FAIRY TAIL 守る者   作:Zelf

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何話か前に一万字行かないようにするって言ったんですが、超えました。ええ、もう千字くらい超えました。もしかすると過去最長かも知れません。

なんでだろう。今回そこまで長くなる予定無かったのになぁ…



第54話  魔法舞踏会

 日中から始まった宴会は時間を忘れるほど続いた。どこからか聞きつけたのか、途中からリオンさんやシェリーさんといった蛇姫の鱗(ラミアスケイル)の面々が押し寄せ、彼らなりに天狼組の帰還を祝ってくれた。

 

 リオンさんがジュビアさんに一目惚れしたり、デジモン達を見てビックリしていたり色々あったけど、他のギルドの皆にも心配かけていたんだろうと思う。リオンさんやシェリーさんは素直じゃないから憎まれ口しか言わないけど、ジュラさんは僕らの肩を叩きながら「よく帰ってきた!」と喜んでくれていた。

 

 家に帰ってからはウェンディとシャルルの荷物を出来る範囲で片付けるのを手伝った。その後はイーロンがデジモン達に「俺が兄貴分ッス!」とか言ってたけど、プロットモンは遊び相手としか思っていないようだった。最終的に鬼ごっこしてたし。

 

 

 

 そして何日か経って昨日、簡単な依頼へと終らせて帰ってきた。

 

「ただ今戻りましたッス~!」

 

「お邪魔しまーす」

 

「…お帰り、イーロン。ロメオ君もいらっしゃい」

 

 その依頼は今この家に暮らす三人とイーロン、ロメオ君を加えた五人で受けた。七年の間に魔導士として働きだしたイーロンとロメオ君が誘ってくれたことが切欠だった。内容はモンスターを何体か討伐するという簡単なもの。デジモン組からはドルモンが参加していた。

 

 デジモン達をデジヴァイスから出したままにしていると粒子化が始まってしまう。今の所、6時間くらいが限度だ。仕事の手伝いをしてもらうつもりなので、三体を一度に出し続けて、タイムリミットが来たら全員が同時に休憩に入るのでは効率が悪い。

 

 そこで一体ずつ三時間交代で外に出しておくことにした。これなら他のデジモンが休憩している間に仕事を手伝ってもらえるし、タイムリミットギリギリというわけではないので、もしもの時に他のデジモンも出すことが出来る。

 

 

 

 と、余談はこれくらいで。本題はここからだ。

 

 

 

「で、ゴーシュ兄。改めて確認しときたいんだけど」

 

 

 

「うん」

 

 

 

「昨日のあの話…マジなんスね?」

 

 

 

「…うん」

 

 

 

 仕事帰り、ウェンディと二人きり(イーロン達は隠れて見ていたことに後で気づく)になった僕は…例の二つの話をした。

 

 

 

 一つは、メストさん…ドランバルトさんとウェンディとシャルルの会話を偶然聞いてしまったこと。

 

 

 

 そしてもう一つが……エルザさんと戦った一次試験の時、水に落ちて気絶したウェンディを助ける為ではあったが…所謂、人工呼吸を行ったこと。

 

 

 

 この二つを話したことによって、ある問題が発生した。ウェンディが僕と会話はおろか、顔を合わせることすら避けるようになってしまったのだ。

 

 

 

 僕は嫌われてしまったのではないか、と心中穏やかとは言い難い状態で次の日を迎えた。ウェンディとシャルルはついさっき、一足先にギルドへ向かった…勿論、僕とは何も話すことなくウェンディが飛び出していったのをシャルルが追いかける形で。

 

 丁度その時の様子を見ていたイーロンが家に入り、僕が四つん這いになって落ち込んでいる様を見て、これは不味いと思ったらしい。助け船を求めてロメオへと声をかけに行った、というのが今朝の出来事だ。

 

「シャルルの姉さんも後から来てくれるそうッス」

 

「………そう、ですか」

 

 年下(今は年上だけど)に相談に乗ってもらっているこの姿を、誰にも見せたくないとは思うのだけど…背に腹は変えられない、か。正直シャルルから何を言われるのかすごく不安…主に二つ目の件で。

