Fate/AlterZero   作:NeoNuc2001

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混沌を深める


第拾壱話 決別(下)

「あぁぁぁ!!!」

 

樹海に須美の叫びが木霊する。

葬式時の硬直(矛盾)は吹く風の如く消え去り、彼女の身体は一つの固い意思と共に動いていた。

 

彼女にとってバーテックスは速やかに討伐するべき障害物。近距離から攻撃を行うため、園子の強力な刺突をするための撹乱のために須美は接近を続けていた。

 

敵の攻撃。バーテックスの下腹部から射出された白濁な卵状の爆弾、その数は5つ。須美は己の弓にも5つの矢をつがえ、迎撃し、更なる接近を試みるが、

 

「えっ!?」

 

爆弾は予期せぬ位置に既に移動していた。

 

爆弾は攻撃目標を変えてはない。

瞬間移動をした訳でもない。

急加速、急停止の様でもない。

 

ただ、須美は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。先ほどまでに放たれたものとは異なるスタイルであった。

 

当時の須美が預かり知らぬ事だが、卵状の爆弾を射出するバーテックス、ヴァルゴ(乙女座)は人とは完全に異なる理を以て爆弾を操作していた。人類がいずれ獲得する技術かもしれないが、今の彼女にとって未知の概念だった。

 

爆弾が迫る。

 

もはや回避は間に合わず、防御は無意味。

須美は既に爆弾の強力な威力を知っており、自身の死を覚悟―――

 

「そのっち!」

 

須美は一人で戦っているわけではない。

大切な親友が自身の盾で防いでくれたのだ。

 

「突出しちゃダメだよ〜、わっしー。」

 

戦いの前、園子は心配していた。

自身を怒りの色に染め上げた須美が暴走してしまわないかと。

無論、自暴自棄、自殺願望に引っ張られていない事は知っている。現に須美は自身の弓で爆弾を直接叩き、同時に後方に跳躍する事で爆風の被害を最小限に押さえようとしていたからだ。

 

むしろその怒りに我を忘れ、特攻と何ら変わらない突撃を始めるのではないかと。

 

そしてその予想は現実となった。確かに須美を守りに行けるほど園子には余裕が出来たが、その分須美が数倍ものリスクを背負うことになった。

 

須美を守れたとは言え、戦況は悪化。園子が迫り来る爆弾を凌ぐも体力の限界が近づく。無理矢理攻勢に出たとしても、実質必中不可避の爆弾にやられる。

 

膠着したまま砕けるのを待つしかないのか思われた時、

 

王の財宝(ゲートオブバビロン)!」

 

正しく雨粒程の数の宝具が天から迫る。その一つ一つは装飾過多でもあり、日本のわびさびを表現しているものもあった。しかし、多種多様なその宝具群はヴァルゴ(乙女座)が自身に巻かれている布に巻き取られ―――

 

「たわけが。その程度の浅知恵、我が双眸を使わずとも見えておるわ!」

 

門から放たれた宝具は巻き取ろうとした布を貫通し、それどころか()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「すごい〜、ギルっち。」

 

「...」

 

ヴァルゴ(乙女座)は奇妙な叫び声をあげながらも、下腹部から爆弾を射出し、勇者等には目もくれず、自身よりも高みにいる脅威を排除しようとするが、

 

「ふん。」

 

英雄王は()()()()()()()()()()()()()のだった。

 

「やはり下らんな。だが、約定は果たす。」

 

そう口にした英雄王はヴァルゴ(乙女座)の周囲に王の財宝の門を展開し、そこから出現した宝具を一斉に放ったのだった。それら全ては寸分違わず目標に命中し、ヴァルゴ(乙女座)を粉砕したのだった。

 

そして合わせたかのように鎮花の儀が始まった。

 

如何なる力か、大橋で花びらが舞い、次の瞬間にはヴァルゴ(乙女座)は消えていた。

 

戦いは終わった。

 

「やっぱりすごいよ〜、ギルっち〜。ところで、今までどこにいたの〜?」

 

園子は英雄王ギルガメッシュの力に驚き、感嘆し、

そして須美は英雄王の強大な力を理解して

 

その弓に矢をつがえ、英雄王に放った。

 

しかし英雄王はその攻撃には驚かず、矢を盾状の宝具に防ぎ、その展開した宝具を収納すると同時に円盤状の宝具を取り出す。

 

「わっしー...?」

 

「そのっちも手伝って!あの人は銀の仇なのよ!」

 

