朝7時。
いつもより早い起床に八幡は普段の倍以上の睡眠欲が襲うのを何とか振り払い、寝床から体を起こす。
まだ虚な目を覚まそうと目蓋を擦ってみれば、少々ボヤいた後に当たりが鮮明になっていく。重い体をそのままクローゼットへと動かし、中からスーツを取り出す。グレーを基準とした縦織りの線が入っているものであり、かもなく不可もなく。彼の目立ちたくない、という性格が顕著に現れていると言えるだろう。袖に腕を通し、身支度の終えた八幡は一階のリビングへと足を向ける。
中に入るとまだ灯りはついていない。当然と言えるだろう。
なんせ今日は休日、彼の家族は母、父、妹の三人だがその全員が休日である。
明かりをつけた八幡は、冷蔵庫の前まで行き扉を開く。
中には彼の妹が昨晩、彼のことを思い作った朝食がそこにあった。嬉しくなる思いを我慢しながらも、八幡はそれをレンジへと持っていき温めて食べる。
両手を合わせ、「ご馳走さま」と呟いた声は一人しかいない空間に溶け込むようにして消えて行く。
食器を台所へと持って行き、水の溜めてある容器へと放り込んだ八幡は腕を腕に伸ばして欠伸をしながら玄関へと歩む。
少し段下に並べられている自分の靴を履いた後ドアを開けようと取手に手をかけたところで、何やら背後からドタドタと二階から人が降りてくる足音がする。
「お兄ちゃん行ってらっしゃい」
振り返らずとも、自分の妹である事が分かる八幡は背を向けたまま掌を仰ぐように動かして行ってきますという事を伝える。
家を出てすぐ、ドアの前でふと八幡は空に目を向ける。
そこにはこれでもかと言わんばかりの快晴、照りつける日差し、青い空。
普段ならやりもしない事をしようとするのは、今日が特別な日だからであろう。視点を元に戻すと自転車に跨った八幡は目的の場所へと向かうのだった。
今日は四月。辺りは新入生や新社員で賑わっている。それはまるで、春を象徴するかのような光景であった。
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ねみぃ