FAIRY TAIL 守る者   作:Zelf

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いつもより長くなってしまいました。






第37話  竜と神

 アズマの攻撃、炎の塔によって辺り一帯が崩壊する。その範囲だけ地面が崩落してしまい、抉られたかのようにも見える。

 

「……ふむ」

 

 アズマは下にあった別の崖の方を見渡す。敵は全員自分の攻撃に飲み込まれたはずだ、ならば崩落と共に下に落ちてしまっているはず。

 

 だが、そこに彼らの姿は無かった。

 

「逃げられた、かね」

 

 それはつまり自分の攻撃を躱した、もしくは防ぎ上手く身を隠したということ。あの場にいた者でそれが可能だったとすれば、真っ先に上がるのは顔に傷のあった男。自身に瞬間移動で奇襲を仕掛けてきたのだ、同じく瞬間移動で回避したのかと考えるが。

 

「……全員が逃げ切るとは思えんがね」

 

 自分だけならまだしも、全員同時に瞬間移動するのは不可能だ。恐らく、奴は自分に触れている者のみしか一緒に瞬間移動することができない。故に、あの男ではない。

 

 だとするならば、残る可能性は。

 

「……あの少年か」

 

 青緑色の髪をした少年。結界を生み出すあの魔法も空間系に含まれる。ならば結界にそういった能力を付与することも可能だろう。

 

「まあいい。本来の仕事に取りかかるとしよう」

 

アズマは、森の中に消えていった。

 

 

 

「…上手くいったね、ゴーシュ」

 

「本当…どうなることかと思ったわ」

 

「よく逃げれたよ、本当に…」

 

「全くだ」

 

 僕らは今、森の中にいた。崖下の森の中を進んで、ようやく一息つくことができた。ここなら上手く隠れられる。

 

「ゴーシュ、あれはお前の魔法か?」

 

「あれ?リリーは弾性結界(バウンド)見るの初めてだっけ?」

 

「ああ、あのクッションみたいな結界もそうだが…俺が言っているのは、奴の攻撃をお前が受け止めた時の方(・・・・・・・・・・・・・・・・)だ」

 

「………え?」

 

 シャルルが呆然としている。あれはこの一週間で新しく作った結界で、ウェンディにしか詳しく説明していなかったので無理は無い。とりあえず、説明の為に小さめのものを展開する。

 

「これが僕の新しい魔法…水晶結界(クリスタル)だよ」

 

「…?防御結界(ディフェンド)と一緒じゃない?」

 

「いや、色が少し違うな」

 

 防御結界(ディフェンド)は青緑色の結界で、水晶結界(クリスタル)は水色の結界。そもそも結界自体は半透明なので、この二つは色の判別が難しいかもしれない。

 

「この結界は攻撃用で作ったんだけどね」

 

「攻撃用?」

 

「うん。普通に飛ばしたりとかね。他にも使い方は色々あるんだけど、リリーが言ったのは外装(アームド)のことだね」

 

「アームド?」

 

「簡単に言うと鎧かな。外装(アームド)中は身体能力が上昇するし、単純に鎧としても使えるんだ」

 

 自分が近接戦闘出来るように考えた結界なんだけど、一次試験で他の人にも使えることが分かった。サイズとか考えないと駄目だけど。エルザさんとの戦闘でウェンディが使った天竜の砕牙は、ウェンディの手足にこれを纏い身体能力と切れ味が増したことで編み出された、疑似・天竜の砕牙だ。

 

「なるほど、その鎧であの攻撃を防いだのか」

 

「でも、その結界は攻撃用なのよね?なんであの攻撃を防げたの?」

 

「ああ、それはもう一つの――――」

 

 その時、ものすごい爆音が聞こえた。これは…近い。地響きもしている。これは、先程のアズマ以上…あの人は相当な実力者だ。煉獄の七眷属でも、強者の部類に入るはず。それを超える存在…?