「でも...」

 

「わからないの、そのっち?あいつはあんなに簡単にバーテックスを倒せる力がある。なのに!それを使わずに銀を見殺しにした!」

 

英雄王は口を固く閉ざしたまま、じっと須美たちを睨みつけた。その場を観察するかのように。

 

「おかしいと思ったのよ!銀は...銀は...死んだのに、バーテックスは撤退してた。それはあいつが自分の力を誇示するためだったのよ!」

 

「...」

 

園子は押し黙る。反論が出来ないのか、それとも。

 

「あいつが今の敵を倒して確信したわ!あいつは人の命を何とも思ってない!王様だから?自分が死人だから?理由なんてどうでもいい。あいつが銀を...殺したのよ!」

 

「ならば、どうする。」

 

重い口を開き、英雄王が問う。その眼光は一般人が見れば気絶必死。しかし須美はその眼差しに負けることなく、むしろ正面から抗うように睨み返し、答える。

 

「ならば、あなたを殺す!」

 

そう叫んだ須美は五本の矢を同時に放つ。上下左右、そして前から迫る矢に英雄王は

 

一つは円盤状の宝具(自動防御宝具)が撃ち落とし、

一つは英雄王に当たることなく虚空に消え、

二つは盾状宝具で再び防がれ、

最後の一つは英雄王自身の鎧の手甲でもって弾かれた。

 

五本の矢でダメージを与えられなかった須美は、しかし怯むことなく次の攻撃に入っていた。

 

「南無八幡大菩薩!」

 

弓は大きく拡張され、矢の先端部から展開されていた円が収束したと思えば、光を纏った矢が凄まじい勢いで放たれた。音速を遥かに越えたその矢は自動防御宝具(オートディフェンサー)を掻い潜り、複数の盾状宝具を貫通し、それでも落ちぬその矢は英雄王に必死の一撃を与えようとしたが、

 

「はっ!」

 

矢は英雄王が宝物庫から取り出した剣で()()()()()()()()

 

「ふん、その程度か。」

 

「まだ!」

 

須美は不屈の意思を表し、更なる追撃を与えようとするが、

 

「よもや見るに値せぬ。」

 

そう口にした英雄王は須美の矢をつがえようとしていた右腕に黄金の鎖が絡ませた。須美が勇者の力をもって強引に引きちぎろうとしたが、びくともせず、むしろさらにきつく絞めてきた。

 

「その鎖は天の鎖、神の力を纏う貴様に逃れられるものではない。さぁ、裁定の時だ。この我の前から疾く消え失せるがよい!」

 

その言葉と同時に英雄王ギルガメッシュの背後の門から複数の宝具が現れる。必殺の攻撃に須美は次の瞬間の死を理解し、目を閉じたが、

 

「令呪をもって命ずる〜!アーチャー、私たちと対等に話し合って〜!」

 

園子が自身の盾を展開し、さらに令呪を使用する。しかしそれは攻撃の中止でもなく、謝罪でもなければ、自害でもない。園子は単純に対話を求めた。しかし無論、財宝の雨は止むことを知らず、むしろその勢いを増したように見えた。

 

「この我と話し合いだと?たわけが。この我に弓を向けた時点で須美の沙汰は決まっておる!話し合うことなど、何もないわ!」

 

英雄王は激昂し、財宝の雨はさらに加速し、その密度は増えたように感じる。それでも園子は盾を構え続け、こう答える。

 

「ギルっちは何でわっしーを殺そうとしなかったの〜?」

 

「...」

 

沈黙を貫く英雄王。未だ二人を睨み付けており、宝具は放たれ続けている。

 

「本当は最初からわっしーを殺す気はなかったよね〜。」

 

「そんなことはないでしょ、そのっち。あれほどの速度、量。そのっちが守ってくれなかったら私はここにいなかったわ!」

 

「うんうん。違うよ、わっしー。あれは全部ギリギリで致命傷にならない方向だったよ〜。」

 

「えっ?」

 

「それにわっしーが攻撃している間は防御こそはしたけど反撃はしなかった。やっぱり殺す気はなかったんだよ。」

 

「でも...」

 

須美は反論出来ずに口を閉ざす。園子の盾が宝具を跳ね返す激突音の中、須美は落ち着き始めた。同時に自身の行動に疑問を抱き始める。

 

それでも

 

「でも、何で英雄王は未だに攻撃してくるの?」

 

その言葉を受けた園子はニコッと微笑み()()()()()()()()()()

