fate / archer in IS 作:タマテントン
何かスミマセン
[side:???]
ドゴン!!
この世の片隅の廃墟の一室に突然大きな音が響き渡る。部屋には煙が充満し、その煙が徐々に晴れると、そこには、ボディアーマーに紅い外套を纏った男、アーチャーが衝撃で壊れた机や椅子の上に座っていた。
アーチャーは辺りを見回し、周りに誰もいないことを確認すると、深くため息をついた
「マスターらしき人影はなしか…。呼び出されたわけではなく、放り出されるとはな。それに加え、前情報も無い上に魔力供給も儘ならないとは、難儀なものだ。」
アーチャーはゆっくりと腰を上げ、壁際まで歩き目を閉じて壁に手を当てる。
「ーーーー同調、開始。」
アーチャーは慣れ親しんだ解析魔術を使い建物の様子を調べる。
「…ふむ。完全な廃墟だな。水すら通っていない。放置されて五、六年といったところか。一つ下の階に子供が一人、それを取り囲むようにして大人が数人位置している…か。」
(…ん?先ほどの音が聞こえていたか。数人こちらに来ているようだな。)
男は霊体化し、しばらくすると、拳銃を持った三人の男たちが部屋へと押し入ってきた。
(なるほど。素人ではないということか。だが、この程度なら…。)
アーチャーは実体化し、手に鉄塊を創り出すと、それを持ったまま素早く三人に肉薄する。
「っ!?なにm…グハッ…。」
「どうsウッ…。」
「う゛…。」
音を最小限にして三人を無力化すると、手元の鉄塊を消し、縄を出現させると、三人を縛り、床に転がす。
「どうやら、あまり穏やかではなさそうだ。下にいる少年も何かしらに巻き込まれているのだろう。」
言って部屋を出ると速やかに少年の位置する場所まで駆けて行った。
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「…やはり。思った通りか。」
アーチャーは陰から様子を見ると、身動きができないように捕縛された少年と、銃をもった大人がいた。
「人数は10人程度か。無力化するのは簡単だが、さて…。」
なるべく少年には危害を与えないようにするために、正面からの接近を避け、闇に乗じて攻撃することに決め、手に黒い洋弓と刃を潰した矢を投影し、大人たちに向けて矢を放った。
「え、なんだ!?何が起きたんだよ!?」
突然かなりの勢いで飛来してきた矢に当たって、次々と大人たちが倒れたことにより、少年が怖がってしまった。
「チッ…何なんだくそ!!」
そんな中一人の女が矢の当たった部分をさすりながら立ち上がる。
「ほう…着弾点をずらされたか。どうやらすこしばかりやるようだ。」
アーチャーは暗闇から姿を現し、女の前に立った。
「なんだテメェは!?一体どっから湧きやがった!」
「なに、突然ここに放り出されただけだ。私自身はしがない弓兵さ。」
「弓兵だと…?ふざけやがって!ぶっ殺す!!」
女はそう言い放つと、突然体が光だし、その光が収まると蜘蛛のような機械を身に纏った。
「なんだこれは…?」
アーチャーがそう言葉を零すと、女はニヤリと歪に笑う。
「これが何かだと…?ISに決まってんだろうが!!」
女はアーチャーに向かって銃を乱射する。アーチャーは素早く身をひるがえし、柱の陰に身を隠す。女の銃声は鳴りやまず、ひたすらアーチャーに暴言を吐き続けていた。
「IS…?一体なんだあれは?まぁいい、それは後回しだ。このままあの女性がヒステリーを起こして少年に危害を加えるかもしれん。手早く済ますとしよう。」
アーチャーが物陰から飛び出ると、女はそれを追随するように銃を連射させる。
「なんなんだこいつは!?」
アーチャーは壁や天井を使い立体機動をする。アーチャーの動きに女は驚き、さらに攻撃の数を増やす。しかし、アーチャーには掠りもせず接近を許してしまった。
「遅い!」
アーチャーは蹴りで銃を弾き飛ばし、さらに女の顎をかすめるように蹴る。顎をやられたことにより、女は前に倒れ込む。そこからアーチャーは女の腹部に蹴りを放ち、相手を壁に突っ込ませる。女は壁を突き破り、そのまま脱力し、気絶した。
