それではどうぞ。
あれから2年。新しい名前、新しい家、新しい生活。まわりが余りにも変わってしまったが、別に嫌なわけでも無く、むしろ心地よかった。
「フロイドさーん?ごはんできましたよー?」
「あーい、今行くー」
13歳になった私はありとあらゆる家事をやっていた。家に匿って貰っているせめてもの恩返し、と言う奴だ。
…ところで、この家の財政はどうなっているのだろうか。私は箱入り娘だし、フロイドさんも特に外に出るわけでも無い。そういえば設計技師だっけ、それで稼いでいるのだろう。シルエットナイトを作るにして、ナイトランナーだけでも、ナイトスミスだけでも、またその両方が居たとしてもシルエットナイトは完成しない。たとえるなら、なんの印も付いていない、形も分からないガンプラを、説明書無しに組み立てろと言っているようなものだ。ましてや、カスタムタイプになると全体の重量バランスが変わってくるので下手に組み立てると強化魔法があっても自壊しかけない。それがもし戦闘中であったら…言うまでもなく、そこには生きるという選択肢はなくなるだろう。
「…ほんと、そんなお金が何処に…」
「はぁー…なかなか上手く描けないなぁ…ん?どうしたの?」
「…あ、いえ、何でもありません。」
たぶん凄い有名な人なんだ。うん。なんか闇があったりしないはず…しないよね?
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この前の疑問…この家、どうやって金を稼いでいるのか?その疑問は、すぐに解けた。
ある日、家の部屋の掃除をしているとき…いえ、そんな部屋があったりするわけでは無いので、基本的にフロイドさんの部屋の掃除なのですが…まぁ掃除をしていたときに、見つけてしまった。
「…これ、って、……」
ある本棚に挟まっていた紙。何かの設計図のようだ。紙を開くと、そこには見たことのある機体が描いてあった。それもそのはず、その機体は、今も魔獣からこの王国を守る騎士として存在しているのだから。
「カル…ダトア…」
それと同時に、私の前の家にとっては、因縁深き機体でもある。間接的に、家にトドメを刺した忌むべき機体。
「じゃぁ…カルダトアは…フロイドさんが?」
いや、それはおかしい。私が生まれたときには既にカルダトアに主力が置き換わっていた。それこそ、主要な砦にはサロドレアの陰など見えないほど。
しかし、フロイドさんは、間違いなく20代前半だ。私が13歳だから、少なくとも私と同じくらいの時にカルダトアを設計したことになる。しかし、父の話だと、設計した人は私のお爺さんと同じ時代の人間らしい。だとすれば、今は90代…下手をすれば100を超えているはず…
…いや、もしかしたらこれは資料として持っているだけか?そう考えるとしよう。あまり深い詮索はしない方がいい…いや、してはいけない気がする。
ササッと元あった場所に戻し、部屋から逃げるように扉から出た。それからは何も無かったかのように過ごした。
ぐらついた本棚から一つの大きな紙が落ちた。フロイド・シャノンが設計した一つの機体だ。
その機体の名は、この世界には存在しない。…旧いヒーローの名前を冠していた。
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嘘だ、何故こうなる?私が何をした?
フロイドさんは何を寝ているのか、ここはリビングですよー?それとそのカーペットの紅いのはワインでも零しましたか?駄目じゃ無いですか、それ洗うの誰だと思ってるんですか?まったく…
「…おーい、起きて下さいよー。寝相が悪いにも程がありますよー?おーい……」
「………………。」
返事は、返ってこない。分かっている、なんで返ってこないかなんて。ただ、ただ、認めたくないだけなんだ。
「はや、く…起きて…洗え…ない、じゃないで…すか……ッ。」
視界が歪む。目元が熱い、心に穴が空いたみたいだ。もう二度と、こんな光景は見たくなかった。首を吊った妹の風景が思い浮かぶ。白くなった肌、力なく垂れた四肢、絶望に染まった死に顔。全てが、フラッシュバックする。
「………ッ!」
声は上げなかった。ただ、フロイドさんの体にしがみつきながら、泣いた。初めて会った時の涙とは真逆の涙だった。
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葬儀は終わった。フロイドさんは棺の中で眠っている。土におおわれて見えなくなると、隣の憲兵から手紙が差し出される。受け取ると、それは遺書だった。
─カティア・シャノンへ─
君がこれを見ているとき、私は既に死んでいる。恐らく、私を妬む者からの凶刃に斃れたのだろう。もはや、シャノンの名を冠するのは君だけ、と言うわけだ。…一つ、頼みたいことがある。私は生きているとき、三機のシルエットナイトを設計した。それを、君の手でいつか作って欲しい。これは、保護者としてでなく、フロイド・シャノンが、カティア・シャノンに最後にお願いする我が儘だ。どうか、聞いて欲しい。君の面倒は、私の友人が見てくれる。なかなか楽しい奴だ。彼の面倒も見てやってくれ。なにせ壊滅的に家事ができない。…最後に、君の家を滅ぼした…と言っては語弊があるか。カルダトアを設計したのは私だ。許して欲しい。それと、君の正体も知っていた。君を拾ったのは偶然ではない。頼まれたんだ、君の母上に、ね。私が直接謝罪の言葉を言えないのは残念だが、カルダトアを設計して良かったと思うところもある。少なくとも、君に出会えた。たったの二年間だったが、これ以上なく、楽しかったよ。それじゃあ、後の人生を悔いのないように。空から君の事を見守っていよう。─フロイド・シャノン─
あー……目が………
ヤバい、また泣いちゃう。
座り込んで俯く。まわりには誰も居なかった。
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「セレブリティ・アッシュ…サベージビースト…トラセンド…」
フロイドさんが遺してくれた設計図、それを見ると、明らかに異質、騎士としての闘いをするシルエットナイトではない。これは、戦いをするための兵器だ。
「…よし!」
頬を両手ではたく、気合いが入ったような気がした。
「…私、ナイトスミスになる!」
こうしてカティさんはナイトスミスになった訳なんですねー。あ、因みにカティさんの過去編はアリシア開発まで続くんじゃ。
立ち絵はPSO2で頑張って作る。もちっと待たれよ。
あと本編は海行かないかも。そんな余裕がない…
それではまた。