忠誠を誓う剣   作:ミドガルズオルム
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なんか滅茶苦茶だなあ、と思いつつも書くメンタルはあります(震え声)


EPISODE7 一条の光、偽りの盾と化す

「ッ、ぐあ…」

痛みで悲鳴すら上げられない。うめき声を洩らすのみだ。刃物とは此処まで痛むものだなんて。
しかし、しかしだ。此処で死ぬのは御免だ。死んでは、記憶を確かめることなど出来なくなってしまう。
刃を引き抜き、剣を払う。無論、当たることは無く避けられてしまったが。ああ、とてつもなく痛いじゃないか。とふらつきながら呟く。

傍に駆け寄る3人。既に聖遺物を身に纏った状態だ。これはまた後で説教を喰らうだろうな、と内心で諦め、再び剣を握り直す。

「ようやくカ・ディンギルの御披露目だ。これこそは月を穿ち、忌々しき呪詛を解くための塔。この荷電粒子砲から放たれる一閃によって世界は一つになるッ!!」

突如鳴動する地。地中から塔が現れる。あれが、カ・ディンギル。これが、月を穿つための巨塔。フィーネは満足気な笑みを浮かべる。
あれが放たれれば、月は崩落し地球に多大な影響を与える。そんなこと彼女は知ったことでは無いだろう。

「月を穿つことが何だって呪詛を解くことになるってんだ!」
「…私は、ただあの方と並びたかっただけだ。」

あの方。古代から生きているらしい彼女が言うあの方とは、神のことなのだろう。そしてあの方と並びたかったが故に塔を建造し、怒りに触れた。結果的に塔を崩され、果てには言葉すらも分かたれたと言う。それが月から放たれた"バラルの呪詛"。フィーネからすれば、本来あるべき姿の世界に戻すだけなのだろう。
納得は出来るが賛同はしない。現在を犠牲にしてまで過去を蘇らせるくらいならば、過去を捨てる。私はそうして見せる。
隣でクリスが安さが爆発しているだの何だの言っている。たまにパワーワードを放つようだ、この子は。

「何にせよ、月を穿たせるわけには行かないね。」
「はッ、腹に穴を開けた者に何が出来る。そして貴様も知っただろう?ネフシュタンの再生能力の前には貴様らなど脅威では無いと。」
「ならば脅威であると思わせるまで斬り殺してやるまで。」

排出機構から炎を噴かせフィーネに斬りかかる。痛みは感じず、周りの声も聞こえない。視界も大して機能はしていないようだ。気分的に狂戦士(バーサーカー)だ。
最早私を止めることを諦めたのか、クリスはフィーネの視界を奪うように煙幕を張る。これじゃ私の視界が更に失われるのだが、仕方が無いと一旦引き下がる。
次いで翼ちゃんと響ちゃんの連撃。全てフィーネに防がれてしまっている。がこれで良し。

「本命はッ!」
「こちらだ。」

クリスの背から放たれたミサイルに飛び乗る。ミサイルはフィーネを追い、私の接近を許した。白刃一閃、彼女の首を捉えて斬り裂く。…やはり再生を始める。全くもって厄介な聖遺物だこと。
二発目のミサイルはフィーネではなくカ・ディンギルを狙う。運良く破壊出来るかと思ったが、そう簡単には破壊させてくれないようだ。二発目はムチによって爆発四散、奥の手を使う他に無くなった。

「もう一発は…ッ!?」
「雪音ッ!…佐条ッ!何を…まさか!?」
「何をするつもりなの…?二人共…」

私の乗ったミサイルは、クリスを乗せてカ・ディンギルの真上に昇る。彼女には降りろと怒られたが此処は譲れない。死なば諸共だ。
驚愕の表情を見せるフィーネたちを見下ろして大気圏突破。ほう、宇宙空間とはこんな感じなのか。
感想を述べる私を尻目にクリスは歌う。始まりの歌を。カ・ディンギルは既に充填され、今にもその雷霆を吐き出さんと呻く。天から落ちた雷霆が、天を穿とうとするとは。