 

「ウェンディ姉、元気なかったからなぁ」

 

「どこか、心ここにあらずって感じだったッスね」

 

「…どうしよう」

 

『ウェンディ、怒ってるの?』

 

 デジヴァイスからドルモンの声が聞こえてきた。昨日は異様な空気を感じ取ったのか、ドルモンとパタモンは大人しくしてくれて、朝からは心配して声をかけてくれていた。プロットモンは相変わらずだったが。

 

「どうなんだろ…ウェンディ姉って怒ることあるの?」

 

「いや、あんまりないと思うけど…」

 

「それだけ今回は怒ってるってことッスか…」

 

 怒るというより、ふて腐れる感じか。ケーキを買ってきたりしてご機嫌をとって仲直りするというのが普通の流れだ。今回もマグノリアにあるケーキ屋で新作とやらを買ってきたんだけれど…それを出す前に逃げてしまうから、お手上げだ。

 

「ゴーシュ兄、こうなったら素直に謝るしかないって!」

 

「そうッス!盗み聞きはともかく、人工呼吸の方は問題ッスよ」

 

「何度も謝ろうとしてるんだけど、逃げちゃうんだ。声をかけても無視だから…」

 

「うーん…じゃあ、今度の依頼の間に仲直りっていうのは?」

 

「依頼?」

 

 ロメオ君がそう言いながら、一枚の紙を取り出す。それはよく見慣れた物、依頼書だった。報酬の所を見ると400万Jと書かれている。普通の依頼は大体5万J前後なのに…依頼人はどこかの金持ちか。お尋ね者を捕らえるという内容にしては、金額が異常だ。

 

「これは?」

 

「姉御が参加する依頼ッス。ナツの兄さん達と一緒に行くみたいで」

 

「でも、俺が参加するって分かったら…」

 

「ああ、だから俺とイーロンで参加してウェンディ姉を上手く誘導して、ゴーシュ兄と二人きりになれるようにするからさ」

 

「なるほど…」

 

 単純に、400万Jもの懸賞金がかけられている賞金首を相手にするっていうのも心配だ。僕だけ隠れていればウェンディもちゃんと参加するだろう。

 

「あ、そうだ。ダンスの練習もしといてよ!舞踏会に参加するかも知れないんだから」

 

「…いや、僕は出来ないから外で待機するから。あ、僕その依頼の日まで修行にでも行ってくるから」

 

「え、ちょっ、兄貴!?」

 

 ウェンディなら踊れるかも知れないけど、僕は多分無理だ。ウェンディとシャルルが過ごしづらいだろうし、どっか行ってるとしよう。

 

 

 

 数日後、依頼人であるバルサミコ伯爵の住むバルサミコ宮殿に、ナツ達妖精の尻尾(フェアリーテイル)の面々が集っていた。

 

「はぁ…」

 

「ウェンディ、まだ落ち込んでるの?」

 

 ウェンディが溜息をついたのを見て、ルーシィが声をかける。ウェンディの悩みも、ゴーシュと同じようなものだった。

 

「ゴーシュ、まだ帰ってきてないの?」

 

「そうなんです…このまま、帰って来ないんでしょうか…」

 

 ウェンディとシャルルがゴーシュの家に住むようになったことは、既にメンバーのほぼ全員に知れ渡っていた。加えてゴーシュが数日間家出しているという話も、今回の依頼に参加している面々は全員知っている。さすがに家出の原因となった話も詳しくは話していないが。

 

「何、そのうち帰ってくるさ。数日家を空けるとしか言っていなかったのだろう?」

 

「そうなんですけど…」

 

(やっぱり、あの朝に謝るべきだったかな……でも、やっぱり恥ずかしいし…)

 

「なんか顔赤いけど…」

 

「な、なんでもないです!」

 

ゴーシュがイーロン達と話し合っていたあの日の朝。ウェンディはゴーシュに、避けるような態度をとってしまったことを謝ろうとしていた。が、いざ面と向かってみると恥ずかしさが大きく上回り、話すら出来なかったのである。

