FAIRY TAIL 守る者   作:Zelf

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第92話  海戦

 大魔闘演武四日目。僕は今、Bチームの皆が待つ選手用観客席へ続く道を歩いていた。リザーブ枠のカナさんと交代し、また試合出場メンバーとして参加することになったのだ。競技内容によってはまた僕も出たい。一日目は正直微妙だったからな…競技パートはそれなりに良かったけど、バトルパートは負けたし。今度こそ頑張るぞ、と気合い一発両手で頬を叩く。

 

 それにしても…昨日はホント大変だった。リュウゼツランドが壊れるということは無かったけれど、それでも所々破損もあったので賠償は免れなかった。それでたっぷりとお叱りを受けた原因のナツさんとグレイさんだが、その程度のことは最早慣れっこのようで…リュウゼツランドはしばらく休業となったので酒場でまたどんちゃん騒ぎした。よくあれだけ騒げるなといつも思うけど…楽しかったのは違いない。おかげで眠いけどね。

 

 

 

「お、来た来た!」

 

「お待たせし…誰?」

 

 

 

 てっきり誰かが待っていたのだと思って反射的に受け答えしてしまったが、目の前にいたのは知らない人物だった。僕くらいの背丈に、黒いシルクハットと黒いローブを身に纏っている。シルクハットを深く被っている為か顔は良く見えない。

 

 何でこんな所に人が…?それにどうやら僕のことを待っていたようだけど…こんな人物を僕は知らない。そもそも僕と同年代なんてウェンディとかイーロンとか…大体が同じギルドの仲間だ。他のギルドで僕達くらいの魔導士は見たことが無い。そしてここは選手用の観客席へ向かう通路だ。一般人は勿論、ギルドの仲間くらいしか入れないはずなのだ。

 

 

 

「えっと…僕に何か用事ですか?ここ、妖精の尻尾(フェアリーテイル)のメンバーしか通れないはずなんですが」

 

「あ、ごめんごめん!どうしても君に会いたくて、つい警備員の目を盗んで入っちゃったんだよね」

 

 

 

 そう言って笑いながら答える少年(少女?)。要するにこの子は不法侵入したってことか…でもなんでわざわざ僕に会いに来たんだ?

 

 

 

「ボク、ゴーシュさんのファンなんだよね~!一日目のジュラとの戦い、凄かったもん!」

 

「え…あ、ありがとう」

 

 

 

 ファン…僕に?確かに一日目のバトルパート以降は妖精の尻尾(フェアリーテイル)への風当たりは多少なくなったけど、実際にこうして面と向かって言われるとは…嬉しいけど、なんか気恥ずかしさも感じるな。ファンなんて出来るとは思ってなかったし。

 

 

 

「嬉しいけど、ちゃんと一般用の観客席に戻らないと駄目だよ。僕も一緒に行って謝ってあげるから」

 

「え!?そんなことしなくて良いって!ボクだけでちゃんと行けるよ!それにもうすぐ競技パート始まっちゃうでしょ?」

 

 

 

 そうだった…でもこの子がちゃんと謝りに行くか少し不安なんだよな。気づかれずに不法侵入するくらいだ、気づかれずに戻ることも可能だろう。それになんかこの子、わんぱくって印象が…

 

 

 

「…そんなに信用できない?」

 

「あ、いや…」

 

「じゃあ指切りしようよ!それなら安心でしょ?」

 

 

 

 小指を立てて右手を出してきたので、僕もそれに応じて同じように右手を出す。

 

小指と小指を絡めた瞬間、僕は唐突に、激しい目眩と頭痛に襲われた。

 

 

 

「うっ…!?」

 

「ゴーシュさん!?」

 

 

 

 くそっ…頭の中がグルグルと回ってる。立ってることもままならない…段々と意識が遠のいていく。早くしないと、時間が…

 

 

 

『大魔闘演武、四日目!!本日の競技パートがまもなく始まろうとしています!競技の名前はナバルバトル!海戦、海の戦いという意味です!球場の水中競技場から外に出てしまったら負け!最後まで残った者が勝者です!ただし、最後に二人だけ残ったときに特殊なルールが追加されます!それは、五分間ルール!最後の二人になって五分!五分の間に場外に出てしまった者は最下位となるルールです!』

 

『謂わば水中相撲といった所かねぇ』

 

『楽しみですね~、ありがとうございます』

 

 司会が競技パートの説明をしている中、妖精の尻尾(フェアリーテイル)ではある問題が発生していた。妖精の尻尾(フェアリーテイル)Bチーム、カナと交代で参加することになっていたはずのゴーシュがまだ姿を現さないでいるのだ。

 

「兄貴が!?」

 

「そう…こっちに寄るって言ってたから、アンタ達なら知らないかと思ってね」

 

「知ってるも何も…俺達さっきゴーシュ兄といたぜ?」

 

「真っ直ぐそっちに向かったはずなんスけど…」

 

 ギルドメンバー用の観客席で、カナがロメオとイーロンの話を聞き眉間にしわを寄せる。真面目なゴーシュが競技パートが始まる直前までいないとは考えづらい。となると何かしらの妨害があったのか。そう考えるギルドの面々。

