FAIRY TAIL 守る者   作:Zelf

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大変長らくお待たせ致しました!!

詳しくは後書きにて。


第83話  一日目の夜

 目を覚ましたら、目の前に知らない天井が広がっていた。

 

 確かジュラさんとの試合の後、ウェンディに肩を貸して貰いながら何とか医務室まで行って、ナツさん達も来てジュラさんとの戦いの感想やら労いの言葉を貰って…そこから先は記憶が無い。ああ、その途中で寝ちゃったのか。

 

 今、何時だろう?随分長いこと眠ったような気がする。体も大分楽に…なってないな。肉体的には休めたんだろうけど、魔力は全然回復していない。だからだろうか、少し気怠く感じるのは。

 

「…?なんか重…あ」

 

 体を起こすと、ベッドに突っ伏して寝ているウェンディの姿があった。それに、デジモン達も彼女に寄り添うように寝ていた。

 

 結構無茶な戦い方をした自覚はあるし…心配かけちゃったかな。

 

「…ありがとう。ウェンディ、皆」

 

 出来るだけ優しく、彼女の頭を撫でる。すると、少しだけ表情が和らいだような気がした。

 

 

 

 試合内容としては、まあまあだろう。個人的には全力を出し切った、清々しい負け試合だった。あのジュラさん相手にあれだけ立ち回れれば上出来…だが、思い返してみるとやっぱり反省点はある。

 

 やっぱり防御がメインの戦い方をしてきたからか、こっちから攻めるってなるとやっぱり威力の低さが気になってしまう。循環の結界(サイクル)で相手の防御を破り、隠匿魔法(ヒドゥン)で攪乱させるのは良かったけど、よく考えてみれば攻撃力を重視して緑竜化して戦うんじゃなくて、遠距離で防御結界(ディフェンド)とか水晶結界(クリスタル)でジュラさん本人を攻撃する隙を作るように戦うべきだった。半端に滅竜奥義を使えるようになってしまったから、不慣れな攻撃を選んでしまった。

 

 そして良く考えたら…まだ使っていなかった手があったじゃないか。それを使えばもう少し善戦できただろうに…まあ、後の祭りだね。戦闘に使ってなかった(・・・・・・・・・・)

から忘れていたよ。

 

 

 

「ああ、起きたのかい」

 

 入り口のドアを開けて入ってきたのは、顧問薬剤師のポーリュシカさん。彼女の手にはタオルケットが数枚。どうやらウェンディ達に掛ける物を持ってきてくれたらしい。

 

「まだ本調子じゃないだろう。大人しくしてな」

 

「そうします。あの、今って何時ですか?僕はどれくらい眠ってたんでしょうか?」

 

「丁度、日付が変わった所さ。かれこれ八時間くらいかね」

 

 そ、そんなに眠ってしまっていたのか…まあそれ程消耗した戦いだったけど、やりきったって達成感もある良い試合だった。余計な邪魔も入ったし、次にジュラさんと戦うことがあったら今度こそ一矢報いてみせる…そんな機会があるかは知らないけど。

 

「…その様子じゃ、まだ万全とはいかないようだね」

 

「分かるんですか?」

 

「舐めて貰っちゃ困る。それより、アンタに確認したいことがあるんだ」

 

「確認したいこと?」

 

「魔力欠乏症のことさ。アンタ、魔力欠乏症に最近なったことは?」

 

 

 

 ああ、これはバレてるな…ま、元々隠すつもりも無かったし別に良いか。

 

 観念して、僕はジュラさんとの試合の最中に魔力がゼロになったこと、それがルーシィさんの時と同じように大鴉の尻尾(レイヴンテイル)の魔導士によるものであること、そしてゼロになった魔力を無理矢理回復させて戦いを続行したことを話した。

 

「魔力を回復させて戦い続けた…成る程、それなら症状が軽かったことも、外傷が多かったことも頷ける。おかしいと思っていたんだ、ウェンディ達から聞いた話だとアンタは防御魔法が得意らしいのに、ここまで派手に傷を受けていることがね」

 

「ジュラさんの大技を受け止めようとしたら、防御用の結界が消えたんです。魔力吸収用の結界は残っていたので何とか耐えられましたけど」

 