 

「それにしても、ゴーシュもタイミング悪いわよね~」

 

「え?」

 

「フッ、確かにな」

 

「ウェンディが折角可愛いドレス着てるのに見れないなんてね~」

 

「そ、そんなこと……!ルーシィさん達の方が綺麗ですよ!」

 

 彼女達は今、舞踏会に参加するためにドレスを身につけている。今回の依頼のターゲットであるベルベノは、この七年に一度開かれる魔法舞踏会で披露される指輪を狙って現れる為、こちらも舞踏会に参加して捕らえるのが目的だ。あくまでただの参加者に成りすます必要があるので、最低限のダンスやマナーを学んで参加している。

 

「さあ、舞踏会の幕は上がった!私達もステージに上がるぞ!」

 

「エルザ、お芝居の時と同じくらいノリノリ!」

 

「…私も、頑張らないと!」

 

 ウェンディも今は仕事を優先しようと、気持ちを切り替えてルーシィとエルザの後に続いた。

 

 

 

 時は少し遡り、バルサミコ宮殿の屋根の上。

 

「ねぇ、本当に参加しなくて良かったの~?」

 

「いいんだって。今はベルベノに集中しよう」

 

 舞踏会に参加しているイーロンとロメオの誘いに乗ったゴーシュは、パタモンと共にこの宮殿へとやって来ていた。

 

「折角ウェンディがドレス着てるかもなのに~」

 

「……いいから、今はお尋ね者のベルベノに集中して」

 

「今、想像したでしょ~」

 

「してないって…!」

 

 夜の暗闇で表情が赤くなっているのが分からないことが、ゴーシュには救いに感じた。パタモンやデジヴァイスに入っている他二人からすればバレバレだったが、敢えてそこは指摘しないでおく。

 

『でも、やることも特にないじゃん』

 

『そいつ、変身するんでしょ?』

 

「だったら、きっと正門から入っちゃってるよね~」

 

「まあ、そうなんだけど…」

 

 検問のようなものも作っているようだが、魔法自体を感知出来るというわけではない。万が一を考えてこうして外で警戒をしているが、無駄足で終わる可能性の方が高い。なのでゴーシュは建物内部を探る為、屋根の上から索敵結界(サーチ)を展開…と言っても索敵結界(サーチ)はゴーシュを中心に展開される。そして現在の索敵結界(サーチ)の上限は20mほど。これほどの大きな建物だとたった20m、ほとんど中は探れていないも同然だった。

 

 要するに、屋根の上に待機してはいるものの、ほとんど何も出来ていないのだ。パタモンにこの宮殿の外を、かなりの時間をかけて飛んでもらったりしたが、何か分かる訳でもなかった。元々、屋根の上で待機するように指定したのはイーロンとロメオだ。そして自分は今回この依頼には参加していないことになっているので、多少自由に動いても構わないかと考え始める。

 

「いっそ、中に入っちゃう~?」

 

『その方が楽しそう!』

 

「…そうだね。もうここにいても仕方ないし。イーロン達が来たらそうしようか」

 

『プロットモン、中に入ってからだよ』

 

『え~』

 

 ゴーシュがそう言ったのを聞き、パタモンはゴーシュの頭の上から飛び立った。一度下に降りて、妖精の尻尾(フェアリーテイル)のメンバーであることを伝えれば中に入れるだろう。パタモンもそう考えたのか、玄関の方へと向かっている。

 

ゴーシュがパタモンを目で追っていると――視界に、人の影を捉えた。その人物は、すでにゴーシュの目前まで迫っていた。

 

「…!防御結界(ディフェンド)(トーテム)!」

 

「おっと、危ねぇな!」

 

 相手の突き出した拳を片手で受け止め、ゴーシュは攻撃を放つも相手はそれを難なく避け距離をとる。月明かりに照らされて見えたその特徴的な顔は、今回の標的である人物。

 

「お前は…ベルベノ!?」

 

「エアショット!」

 

「うおっ!」

 

