fate / archer in IS 作:タマテントン
間違いがあれば教えて下さい
なおします
[side:shirou]
「ねぇ一夏。アンタなんかあの男の事知ってるみたいだったけどどうなのよ?」
「えっと、小さい時にちょっと助けてもらったことがあったんだよ。」
「ふぅーん。」
士郎は一夏、鈴音、箒、セシリアと共に夕食に向かっていた。
(あの男の持っていた黒と白の短剣。間違いない…正義の味方が使ってたやつだ。)
「悪い皆。ちょっと忘れ物したみたいだ。戻って取ってくる。」
士郎はそれだけ言うと走って自室に戻っていった。
「あ、おい!士郎」
一夏は士郎を呼び止めるが、士郎はそのまま走って行ってしまった。
「財布でも忘れたのか?金なら別に貸してやるのにな。」
「まぁ、すぐに戻ってくるでしょ。それにアイツって人に手を貸すことはあっても人から手を借りることなんてほとんど無かったじゃない。そういうの嫌なんじゃない?」
「そういうわけでもないと思うけど。まぁ、とりあえず先に行って士郎の席取っておくか。」
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自室に戻った士郎は、早速正義の味方の使っていた双剣を思い出す。
「——————投影、開始。」
士郎は干将莫耶の投影を試みる。しかし、
「ぐっ————ぐあ!」
形作ろうとした干将莫耶が突然崩れてはじけ飛んだ。
「駄目だ…。あの双剣、魔力を帯びていた。前にそういえば切嗣が言ってたな。『長い年月をかけて物に神秘が宿ることもある。』ってもしかしたらあれはそういう類の物なのかもしれない。だとすると今の俺がアレを投影しようとすると負担が大きいのか…。でも、グレートを落とせば、形にはなるかもしれない。よし、もう一回。」
士郎は一人黙々と投影を続ける。
「——————投影、開始。」
今度は干将だけを投影する。神経が悲鳴を上げようとも、冷静に確実に一つ一つを構成させていく。そうしてどうにかして干将を形作ると士郎は一息ついてベッドに倒れ込む。
「やっぱり本物には及ばないか…。でも、やっぱり刃物の投影は結構いい線までいくな。他のものは結構魔力使うしそう何度もできないけど、これほどの剣でも数回は行けそうだな。この剣ならIS相手でもなんとかできるかもしれない。」
士郎は今日の出来事に悔しさを感じていた。一夏や鈴音が苦戦しているとき、自分には戦う術がない。それも当然だ。士郎よりも一夏の方がISの適正も高い。だから自分に専用機は無い。それに今は開花していないが千冬の弟なだけあって剣の才能があり、時折素晴らしい動きを見せる。
「今日は…何もできなった…。だけど、正義の味方になるにはそれじゃ駄目だ。」
士郎は干将をベッドの下にしまう。
「また今回と同じ完成度で創れるとは限らないしな。一夏も待ってるかもしれないしそろそろ行くか。」
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「おぉ!今日の夕飯かなりおいしいな!」
一夏が声を上げると他のメンバーが不思議そうにみる。
「何をそんなに騒いでいる?」
「私はいつもと変わりませんが?」
「アタシも別に普通よ?」
箒、セシリア、鈴音は一夏の料理をのぞき込む。
「まぁ、確かにおいしそうではありますわね。」
「おう!食ってみてくれ!」
三人は一夏にご飯を進められ、頬を赤めらせながらおかずを一つ口に運ぶ。
「っ!!」
「まぁ!!」
「ホントだわ!」
三人とも料理の美味さに驚きを表す。
「一夏、これって普通の和食よね?」
「いや、なんか新しい人が作ったやつで、味のアンケートを取ってたから協力しようと思って頼んだ奴なんだ。」
4人で盛り上がっていると、そこに近づく人物がいた。
「口に合ったようで何よりだ。」
四人が声のする方向を見ると、そこには厨房服を身に纏った肌の浅黒い、白髪の男が立っていた。
「あ、貴方は!」
「久しぶりだな。私の名はアーチャーだ。よろしく頼む。」
「お、織斑一夏です!よろしくお願いします!」
「そんなに硬くなるな。私はただの調理師だ。今日はある種試験のようなものを受けさせられていてね。君の食べているソレはいわゆる試験の品だ。生徒の評判によって採用するかどうかを決めると言われていたのだが、どうやら心配はなさそうだ。」