「聖十のジュラの攻撃を受け止めたアンタの結界が優れているのか、そもそもその攻撃が大技じゃないのか…どうも、生身で受けて生きているのが信じられないね、全く」

 

 

 

 大気が震える程に魔力を集中させて放った一撃。正直あれが全力でも納得するんだけど…試合終了後、ジュラさんはいつも通りの様子だった。あれ以上の技があるか、あれを連発出来るか…やっぱり、ジュラさんくらいの魔導士になると、本気を出したら僕ぐらいの魔導士じゃ死んでしまうんだろう…もし、もしまたこんな風に手合わせしてもらえることがあったなら、その時は全力を出してもらえるようになりたいな。

 

「あ、そうだ。イーロンもここにいるんですよね?」

 

「ああ、今はそこで寝てるよ」

 

 ウェンディの代わりに魔力欠乏症となってしまったイーロンもここにいることを思い出し、ポーリュシカさんが指差した方を見ると、思っていたよりグッスリと眠っているイーロンが目に入る。大会が始まる直前に聞いていたから、お見舞いに来れなかったのが少し気がかりだったんだけど…大丈夫そうで良かった。

 

「彼の魔力も回復させようと思うんですが、大丈夫ですかね?急に魔力が増えて副作用とか…」

 

「そんなことも出来るのかい…そんなものは聞いたことがないよ。魔力が急速に回復することなんて殆どあり得ないことだからね、前例が殆ど無い。その前例も、この子達くらいさ」

 

 そう言ってウェンディに毛布をかけるポーリュシカさん。確かに滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)は対応する魔力を食べて回復するんだし、ナツさんも前に神の炎だかを魔力がゼロの状態で食べてたっけ。彼らが特殊なのか、それとも魔力の急速回復による副作用など無いのか…どっちかは分からない。

 

 元々、譲渡結界(ランブル)循環の結界(サイクル)は自分や他人の魔力を回復させる方法を模索して考え出した結界だ。どっちも、一回作ってしまったら溜め込んだ魔力を出してしまわないとそのまま出現し続けるから、持ち運びが厄介だったけど。

 

 ジュラさんとの戦いで吸収した魔力分はまだ手持ちにある。僕とイーロンを回復させるには十分だ。もしも副作用とかあったら怖いから、ゆっくり回復するとしよう。

 

「…にしても、安静って言葉の意味分かってるのかい」

 

「え?」

 

「その魔力を回復させる方法だって魔法なんだ。魔力が全快じゃないアンタが使っても大丈夫なのかい」

 

「ああ、それなら大丈夫ですよ。自分が消耗しても問題ないように、いくつか僕の魔力から独立して展開出来る結界もあるので。これもその内の一つです」

 

 あとは防御結界(ディフェンド)とか譲渡の結界(ランブル)とかかな。万が一僕の魔力がゼロになっても出していられる結界は。まあ枯渇する前に出しておかなければならないっていうのはあるけど、最低限の自衛や回復用の魔法くらいはいつでも使えないといざという時大変だし。

 

「それならいいけどね…ちゃんとウェンディ達の気持ちも分かってあげなよ」

 

「…それも、分かっているつもりです。今までもずっと、心配かけまくっているので…自分を犠牲に助けても、その人の心は救われない。もうこれ以上ウェンディに涙を…悲しい涙を、流させたくないですから」

 

 元々泣き虫なのは知ってるから、泣かせないってのは無理かなと思った。だから、今後は嬉し涙だけにしてあげたい。

 

「…どうやら、私が口出す必要はなさそうだ。さて、その魔力を回復させる魔法とやらを見せて貰おうじゃ無いか。ただし危ないと思ったら止めるからね」

 

「あ、ありがとうございます。では…循環の結界(サイクル)

 

 戦闘時は朱色だったが、今は藍色だ。循環の結界(サイクル)は、魔力を吸収する時に朱色、放出する時には藍色となる。この状態で対象に当てれば、さっきジュラさんとの戦いで吸収した分だけ魔力を回復させることが出来る。

 