 空からの空気弾にも反応したベルベノは、青緑色の結界で(・・・・・・・)防いだ。ベルベノの扱う魔法については聞いていないゴーシュは、自分と同じ結界魔法(バリアー)を使ったことに驚く。

 

 

「今の…!?」

 

「ゴーシュと同じ魔法だね~」

 

「少し予定外だったが、良い魔法だな。わざわざ屋根に飛んできた(・・・・・)甲斐があったってもんだ」

 

「飛んできた…まさか!」

 

 ベルベノの飛んできたという言葉、そして使い手次第で能力や色すらも変わるはずの結界魔法(バリアー)だが、ベルベノが自分と全く同じ結界――防御結界(ディフェンド)を使用したことから、魔法をコピーする魔法であることに勘づく。ベルベノのマジカルドレインは、一定時間魔法を複数コピー出来るというもの。コピーの条件は、対象に触れること。今回の舞踏会のような魔導士が大勢集まる場所であれば、一気に複数コピーすることも可能だ。

 

「パタモン!」

 

「任せて~!エアショット!」

 

反射結界(リフレクション)!」

 

「なっ…!防御結界(ディフェンド)(ウォール)!」

 

 パタモンが連続で放った攻撃を、ベルベノが赤紫色の結界で防ぎゴーシュの方へと跳ね返した。反射結界(リフレクション)まで使われたことに驚いたゴーシュは、一歩遅れて防御する。その隙にベルベノは飛び降りていった。

 

「くっ…どこへ?」

 

「暗くて見えないね~…」

 

 恐らくハッピー、もしくはシャルルの魔法をコピーしたのだろう。わざわざゴーシュを狙ったのは、孤立している自分から倒していく為。ベルベノは、一人ずつ妖精の尻尾(フェアリーテイル)のメンバーを倒すことではなく(・・・・)、魔法をコピー出来るように近づくことが目的だと予想したゴーシュは、パタモンを一度デジヴァイスに戻して弾性結界(バウンド)を展開し、屋根から飛び降りた。

 

 

 

 怪しい者を調べながら舞踏会に参加しているナツ達。グレイが同じ氷の造形魔法を使う女性と戦闘を始めた時はどうなるかとヒヤヒヤしたウェンディであったが、怪しい男とダンス(男がただ回転させられるだけだが)を中断させ剣を手に持ったエルザが止めたことでホッと息をつく。

 

 丁度その時、バルサミコ伯爵とその娘のアチェートが会場に現れた。華やかなドレスで着飾った彼女に、会場内の男性陣が目を奪われる。そのあまりの美しさに、誰もダンスに誘うことが出来ずにいたが、アチェートは自ら、男装したエルザを誘って踊り始めた。

 

「なんでエルザが踊っちゃってるの!?」

 

「知るか!」

 

「これ、旨いな!」

 

「本当ッスね!」

 

「アハハ…」

 

 最早ダンスよりも食事がメインになりつつあるナツ、ロメオ、イーロンの三人。その様子を見てウェンディは苦笑を浮かべる。そこに、一人の少年が彼女に近づいてきた。それにいち早く気づいたイーロンとロメオはアイコンタクトをして食事を中断する。

 

「あの、踊ってもらえますか?」

 

「あ、えっと…」

 

「ウェンディ姉、ちょっとこっちに!」

 

「え?あ、ちょっとロメオ君!?」

 

「すいませんッス~」

 

 またか、とウェンディは内心思った。この舞踏会が始まってから、ウェンディがダンスに誘われると決まってイーロンとロメオが割り込んでそれを阻止するのだ。どうしたのかと尋ねると、「兄貴以外に姉御と踊らせる気はないッス!」と宣言された。元々、ウェンディは今回ダンスに参加するつもりはあまりなかったのだが。

 

「全く、油断出来ないッスね!」

 

「だから、俺たちのどっちかが踊ってればいいんだって!」

 

「兄貴の留守は俺が守るッス!」

 

「話聞けよ!」

 

「ちょ、ちょっと二人とも!」

 

