「ツナ。みんなは大丈夫だよね?」
「大丈夫だよ。いまは信じて前に進もう。」
サチは階段を降りながら不安な表情でツナを見つめる。ツナはサチの手を握り励ますように笑顔をうかべた。
そして階段が終わりボス部屋への扉の目の前で立ち止まる。ツナが扉に手を当てて中に入るとユイを攫ったモンスターが中央にて待ち構えていた。
「ヨク来タナ・贄ノ少女ヲ返シテホシケレバ我ヲ倒シテミセヨ」
モンスターは喋り終わるとカタカタと笑いながら鎌を振り上げる。するとステータスバーが表示された。
「ならさっさと倒させてもらうね。」
ツナは手加減は危険と判断しグローブと額に炎を灯した。
「ユイちゃんは絶対に取り戻す!!」
サチも槍を構えてモンスターを見据える。
広場side
「もう!いい加減!しつこい!!」
「だいたい20層のモンスターばかりだけど・・・キリがないわね。」
「落ち着いてアヤ。リラックス〜リラックス〜」
「キャロとシリカは大丈夫?ちょっと休む?」
「大丈夫ですよユウキさん。」
「今頃二人もボスと戦っているはずですから、私達だけ休むわけにはいかないのですよ。」
「二人の穴は私が埋めますから疲れたら言ってくださいね。」
残った7人はモンスターのレベルは低いが絶え間無く続いている戦闘に疲労が見え始めていた。
「ん?モンスターが出てこなくなりましたね。」
「今の内に片付けるわよ!」
今までは倒してもすぐに奥から飛び出してきていたが、その流れが急にかわりモンスターが出てこなくなっていた。
全てのモンスターを倒すと、五匹のリザードマンが出てきて壁が閉まっていった。
「こいつらを倒せば終わりってことかしら?」
「ボスクラスだねー。あの氷の剣には注意したほうがいいかな。」
「一匹飛び道具持ちがいますね。アスナさん、他の四匹は私達に任せて先に奥のを片付けてもらってもいいですか?」
「あの片腕が太いのはパワータイプよね。」
「なら私とアヤであいつの相手かな。」
「鎧みたいなのを着てるのは私の斧がいいと思うので任せてほしいのです。」
「ピナ。みんなの回復をお願い。」
ボス部屋side
「また壁に消えたわ。足手まといになっちゃってごめんね。」
「サチ。大丈夫だから油断しないで。」
サチはボスの攻撃パターンに苦戦をしていた。壁の中を自由に移動し、一撃離脱を繰り返すボスに対してツナは超直感で反撃までできていたが、サチは防ぐのに精一杯でツナはサチのフォローをしながら戦っていた。
「ツナ。次は私の攻撃範囲に入ってこないで。あれを使うから。」
「無茶はしないでね?」
サチはパンッと頬を両手で叩くと決意した表情でツナにある提案をする。ツナは一瞬驚いたがすぐに気を取り直してサチから離れていく。
「サチ!左斜め後ろから来るよ!」
「ッ!!ハァァァァァァーー」
サチはツナのアドバイスでボスの攻撃を槍で受け止めると気合を入れるかのように叫ぶ、するとボスの周りに槍の刃が現れてボスを串刺しにし始めた。
「いま貴方がいる場所は私の支配する空間よ。」
「オペレーションX!!サチ・・少しの間だけそいつを逃さないでくれ。」
サチのユニークスキルである無限槍はもつ武器の攻撃範囲になら無限に槍の刃を出現させることが可能なスキルだ。刃を出現させるには使用者の視界に入り、尚且つ刃の形状を認識し具現化させないといけないためとてつもない集中力を必要としていた。
ツナはイクスバーナーを放つ準備をし、サチにその間ボスの足止めを頼んだ。サチは頷いてボスを逃さないために刃を出現させ続けていく。
「グガガガガガガ」
「キャッ!」
ボスもやられっぱなしになるつもりはないらしく槍の刃を受けながらも鎌を振るいサチに攻撃を仕掛けていく。一撃一撃の威力が高く、バトルフィーリングスキルでの回復も追いつかずにサチの体力はどんどんと減っていきイエロー表示になってしまった。
「まだ・・・ユイちゃんを取り返すまでは諦めない。」