 

 しかし、妨害を行う者に心当たりが無かった。唯一の心当たりは大鴉の尻尾(レイヴンテイル)くらいだが、彼らは昨日ラクサスの活躍によって反則行為が露見し、評議員によって連行されていったはずなのだ。

 

「…いないものはしょうが無い。このまま私がリザーブ枠で出場するよ」

 

「うむ。儂らはゴーシュを捜索しよう」

 

『各チーム、着水していきます!』

 

 カナはBチーム用の観客席へ、ギルドの皆がゴーシュ捜索へ乗り出した。

 

 そして遂に海戦(ナバルバトル)の出場メンバーが各々着水していく。奇しくも女性魔導士が水中競技場に集まっていく。約一名、水中競技場にいる男性は解説者から舌打ちを受けていたが、そんなことは誰も気にもとめない。

 

 

 

『それでは海戦(ナバルバトル)!開始です!!』

 

 実況の声と共に競技開始のゴングが会場に鳴り響いた。Aチームから出ていたルーシィは開始と同時に金色の鍵を取り出す。

 

「早速だけど、皆ごめんね!開け、宝瓶宮の扉!アクエリアス!」

 

 ルーシィの持つ最強クラスの星霊、アクエリアス。水のある場所でしか呼び出せないという条件はあったが、今回はアクエリアスが力を発揮するに相応しい場所だった。

 

「ウオォッ!水中は私の庭やーっ!!」

 

「させない!水流台風(ウォーターサイクロン)!!」

 

 ジュビアとアクエリアスの魔法が互いにぶつかり合い、相殺されていく。両者の魔法は完全に互角だった。ジュビアも、アクエリアスを使役するルーシィも互いに第二魔法源(セカンドオリジン)を解放したことで大幅に魔力が向上したが、それでもまだアクエリアスがやや上回っているはずだった。それを互角にまでジュビアの実力を引き上げているのは、ジュビアの思いの力。グレイに無様な姿は見せられないという覚悟の力だった。

 

「な、なんて戦い…!」

 

「強敵同士が潰し合ってくれてる…だったら今の内に!」

 

 ルーシィとジュビアの魔法に巻き込まれないように動いた青い天馬(ブルーペガサス)のジェニー。迂闊にも二人の戦いに巻き込まれないようにと水中から体が出る手前まで離れていた唯一の男性、四つ首の仔犬(クアトロパピー)のロッカーにこっそりと近づき蹴りをお見舞いした。ロッカーはあっさりと場外へと吹っ飛ばされた。

 

 それまで動いていなかったルーシィとジュビア以外の面々も、それぞれ戦闘を始める。そんな中、魔法を相殺し続けるルーシィに変化があった。

 

「このままじゃ拉致があかない…一旦戻るよ!」

 

 突然アクエリアスがそんなことを言い出したのだ。

 

「え、何でよ!?水中じゃアンタが一番頼りになるんだから!」

 

 アクエリアス以上に水中で力を発揮できる星霊は、ルーシィの契約している星霊の中にはいない。いや、星霊界全体で見てもいない。黄道十二門は、星霊の中でも最強の鍵なのだから。

 

 アクエリアスは攻撃が殆ど全体攻撃に近い。それもルーシィすら巻き込まれかねない程の高波で敵味方構わず攻撃してしまう。しかし何だかんだ言ってもルーシィの中では最も頼れる星霊の一人であり、冷静な彼女のことだ、何かの作戦だろうか?そう考えたルーシィに対してアクエリアスは。

 

「デートだ」

 

 そう言って消えていった。

 

「ちょ、ちょっと~!?」

 

 アクエリアスが消えたことで、ジュビアは隙ありと見てそのまま水流台風(ウォーターサイクロン)でルーシィを攻撃する。ルーシィはそれをアリエス、バルゴの二体同時開門によりどうにか凌いだ。

 

 

 

「私も良いとこ、見せないとね!」

 

「やれるものならやってみな!」

 

「アタシのことも忘れないでよね!」

 

「シェリア!」

 

 一方、ルーシィとジュビア以外に動いた三人が三つ巴の戦いを繰り広げていた。ジェニーと人魚の踵(マーメイドヒール)のリズリー、そして蛇姫の鱗(ラミアスケイル)のシェリアだ。三人とも水中向きの魔法ではないが、それぞれ魔法を駆使して戦っている。それを観客席から見ていたウェンディが身を乗り出す。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)のウェンディたん!自分も戦いたそうです!』

 

「え?」

 

『昨日引き分けとるからねぇ』

 

『今度こそ、この手でシェリアたんを倒したいと言わんばかり!』

 

「…そ、そんなこと思ってませーんっ!!」

 

 ウェンディの叫びは、会場の盛り上がりによって殆ど無意味だった。

 

 この瞬間、ギルドメンバー用の観客席ではイーロンがこの場にいなくて良かったと内心ホッとしていた。昨日のウェンディとシェリアの試合中、司会に対して殺気をずっと送り続けていたからだ。まるで視線で射殺せるのではないかと錯覚させるほどの殺気だったのだ。要するにゴーシュが嫌がりそうなことはイーロンも嫌がるのである。