 

「…どうする?」

 

「…一旦引くべきだろう。俺たちだけでは戦力不足だ」

 

「でも、誰か戦ってるんだよね…?」

 

 そう、あれは戦闘音だ。つまり、あれだけの魔力の持ち主とギルドの仲間の誰かが戦っている。

 

「…正直、行ったところで返り討ちにされるかもしれないけど」

 

「そう、かもしれないけど…でも!」

 

「はぁ…ゴーシュ」

 

「うん、分かってる…行こう。ただし、無理だと思ったらベースキャンプを目指そう。援軍を呼ぶしかない」

 

「ありがとう、ゴーシュ!」

 

「全く、あんな目にあったばかりだというのに…」

 

「本当だわ…ほら、行くなら急ぎましょ」

 

 メストさんはいない。森の中を進んでいる途中でいなくなっているのに気がついた。だから、今は僕たち四人だけしかいない。明らかに戦力不足だ。決定打が足りていない。格上の相手だったら尚更だ。それでも、仲間を、家族を見捨てるような行動を出来るわけがない。

 

 僕らは出来るだけ静かに、けれど迅速に動いた。緊張感が高まっているからか、誰も何かを話すこと無く。

 

そして進み始めて数分…開けた場所で、誰かが倒れているのを見つけた。辺りには…誰もいない。

 

「マ、マスター!?」

 

「そんな…マスターがここまでひどい怪我を負うなんて…」

 

 たった数分しか経っていないから、もしかするとまだマスターと戦っていた敵がいるんじゃないかと思っていたけど…それに、聖十大魔道(せいてんだいまどう)(大陸で最も魔力が高い者に与えられる称号)であるマスターを…敵のマスター、なのか?そんな化け物相手に、僕たちは勝てるのか……?

 

「気をつけろ、まだ周囲に敵がいるかもしれん」

 

「う、うん…。ウェンディは…」

 

「もう治療始めてるわ」

 

「…そっか。あ、皆まだ譲渡結界(ランブル)沢山あるから食べとこう」

 

 気休めにしかならないかもしれないけど…ないよりはマシだ。そう思い、僕は皆に譲渡結界(ランブル)を配った。皆が口に含んだのを見て僕も食べるけど、全然回復しているように感じられなかった。どうやら、相当混乱しているみたいだ…

 

防御結界(ディフェンド)円蓋(ドーム)

 

「ゴーシュ…?」

 

「ウェンディ、見える範囲でだけどちょっと周りを見てくるよ」

 

「……うん、分かった。気をつけてね」

 

「うん」

 

 ウェンディとマスターを三重の結界で囲んで守りを固める。一旦、気持ちを整理するべきだ。少し歩くだけでも切り替えることは出来るはず。

 

 今まで、確かに強大な敵というのはいた。でも、ここまで明確に力の差を見せつけられると…これまで戦ってきた敵の中に、マスターを倒すことが出来るほどの相手はいなかったと思う。それに、僕が対峙してきたのは六魔のエンジェルと魔戦部隊のヒューズとシュガーボーイ、科学者のバイロくらい。ゲーム風に言うなら、中ボス扱いのような人たち(失礼だけど)しか出会っていない。もしかすると、今回の一次試験でのエルザさんとの戦闘が、一番苦戦したかもしれない…。

 

「ゴーシュ。お前が考えていることは、恐らく俺と同じだろう…強大な敵を相手に、俺たちは勝てるのか、だろう?」

 

「リリー…うん」

 

 後ろに近づいてきたリリーが、そう尋ねてきた。

 

「そういうことを考えると、本来の力は出せなくなるもんだ。お前の場合は…そうだな、お前の守りたいものを考えろ」

 

「僕が、守りたいもの………?」

 

「そうだ。お前は強者だと俺は思っている。強さがある奴には、そいつだけの覚悟というものがあるはずだからな」

 

覚悟…か。……僕は、ギルドの皆を、家族を……大好きな人を、守りたい。守るためにこの結界魔法(バリアー)という魔法を覚えた。

 

 そして今回の一次試験で、心を護るということがどれだけ大切なのかというのを感じることが出来た。

 

だから、僕は…

 

「僕は…僕が守れるものを、全部守りたい……っていうのは、答えになってる?」

 

「……ふっ、お前は大人らしいと思っていたが、案外そうでもないようだな」

 

「…馬鹿にしてる?それ」

 

「いや。年相応で何よりだと思っただけだ」

 

 つまり、返答があまりにも子供っぽくて笑った、と。でも…うん、さっきみたいなモヤモヤはなくなった。今更だけど、リリーってエドラスだと隊長だったんだよな…今はこんな小さい姿でもすごく頼もしく感じる。今度から、たまに相談相手になってもらおうかな?

