fate / archer in IS   作:タマテントン

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第3話

カトリーヌに呼び止められ、アーチャーは再び席についた。

 

「それで、なぜ私を呼び止めたのかね?理由ぐらいは聞かせてくれてもいいだろう?」

 

「特に理由はありません。ただ少しでも御礼がしたかったから、ご飯をご馳走しようと思ったけれど、貴方の料理があまりにも美味しかったから…。今何が御礼になるか考えているの。」

 

「気にするな…と言っても君は聞き入れないのだろうな。」

 

ウンウンと何をしたらいいか唸るカトリーヌに、シャルロットが提案する。

 

「じゃあ私が肩たたきします!」

 

「ふむ、それは良いな。それで私達の貸し借りは無しにしよう。」

 

アーチャーがそういうと、カトリーヌは納得の行かないという顔をする。

 

「…それじゃあ釣り合わないじゃないですか。」

 

「何も言う。人の価値観は人それぞれだ。私にとっては、逆に気が引けてしまうくらいの交換条件さ。私はしたい事をしただけだ。それなのにお礼を言われる方が釣り合わない。」

 

「貴方も頑固ですね。」

 

「フッ。よく言われたさ。」

 

シャルロットはアーチャーの後ろに回り、肩を叩く。

 

「…硬い。」

 

「はて、そんなに凝っていたかな?」

 

どれどれ、とカトリーヌもアーチャーの背後に回り、肩に手を置く。

 

「うわ!?すごい!?まるで岩か何かに触っているみたい!」

 

カトリーヌとシャルロットは興味深そうに肩を叩いたりもんだりする。

 

「…人の体で遊ばないで欲しいのだが?」

 

アーチャーの言葉も虚しく無視され、しばらく二人にいいように遊ばれた。

 

しばらくしてからアーチャーは家を出ようとするが、今度はシャルロットに引き止められ夕飯を一緒に食べることになった。夕飯はカトリーヌが作っており、その間はアーチャーはシャルロットの相手をしていた。

 

「う〜〜。わかんないぃ〜。」

 

「日本語の勉強か。この年から外国語の勉強とはISの影響か、大変だな。しかも小学生がやるレベルではないな。」

 

シャルロットは助けを求めるようにアーチャーを見る。

 

「仕方ない…。シャルロット、読解をするときはなるべく重要な場面に線を引くようにするといい。」

 

「重要なところって??」

 

「例えばここの『ーーーだと、読者は思うだろう。しかし、私はーーーだと思っている。』の部分。これは作者が自分の考えを述べているポイントだろう。設問でこの部分が訊かれていなくとも、この作者が何を思っているのかを知る大切な部分だ。逆を言えばここの部分を頭に入れていなければ、後に結論として出てくる『故に私はーーだと考えている。』が何故そういう考えに至るのかが分からなくなるだろう。作者が自分の考えを述べたと思ったらそこに線を引くといい。それだけでも理解が深まる。」

 

「うん、わかりました!」

 

シャルロットはアーチャーからのアドバイスを聞くと勉強に集中した。すると、こちらを見ていたカトリーヌが口を開く。

 

「わざわざありがとうございます。私は生活の知恵だけしか持っていなくて…。娘に勉強を教えることもできないんです。あまりいい母親とは言えなくて…。」

 

カトリーヌは少し自嘲気味にそうつぶやく。アーチャーはそれを聞き首を横に降る。

 

「いや、それは違う。少くとも体調が悪くても仕事に出て頑張るような母親が悪いはずがない。君は十分によくやっている。」

 

アーチャーがそう言うと、カトリーヌは笑みを浮かべる。

 

「やっぱり貴方は優しい人ね。」

 

カトリーヌがそう言うと、アーチャーは笑みを浮かべる。しかし、それは決して穏やかなものではなく、カトリーヌから見ると、自分を否定しているようにも見えた。

 

(優しい…か。一体何故こんなことをしているのだろうな。守護者となった私には必要のないことだ。この世界は平和とは言い難いが、それでもISという抑止力により大々的な戦争には至っていない。篠ノ之束を探し出し、彼女に問題が無ければ早々に消えるとしよう。)

 

「シャルロット。そろそろ出来るから机の上を片付けてくれる?」

 

「はーい。」

 

シャルロットは言われた通りに勉強道具を片付け、キッチンから料理を運ぶ手伝いをする。アーチャーも手伝おうとしたが、御礼も兼ねているとカトリーヌに言われ、椅子に座って待っていた。カトリーヌとシャルロットによって料理が食卓に並べられる。三人が席に着き、夕食を食べ始める。夕食が終わるとシャルロットはこっくりこっくりと舟をこぎ始める。カトリーヌはシャルロットにベッドで寝るように言い、シャルロットをベッドで寝かせた。

