ダンジョンにミノタウロスがいるのは間違っているだろうか 作:ザイグ
——結論から言うと赤髪の女性は器用だった。
ただの花弁から巨軀に合わせた衣装を作るのに一日ほどかかったが、僕にピッタリな
形状は体に張り付くようなどこか赤髪の女性の
正直、ここまで立派なものは作れるとは思っていなかったけど
「
ということらしい。——窮屈ねぇ。どこがとは聞かないのが賢明かな、とレヴィスの首から下、腹より上の一部を見ながら思う。
『アリガトウ。……ソウダ、名前ヲ聞イテナイ』
「名乗る必要もない気はするが、レヴィスだ。お前に名前はあるのか? ミノタウロス」
——おお、これはマリィの時の再現。でも、抜かりはない。彼女と別れた後に名前を色々考えていたんだ。僕の名前は
『僕ハ——アステリオス』
前世にあったギリシア神話に登場するミノタウロス。でも、それは猛牛の本名ではない。ミノタウロスという『異名』が世界的に知られていたから、本当の名前で呼ばれることがなかったから。
その名こそアステリオス。『雷光』を意味する今世における彼の名前だ。
◆ ◆ ◆
自己紹介を終えた後、僕はレヴィスと行動を共にすることにした。
白い奴、オリヴァスとローブの人達、
それから二、三日ほどして侵入者が現れた。
『レヴィス、来タ』
「またモンスターか?」
『違ウ、冒険者』
監視用の水膜。そこには食人花と交戦する冒険者——ダンジョン探索する人間の総称——の一団が映し出された。
——二、四、六……十六人。それも全員手練れっぽいな。
冒険者はお互いを補完し合う連係と、高い身体能力で食人花を苦戦せずに倒していく。何より
——また金髪の剣士。何か縁でもあるのかな?
一人だけ動きが隔絶した冒険者がいる。靡く金髪と整った容姿を持つ人形のような少女は食人花を瞬殺する、圧倒的な強さを見せつけている。
「『アリア』だ」
『知ッテルノ?』
興味の欠片も示していないレヴィスが——水膜の中に金髪の剣士が現れた瞬間、目の色を変える。
「探し物だ。『アリア』と周りの奴等を引き剥がす。アステリオスは他の奴等を始末しろ」
『……ワカッタ』
本音を言えば金髪の剣士と決着を付けたかったが、レヴィスの有無を言わさぬ態度に頷くしかなかった。
レヴィスは通路に、僕は
◆ ◆ ◆
「もう少しで
【ヘルメス・ファミリア】団長、アスフィ・アル・アンドロメダは血の色のような赤い光を視認した。
24階層の大主柱は赤水晶——通路の先の赤光を目視し、誰もが終着点までもう僅かであることを悟った。
【ヘルメス・ファミリア】。主神の方針によって『深層』にも足を踏み入れる戦力がありながら中堅ファミリアに留まる変わり種。
今回はそれが災いし、脅迫材料に使われて、この危険な
途中、協力者である【剣姫】と分断されてしまったがアスフィ達は目的地に到達した。
「——」
視界が一気に開けた直後、アスフィ達は言葉を失った。
彼女達を待ち受けていたのは、緑の肉壁に侵食され変わり果てた空間だ。
そして、そんな大空洞の中でもアスフィ達の視線と意識を奪ったのは、
驚愕する彼女達の中で、ルルネという少女だけは視線を赤色の
呆然とする彼女の視線が向かう場所、三体の巨大花が巻き付いた大主柱の根もとには。以前の
「あの時の、『宝玉』……⁉︎」
「待ちなさい、ルルネ」
あれが全ての元凶だと悟ったルルネは宝玉を回収しようと、一歩踏み出すが、アスフィに止められた。
「何で止めるんだよ! あれさえ回収すれば——」
「それほど重要なモノなら無防備に晒しておくはずありません。——出てきましたね」
アスフィの言葉に同意するように大主柱の影から一匹のモンスターが出てくる。
「え、あれって……」
「何でこの階層に?」
「……ミノタウロス?」
牛頭人体。二
だが、【ヘルメス・ファミリア】の面々はそのモンスターの登場に気を緩めた。
ミノタウロスは、正面からの殴り合いならば第三級冒険者でさえ手を焼く、『力』と『耐久』に特化したモンスターの代表格。
そのカテゴライズはLv.2。対して、この場にいるメンバーは大半がLv.3で、アスフィに至ってはLv.4。
食人花の群れを相手にした後では完勝できると思われても仕方ない。
——何でしょう。この何かを見落としている感覚は。
ただ一人。アスフィだけは引っかかるものを感じていた。あの宝玉は敵とって絶対死守すべきモノのはず。なのに食人花はおらず、巨大花も動きをみせない。たった一匹だけいるミノタウロスに不安が募る。実際、あの猛牛は他と比べて
全身を包むのは毒々しい極彩色の
武装も
「アスフィ。誰か先行させてミノタウロスを——」
「いえ、あのミノタウロスが囮の可能性もあります。戦力を分散させずに全員で行きましょう」
結局、彼女自身も不安の答えが出せずに前進を決断。……この時、アスフィもどこか慢心していたのだろう。どれだけ不気味でも所詮はミノタウロスと。それを彼女はずく後悔することになる。
◆ ◆ ◆
奇襲などを警戒したアスフィ達は陣形を保ちながら慎重に
予想に反して奇襲はなく、前方のミノタウロスも動く気配がない。
——何もない。私の思い過ごし?