 

「…ありがとう、リリー」

 

「気にするな」

 

 最後にそれだけ言って、リリーは周囲の探索を本格的に始める。僕も索敵結界(サーチ)を発動させながらウェンディたちを目視できるように辺りを探索することにした。

 

 

 

 見える範囲で探索したけど、やっぱり誰もいない、という結論に至った。

 

「ウェンディ、マスターの具合は…」

 

「……駄目、怪我がひどすぎて応急処置くらいしか…」

 

 数分あれば、大概はウェンディなら治せる…マスターほどの大怪我だと、治せても時間がかかる上に、多分ウェンディの魔力が先に尽きてしまう。

 

「………うう…………」

 

「マスター!」

 

「……ウェンディ、と…ゴーシュ…か……?」

 

「動かないで…!傷口が開いちゃいます…!」

 

「マスター……誰に、やられたんですか」

 

「……………よく、聞け…二人とも……この、戦い…儂らに、勝ち目は…ない」

 

 マスターが弱々しく、そう呟く…さっきまでの不安が、また押し寄せてくる。

 

「そんな…!」

 

「…そんなこと、言わないで下さい…」

 

「時には、引かねばならぬ時も……ある。皆を、連れて……逃げるんじゃ…」

 

 …ここまで弱っているマスターを見るのは初めてだ。肉体的にだけじゃなく、精神的にも。マスターにここまで言わせるなんて…相手の底が見えない。

 

「…!ゴーシュ、上だ!」

 

 リリーの声に反応して、咄嗟に防御結界(ディフェンド)円蓋(ドーム)を展開する。そして僕の真上に降ってきたそれは、結界に直撃した。

 

「ぐぎゃっ…!」

 

「……ナ、ナツ、さん…?」

 

 ナツさんが大の字で結界に張り付いていたのを視認し、すぐに結界を解除する。なんでナツさんが…?

 

「ナツさん、大丈夫ですか…?」

 

「痛っ…ゴーシュ、無事だったんだな!」

 

「なんとか…それより、その怪我は?」

 

「…?っていうかあんた、ハッピーはどうしたのよ?」

 

 落ちてきたのはナツさんだけ。パートナーで一緒に行動しているはずのハッピーの姿はなかった。

 

「そうだ、ハッピー見てねぇか!?」

 

「い、いや、見てませんけど…」

 

「ナ……ナツ……………」

 

「…!?じ、じっちゃん!?」

 

「ここで倒れてたんです。今ウェンディが応急処置してくれてます」

 

「信じられねぇ……誰にやられたんだよ!?」

 

「ナツ……皆を、連れて、逃げるんじゃ…!」

 

「何言ってんだよ、じっちゃん…!じっちゃんはマスターだろ!そんなこと言うなよ…!」

 

「…っ!ナツさん、あれ!」

 

 黒い塊が上空から飛んできた。数m離れた場所へと着地し、中から金髪の、明らかに目がイカれてしまっているような印象を受ける男が現れた。

 

「へっへっへっへ…マスター・ハデスにやられたんだろ?そうだよなぁ、マカロフ?」

 

「マスター・ハデス…?」

 

「貴様、何者だ!」

 

「俺っちは煉獄の七眷属が一人、滅神魔導士(ゴッドスレイヤー)のザンクロウ」

 

滅神魔導士(ゴッドスレイヤー)…?」

 

「よせ、ナツ………!敵う相手じゃない……!」

 

「敵わなくたって…!」

 

 ナツさんが、震えてる……?あのナツさんが、恐怖している…?

 

「どうした滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)?全身から脂汗が出てるってよ!」

 

「これが………恐怖…?」

 

「フハハハ!!そうだ、それが恐怖だ!絶対なるものを前にした時、人は恐れおののくことしか出来ねぇ!!」

 

「……ナツさん」

 

 もしナツさんが戦うことが出来ないのなら、僕とリリーで…いや、ウェンディとシャルルにも協力してもらわないと勝てない。あのアズマと同じ幹部クラス、上手く立ち回らなければ…やられる。

 

 そう考え、一歩前に出ようとしたその時、ナツさんが右手で制止する。そして、ナツさんの全身から炎が燃え上がった。

 

「……大丈夫だ、ゴーシュ。これは確かに恐怖だけど、ギルダーツが言ってた恐怖とは別の恐怖だ」

 

「はぁ?」

 

「この震えは…じっちゃんをこんな目に遭わせた敵を、俺以外の誰かに始末されちまうことへの恐怖!マスター・ハデスは、必ず俺の手で倒す!!俺はお前たちを、絶対に許さねぇ…!!」

 

 ナツさんの怒りの炎が、どんどんと燃え上がっていく。その剣幕に当てられそうになるけど、すぐにリリーを連れてウェンディたちの所まで後退する。ナツさんなら…今のナツさんなら、きっと勝てる。だったら僕は、少しでもサポートに徹しよう。