 

「そういえば、アーチャーさんはどこに住んでいるんですか?」

 

カトリーヌはアーチャーにそう尋ねる。無論アーチャーは家など持っていないので、その場で頭をフル回転させ、自分の履歴をでっちあげる。

 

「私は日本から今日こちらに着いたばかりでね。今は知り合いのところに住んでいるが、近々そこを出て宿を探すつもりだ。」

 

「日本から…もしかして日本人ですか?」

 

「あぁ。戸惑うのと無理はない。この褐色の肌に灰色の髪など、アジア人の特徴からかけ離れているからな。体格も日本人離れしていることは自覚している。」

 

「ハーフとかではないのですか?」

 

「両親の事は覚えていなくてね。」

 

「あ、すみません…。」

 

カトリーヌは申し訳なさそうにアーチャーを見た。

 

「気にする必要はない。もう何年も前の話だ。」

 

アーチャーはそういったが、カトリーヌは申し訳なさそうな顔をしたままだった。

 

「それでは私はそろそろお暇する。君も今度からは自分の体調に気を付け給え。」

 

アーチャーはそういうと、カトリーヌの引き留める声を無視して外へと出た。アーチャーは大きくジャンプし、屋根の上に上った。カトリーヌはアーチャーを追って外へ出たが、アーチャーの姿が見えないと渋々家に戻っていった。

 

「さて、何の用かな?」

 

アーチャーが虚空に視線を向け、質問を投げかける。すると青い光の粒子が出現し、それが人の形を成していく。

 

「アハハハ!!お前面白いね!すごく面白い!!この天才の束さんにもわからなんて信じられないよ!」

 

自身を束と呼ぶウサ耳を付けた妙齢の女性が独り言のように笑いながら何かを言っている。

 

「おい、お前。随分前からこの束さんの事調べまわってたよね!それで?何か知りたいことでも分かったかな??」

 

(さて、意図せず目的の人物が現れたのは良いが、随分と難儀な性格をしているらしい。天才と呼ばれた人間にまともな人間はいないのは道理だな。)

 

「いや、残念なことに特に何もわからなかったよ。君には聞きたいことがあったんだ。ISを何故作ったか…その理由が知りたくてね。」

 

アーチャーがそう尋ねると、束は胡散臭い笑みを消し、不思議そうにアーチャーを見る。

 

「…へぇ。IS字体が目的じゃないんだ?」

 

束の声のトーンが下がり、素の彼女が表へ出てきた。

 

「あぁ、あれを手に入れようだとか、君からそのことについて特別な情報を得ようというわけでもない。ただ、君からあれを生み出した真意を聞きたいと思っていた。」

 

アーチャーから質問を聞くと、束はアーチャーの目をまっすぐ見て答える。

 

「ふ〜ん。大した理由じゃないよ。宇宙に行きたかった。ただそれだけ。大事な人と宇宙に行けたら、すっごく面白そうでしょ!でもこの世界は馬鹿しかいない。誰も私を理解できない。それは私が大事に思っている人たちも同じ。私は大事に思ってるし、それはあっちも同じ。でもね、理解はしてない。それでも私はその人たちに理解してほしいとは思ってない。私はただ大事な人を守りたいだけ。国の争いなんて勝手にしてろってこと。それで大勢の人が死のうと、国が滅びようと私には関係ない。だけどそれをちーちゃんたちは良いとは思わない。貴方は普通の人とは違うね。誰なのかな?あなたの事を調べても全く出てこないし、貴方のその鋭い瞳。一体何をすれば、そんな人を切り殺しそうな眼になるのかな?」

 

束は自身の苦悩をアーチャーに打ち明けたが、すぐにペースを戻してアーチャーをからかう。しかし、そこには先ほどのような敵意は見受けられなかった。

 

「さてな。一応名はアーチャーと名乗っておこう。少しばかり危ういな。それでもまぁ、自身より他人が大切だなどと言いださなくてよかったよ。出なければ私は君を粛清しなければならなかった。」

 

アーチャーが口元を歪めながらそう言うと、束は再び警戒心を上げる。

 

「ふーん。大きなお世話だよ。大きい口を叩く奴なんてのは大勢いたけど…貴方はどうかな!!」

 

束が小さい固形物をアーチャーに向けて投げるとその固形物が光を放ち、そこからISが現れる。

 

