第57話 父の遺品
「おはようございます」
「おはよう、三人とも!」
「皆、何か飲む?」
キナナさんに適当にジュースを頼んで、ウェンディとシャルルと共にルーシィさんが座っているテーブルに加わる。ルーシィさんが渋い顔をしていたのでどうしたのか尋ねると、どうやら新聞に載っている教会連続破壊事件のことのようだ。ニルヴァーナの時にジェラールを連れて行ったラハールさんの顔写真も載っている。どうやら今回の事件の担当らしい。でもまだ犯人すら特定出来ていないんだとか。
「いつの間にかそんな事件が起きてたんだね」
「私達、七年もブランクあるわけだし…」
「そのせいか、予知能力も調子悪いみたい。散漫なイメージしか浮かばないのよね」
そういえば最近、というか天狼島から戻ってきてからシャルルの予知の話を聞いていない気がする。予知能力も魔法の一種ってことなのだろうか…というか、予知能力が調子悪いってどういう感じなんだ?
そんなことを考えていると、テーブルの近くで寝ていたナツさん(朝早くから外の畑仕事をして疲れたんだとか)が目を覚ます。
「何の匂いだ?」
「あ、起きた」
「ルーシィ姉、お客さんだよ」
「ん?」
「あそこにいるのがルーシィ姉だよ」
「ありがとうございます」
直後、玄関の方を見るとロメオ君が、お客さんだと思われる薄いピンク色のドレスを着た大人びた印象の女性に説明していた。その女性がロメオ君に礼を言って、こちらへと近づいてきた。
「あ?誰だ?」
「さぁ…」
「貴女が、ルーシィ=ハートフィリア…」
「うん、そうだけど…あの、誰、ですか?」
「誰、って………」
多分年上だろうその女性に対して、ルーシィさんは少し戸惑いながらそう尋ねる。しかし次の瞬間、ルーシィさんの戸惑いはさらに大きなものとなった。何故なら…
「ミッシェル=ロブスターですよぉぉぉぉっ!!うぇ~~~~~~ん!!!」
「はいぃーーーっ!!?」
突然涙目になったと思ったら、急に大泣きし始めたから。
「お知り合いでしたか」
「いきなり泣かすなよ」
「え、えぇ……?」
これはまた、ギルドが賑やかになりそうだなぁ…とりあえず、泣き止ませて下さい。
「ごめんなさい、随分久しぶりだから分からないのも無理はないわね」
「あの…鼻が」
「これ良かったらどうぞッス」
「あ、ありがとう」
あまり女性に対して適した表現じゃないかもしれないけど、泣いた影響か鼻水が凄いことになっていたので、イーロンが気を利かせてティッシュを渡した。そういえば朝早くに特訓してくるって出て行ったけど…いつからいたんだろう?そして落ち着いたのか、改めて自己紹介をし始める。
「それでは改めて…私、ミッシェル=ロブスターです。お久しぶりです、ルーシィ姉さん」
〔ね、姉さん!?〕
あれ…ルーシィさんって確か一人っ子じゃなかったっけ?そういえば、
「驚きの真実!ルーシィパパに隠し子が!?」
「じゃなくて、ロブスター家はハートフィリア家の遠縁にあたるの」
「つまり、ルーシィの親戚?」
「そういうことね」
「でも、なんでお姉さん?」
「雲泥の差ってのはこのことか」
「よく分かんねぇけど、お前ルーシィの娘ってことだな」
「なんでそうなるのよ!?」
「冗談だっつーの…」
ナツさん、冗談とか言うんだ…あとエルフマンさん、そんな失礼なことを言っていると後で仕返しされますよ、きっと。
「で、なんであたしがお姉さん?」
「だって、年上だから」
「でも、貴女の方がどう見たって年上でしょう?」
「それは…」
なるほど、この七年の間に年齢差が逆転してしまったということか。タイムスリップしたようなものだから、こういうことがあっても不思議じゃない。実際、僕やウェンディよりロメオ君とイーロンの方が年上になっているし。ナツさんはそこら辺の説明をしても頭が追いつかずフリーズしてしまったようだ。
「やっと、やっと姉さんに会えた…」
「ま、まあまあ…っていうか、その荷物は何?」
そういえば、入ってきた時から大きめのトランクを持っている。なんか楽器でも入っていそうなくらい大きい。両手でずっと大事そうに抱えている。
「これは…私はこれを、姉さんに…!」
「あ」
ミッシェルさんは感極まったのか、そのトランクを手放してルーシィさんに抱きつこうとする。当たり前だけど、この世界にも重力というものが存在するわけで。そのトランクの角がミッシェルさんの右足の親指辺りに直撃した。その瞬間、短い悲鳴が響き渡った。
「わ、私!どうしてもルーシィ姉さんに渡したくてずっと探してたの~!」
「泣かすなよ!それでも漢か!」
「あたし女の子!」
「お、重いですよこれ…!」
「何が入ってるんだろう…」
ルーシィさんがそのトランクに手をかけるが持ち上がらず、僕とウェンディで支えてようやく床からはなれた。確かに、思ったより重い…。ミッシェルさん、意外と力持ちなんだな…。ずっと持っていたら腕が痛くなりそう。
「なんだ、アイツ…」
「ルーシィの親戚っていうのも信憑性があるね。あのドタバタ感が…」
それについては同意、だけどプルーが頷いているのがちょっと面白かった。プルーもそう思ってたんだね…