 

防御結界(ディフェンド)(ウォール)!」

 

「マスター・ハデスを倒す?……そんなこと、冗談でも言えねぇようにしてやるってよ!!」

 

「何あれ…黒い炎?」

 

「奴も炎の魔法を使うのか」

 

 ザンクロウも全身から黒い炎を燃え上がらせ、ナツさんのすぐ目の前まで接近する。ナツさんは両手に炎を集中させ、ザンクロウを殴りつける。

 

「そんな炎、痛くねぇってよ!」

 

 威力を殺し後退するザンクロウを、足に炎を集中させたナツさんが接近し蹴りを食らわせる。ザンクロウはそれに反応し両手に黒炎を纏って防御した。

 

「竜の炎と神の炎じゃ、格が違うってよ!!」

 

「ぐっ…!」

 

 吹っ飛ばされたのはナツさんの方。そしてザンクロウは両手に炎を集め、黒炎を鎌のような形状へと変化させた。

 

「神の炎は燃やすんじゃない…全てを破壊する、焔の薙刀だってぇ!!!」

 

「なっ……!?」

 

 次の一撃が強力だろうことは予想できていた。だからナツさんを守る為に、二人の間に防御結界(ディフェンド)(ウォール)を割り込ませた。けど、ザンクロウが放った一撃で、結界は元々何もなかったかのように切り裂かれ、周囲の木々も真っ二つにされていく。

 

 ナツさんはちゃんとそれを躱し、斬られた巨木をザンクロウへと叩きつける。が、それも黒炎を纏ったザンクロウが粉砕し、ナツさんは腹部に一撃をもらってしまった。そしてザンクロウはいち早く着地し、さっき以上の黒炎を両手に纏う。その炎は、まるで野獣のような牙が生えているように見えた。

 

「神の炎は魔導士を食うのが、好きだってぇ!!炎神の、晩餐!!」

 

「ぐぉあああああああああああっ!!!」

 

「この炎に包まれたが最後、灰になるまで出ることは出来ねぇ!」

 

「ナツ………!」

 

「ナツさん!!」

 

「こんなもん、逆に食ってやる…!」

 

「無駄だよ!竜の力じゃ神の炎は食えねぇってよ!」

 

 ナツさんが黒炎に飲み込まれる。食べようとするけれど、逆にナツさんが苦しみ始める。

 

 …さっきから、結界を割り込ませることは出来ているのに、それは無意味だと言わんばかりに破壊されてしまう。いや、焼かれてしまうと言った方が正しいか。僕が作り出せる結界では一番の堅さを持っているはずの防御結界(ディフェンド)が、全く通用しない…でも。

 

「…リリー!!」

 

「ああ!!」

 

 仲間を見殺しになんて、出来ない。

 

水晶結界(クリスタル)外装(アームド)!!」

 

「うおおおおっ!!!」

 

「うるせぇってよ!!」

 

「ぐああっ!!」

 

「ううっ……!!」

 

 鎧を纏った僕とリリーの攻撃を、ザンクロウは全く動かずに、黒炎のみで防ぐ。噴火のように噴き出した黒炎により、僕たちはウェンディ達の傍まで弾き飛ばされた。

 

「ゴーシュ!リリー!」

 

 水晶結界(クリスタル)も通じない…これは結界が脆いとかそういうことじゃない。確かに強力だけど、これくらいなら防御結界(ディフェンド)でも防げるはず。あの炎に触れてしまうと燃やされてしまうんだ。こうなったら…!

 

「ぐっ……!?巨人(ジャイアント)…!?」

 

「マスター…!?」

 

「じ、じっちゃん…!!」

 

「これ以上…これ以上親の目の前でガキ共を傷つけてみろ!!貴様を跡形もなく、握りつぶしてやる!!」

 

 マスターが僕の結界を破り、ザンクロウを巨大化させた右手で握りしめる。駄目だ、そんなことしたら…!

 

「そんな力残ってんのかよ!ほれ、早く手を離さないと跡形も無くなるのはあんたの手の方だってよ!」

 

「ぐっ………!!」

 

「ぐあっ…!な、何だと?逆に、力を入れやがった…?」

 

 マスターは黒炎に右手を焼かれながら、さらに力を強める。このままじゃ、火傷どころじゃない…最悪、右手を失ってしまうかもしれない。

 

「止めろ、離してくれじっちゃん!!」

 

「家族の、力…なめんじゃねぇぞーーーーーーっ!!!!」

 

「…!!ぐううう…うおおおおっ!!!」

 

「竜狩りか、マカロフか、俺っちか!先にくたばるのは誰だろうなぁ!!」

 

 ナツさんも炎を滾らせ、黒炎を破ろうとしている。僕たちだって、このままじゃ終わらせない…!