 イーロンはどうやら自分はもちろん、ロメオにも踊らせる気はないようである。ロメオが突っかかろうとし、ウェンディは慌てて仲裁に入ろうとするが、お構いなしにイーロンの胸ぐらを掴んだ。

 

「…おい、まだなのか?」

 

「まだッス…もう時間が無いってのに、何処行ったんだか…」

 

 喧嘩をするフリをしながら、ウェンディにも聞こえないよう小声で話し合う二人。一度確認の為にイーロンが屋根の上を確認しに行ったのだが、そこにいるはずのゴーシュを確認出来なかった。これでは二人の考えた仲直り作戦が台無しである。その後、外にいるシャルルに随時確認してもらっているが報告はない。

 

因みにだが、シャルルと同じように外にいるハッピーとウォーレン、そして舞踏会に参加しているルーシィとグレイにはゴーシュが来ることを伝えている。他の面々には、話がややこしくなりそうと考えたシャルルの判断で内緒にしている。それに関しては、話しを聞いた皆が同意していた。

 

 そしていよいよ舞踏会が終了する十二時となり、会場内にある巨大な柱時計が鳴り始めた。

 

「なんだぁ?」

 

「いよいよ始まるぞ!」

 

「何が始まるというのだ?」

 

「指輪の披露です。あの巨大な柱時計は、七年に一度だけ扉を開き、指輪を披露する仕掛けなのです」

 

「そしてその中にある指輪を手にした男が娘にプロポーズ出来るというのが、バルサミコ家の伝統なのだ!」

 

『指輪を手にした男が…!?』

 

 柱時計の中から、宝石が取り付けられた指輪を納めた台座が現れる。伯爵とアチェートの話を念話で聞いていたウォーレン達が、自分たちの前にある監視魔水晶(ラクリマ)から発された非常音に気づいた。これは何かを発見したという合図だ。問題の映像を確認すると、更衣室の中で誰かの足が動いているのが見えた。それを確認した三人は、急いでその場所へと向かう。

 

 会場では男性陣がいても経ってもいられないといった様子で、指輪へと視線を集めていた。

 

「さあ!娘にプロポーズしたい者は、あの指輪を手にするのだ!」

 

「漢はプロポーズだ!!」

 

「あんたがプロポーズしてどうすんのよ!」

 

 

 男性陣に混じって、今回の依頼についてきていたエルフマンが走って行く。その時、ウォーレンからの念話が妖精の尻尾(フェアリーテイル)メンバー全員に届いた。

 

『皆聞いてくれ!最後にウェンディを誘おうとしたガキがベルベノだ!!』

 

「何だって!」

 

「あそこッス!」

 

 イーロンがある方向を指さすと、少年が大きく跳躍して滞空していた。そして次の瞬間、少年からアフロヘアの特徴的な顔の男、ベルベノへとその姿を変える。ベルベノは大きく息を吸い込み始めた。

 

紫の炎(パープルフレア)!!」

 

「え!?」

 

「もうコピーされてたのか!」

 

 紫色の炎が男性陣の向かう先、柱時計の傍にある指輪へとくっつく。炎は収縮し、指輪が台座から外れベルベノの手に収まった。

 

「ハッハッハ!バルサミコ家の指輪は確かに、このベルベノ様がもらったぜ!」

 

「ベルベノ…」

 

「おのれ、指輪を返せ!」

 

 宙に浮いているダンス用の足場へと着地したベルベノに、同じく別の足場に乗ったナツが接近する。ウェンディのトロイアで、乗り物酔い対策は万全だった。

 

「やっと面白くなって来やがったぞ…俺が相手だ!火竜の鉄拳!!」

 

「フッ…火竜の鉄拳!!」

 

「何っ!?」

 

 ナツの鉄拳を同じ魔法で相殺したベルベノ。二人の拳がぶつかり合い、その衝撃で大きく後退したナツは追い打ちを放つ。

 

「火竜の咆哮!!」

 

「火竜の咆哮!!」

 

 そしてこれも同じ技によって相殺されてしまった。二人はそのまま会場の中央へと着地した。

 