アーチャーが辺りを見回すと、一夏の他にもアーチャーの作った料理を食べている人々がみなおいしそうに食べていた。
「「「「……。」」」」
四人は唖然とアーチャーを見ていた。
「む、どうした?」
「い、いえ。」
「そうか、それでは私は失礼させてもらおう。少し評判を見に来ただけなのでね。何か好みの料理があれば学校の学食HPに料理のリクエストを受け付けている。好きなものがあればぜひ活用してみてくれ。なるべく希望に添えるように努力はしよう。」
それだけ言うとアーチャーはその場を去っていった。
「いやぁ、スゲエな。ISも強くて、料理も完璧だなんて。」
「でも、結構怪しくない?アンタと士郎はテレビで大々的に報道されてたからテレビを見る人ならだれでも知ってたけど、あのアーチャーって人に関して報道なんてされてないわよね?」
「あぁ、私も毎日朝のニュースだけは確認しているがそんなことは聞いていない。」
「私もですわ。それにグラウンドで見せたあの動き。一朝一夕で身につくものではありませんわね。もしかしたら一夏さんよりも男性のIS操縦者として早く見つかっていたのかもしれません。」
「でも、だとしたら何で今更学校に来たんだ?しかも調理師として。」
「さぁね、そんなのアタシに聞かれてもわからないわよ。」
四人がそう話していると、士郎が料理の乗ったお盆を持ってその場にようやく到着する。
「悪い、遅くなった。」
「ホントよ。もう皆食べ終わっちゃうわよ?」
「すまん。別に食べ終わったら部屋に戻ってくれてもいいから。」
士郎は一夏の隣に腰を下ろすと皆の視線が料理に注目する。
「あ、それってアーチャーさんの。」
「アーチャー?」
「えぇ、先程のグラウンドに乱入した黒いISを撃破した方ですわ。」
「アイツ…アーチャーって言うのか。」
「あぁ、さっき会ったんだけど、その料理はアーチャーさんが作ったらしいんだ。結構皆に評判良いみたいでさ。結構周りから美味いって声が聞こえてるぜ。」
「あぁ、俺もさっき本音さんとすれ違った時に勧められたんだ。」
士郎は早速料理を一口口に入れるた。
「…美味い。」
「あぁ、結構美味いだろ?結構士郎の作る和食に味が似てないか?」
「あぁ、だけどこの料理は俺の1枚も2枚も上に行ってる。完全に負けだ…。」
士郎はアーチャーの料理の腕前に何故が意気消沈した。
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翌日、いつものように朝早く起き、魔術の鍛錬のために外の森へと向かう。すると、その向かう途中で廊下の向かいからアーチャーが歩いてくるのが見え、士郎は足を止める。
「……。」
「……。」
お互い無言ですれ違い、アーチャーは士郎とすれ違って数歩歩いたところで足を止めた。
「おい、こんな朝早くに何をしている。そっちは外だぞ。」
「…別に関係ないだろ。朝はいつも走ってるんだ。」
「ふん、そうか。好きにしろ。」
アーチャーは何事もなかったかのように歩を進めると、士郎が後ろから呼び止める。
「アーチャー…さん。」
「…お前にさん付けなどされたくもない。アーチャーで良い。それで、何の用だ?私にはやることがあって忙しいのだが?」
「そうかよ。なら担当直入に聞く。アーチャー、アンタ…正義の味方なのか?」
「……まさか。そんな下らないものになるわけがないだろう。何故そのようなことを訊く?」
「それは……。」
「もし…お前がもしそんなロクでもないものになりたいとでも夢見ているのであれば早々に目を覚ますことだ。」
アーチャーの言葉に士郎が振り向きアーチャーの背を睨む。
「っ!なんでそんなことお前に言われなきゃなんないんだ!俺の勝手だろ!」
「それがお前だけで済むのならそうだろうな。」
アーチャーは振り向き士郎の目を見る。アーチャーの眼光に士郎は少し怯んでしまう。
「正義の味方とは全ての人間を救う存在だ。だが、人の身である限りそのようなことができるはずもない。正義の味方が居るのは御伽噺の世界だけだ。」
「っ、そんなことは…。」
「今のお前と問答することなど時間の無駄だ。だが、一言だけ言っておく。正義の味方などありもしない理想を目指し、走り続けるのなら、他ならぬお前が後悔する。今の言葉が理解できないのであれば、理想を抱いて溺死しろ。」
アーチャーはそれだけ言うとさっさとその場を去って行ってしまった。
「くそ…!」
士郎はその場の壁を強く殴りつけた。