「流石はISの生みの親だ。パイロットなしでは動かないと聞いたが、すでに自動制御まで可能にしていたとはな!」

 

アーチャーは大きく飛び上がりISから距離を取る。

 

(ここは住宅街だ。まずは場所を変えなくては。)

 

アーチャーはそのままISに背を向け走り出す。

 

「なに?あんなにデカいことを言っておいて逃げるの???アハハハハ無様だねぇ!!ISなしにその機動力は驚いたけど、私の作ったISを貫通できるのかな??」

 

アーチャーは束の挑発を無視して広場を目指して走り回る。束はISの肩に乗りアーチャーを意味深にみている。アーチャーは広場に到着すると立ち止まり、束の方をみる。束はISから飛び降り、少し離れたところに着地した。ISはアーチャーと束の間に立ちふさがった。

 

「鬼ごっこはお終いかなぁ??なら、そろそろ貴方の力を見せてよね!」

 

束は手首に着けた腕時計型のリモコンを操作すると、ISは大きく飛び上がり上空からアーチャーに向かって小型ミサイルが10個ほど発射される。

 

(数が多いあれだけの量を避けるわけにはいかんな。)

 

アーチャーは黒弓と矢を投影し、ミサイルに向かって連続的に放つ。アーチャーから放たれた矢は寸分違わず全ての小型ミサイルに的中し、地面に着弾する前に破壊される。

 

(何あれ…?いきなり手元に武器が?もしかして、IS?いや、でもあいつは男だし…。)

 

束はポケットの中から小型の機械を取り出して戦闘中のアーチャーに向ける。

 

アーチャーは手元の弓矢を消し、なんの変哲も無い剣を取り出してISに斬りかかる。しかし、バリアのようなものに当たり、手元から剣が弾かれる。

 

(今のは…絶対防御というやつか?いや、絶対防御とはパイロットの生体反応に応じて出現するものだと資料に書いてあった。ということは、今のはただのエネルギー障壁か。たかが機械に防がれるとは、手加減が過ぎたか。)

 

アーチャーは慣れ親しんだ夫婦剣の片割れである陽剣干将を投影する。それを見ていた束は笑みを消し、現れた干将をジッと見つめていた。

 

(何?何なの??ISの反応はなかった。いや、そんな事より…あの剣から感じる不思議な圧迫感はなに?)

 

束の動揺を他所にアーチャーは大きく飛び上がりISに接近する。ISは剣を取り出し、アーチャーに向かって剣を振りかぶり、そのまま振り下ろされる。アーチャーはそれを干将で受け流しながら回転し、勢いをつけてISを蹴り落とした。アーチャーは剣をいくつも投影し、ISの関節部分に音速で射出する。すると剣は障壁を貫き、ISを地面に縫い付けた。

 

(魔力温存の為に手抜きの干将を使ったのは事実だが…まさか罅が入るとはな…。大した力だ。)

 

アーチャーは投影した干将に僅かに罅が入っていることに気付く。一方束は拳を握りしめながら声を絞り出すようにしてアーチャーに話し掛ける。

 

「ねえ…貴方のそれ、一体何…?」

 

束の目線の先にあるのはISを縫い付けている剣群ではなく、アーチャーの左手にある干将に向けられていた。

 

「なに…とはどういうことかな?見ての通り短剣だが?」

 

アーチャーがそう答えると、束は怒ったようにアーチャーに詰め寄る。

 

「そんなのは見ればわかるよ!じゃなくて、その短剣から感じる不思議な感じは何って訊いてるの!!」

 

束は拳を振り上げ、アーチャーに向かって放つが、アーチャーはそれを自分の手掴む。束は自分の拳が難なく受け止められたことに驚くが、それどころではないと短剣の事をアーチャー問い詰める。

 

アーチャーはもしやと思い、束の体に解析魔術を掛けた。

 

(ーーーー同調開始。…なるほど通りで干将の神秘を感じ取れるわけだ。彼女は魔力を保持しているというわけか。私達魔術師とは構造が違うな。体の中心部分に魔力が溜まっている。)

 

アーチャーは抵抗している束の手を離すと、束はバク転をして、アーチャーから距離を取る。

 

「良いだろう。君に私のことを話すのはやぶさかではない。だが、場所を変えたい。少し長くなるのでな。紅茶の一つでも淹れよう。」

 

アーチャーはそう言うと、束に背を向けて大きく飛び上がり広場の柵を超え建物から建物へとジャンプをして移動していく。束は、キョトンとしていたが、すぐに我を取り戻し、ISを粒子化して仕舞うと、急いでアーチャーの後を追いかけた行った。


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