「パワードスーツ…というやつかね?まさか、私の動きを追い、あまつさえ射撃を行うとは…それほど生ぬるい動きをしたつもりは無かったのだがね。さて、無事か?少年。」
アーチャーは縄で縛られた少年を助け出すと、少年は驚いた表情をする。
「あんたは一体…?」
「私か?そうだな、私の事はアーチャーと呼んでくれ。」
アーチャーはそういうと、何かの気配を感じ窓の外を見る。すると、IS一機が遠くから猛スピードでアーチャーたちのもとに来ているのを発見した。
「あの白いISとやらは君の知り合いかね?君に少し似ている女性だが。」
アーチャーの言葉を聞くと、少年はハッとした表情を浮かべる。
「それは千冬姉だ!!間違いない!」
「家族か、なら私はここで退散しよう。随分と切迫した表情をしている。ここで犯人と間違えられてはたまらないからな。」
アーチャーは背を向けてその場から去ろうとする。少年が何かを話そうとしていたが、先ほどのISがすぐそこまで接近していたので、部屋を出て霊体化し、その場から離れた。
建物から出たアーチャーは自分のいる場所を把握するために屋根から屋根へと移動を続ける。長距離を移動すると、アーチャーはこの地の手がかりを見つけた
「あれは…ケルン大聖堂。ということはここはドイツか。」
(この風景。まさしく私の生前と同じ時代だと推測するが…だとしたら先ほどのISとやらは一体何だ?確かに私の生前の記憶は曖昧だが、あんなものがあれば記憶に残っていても良いはずだ。あれほどの兵器は戦場でも見たことがない。)
アーチャーはケルン大聖堂の中に入り、人目のつかなそうな場所にある椅子に腰を下ろす。
「現界直後に事件とは…これはまた気の滅入る話だ。それにしても……信仰の集まる大聖堂であれば魔力の消費を抑えられると踏んで忍び込んだのは良いものの、なんだねこの魔術基盤は。誰もこの地を使っていないというのか?だとすればこの地の魔術師はあまりにも無能だと言わざる得ないな。いや、魔力を供給できない私にとっては感謝しなくてはならないか。」
(これだけ
アーチャーは今後の方針を決めると、後はただひたすら魔力が回復するのを待ち続けた。
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アーチャーは現界してから、数日を大聖堂で隠れて過ごし、魔力を満タン近くにまで回復させた。
「よし、これで普通にしていればしばらくは魔力切れの心配はないだろう。」
アーチャーは人々が寝静まった夜に世話になったケルン大聖堂の掃除を済ませたとに出立し、霊体化をしたまま町を散策する。
(夜とはいえ流石に赤原礼装では目立つだろう。かといって投影した服など危なっかしくて着れたものではないからな。その内どこかで服を調達する他あるまい。む?)
アーチャーは道端に捨ててある新聞に目が留まった。
「これは確か先日の少年の…。」
新聞には日本人の女性の写真が載っていた。その女性とは先日助けた少年が姉と呼んでいた人物だった。
「ISの世界大会、モンド・グロッソか。ここまで大々的に新聞に載っているとはな…。なるほど、今まで可能性の一つとして考えてはいたが、並行世界と考えてまず間違いないだろう手始めに、ISの知識を入れなければな。世界でこれほど重要視されている技術だ。常識程度は知っておく必要があるだろう。私自身が自由意思を持っている時点で誰がどういうつもりでこの世界に放り込んだのかは甚だ疑問だが、私の成すべき事とは何か…。判断材料がない今、私は私のやり方を貫くとしよう。」
アーチャーは再び歩を進め、まだ閉館している国立図書館へと足へ運ぶ。案内図を見ると、ISのコーナーが大きく書かれており、そこへと足を運んだ。人がいないことを確認すると実体化し、ISの本を手に取る。
しばらくただひたすらにISの本を読み進めていく。
ISには絶対防御があり、命の危機に陥る攻撃はそのシールドがガードしてくれること。ISの装着は男にはできないこと。それによって女尊男卑の世の中になったこと。ISの生みの親が篠ノ之束という人物であること。そして、その肝心の博士が行方不明であること。
