東方幻奏歌─東雲を告げる深紅の音─ 作:名もなきスライムLv1
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第1話 新たな人生、出発点に死の香り
自殺をする奴は、悟った賢者か、考えすぎた愚者だけだ。
…九分九厘、後者だがな。
─サボり気味の死神─
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気がつくと俺は仰向けの状態で倒れていた。
…どうやら、無事に転生できたらしいな。
周りは純白の鈴蘭が咲き誇り、日の出の光に照らされて宝石のように輝いている。
まるで夢のような光景に、ほうっと長いため息が出た。
「なんて美しい場所だ…ッ!?」
起き上がろうとして手を地面についた瞬間、力が抜けて倒れ込んでしまった。
「…いや、全身に力が入らない!前の世界に居たときとはからだの感覚が違い過ぎるっ!」
ふと自分の手を見てみると、転生前と来ている服こそ同じだが、筋肉量が違う。
…悔しいが、生前の体よりもガッシリとした体つきだ。
「なるほど…この体は『生まれたて』ってことか。…このままじゃまともに動けないな。素敵な場所だし、少しここで休ませてもらうとしよう。」
もしバイオハザードのような世界だったらどうしようか、とも思ったが…大悟のことだ。命の危険が及ぶ世界とは考えられない。
…ふぅ、目を閉じると一層花の香りを強く感じることができる。鈴蘭の優しい香りがふんわりと…
…ん?鈴蘭?
「鈴蘭だとぉぉっ!?」
鈴蘭は別名「谷間の姫百合」と呼ばれる程美しい花だ。
だが、その見た目とは裏腹に強い毒性を持つ花でもある。
葉や茎の他にも花粉を吸い込みすぎてもその毒は牙を剥く。
恐ろしく強い毒だ…症状は嘔吐や発熱だが致死率は高い。
個体差や環境の違いもあるが、毒の強さは青酸カリウムの約15倍と言われている。
「くそっ、誰か!誰かいないか!?」
「あなた、誰?」
突如、後ろからかけられた声に振り向くと、いつからそこにいたのか?直径120㎝程の人形がこちらを見ていた。
丁度、大きめの腹話術人形位の大きさの、金髪のショートボブに赤いリボンをつけた可愛らしい人形だった。
確かに、大悟の好きそうな世界観だな。そう思っていたから、人形が喋っても特に驚くことはなかった。
「すまない、誰か俺を持ち上げれる位の人を呼んできてくれないか?…訳あって体が動かないんだ。」
「いいよ。私でもかまわない?」
「え」
人形の少女に手首を捕まれた瞬間、体がふわりと浮かぶのを感じた。いや、浮かぶというよりも引っ張られているという感覚だった。
「助かったよ、ありがとう。…俺は如月。如月優介だ。」
「あたしメディスン。メディスン・メランコリー。あなた、人間でしょ?どうしてあんなところにいたの?」
爽やかな風に体を包まれながらしばらく飛んでいると、
メディスンと名乗ったその人形少女が首をかしげながら珍しそうに俺に質問をしてきた。
「う~ん、気がついたらここにいたっていうか……」
「ふーん。でもさ、あたし妖怪だよ?」
妖怪?不思議のアリス展開かと思ったが、どうやら水木しげる展開だったようだ。ん?何だか雲行きが怪しくなってきたぞ?
可愛いお人形さん=付喪神?
ははっ、考えすぎかな。
一方少女の方は、俺が驚かないことに逆に驚いている様子だった。
「妖怪?…俺、この世界のことよく知らないんだ。よかったら教えてくれないか?」
「うーん、そうだな~…あ、見えてきた。」
メディスンの見つめる先を見ると、鈴蘭畑を抜けた先に木造の家があった。
かなり小さいが、色とりどりの花に回りを囲まれた素敵な
家だった。そして、花壇でうずくまっている人影が1つ。
癖のある明るい緑色のショートヘアー。
白のカッターシャツとチェックが入った赤のロングスカートを着用し、その上から同じくチェック柄のベストを羽織っている長身の女性。
「あれ?幽香来てたんだ!」
嬉しそうにはしゃぐメディスンと、声に振り向く女性。その手にはジョウロが握られており、丁度花の世話をしていたことが伺える。
「あら、お邪魔してるわよ、メディスン……と、貴方は?」
この女性─風見幽香との出会いによって、俺の第二の人生の歯車は大きく動き出すことになる。
~to be continued ~
今回の鈴蘭に関する記述は全て事実です。
鈴蘭を差した花瓶の水を誤飲しただけでも発症するようなので、皆さんも気を付けてくださいね。