なんやかんやあったが、とりあえず荷物をテーブルの上に置き、ミッシェルさんにこれが何なのか尋ねると、どうやらルーシィさんのお父さん…ジュード=ハートフィリアの遺品らしい。ミッシェルさんは彼の仕事を手伝っていて、彼の最期の願いでこれをルーシィさんに届けるよう頼まれたんだとか。
「お父さんが、最期の時に…」
「行方不明だった貴女をずっと心配していたけど…きっと何処かで生きているから、きっと帰ってくるから、見つけ出して渡してほしいって。…眠るような、穏やかな最期だった。それから今日まで、ずっと貴女を探していたの。やっと、会えた…これでジュードおじさんとの約束を果たせる」
「……何が入ってるの?」
「分からないわ。私はただこのケースを渡すよう言われただけだから…」
「お父さん…」
「開けてみろよ」
「え?」
「中、見たらどうだ?こいつ、お前のことすっげぇ探してたんだろ。どんな大切なモン預かってたか、見せてやってもいいんじゃねぇか?」
「…うん」
ルーシィさんが早速ケースを開けてみる。中には、包帯のような白い布に巻かれた細長い何かが。
「えっと…」
「何だこりゃ」
「この布…」
「なんか魔法がかかってんな…さっきの匂いはこれか」
あ、さっき突然起きたのはこれを感知していたのか。ナツさんの嗅覚、凄いな…。同じ
「あ…………」
「シャルル?」
「どうかしたの?」
「…ううん、何でもない……」
後ろからだから表情は分からないけど…シャルルがあれを見て驚いているような気がする。予知が関係しているのかな。…、内容によるけど、シャルルは言わないこともあるし。…特に、不吉な未来に関してはその傾向が強いだろう。
ルーシィさんは白い布を解き始める。中から出てきたのは、錆び付いた機械仕掛けの細長い鉄の棒…としか言えない。ルーシィさんも見覚えがないらしい。ナツさんは武器だと予測するが、恐らく違う。武器だったら持ち手の部分があるはずだし。この棒にはそれと思しき箇所が見当たらない。
「思い出した!」
その時、ミッシェルさんが手を合わせてそう言った。
「やっぱり武器だったのか?」
「いいえ…」
「それじゃ一体…?」
「私……三日前から何も食べてなくて」
ギルド内に、大きな音が響き渡った。
☆
ギルドで三日ぶりの食事をとったミッシェルさん。三日ぶりだったせいか、凄い食べっぷりだったとだけ言っておく。その後、彼女の要望で、一度ルーシィさんの家を見に行った。
ルーシィさんの家に居候することになった彼女は今、ギルドで働いている。キナナさんやミラさんと同じようにウェイトレスのようなことをしたり、掃除や洗濯などの家事全般をこなしている。まあ、やっぱり失敗することはあるけれど。その度にルーシィさんが慰めている。
そして今日は、ルーシィさん達の山賊退治の仕事について行ったみたいだ。最初はルーシィさんは危ないと言って反対していたけれど、結局了承した。本当は、僕やウェンディも一緒に行こうと思ったんだけど…
「すぅ……」
「やっと寝てくれた…」
「凄かったね、アスカちゃん」
「お帰りなさい。遅かったわね」
「悪かったわね、二人とも」
「相手するのは大変だったろう?」
「いえ、これくらい大したことないですよ」
アルザックさんとビスカさんの娘のアスカちゃんの遊び相手に認定されてしまったのでついて行けなかった。まだ小さいのに…いや、小さいからか。元気一杯で、ただ遊びに付き合っただけなのに、もう辺りが暗くなっている。シャルルはギルドでのんびりすると言ってついてこなかったし、今日はプロットモンの日だったから追いかけっこが始まって子供が二人に増えたというか。
で、ようやく疲れが出てきたのか目を擦り始めたので、ギルドまで連れ帰ってきた次第だ。背負っていたアスカちゃんを起こさないように気をつけながらビスカさんに預ける。
「それで、どうだった?」
「ロブスター家はちゃんと実在したらしいわ。ただ、数年前の事故でミッシェルだけ生き残ったみたい」
「じゃあ、ミッシェルさんも家族が…」
「そんな…」
四代目マスター達がミッシェルさんのいない今のうちに身元を調査してきたらしい。評議員に忍び込まれたこともあったので、これくらい慎重になった方がいいとは僕も思う。シャルルはこの話を聞く為に残ったとも言える。
「ねー、ゴーシュ!」
「ん?」
「そろそろ帰んない?私、ウェンディのご飯食べたい!」
「ふふ、じゃあ帰ろっか」
「随分気に入られたわね」
「いやいや、今日は俺が担当ッス!姉御の手を煩わせるわけには…」
「えー、やだーっ!」
「大丈夫だよ、料理するの楽しいし」
今、ゴーグルが振動したからドルモンも反応したな…まさかここまでウェンディの料理を気に入るとは思わなかった。美味しいのは認めるけどね。そういえば、デジタルワールドの食材ってどんな感じなんだろう…そういえば、弱肉強食みたいな記述があったような気がする。だったら、料理自体食べたことないのは当然か。今日はご飯の取り合いになりませんように…
多分ですが、今回からの星空の鍵編が物語的に一、二を争うほど重要になります。なので出来るだけ書き溜めをして、ちゃんとチェックしてから少しずつ投稿する形になると思います。ちょっとペースが遅くなってしまう可能性がありますが、気長に待って頂けると幸いです!