サチは肩で息をしながらももう一度、先ほどよりも多くの刃を出してボスを串刺しにし刃の牢獄を作成する。
「ツナ!!」
「ありがとうサチ。・・・イクスバーナー!!」
ボスは鎌を振るい牢獄から脱出しようと試みていたが、それよりも早くイクスバーナーが届き、炎に飲み込まれていく。
広場side
アスナはリニアーを使い一番奥にいるリザードマンへと突撃を仕掛けていた。
鎧を着たリザードマンにはキャロとシリカ。片腕が太いリザードマンにはアヤとフィリア。司令塔らしきリザードマンにはアネット。氷の剣を持ったリザードマンにはユウキが対峙しアスナが通る道を確保していた。
「・・硬いのです。」
「でも防御力だけで攻撃は単調で助かります。」
シリカが短剣で相手の武器を弾いて、キャロが斧で攻撃をしていくが鎧が思ったよりも硬くて致命傷を与えられずにいたが、地道に攻撃を加えていけば二人でも対処可能なレベルだった。
「キャァ!危ないわね!この馬鹿力!!」
「動きも想像より早いから厄介ね。」
アヤとフィリアはリザードマンの攻撃を掻い潜りながら攻撃をしていたが、当たりそうな攻撃をアヤが短剣で受け止めると支えきれずに吹き飛ばされてしまう。
「早く倒してアヤさんとフィリアさんに加勢に行くべきですね。すいませんが直ぐに倒させてもらいます。」
アネットはスピードで相手を翻弄しながら攻撃を繰り出し、撃破した後に2人の元に走って行った。合流すると連携しながら少しずつ相手の体力を削り取っていく。
「ハァァ!!・・・あっちにはアネットが向かったのね。じゃあ私はユウキかしらね。」
アスナはリニアーでそのままリザードマンを突き刺すと壁に激突してようやく停止した。リザードマンはアスナの攻撃と激突した衝撃により消滅していた。
「ウワッ!」
ユウキはリザードマンと刀の打ち合いになってしまっていた。今までのモンスターと違い剣を扱うレベルが高く、また時折足技を使ってくるため苦戦していた。何合か打ち合っているとユウキは身体が思うように動かなくなってきて徐々に攻撃を受けてしまう。
「まさか・・・その氷ってそういうこと?」
ユウキが膝をつくと驚愕の表情を浮かべながら氷の剣を見つめていた。リザードマンは好機と見たのかユウキに向かって走り剣を振り下ろした。
「アゥッ!」
「キャロ!!」
ユウキとリザードマンの間に鎧のリザードマンを倒したキャロが割り込んでいて、リザードマンの攻撃により切り裂かれてしまう。斧を持ったままだと間に合わなかったため生身で攻撃を食らってしまっていた。
リザードマンは攻撃を休めることなくキャロに蹴りを食らわして後ろにいたユウキ諸共吹き飛ばす。
「キャロ!ユウキ!」
「キャロさん!ポーションを!」
キャロとユウキの元にアスナとシリカが駆け寄り二人を抱き起す。キャロの傷口から氷が広がっていき、それに呼応して体力ゲージがどんどん減っていく。その間にもリザードマンは追撃を加えるために走りこんできていたが、相手を倒したアヤとアネット、フィリアが足止めをしてくれていた。
「こいつは任せて二人の回復を!」
「ユウキさん。大丈夫ですか?」
「ボクは大丈夫だよ!なんであんな無茶をしたのさ!?」
「私よりもユウキさんの方がこの後の攻略でツナさんの力になれますから・・・アスナさん。ツナさんによろしく伝えといてください・・・」
「キャロ。自分の口からツナに伝えなさい。」
アスナの言葉に笑って頷いたキャロだが体力が赤表示に変わると身体がポリゴン状になり消滅してしまう。
「キャロさん!!」
「キャロ!!よくも!!絶対に許さない!!」
「こいつ!!」
「ッ!!」
「そんな!」
シリカ、ユウキ、アヤ、アネット、フィリアはボンゴレに入ってから初めての犠牲者が出てしまったことに動揺し、相手に対して頭に血が上ってしまっていた。
「5人共落ち着きなさい!!キャロなら大丈夫よ。来る前にツナが保険をかけたから・・・訳は後で説明するわ。こいつは慎重に対処しないと危険な相手よ。」