「ヘッヘッヘ…ダンスをしている間に、お前の魔法もドレインさせてもらったのよ!」

 

「ならば私が相手だ!グレイ、エルフマン、アチェート殿を頼む!」

 

「任せろ!」

 

「漢だ!」

 

 アチェートを護衛するグレイとエルフマンを確認した後、エルザは換装を始める。

 

「換装、煉獄の鎧!」

 

「換装、煉獄の鎧!」

 

 エルザと同じ鎧を身につけたベルベノは、エルザの大剣による攻撃を難なく受け止め、そのまま押し返す。

 

「無駄だ!ここにいる妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士はそこの嬢ちゃん以外、そして外に待機している奴らの魔法も既にコピー済みよ!」

 

「ここにいない奴ら?」

 

 ベルベノはウェンディを指差しそう言う。また、エルザはその言葉に疑問を抱くが、すぐにそういうことかと納得する。ハッピー達の魔法である(エーラ)をコピーされていたとすれば、逃げるのは簡単だろう。逃がさないようにと策を考え始める。しかし、次のベルベノの発言がエルザを混乱させた。

 

「まさか、屋根にまで配置しているとは思わなかったがな」

 

「屋根?」

 

「まさか!?」

 

 ルーシィ達が、ベルベノとゴーシュが出くわしたことに気づく。そこで、イーロンが前へと歩み始めた。

 

「イーロン、待て!」

 

「奴は私達の魔法をコピーしている!一人では危険だ!」

 

「よくも、よくも…!!許さねぇッス!!鉄造形(アイアンメイク)(ソード)!!」

 

 合唱し鉄の剣を二本生み出し、それらを両手に持ったイーロンはベルベノへと走り出す。イーロンは以前トレジャーハンターギルドに所属していたからか、武器の扱いに長けていた。その長所を活かす為、彼は魔法でその時に合った武器を作り出して戦うというスタイルをとっているのである。

 

「だから無駄だ!鉄造形(アイアンメイク)(ソード)!」

 

「はぁっ!!……くっ!」

 

 同じく両手に剣を持ったベルベノはエルザと同じように、イーロンの攻撃を受け止め押し返す。

 

「まだまだぁっ!!」

 

「…おい、いい加減に――」

 

 あまりのしつこさに、ベルベノが反撃をしようとしたその瞬間、イーロンを橙色の結界が覆った。再度突っ込もうと既に駆け出していたイーロンはその結界に突っ込み、弾き返された。

 

「この魔法…!?」

 

「イーロン、落ち着いて。皆さんも、少し待ってもらえますか」

 

 どこから声がするのかと辺りを見渡すと、人混みの中から正装したゴーシュが現れる。

 

「ゴーシュ!?」

 

「なぜお前がここに…」

 

「そこら辺は後で…今はこの人です」

 

(な、なんでゴーシュがここにいるの…!?ど、どうしたら…どんな顔で会ったら…!)

 

 ゴーシュがベルベノの方を向く。他の皆もそれを見て警戒を強め、後ろの方にいたウェンディは困惑していた。避けるような態度をとったことをずっと気にしていたのである。

 

「よう、また会ったな」

 

「さっきぶりです。単刀直入に聞きますが、貴方の狙いは何ですか?」

 

「なんでそんなこと聞く?」

 

「さっき貴方は、僕を倒そうとしなかった。妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士であると知っていながら。それで思ったんですよ、貴方は無闇矢鱈に人を傷つけるようなことはしないんじゃないかって…なので、こうして直接聞いてるんです」

 

 ゴーシュの言葉を聞きながら、ベルベノは葉巻を口に咥えて火を灯す。一服しているその様子に、ナツ達は僅かに警戒を緩めた。

 

「とんだ甘ちゃんだな」

 

「自覚はしてますよ…それで、どうなんですか?本当に指輪を盗むことだけが目的なんですか?」

 

「いや、違う…それはただの過程に過ぎないのさ」

 

「過程だと?」

 

「そうだ。前回は失敗したが、更に七年も辛抱強く待ったのは…アチェート、お前にプロポーズする為だ」

 