アスフィ自身も警戒し過ぎていたと思い始めたとき——ミノタウロスが動いた。
「ッ、総員戦闘態勢!」
ミノタウロスが背中の黒大剣に手を伸ばす。アスフィ達もいつでも迎撃できるように前衛は盾を構え、中衛・後衛が遠距離攻撃の準備を始める。しかし、アスフィ達のやることを嘲笑うようにミノタウロスが踏み込んだ。
瞬間、前衛にいたドワーフの女性が
「はッ……⁉︎」
「な、何が……」
「エリリー!」
アスフィ達は何が起こったか分からない。十
だが、ミノタウロスがしたことは単純だ。ただ『距離を詰めて大剣を振り下ろした』だけ。
その単純なことでさえLv.6の
疾走はアスフィ達の動体視力では捉えることができず、フルパワーの振り下ろしは盾もろとも力自慢のドワーフを潰した。
「う……うおおおおおおおおおおおおおおおッ!」
仲間の死をようやく認識した大柄な
「がぁ……⁉︎」
「ファルガー!」
裏拳は構えた盾を粉砕。
そのまま宙を舞い、ファルガーは十
僅かに身じろぎしているので一命を取り留めているようだが。このままでは息絶えるのも時間の問題だ。
「誰か、ファルガーに
「ミノタウロスを早く仕留めろ!」
「魔法でも魔剣でもいいから撃て!」
「エリリーの仇だ!」
——まずい。
アスフィは冷静さを失う仲間をどうやとた落ち着かせるか素早く考える。頭の中で結論を出し、すぐにそれを実行に移す。
ベルトのホルスターから緋色の液体が詰まった小瓶を取り出す。
瞬時に小瓶を
上空で広がる爆炎。その衝撃と爆音に全員の意識がアスフィに集まる。
「総員、冷静に! ネリーはファルガーの治療を。他は包囲網を作りなさい! 不用意に近づいてはいけません!」
混乱しかけても熟練の冒険者。冷静さを取り戻し、弾けるようにアスフィの指示に従う。
取り囲まれた
そう
「あれは
想像以上の怪物。自分達より遙かに格上の出現に【ヘルメス・ファミリア】は戦慄した。
『隻眼のミノタウロス』
名前:アステリオス
推定Lv.6相当
到達階層:26階層
装備
【ウダイオスの黒剣】
・アイズの身の丈より長大な剣。
・第一級武装にも劣らない階層主の『ドロップアイテム』。
・彼は未加工のまま使用している。
【ヴィオラス・クロス】
・レヴィス作。大型の戦闘衣(バトル・クロス)。
・第一級冒険者の打撃を防ぐ高い防御力がある。
・【ウンディーネ・クロス】を編み込んだことで弱点である炎属性を克服している。
・材料にドロップアイテム『ヴィオラスの花弁』を使用。
・彼の体格に合わせているので動きやすい。形状(デザイン)はレヴィスの好み。
・ようやく手に入れた彼の実力に見合った防具。