 

聖結界(ホーリー)!!…ウェンディ!!」

 

「う、うん!!」

 

「何を…!?」

 

 マスターの右手、つまりザンクロウの黒炎に包まれている部分へとウェンディと治癒魔法をかける。推測でしかないけれど、多分あの黒炎の破壊の力は状態異常の一種だ。じゃないと防御用の結界が破壊される理由が他にない。つまり、こうして状態異常を治す治癒の魔法と、同様の効果を持つ結界を展開していれば、マスターへのダメージも軽減されるはず!

 

「お、お前たち……」

 

「小賢しい真似しやがって…!」

 

「…!あれを見ろ!」

 

 リリーが指さす先、ナツさんの方を見ると…赤い炎がどんどん小さくなっていくのが見え、やがて…ナツさんの炎が消えた。それは、つまり。

 

「ナツの魔力が……」

 

「消えた…」

 

「ナツさん…そんな…!」

 

「ハッハッハ!!!竜狩りがまず墜ちたぜぇ!!」

 

「……いや、違う!」

 

「っ!!?」

 

 ナツさんの赤い炎が消えた直後、ナツさんを包んでいた黒炎が徐々に小さくなっていく。それは黒炎が解除されたからではなく、ナツさんの口へと吸い込まれているのが見えた。

 

「なぜ神の炎を食っている…!?」

 

「なるほど…食うのにコツがいる炎ってのもあるのか…」

 

 ナツさんは、わざと魔力を空にした。そうすることで、食べることが出来なかった神の炎を取り込むことに成功したんだ……でも、それって下手したら死ぬんじゃ…?

 

「……馬鹿たれが!!死ぬ気かぁーーーーーっ!!!」

 

 マスターがザンクロウをぶん投げた。いや、やっぱり自殺行為なんだな、うん。そりゃあ敵の攻撃の中で魔力を空にするなんて、戦車に生身で戦いを挑むくらいの行動だと思う。

 

「死ぬ気はねぇし、誰も死なせねぇ」

 

ナツさんは右手に赤いいつもの炎、左手にザンクロウが使っていた神の黒炎を纏う。そして落下中のザンクロウを捉える。

 

「皆で帰るんだよ、妖精の尻尾(フェアリーテイル)に……うおおおおおおおおおっ!!!合わされ、竜と神の炎!!竜神の、煌炎!!!」

 

 ザンクロウは二つの炎に身を焼かれ…そのまま倒れ伏した。

 

「じっちゃん…戦おう」

 

「……!」

 

「引かなきゃならねぇ時があるってのも分かるよ…ギルダーツが教えてくれたんだ。でも、今はその時じゃねぇ。妖精の尻尾(フェアリーテイル)を敵にした奴らに、思い知らせてやるんだ!全身全霊をかけた、ギルドの力を…!戦おう…じっ……ちゃん………」

 

「ナツ……!」

 

 ナツさんは右手を掲げた状態のまま、倒れた。ウェンディがナツさんの元へと向かう。ふと、ザンクロウの方を見る。

 

「ありえねぇ……俺っちが、竜狩り如きに……」

 

「……まだ気を失ってなかったんですね」

 

 ザンクロウが動こうとしているがダメージが大きすぎるようだ…気絶していてもおかしくないと思ったんだけど。でも、だったら少しでも情報を聞き出せれば…

 

「……あなたたちの目的は、なんですか」

 

「…それを聞いたところで、何も出来やしねぇ。お前らはもう、終わりだってよ…!」

 

「僕たちは…終わらない。相手が格上だとしても、絶対に妖精の尻尾(フェアリーテイル)は負けません!」

 

「……格上、ねぇ…………皮肉、だな…」

 

「え?」

 

 その言葉を最後に、ザンクロウは気絶してしまったようだ。皮肉って、どういうことだ?

 

「ゴーシュ!手伝って!」

 

「え…あ、うん!」

 

 まあ、しばらくは目覚めることはないはずだ。今は、ナツさんとマスターを守らないと!

 

 

 




頑張って今年中には次回を…!



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