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ホームルームの時間になり、士郎は自席に着席すると、一夏が士郎の元に歩いてきた。
「よお士郎。なんか今日騒がしくないか?」
「そうか?いつもと同じ気がするけど。」
「うーん…。まぁ、そうかもな。っと、千冬姉が来た。」
一夏が席に戻ると千冬がクラスに声をかける。
「これからホームルームを始める。」
「今日は皆さんに新しいクラスメイトを紹介します。」
真耶がそう言うと、教室に一人ブロンドヘアの男子生徒が入ってくる。
「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。皆さんよろしくお願いします。」
皆がシャルルを男と認識すると、騒ぎ始めたが、千冬の一喝で皆が静まった。
「今日は2組と合同でIS実習を行う。各自準備を済ませて第二グラウンドに集合。それから織斑、衛宮。お前たち二人がデュノアの面倒を見てやれ。以上だ。」
士郎は一夏とシャルルの元に向かう。
「二人とも急いだほうが良いだろ?遅れるとまた織斑先生に怒られるぞ?」
「そうだな。とりあえず更衣室に向かおう。」
三人は女子の追っ手を振り切って更衣室に向かった。
「俺は織斑一夏だ。一夏で良いぜ」
「俺は衛宮士郎だ。俺の事も士郎で良いぞ。」
「うん。よろしくね。一夏、士郎。」
「うお!時間やばいな!」
「俺は中に着てるからな。先に行くぞ。」
「あ、ずりい!」
「今日はあらかじめISの実習ってわかってただろう?一秒でも遅刻したら鉄の如き出席簿で殴られるんだ。手段は選んでられないからな。それじゃ。」
士郎は先にグラウンドに出て行った。するとグラウンドにいる1組と2組の集団がある場所を囲い込むようにして黄色い声をあげていた。士郎がその塊の中央を見ると、黒い長ズボンに袖のないボディアーマーを付けたアーチャーを発見する。。
「な、なんであいつが居るんだ…。」
アーチャーは士郎の存在に気付き、視線をやるが、興味のなかったかのようにすぐに視線を外した。士郎はそんなアーチャーの態度にカチンとしながらも、自身を落ち着かせて所定の位置に並んだ。
授業開始時刻となり、千冬がクラスの前に立ち、指示を出す。
「それではこれからISの実習を始めるが、その前に君たちに言わねばならないことがある。今日は調理師のアーチャーを特別講師として呼んでいる。昨日のクラス代表戦を見ていた生徒は知っているかもしれないが、コイツは三人目の男性IS操縦者だ。一応こいつの存在は極秘情報として扱っている。来賓の客はアーチャーが乱入する前にシャッターを閉めたのでこの情報は漏れていない。もし知り合いが来ていたとしても情報を漏らすな。報告は以上だ。それでは授業を始める。まずはオルコットと鳳。前にでろ。」
アーチャーに対して黄色い声が上がる前に矢継ぎ早に千冬が指示を出し、授業が進んで行く。しかし、士郎の耳には千冬の言葉は届いていなかった。目に写るのはただ一人。千冬の横に立ち、授業を眺めているアーチャーだ。
『理想を抱いて溺死しろ。』
アーチャーの言葉が士郎の頭の中で反復し続ける。士郎はアーチャーと対面した時、アーチャーを一目見ただけで分かった。『こいつは気に入らない』と。理由は分からない。ただ、だからといってアーチャーの言葉を気に入らないからの一言で投げ捨てることはできなかった。
(ふざけるな。俺は正義の味方になるんだ。やる前から否定なんてさせてたまるか。)
授業を終え、一夏の昼食の誘いを断り、部屋に戻って干将の投影をする。
(アイツの言う通りなんかにさせてたまるか!)
本来のランクを遥かに落とした干将の投影を終える。頭の中にはアーチャーの言葉に対する怒りがあるが、彼の技は目標にすべきだと思った。遮断シールドを切り裂いた一閃、ISへの初撃の一矢、そしてISの腕を切り裂いた一閃。千冬と手合わせをしたこともある士郎は千冬ですら凌ぐ剣技の極地を垣間見た気がした。
(確かこう振ってたような…。)
アーチャーの姿を思い出しながら投影した干将を振る。
(違う…もっと速く。感覚じゃない、元より俺には千冬さんや一夏のような才能はない。動作一つ一つを考えて振れ!)
「……駄目だな。だけど…。」
光明が見えた。アーチャーの模倣は一発では上手くはいかなかったが、士郎の顔は希望に満ちていた。