Fate/AlterZero   作:NeoNuc2001

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遅れてすみませんでした!


第拾二話 朱に交われど赤の他人

訓練場にて二人の勇者が鍛練を積んでいた。最早個人の技量を向上させる段階は過ぎ、連携により各々の弱点を補いあう領域にあった。しかし、その段階ですら最終段階にあり、細かい調整を残すのみだった。

 

園子の盾の内側にて須美が真剣な面持ちで矢を弓につがえる

 

対して英雄王は依然として訓練らしき訓練、特訓らしき特訓は一切行っていなかった。生前の性格もあるだろうが、英霊(サーヴァント)の状態において、それらは無意味だとわかれば当然であろう。

 

矢は真っ直ぐ英雄王を向く

 

むしろ、英雄王は無言をもって裁定を行っていた。勇者の精神を、友を失った故の心持ちを、戦いの後ゆえの覚悟を。

 

須美は反転し、そのまま盾の中から離脱しながら的を撃ち抜く

 

英雄王の圧力は凄まじく、矢を向けられた程度で動じる筈もなく、またしかし矢を向けた須美も特に何も感じなかった。

 

 

 

 

 

あの戦い以降、須美と英雄王の仲は決定的な何かに変化した。お互いは憎むべき敵ではなく、赤の他人でもなく、愛する隣人でもない、そう理解するに至る領域に。

 

須美は英雄王を理解できなかった。彼の価値観を知らなかったのは、単に知らなかっただけなのではなく、知ることができないということだった。

 

銀を全力で守らなかったのは事実。しかし、見捨てた訳でもないのも事実。命より優先すべきものなど何一つない、という須美の考えが英雄王の価値観を拒絶した。それでも、銀を全力でサポートしたのは偽りのないことだと須美は理解していた。故に否定はしなかった。

 

対して英雄王は須美の拒絶を否定しなかった。須美が自身を到底理解できないことは知っていながらも、敢えて共に動いていたのは今に始まったことではない。何よりそれ以上の愉悦を享受できるのだから、わざわざ手放す理由もない。

 

ハリネズミのジレンマ。吸血鬼の悲しみ。

 

近づこう、会話しよう、仲良くなろう、と願った結果、正反対のことが起きた。

 

それでもこの関係はお互いが無言で納得し、了承したものだ。

 

園子を除いて。

 

 

 

 

 

「...」

 

園子はギルガメッシュと須美の仲をどうするべきか、を考えてた。

 

「どうしたの、そのっち?」

 

「あっ、ごめん〜。もうワンテンポ速くだよね〜。」

 

善悪の判断はつきにくい。それでも、改善した方がいいと彼女は考えた。その為にはきっかけが必要だ

 

「そうだ〜、一緒にお祭りに行こうよ〜!」

 

「っ!、驚いたわね、まさかそのっちと考えが全く同じだったなんて。」

 

流石、親友と言うべきか。運命的とも言える偶然の一致が起きた。

 

「ほぅ、催しか。面白い、その祭りにこの我もつれて行くがいい。」

 

そして英雄王が二人の会話に反応する。どうやら、祭りに何か引っ掛かるものがあるらしい。

 

「あなたは呼んで、むが!」

 

園子が須美の口を塞ぎ、お互いが武器を落とす。

 

「いいね!三人で一緒に行こうよ〜!いいですよね〜、安芸先生。」

 

安芸先生が無言でうなずく。

こうして勇者二人と英霊(サーヴァント)は日本の祭りを堪能することにした。

 

 

 

 

 

 

黄昏時、二人の少女と一人の英霊(サーヴァント)が石畳と砂利の道を歩く。その三人は各々の浴衣を決めて祭りに向かっていた。須美は青を基調としたゆったりした浴衣、腰に日の丸印の団扇が刺さっているのが須美らしい。園子はピンクを基調とし、優美な花があしらってある園子らしい可愛い浴衣を決めている。

 

少女二人がそれぞれの個性を主張している中、ギルガメッシュ王は通常では考えられない浴衣を着ていた。布は灰色に縦に入った深青色の縞模様、帯は黒一色とギルガメッシュ(金ぴか)らしくない地味さである。

 

「それにしても〜、ギルっちの浴衣は“和”な感じはするけど、らしくないよね〜。」

 

「ふん、和に馴染んでこそ祭りの悦に浸ることができると言われた故にな。そも、この我のオーラは装衣ごときでは変わらんわ!」

 

そう言うギルガメッシュ(金ぴか)は確かに目立っていた。というのも金髪に外人顔というのは神世紀の四国にしては珍しい。しかし、それとは別にただならぬカリスマが彼を凡百という概念に埋することを許さない。それこそ彼が何をしようと周囲の人々が彼の味方になりうるほどに。

 

 

 

 

 

 