「絶対防御に軍事利用の禁止…か。そんなもので安心できるのであればこの世の中に戦争など起きなかっただろうにな。」
アーチャーは嘲笑しながら先日の少年を誘拐したと思われる一団の中にいた女が使っていたISを思い出した。さらに本棚にある本の背表紙に目を通していくと興味深い内容が目に留まり、それを手に持った。
「ん?この資料は…篠ノ之博士がこの世にISを発表した時の論文か…。いやはや、まさかこんなにも若い博士だとは思わなかった。」
アーチャーがその論文を読み終わると、開発者の意向と今のISの扱いの差に眉をしかめる。
「…なるほど。宇宙への進出か……彼女自身は純粋に宇宙に興味があっただけなのかもしれないな。だが、彼女一人の力で世界が変わったと言っても大袈裟ではない。若いが故にISによって女性が力を持ち女尊男卑の世になると予測できなかったのか、はたまたそうなっても構わないと思ったのか。どちらにしてもこれは流石に女尊男卑の社会に進み過ぎたな。」
アーチャーが一通りの情報を頭に入れると、本を元に戻す。
「こんなものか。ある程度の知識は入れられたな。この分なら専門的な分野にも手を出してよさそうだ。」
アーチャーは早々に図書館から立ち去り、建物の屋根に飛び移る。
「さて、ISの事を隈なく知るには篠ノ之博士に会うことが一番だが、ここまで徹底してISの情報を秘密にしている人間が簡単に説明するわけもないか。まずはイギリスに行って魔術師の有無を確かめなければなるまい。」
アーチャーはそう呟くと、霊体化して姿を消した。
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アーチャーはドイツから霊体化のまま飛行機に乗り、真夜中にイギリスに入って、ヒースロー空港からビック・ベンを目指す。距離にして大体20㎞以上の道を疾走する。
ロンドンの街並みを懐かしみながら走り続ける。しかし、所々朧げな記憶の中にあるロンドンとは異なる部分がある。軽い違和感を感じながらアーチャーは時計塔へと到着した。
「……やはり。魔術師は存在しないのか。」
時計塔の様子を見るが、辺りにいるのはそこにいるのは警備員だけで、魔術師の痕跡すら見つけることができなかった。アーチャーは都合がいいと思った。生前は自分にとって邪魔だった魔術協会が存在しないと知って行動範囲が大きく広がったからだ。しかし、その顔が変化することはなく、どこまでも無表情だった。
「この身にできるのは醜悪な正義の味方を体現するだけだ。」
アーチャーはそう呟くと、時計塔を後にする。ほかにも、聖堂や寺院、教会にも向かってみるも満ち溢れた
「ふぅ…。魔術師に関しての問題はこれでクリアできたか。次はISについて詳しく学ばねばなるまい。特に女性のみという部分には些か疑問があるが、まずはISに解析魔術をかけなければ始まらんか。」
アーチャーは再び霊体化し、デカデカとIS研究所と書いてある看板を見つけ、忍び込んだ。空いている窓を見つけ、そこから侵入すると、倉庫のような部屋を掃除している男の研究員らしき人間がいた。
「くそ!男だからって理由でなんで掃除させられなきゃならないんだ!僕は研究員だぞ!?用務員じゃないってのに!」
愚痴を言いながらもせっせと掃除する男をわき目に、アーチャーは研究所の中を進んでいく。奥へ入ると、そこでISの実験をしている部屋を見つける。ガラス張りの部屋の中で金髪ロールの少女が青いISを動かしていた。部屋の周りには、モニターと向かい合っている研究員が数値の変動一つ一つを見逃さないように集中してみている。女の研究員の一人がマイクで部屋の中にいる少女に声をかける。
「セシリアさん。訓練お疲れさまでした。それではこれからデータの解析をしますので、今日はもう上がっていただいて結構です。」
「わかりましたわ。」
ISに乗った少女はISを解除すると、実験室から出て行った。
(む、丁度終わってしまったか。タイミングが悪かったようだ。何か得られると思ったが、仕方あるまい。先程の少女と偶然を装い知り合いになることができれば何か聞けるかもしれん。)
アーチャーは外に出て、先程のISの操縦者を待ち伏せる事に決めた。