「えっ…?」

 

「プロポーズ!?」

 

 ベルベノは指輪を見せるように持ち、アチェートを見つめながら話し始めた。

 

「お前とはガキの頃からの付き合いだったが、俺はずっとお前に惚れてたんだぜ」

 

「………!」

 

「使用人の息子だった貴様を、特別に娘の遊び相手にしてやった恩を忘れたか!」

 

「へっ…あんたに屋敷を追い出されてから、何度もアチェートに会いに行ったが…あんたは身分違いを理由に毎回門前払いしてくれたな」

 

「えっ…!?パパ、そんなの私聞いてない!」

 

「ええい、お前は黙っていなさい!」

 

 バルサミコ伯爵は使用人の息子であるベルベノとアチェートを結婚させるのに反対していたのだろう。ゴーシュは三人の話を聞いていて、なんだか切ない気持ちになっていた。

 

「俺もそのご尤もな理由で勝手にアチェートのことを諦めた…だがそのせいで心が荒んじまって、いつしか悪事に手を染め、気がつきゃ刑務所暮らしよ…」

 

「あいつ、何をごちゃごちゃと…!」

 

「ナツさん、待って下さいって」

 

「ゴーシュの言う通りだ」

 

 ナツが動き出そうとしたのを見て、ゴーシュとエルザは制止する。最悪、魔法を使ってでも止めようとゴーシュは思った。今は、ベルベノにとって…いや、ベルベノとアチェートにとって大事な時間だと考えたから。

 

「でもよ、刑務所の中でお前に気持ちを伝えなかったことをずっと後悔してたんだ!だから俺は、脱獄してこの七年に一度のチャンスに賭けたのよ!しかも二度もな!」

 

 ベルベノはゆっくりと、アチェートへと近づいていく。ゴーシュ達も警戒はしているものの、成り行きを見守ることにした。そしてベルベノはアチェートの目の前で跪き、右手で指輪を差し出し左手を自身の胸に当てて言った。

 

「アチェート…俺の嫁さんになってくれ」

 

 ベルベノのプロポーズを聞いて、周囲の人々はそれぞれ反応を示す。それはゴーシュ達も同じくだった。

 

「そんなもの、断るに決まっておる!」

 

「……はい!」

 

 バルサミコ伯爵が騒ぐ中、アチェートは満面の笑みでそう答えた。全員が一瞬固まって、それから驚きの声を上げる。

 

〈えぇぇぇぇっ!?〉

 

「アチェートぉぉ!!」

 

「ベルベノ、私もずっと貴方を待っていたのよ!」

 

「本当か!じゃあ、本当に俺の嫁さんになってくれるのか!」

 

「ただし…自首して、罪を償ってからよ」

 

「…!分かった…」

 

 アチェートは左手を差し出す。ベルベノは、指輪を彼女の薬指へとはめる。その瞬間、周囲から拍手喝采が起こった。

 

 

 

 ベルベノは評議員に連行され、エルザさんの仕切りで舞踏会は朝まで続くことになった。一度脱獄しているから重くなっているだろうけど、早く二人が結ばれてほしいと思う。

 

「兄貴が無事で本当に良かったッス!」

 

「イーロン、ロメオ…心配かけてごめんね」

 

「本当だよ、かなり心配したぜ?報酬もパーだしさ」

 

 ベルベノの捕獲は果たしたものの、バルサミコ伯爵からすれば指輪を守るという依頼内容を果たせず、さらには娘との結婚まで許すことになったのだから仕方が無い。身分が違うって、そんなに重要なのかな…

 

「でも、俺らの目的は果たせそうだな!」

 

「兄貴、こっちに来て下さいッス!」

 

「え、ちょっと…!」

 

 イーロンとロメオに連れられて向かう先は、ダンス用の足場がある場所。その場所には、ルーシィさんに連れられたウェンディがいた。

 

「あ………」

 

「…………その、ウェン――」

 

「はいはい、続きは上でね!」

 

「うわっ!」

 

「きゃっ…!」

 

「それじゃ、ごゆっくり~」

 

 二人乗ると作動するようで、足場が浮上を始める。僕、踊りなんて出来ないのに…!