 

『ウェンディたんの戦いを、私も見たかった…前にウチの劇団を助けてもらった節は、ありがとうございます』

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)Aよ!なぜウェンディたんを出さなかったのか…!』

 

『今からでも交代しろーっ!…ありがとうございます』

 

「うるさいっ!」

 

 解説席にいるのは、以前ウェンディが受けた心を癒やして欲しいという依頼の依頼主だ。それまで殆どゴーシュやシャルルらと一緒に依頼を受けていた彼女が、一人前になりたいと言って受けた依頼である。

 

 ナツ達からすればあまり良い印象を持たれていない依頼主でもある。何かと人使いが荒いのだ。そのせいで劇団員が一時期ボイコットしていたこともあったとか無かったとか。

 

 

 

「…全員纏めて倒します。水中でジュビアに勝てる者など、いない!第二魔法源(セカンドオリジン)の解放によって身につけた、新必殺技…届け、愛の翼!グレイ様ラブ!!」

 

「止めろーーーーっ!!」

 

 

 

ある一人の男性が放った叫びも虚しく、ジュビアの必殺技が放たれる。それによりリズリー、ジェニー、シェリアの三人は場外へと弾き出されてしまった。水中に残っているのはアリエスとバルゴの力により持ちこたえたルーシィと…これまで全く動いていない剣咬の虎(セイバートゥース)最強の五人の最後の一人、ミネルバのみ。

 

(ジュビアを見て萌えてくれましたか、グレイ様…!)

 

 ジュビアがAチームの観客席に目をやると、そこには真っ白になっているグレイの姿があった。どう見てもドン引きしている。それを見たジュビアは、いつの間にか場外へと出ていた。

 

 

 

 こうして、水中に残ったのはミネルバとルーシィの二人だけ。ここから五分間ルールが適用される。ルーシィは一度星霊を戻し、魔力と体力を無駄に消耗しないようにする。

 

 

 

「妾の魔法なら、一瞬で場外にすることも出来るが…それでは興が削がれるというもの。耐えて見よ、妖精の尻尾(フェアリーテイル)

 

「な、何、これ……ぐあっ!?」

 

 

 

 連続して何らかの魔法攻撃を続けるミネルバ。ルーシィはあらゆる方向から、あらゆる属性を付与された攻撃を受け続ける。

 

 何とか体勢を立て直したルーシィ。すぐさま腰にあった星霊の鍵を使おうとしたが、いつの間にか腰に巻いていたホルダーごとミネルバに奪われていた。

 

「いつの間に…うあっ!」

 

 場外まで吹き飛ばされそうになるも、何とかギリギリの所で持ちこたえる。しかし、状況は変わらない。また同じようにミネルバの攻撃に晒され、耐え続けるルーシィ。星霊の鍵だけでなく、星の大河(エトワールフルーグ)も奪われてしまっているのだ。ルーシィはただ耐えるという選択肢しか残されていなかった。

 

「あたしは…どんな攻撃も、うっ、あっ!耐えて、みせる…!」

 

「そろそろ場外に出してやろうか」

 

 ミネルバがルーシィを確実に場外へと出す為、連続攻撃を仕掛けようとする。

 

「こんな所で、負けたら…ここまで繋いでくれた皆に、合わせる顔が無い!あたしは、皆の気持ちを裏切れない!だから、絶対…諦めないんだ!!」

 

 

 

 ルーシィの覚悟を聞いた後、ミネルバは動きを止めた。五分間ルールも残り三十秒近く残っているが、ミネルバはそのまま固まり…五分間ルールが終了するその時まで動く事は無かった。

 

 

 

『五分経過!あとは順位をつけるだけとなったーっ!』

 

 

 

 実況のその声が響いた後、ミネルバは先程までの攻撃とは比べものにならない程の魔法攻撃を繰り出した。

 

 

 

「うあぁっ!!」

 

「頭が高いぞ、妖精の尻尾(フェアリーテイル)!我々を何と心得るか!我らこそ、天下一のギルド、剣咬の虎(セイバートゥース)ぞ!!」

 

『これは流石に場が…消えた!?』

 

「っ?ぐあっ…!」

 

 

 

 場外へと飛ばされそうになったルーシィを転移させ、自身の目の前まで戻すミネルバ。無防備なルーシィに対し、思い連撃を叩き込む。ルーシィはされるがまま、水中である為受け身も、ダウンもなくただサンドバッグにされている。

 

 

 

「止めろぉぉっ!!」

 

 

 

ナツの叫びを聞いてか、観客席にいた他の剣咬の虎(セイバートゥース)のメンバー達が悪趣味な笑みを浮かべていた。それに対し、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の面々はさらに怒りを募らせる。

 

 

 

剣咬の虎(セイバートゥース)に逆らうというのがどういうことか、その体に教え込んで――む?」

 

 

 

 ミネルバが更に追撃をしようとした次の瞬間、水中競技場の中に青緑色の結界が突如出現し、ルーシィを守るように包み込んだのだった。

 

 

 




少し切りが悪いですが、その分早めに続き出します。

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