「Gatrandis babel ziggurat edenal
Emustolronzen fine el baral zizzl
Gatrandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fine el zizzl……なあ、柚子。」
「何だい?」
「何もこんな危険な所にまで付いてくるこたねえだろ?」
「…はは、死なば諸共という言葉があるだろう?」
「けッ、あたしは死ぬつもりなんてねーっての。……あたしはさ、パパとママのことが…大好きだった。だから、2人の夢を引き継ぐんだ。パパとママの代わりに、歌で平和を掴んで見せる。私の歌は…そのために…ッ。」

一極集中、一条の巨大なレーザーを放つクリスは血を吐き覚悟の表情を見せる。ああ、この子は未だ夢の途中なのだ。此処で死なせることは絶対に許されることでは無いのだ。

──故に、私はこの身を捧げて歌おう。貴方と出会うまでは知り得なかった、私の絶唱を(・・・・・)

「Gatrandis babel ziggurat edenal
Emustolronzen fine el baral zizzl
Gatrandis babel ziggurat edenal
Emustolronzen fine el zizzl…本来の担い手とは違うのだがね。」

クリスを庇うように前へ立ち、絶唱を発動させる。剣は一条の光を放ち、巨大な白盾と化す。これは本来アロンダイトが持つ聖遺物の特性では無い。何処かで混ざったのだろう、ギャラハッドの白き盾だ。防御と共に、触れる者に崩壊の呪いをもたらす。認められた持ち主、それ以外は持つことすら禁じられている呪いの白盾。
つまり偽りの担い手である私へのバックファイアは、他の絶唱よりも大きなものとなる。現に私の血は目から口から、血管に亀裂が入り、更に噴き出す。内蔵も幾つか傷付いているだろう。
だが、これを持ってしてもカ・ディンギルの威力を打ち消せないのだ。これ以上は肉体の崩壊が起こってしまう。

「…ッ。横にずらせ、直撃は避けられるッ!」

ああ、その手があったのか、これはクリスの後ろにリフレクターがあるから私の絶唱が無くともずらせたのでは。絶唱は必要無かったのか、と思いつつも白盾を傾けて軌道を逸らす。
直撃は避けた。カ・ディンギルの砲撃は月の端を崩壊させるに留まったのだ。
意識は霞む、しかしまだ鼓舞する。フィーネはまだ居る、故に死ねない。死ねるものか。
血みどろの私と共にクリスは墜ちる。偽りの盾は崩壊する。先程の絶唱はやはりこたえるもので、彼女を抱きかかえながら地に激突した。…ああ、顔が私の血で汚れてしまった。

◼ ◼ ◼

「雪音…佐条…」

愕然とする他に反応を示せなかった。雪音は一条の光で砲撃を撃ち消そうと試みて、佐条は一条の光から成る白き盾で月の崩壊と雪音の直撃を防いだ。
そして役目を果たしたかのように地に墜ちてしまったのだ。目の前のフィーネは、し損ねたか、と悪態をつき、そして嘲笑う。
無意味な犠牲だと。無駄な抵抗だとただ嗤ったのだ。心が、どす黒く感じるのが分かる。お前は、何処まで馬鹿にして──

「…笑ったか。命を燃やして大切なものを守り抜くことをッ!お前は無駄だとッ!せせら笑ったかッ!!!」

これが激昴せずに居られるものか。刀を向け、その首を必ず断つと誓う。あれはもう私の知る彼女ではなく、フィーネなのだと、再び認識した。
怒りの一刀を、と足を踏み出した瞬間だった。獣のような咆哮を耳に響かせた。これは。この声は。

「立花…!?」
「それが…それがッ!夢ごと命を握り潰した奴の言うことかァァァッ!!」

紛れも無く立花のものだった。その怒りは私以上に黒く心を染め上げ、制御不能にまで追い詰めてしまった。誰かと手を繋ぐための手は、まるで誰かを引き裂くための手のようで。
そんな彼女を見て、悲しさで心が満たされた。奏の力はそう使うためのものじゃないのだと。
彼女には私の姿すら目には入っていないらしく、フィーネのバリアごと彼女を裂く。
やめろ、やめてくれ。これ以上、人のカタチをした破壊衝動として奏から受け継いだ力を振るわないでくれ。

「もう、もうよせ立花!このままでは聖遺物との融合を促進させるだけだッ!」

彼女にはもう、私の叫びも届かない。