 まずは今出した掌サイズの物を、戦闘時使使用していた、藍色に変化した循環の結界(サイクル)に当てる。そうして吸収を終えた掌サイズの物を朱色から藍色に変化させ、次々とイーロンの体に当てまくる。これで一気に回復ではなく、魔力の回復が少し早いくらいまで回復速度を抑えられるはずだ。

 

「ほう…確かに、魔力が徐々に回復しているね。魔力欠乏症の治療には時間がかかるもんなんだが…これなら問題なさそうだ」

 

「もし良かったら、まだジュラさんの魔法から吸収した魔力が余分にあるのでお渡ししましょうか?今後魔力欠乏症の方の治療に使ってあげて下さい」

 

「なら、お言葉に甘えるとしようかね。アンタ達が今後無茶した時の為に」

 

「は、ははは…そんなことにならないよう、善処します…」

 

ポーリュシカさんの言葉につい乾いた笑いしか出せなかった。

 

 

 

「………」

 

 この時の会話を寝ているはずの彼女が聞き耳を立てていたことは、僕は気づくことは無かった。

 

 

 あの後、イーロンは魔力が回復したことで目を覚ました。魔力が回復したとは言ったけど、実は魔力欠乏症って数日あればある程度回復するらしく…あまり循環の結界(サイクル)の恩恵は感じられなかった。多少でも早く回復出来たのなら良かったけど…うん。何だろう、この感じ。完全に不完全燃焼である…ややこしい言い方をしてるけど適当に流してくれ。

 

 念の為今晩はそのまま休養することにしたイーロンを残し(彼は渋々だったが)、僕は程なくして目を覚ましたウェンディと一緒にギルドの皆がいる酒場へと向かうことにした。デジモン達はデジヴァイスの中で休ませておいた。どうやら遊び疲れたようだったから、起きた時に見舞いに来てくれたお礼を言おうと思う。

 

 本当は僕も休養しろってポーリュシカさんに言われてはいたんだけど、幸い症状も軽いことだし、ウェンディの「私が無理しないよう見張ってます」で許可を頂いた。その時少し寒気がしたような…気のせいだと思いたい。少し怖いとか、そんなことは思っていない。

 

「…ウェンディ、道合ってる?」

 

「え?合ってるけど、どうして?」

 

「あ、いや…合ってるならいいんだ」

 

「??」

 

 小首を傾げた後、前へと向き直ったウェンディに手を引かれる。自覚はないみたいだけど、今のウェンディは少し様子がおかしい。心なしかはしゃいでいるというか、浮かれているというか。大方イーロンが無事に目を覚ましたことが嬉しかったのかもしれない。

 

ただ、彼女は何か考え事をしていると意識はそちらに向いてしまいがちだ。そんな状態だと、大体迷うんだよね…慣れていない町だと特に。以前…確か、化猫の宿(ケットシェルター)にいた頃、マグノリアに来たことがあったんだけど、確かその時も買い物に夢中になりすぎて迷子になっていたことがあった。あの頃は殆ど余所の町に行ったりすることはなかったから、彼女は凄く浮かれていた。付き合わされていた僕が言うんだから間違いない。心配しすぎなら良いんだが…あの時は何時間迷ったっけな。

 

「あ、ゴーシュ!見えてきたよっ!」

 

 良かった…あれからウェンディも成長していたようだ。流石にこんな大都市で迷ったりしたら洒落にならない。最悪、索敵結界(サーチ)を使ってマッピングを始めることになる所だった。

 

 と、丁度酒場から小さな影が出てきた。

 

「あ、ウェンディ!何処行ってたのよ…って、何でアンタもいるわけ!?」

 

「シャルル!」

 

「大した傷じゃなかったし、寝たら動き回れるようになったからね。ポーリュシカさんにも許可貰ったよ」

 

「それ、ホントなの?ウェンディ」

 

「うん。私がちゃんと無理しないよう見てるから大丈夫!」

 

 僕に確認しないでウェンディと話し始めるシャルル。信用がないな…いや、ある意味信用なのかな。

 

「皆は中に?」

 

「ええ。さっき変な(オス)がカナを負かして行ったわ。飲み勝負で」

 

「飲み勝負であのカナさんが負けたの?」

 