石畳の道を抜けると、神社の入り口である厳かな門と、その印象とは裏腹に、色彩ある賑やかな声が聞こえる。子供が泣く声然り、神社の鈴の音然り、肉を焼く音、その肉を売る店の店主の大きな声然り。中から見れば、その騒がしさ(風景)は色褪せた、使い古された(光景)だとしても、外から見れば懐かしくも胸が踊る人の営み(絶景)なのである。

 

すなわち、この賑やかさこそ勇者である二人の少女と一人の英霊が守ったものである。故にこの祭りが、本人が見飽きた等という感慨すら浮かばないほどの凡百の一瞬(ワンシーン)であったとしても、英雄王が小さな笑みをこぼす程度の素晴らしいものなのである。

 

「くんくん、イケてる香り〜!」

 

しかし、そんなことを気にすることもなく二人の少女は祭りを楽しむ。

 

 

 

 

 

「むむむっ、ちょこざいな。」

 

園子は射的を遊んでいた。手元に大量のコルク弾を抱えながら。

 

「なんてこったい....」

 

園子は射的を遊んでいた。手元に一つのコルク弾を抱えながら?

 

「くくくっ、クハハハハハ!あまりに間抜けな幕切れだな、園子。」

 

園子の戦略を知ってか知らぬかギルガメッシュはこう言った。

 

「とほほ...」

 

「大丈夫よ、そのっち。私が...」

 

「だが案ずるな!不本意ながらもこの我が弓兵(アーチャー)として顕現したからには何も問題はあるまい。」

 

見ずともわかる。今、ギルガメッシュ(金ぴか)が文字通り光輝いていることに。

 

「いいわよ、別にあなたの助けなんか...」

 

須美が振り返る。

 

「うん?どうしたの、わっし〜?って、えっ!?」

 

園子も振り返る。

 

そこにはギルガメッシュと()()()()()()()()()()()()()()()

 

「クハハハハハ!」

 

「ちょっとまち、キャャッ!」

 

暴風と破壊が吹き荒れる。それは射的の屋台を難なく吹き飛ばし、その跡の後ろにクレーターを残した。

 

景品の殆どは、当然ながら、ほぼ全てが灰と化した。

 

周りには騒音を聞きつけ、野次馬が集う。

 

絶対絶命のピンチかと思われたが。

 

「ふむ...確かこの射的とやらは射る以前に褒美を与えねば、ということだが、この我にかかれば後でも先でも変わりはしないだろうよ。」

 

と状況をあまり気にしていないギルガメッシュ(金ぴか)は言いながら、一つの両手で収まるような金塊を木っ端微塵にされた屋台に僅かに残された平らな机の上に置いた。

 

無論この金塊により、机も破壊された。

 

屋台の主人は呆然自失、目の前の出来事を受け入れられないようである。

 

その壮大な音を聞いたからなのか、野次馬が集まり、警察が呼ばれるのも時間の問題。

 

絶体絶命かと思われたが、

 

「驚いたよ、まさか一発で全部吹き飛ばすなんてよ。あんた、すごいな。」

 

屋台の主人が人形仕掛けのように急に動き出したかと思えば、周囲から拍手がギルガメッシュ(金ぴか)に送られる。

 

「クハハハハ、賛美せよ!賛美せよ!」

 

本人も満更ではない様子であり、むしろ自身から周囲を煽っていく勢いすらある。

 

その直後───

 

「危険ですので下がってください!」

 

青い装束を身に纏った、祭りには相応しくなくも、この場において相応しい職種の者が現れた。すなわち警察である。

 

野次馬がざわめきながらも移動していく。

 

「あなた方も御移動を御願い致します。」

 

ギルガメッシュ(金ぴか)を含めた三人に対しても誘導をお願いするも───

 

「...」

 

「...わかりました。」

 

警察の一人に対して舌打ちをした英雄王(ギルガメッシュ)に対して()はこのように答えた。

 

「須美、園子!我は貴様らと別行動をする。我が祭り場から離れる故にこの我の分も含め、祭りを楽しむことを許す。存分に遊ぶがいい。」

 

英雄王(ギルガメッシュ)の離脱に───

 

「あら、わかったわ。」

 

須美は自然と理解し、

 

「...うん、わかったよ〜。」

 

園子もぎこちなく了承する。

 

今宵は祭り。物も、人も、心も動き出す。

 




実は書きたかったネタの一つが祭りでのギルガメッシュの暴走。カニファン曰く、かなりの祭り好きとのことで。

という訳で第"拾"二話でした。決戦に向けてことが動き出すなか、一体どうなってしまうのか。

面白いと思ったら、高評価していただけるとありがたいです。感想をくれるととても嬉しいです。筆が捗ります。

それでは、また。
(「郡千景は魔術師である」も同時公開中)

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