 

 気まずい空気の中、ウェンディが僕の両手をとった。頬を赤くしているし、若干その瞳が潤んでいるようにも見える。不覚にも、ドキッとしてしまった…

 

「ウ、ウェンディ?」

 

「その………踊って、ないと……」

 

「あー…ウェンディ、簡単に教えてもらえる?」

 

「あ……うん!」

 

 少し説明を受けて、他のカップル達を見習いながら何となくコツが掴めてきた…ような気がする。まあ、そこまで本気でやらなくても良いだろう…本題に入らなければ。

 

「「あの…」」

 

「あ…」

 

「さ、先にどうぞ…」

 

「いや、レディファーストって言うし…」

 

「「…ぷっ…あははっ!」」

 

 何だか、こんな会話をしているのがおかしくなって二人して噴き出した。そのおかげか、今ならちゃんと話せる気がする。

 

「あの、ごめんねゴーシュ」

 

「何が?」

 

「その、避けちゃうような態度しちゃって…何日もいなかったのも、気を遣ってくれたんでしょ?」

 

「そうだけど…ちょっと違うかな。何だか恥ずかしくなってきちゃって、その……人工呼吸…のこととか」

 

「わ、私もただ恥ずかしかっただけなの…」

 

「うん、だと思った…だから最初話せなかったんだよね」

 

「うぅ……」

 

 何日も顔を合わせられなくなるほど恥ずかしがるとは思っていなかったけれどね。

 

「盗み聞きしちゃったのも、本当に偶然っていうか…」

 

「それ、何度も聞いたよ?」

 

「そうだっけ?」

 

「…一つ聞いても良い?」

 

「勿論」

 

「その…ゴーシュは、私がゴーシュのことが好きってことを知ったから、それに応えてくれたの?」

 

 …確かに、切欠はそうかもしれない。ウェンディの気持ちを知ってなかったら、天狼島の一次試験で告白したりしなかっただろう……でも。

 

「切欠はそうだよ…でも、僕は遅かれ早かれ告白してたと思うよ」

 

「…!」

 

「確か、あの時言ったよね?君は僕が一番大事な人なんだって。これからも、君を守り続けるって」

 

「…うん」

 

「まさか同じ家に住むなんて思わなかったけど…支え合って、頑張ろう」

 

「うん、うん…!」

 

 ウェンディの目から涙が溢れた。一瞬心配になったけど、これは多分心配する方の涙(・・・・・・・)じゃない。

 

「私、心配だったんだ…ゴーシュに嫌われちゃったんじゃないかって」

 

「…余計な心配させちゃったか」

 

「いいの。でも、今度からはちゃんとどこに行くのか言ってね?心配しちゃうから」

 

「分かったよ。もう勝手にどこか行ったりしないから――」

 

 ―――気づいたら、ウェンディがすぐ目の前にいた。

 

「……!」

 

「……えへへ…約束、だよ!」

 

「…………」

 

「……ゴーシュ?」

 

「…………あ」

 

「え…ちょ、あれ?ねぇ、ゴーシュ!?」

 

 そこから先は覚えていない。後日、あれからどうなったのか聞くと、どうやら気絶したらしい僕は、トロイアが切れて乗り物酔いで倒れたナツさんと一緒に、エルフマンさんに担がれて帰ったらしい。

 

 

 

 





一人称と三人称を合わせたからなのかな…こういう単発の日常回はてっきり五千くらいで終わるかと思ってたんですけどね。ロードレースの時とか三千くらいだったのに。

あれか、ベルベノとアチェートの会話そのままにしたからかな?でもこの回は二人の恋愛の話だしなぁ、と思ってそのままにしました。

一万字縛りしてるわけじゃないんですけどね(^^;)


追記

一部変更致しました。感想でのご指摘ありがとうございます!ウェンディはロメオとイーロンの鉄壁によってコピーされなかったことにしました。


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