ボンゴレホームside
「キャ!!」
「「「「!!!」」」」
22層ログハウスのリビングに突然キャロが落ちてきていた。リビングにいたメンバーは突然のことにびっくりしていた。
「ここは?えーー!どういうことなんですか?」
「どうしたんですのキャロさん?」
「キャロお姉ちゃんどうしたの?」
「ツナさん達はどちらに?」
「えー!?私って死んだんじゃ・・・それとも体力がなくなっても死なないの?え?でもそれじゃあ今までの人達は?」
「落ち着け。それについては私から説明しよう。すまないが残っているメンバーをリビングに集めてくれ。」
悲鳴をあげているキャロを心配しメンバーが駆け寄ってくるがキャロはブツブツと呟いているだけで問いかけに反応できずにいた。キズメルが戻ってきて、キャロの肩を抱いて落ち着かせる。また事情を説明するためにメンバーを集めるように指示を出した。
広場side
「あの武器の攻撃は受けても食らってもダメね。私とアネットがスピードで翻弄。あと雷光剣て隙を作るから、その隙をついて攻撃して。」
アスナのユニークスキルである雷光剣は他の武器のソードスキルに雷属性の付与をつけレベルに応じて相手を一定時間スタン又は目くらましさせることができる。
アスナを中心にリザードマンの体勢を崩し、反撃が開始した。
ボス部屋side
「倒したのかな。」
「お疲れ様。」
サチは消耗が激しく座り込んでしまう。あの技は負荷が高く連発は危険で、使用した後は一定時間行動も困難になってしまう諸刃の剣でもあった。
ボスが倒されたことでツナにラストアタックボーナスの報酬が出現しそれを確認すると
“ナビゲーションピクシー ユイ”
というアイテムを発見した。
ツナはそれを選択すると、2人の目の前にユイが姿を表した。
「ユイ!」
「ユイちゃん!」
ツナとサチはユイを抱きしめる。
「パパ、ママ。私・・・ぜんぶ、思い出したよ・・・」
ユイは嬉しそうにしながらも泣きそうな表情でツナとサチに経緯を説明していく。
「私の役目はメンタルヘルス・カウンセリングプログラム、MHCP試作1号、コードネーム YUI です。ゲームに閉じ込められてからはプレイヤーの感情のモニタリングをしていたのですが、ほとんどのプレイヤーの状態は最悪でした・・・恐怖、絶望、怒りという負の感情に支配されていたのです。そんな感情にばかり触れていた私にもエラーが発生してしまい、突然GMから切り離されたんです。その後はお二人に保護されました。」
ユイの話を聞きながらサチは目に涙を浮かべてユイを抱きしめてあげていた。ツナは顎に手を当てて
(つまり茅場さんがユイに悪影響が出る前にシステムと切り離して守ったのかな。突然切り離したから障害が発生して記憶がなくなり居場所も分からなくなったと。ユイちゃんの救済措置としての今回のイベントなのかな。)
と考えを巡らせていた。
暫くすると、ボス部屋の扉が開いてアスナ達6人が雪崩れ込んできた。アスナ達はユイの無事を喜び、ツナはキャロがいないことをアスナに確認すると、大空の庇護下のスキルのことを説明した。
話を聞いたユウキ達は転移結晶を使い急いでログハウスへと向かった。ログハウスに戻るとリビングにメンバーが集まっておりキズメルからツナと同じ説明がされていた。その中にキャロの姿を見つけて、ユウキとシリカが泣きながら飛びついていく。
「キャロ!良かったよ!」
「キャロさん!」
「ユウキさん!シリカさん!ごめんなさいです。」
キャロはユイの姿も確認し無事に解決したことに安堵したり、ツナから抱き締められて赤面したり、アスナから説教を受けて泣きそうになったりとコロコロと表情を変えていた。
ユイについてもメンバーに説明されたが、メンバーは前と変わらずにユイを受け入れて夜に歓迎会をすることになった。
無限槍、雷光剣については独自設定になります。
リザードマンをオーバーロードからかりました。魔法と武技がないため弱体化しています。