に走り続ける。不幸中の幸いというべきかモンスターは突然、この階層に現れた強大過ぎる
もっとも、平静さなど放り出し、とにかくこの恐怖からの解放を望んだカヌゥには、そんなことを考える余裕もなかった。
そしてそんな彼に希望の光が射した。ダンジョン6階層。上層へ繋がる階段が視界に飛び込んできた。
これで助かる、と思ったカヌゥを絶望が覆った。
突如——暴風。カヌゥの体を吹き飛ばしかねない強風が吹き荒れ、
強風に咄嗟に目をつむった彼が目を開けると
『ヴゥンンンンンンンンッッ……!』
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ⁉︎」
カヌゥは絶叫を散らす。一度線を越えてしまえば、
ミノタウロスが黒大剣の柄をギュッギュッと握り具合を確認しながら、一歩一歩と間合いをゆっくりと詰めていく。確かな質量と大きさを誇る
「く、来るんじゃねぇええええええええええええええええええっ⁉︎」
カヌゥは腰に手を回し紅色のナイフを取り出した。
先日【ファミリア】の
『………』
「来るなっ、失せろっ、消えやがれええぇッ‼︎」
炎の塊がナイフより放出されミノタウロスに当たる。
カヌゥは出鱈目にナイフを振るい、劣化した魔法を何度もぶつけた。逃げ場を失った空間の中で小爆破が連続する。——が、ミノタウロスは煩わしそうにするだけで体皮に焦げ目一つない。
ミノタウロスの体皮は耐熱効果がある。それがLv.6まで強化されたいまの耐性は大魔法さえ炎属性なら、暑く感じる程度だ。それを劣化した魔法——更に下位の『魔剣』では、何の痛感も与えられない。
それでもカヌゥは壊れたように魔剣を閃かせ続け……やがて紅の刀身はバキリと音を立て、木端微塵に砕け散った。
「は……はぁああああああああっ⁉︎」
寿命がつきたかのよつに光を失った刃は、無数の鉄屑となって地面に散乱した。
驚愕の声を上げながらその目を剥く。魔剣が使用限界を超えて自砕した。最後の最後でカヌゥは武器に裏切られた。
『フゥーッ、フゥーッ……!』
「ひ、ひぃいっ⁉︎」
火の粉を引き連れるモンスターが目の前までやって来た。
モンスターとは思うない冷静さを宿した双眼が、カヌゥを見抜く。
やがてこれ以上は何もないと判断したのだろう。巨大なシルエットは上腕の筋肉を膨張させ、黒大剣を大上段に振り上げる。
「やっ、止めええええええええええええええええええええええええっ————」
額が叩き割られる感触とともに、カヌゥの意識はあっさりと潰えた。
◆ ◆ ◆
——呆気ないなぁ……手応えがまるでなかった。
最後の一人を仕留めた僕は——今度はちゃんと力加減ができて断殺できた——背後の曲がり角、その物陰になった場所に隠れていた人物に視線を向ける。
相手も隠れる気はなかったのだろう。曲がり角から姿を現した。
「……」
出てきたのは予想通りの、巌のような巨躯をした冒険者。いままで僕に修行をしてくれた武人だ。
姿を見せたということは僕を『上層』に連れてきた理由くらいは教えて欲しい。
「……手加減はできるか。それならば出会い頭に瞬殺はされまい」
『?』
武人は口を開いたかと思うと、よくわからないことを言い出す。僕に言っているというよりは、自分を納得させている感じだ。
「明日、ここに白髪赤眼の冒険者が来る。お前にはその少年と戦ってもらう」
——うん? 白髪赤眼の少年? どこかで見たような……どこだっけ?
「殺すか殺さないか、それはお前の判断に任せる。お前の望むままに戦え」
——てか、これって、僕が人の言葉を理解してる前提で話してるよねぇ。まぁ、あれだけ訓練中に言われた助言に頷いていれば当たり前か。
特に断る理由もなく、むしろ修行をつけてもらった恩がある僕は頷いた。
それを確認した武人は背を向け、その場を去ろうとする。そこへ僕は
『アリガ、トウ』
お礼の言葉を述べた。すると武人は勢いよく振り返り、初めて驚愕した顔を見せる。それに満足した僕も背を向け、その場から離れた。
——あははははは。初めて武人の度肝を抜けたね。また会えたら、稽古してほしいな、
補足
獣人の下級冒険者=カヌゥ・ベルウェイ
ヒューマンの冒険者二人=【ソーマ・ファミリア】の下級冒険者