「ま、勝負の前に結構飲んでたけどね。そういうわけで、酔い潰れたカナを介抱してる所なの。私はウェンディを探しに行く所だったのよ」

 

「分かった、急いでカナさんの所に行こう!ゴーシュも一緒に来てね!」

 

「あ、うん」

 

 あのカナさんが酔い潰れる所なんて早々見れるもんじゃない。その男の人、どんな人だったんだろう。

 

「シャルル、カナさんを負かした男ってどんな人?」

 

「確か名前はバッカスって言ったわね。何でも四つ首の番犬(クアトロケルベロス)のS級魔道士らしいわよ。エルザも何度か戦ったことがあるけど、決着はついたことがなかったそうよ」

 

 あのエルザさんと互角…滅茶苦茶強いな、その人。そんな人が四つ首の番犬(クアトロケルベロス)にいるなんて、知らなかった…って、よく考えたら僕、六魔討伐の時に関わったギルドくらいしか他のギルドのこと知らないや。今度しっかり他ギルドについて調べたりした方が良いかもな。

 

「…あ!ゴーシュ、ちょっと待ちなさい!」

 

「え、何シャルル?」

 

「カナさん、大丈夫ですか…!?」

 

 酒場に入り、シャルルが後ろで僕を止めた。丁度カナさんを介抱している部屋に案内してもらったんだけど、ウェンディが入った瞬間立ち止まり僕はウェンディにぶつかってしまった。

 

「っと、ごめん。どうしたの?」

 

「ゴ、ゴーシュは入っちゃ駄目!」

 

「え?何で…」

 

「ウェンディ、カナを頼む。ゴーシュは連れて行くが良いな?」

 

「はい…あ、私が戻るまで無理しないように見てて下さい」

 

「…仕方無いわね。私が見ておくわ」

 

「え、あの…?」

 

 その部屋から出てきたルーシィさんとエルザさんに連行された。解せぬ。カウンター席に座らせられ、隣ではシャルルに見張られる始末…何というか、悲しくなった。

 

「ったく、アンタは…入っちゃ駄目って言ったでしょ」

 

「何で?酔い潰れただけなら、僕だって看病くらいは…」

 

「さっき話した男がね、戦利品だとか言ってカナのブラジャー剥いでったのよ」

 

 …あ、それは不味いな。止めて貰って助かった…って、それを先に言ってよ。危うく理不尽な罰を受けるところだった…

 

 

 

「…ゴーシュ、ちょっと良いかしら」

 

「…?何、改まって」

 

「ちょっとね、予知を見たの。断片的でハッキリしないんだけど」

 

「…内容は?」

 

 

 

 シャルルは、少し間を置いて…決心したように僕を見た。こういう時の予知は、多分…何か、良くないことだ。しかも、これは僕らに関係があること。そして、彼女がこんなにも悲しそうな顔をしているのは。

 

 

 

「…崩壊するメルクリアス。ううん、メルクリアスだけじゃないわ。何もかも…建物も、人も、抉り取られたような痕があるの。それで……」

 

 

 

「……シャルル?」

 

 

 

 

 

 

「……それで、その王都には…ウェンディと、赤いドラゴンがいたわ」

 

 

 

 彼女の、一番の親友が関わっているからだ。

 

 




改めまして、今まで本作品の更新を待ち続けて下さっていた皆様!約四ヶ月近く更新がストップしてしまって本当に申し訳ございませんでした!そしてありがとうございます!



さて、復活記念&ゴールデンウィーク特別企画と題しまして、今日から十日間、毎日21時頃に一話ずつ更新をしていこうと思います!ただ、長らく離れていたせいでかなり文章力が第一話並みに酷くなっているかもしれませんので、そこの所はご容赦下さい!



最後に、作者もこの小説は元々趣味で始めた物ですので、今まで以上に更新が出来なくなる可能性があります。とは言っても今回ほど長い期間は空くことはないと思いますが…今後は更に不定期になります。気が向いたら更新という形です。しかし、それでも必ず最終回まで続けていく所存ですので、それでも良いと思って下さった方々、どうかこれからもこの作品のことをよろしくお願い致します!!



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