 

「!」

 

須美はその行動に驚いた。先ほど自身を殺しに来ただろう攻撃とは比べ物にならない豪雨と形容すべき宝具の量、そして一流の英霊(トップサーヴァント)ですら見切るのは難しい宝具の速さ。三度目の死の危機を感じた須美は、今度こそ自分の死を覚悟し、それでも目を開き続けた。

 

「だってギルっち。何で当たらない攻撃を続けたの〜?」

 

しかし、頭上から放たれている宝具は全て須美と園子のすぐ側を通るものの、当たることなく地面に突き刺さる。

 

「ほう、よもやこれらの攻撃を見切ったというのか、それとも...」

 

感嘆の意を表しながら、宝具の雨が最早無意味だという事実を知覚したギルガメッシュ王は全ての宝具を回収し、展開していた門も閉じた。

 

「うん、それともの方だね〜。」

 

園子は一度目を閉じ、開く。自身の確信(核心)を確かめるために。

 

「私はギルっちを()()()()()〜。ギルっちが頑張ってミノさんを助けようとしたことを私はわかる。」

 

園子はいまだに微笑みを続け、ギルガメッシュ王もまた、凶悪な、傲慢を絵に描いたような笑みを浮かべる、何かを理解したかのように。

 

「ならば園子、何故この我が貴様らを殺さぬと信じた。」

 

英雄王は問いを投げる。その真意を確かめるように。

 

「それは、ギルっちと一緒に過ごした毎日の思い出だよ〜。」

 

園子が答える。更なる言葉は不要とばかりに。

 

そして、その答えに須美は愕然とした。園子が英雄王を理解し、信じていたことに。対して自分はどうだろうか。ただ怒りのままに子供のようにわめき散らしていただけなのではないか。しかし、やはり、

 

「それでも、英雄王...さんが銀を殺した可能性は残ってるんじゃない?証拠はあるのかしら...?」

 

須美は弱々しくも確かな反論(正論)を掲げる。信頼は簡単に裏切れるもの。そのようなものを証拠としてよいのか。

 

「いろいろあるよ。例えばギルっちが言ってた“約定”とか、かな〜。相手は王様なんだから約束を結べる人はこの世界にはいないよ〜。いるとすれば死に際の人、ミノさんだね〜。ミノさんと約束するなら見殺しは考えづらいよ〜。それにギルっちはミノさんのお葬式に来てたね〜。多分私たちより前に来て目立たないようにしてたんだね〜。ツンデレだね〜。でも黄金色の花が一輪ミノさんの隣に添えてあるんだもん〜。目立とうとしてるのか、そうじゃないのか分からないよね〜。それにね〜、」

 

孤独、天才、大切な友とその喪失。共通項があまりにも多く、だからだろうか、園子が英雄王を見透かしているようだった。故に

 

「くは、クハハハハハハ!フハハハハハハ!」

 

英雄王の哄笑が樹海に響く。

 

「よもやここまで見抜くとはな!もしや貴様、千里眼の類いを持っているのではないか?まぁよい。どちらにせよ、問いには答えよう。とは言えもはや気づいているのだろう、園子。この我が銀と結んだ約定は貴様らの安全を保障すること。そのためならば戦いで貴様らの身を守るのではなく、戦いから身を引かせるのが道理。ならば、心を乱している須美にその死の恐怖を与えれば良かろう。」

 

須美は英雄王の言葉を理解し、膝を落とす。

 

(私は何もわかってなかったんだ。)

 

英雄王の不自然な戦闘、ただ防御するだけのスタイルは須美の力量を正確に計るもの。

 

「駄目でしょ、ギルっち〜。そんなことしたら、わっしーが困っちゃうよ〜。」

 

「逃げも人が持つ足掻くための術の一つに過ぎん。それにこの我は選択肢を与えたであろう。仮に死の恐怖に打ち勝つことができるというのならば、わざわざ除け者にはせん。」

 

「ああ言えばこう言う〜。」

 

園子は頬を膨らませ文句を言う。そして、須美は落とした膝を引き上げ、

 

「ごめんなさい!」

 

「!」

 

「...」

 

足を揃え、手を両太ももに当て、腰を曲げる。すなわち、須美の唐突な謝罪。園子は驚き、英雄王は顔から笑みを消し、再び須美を見る。

 

「私はまた...また()()のことを、英雄王さんのことを信じなかった。やっぱり私...」

 

「なに下らんことを言っている?貴様は死の恐怖を乗り越えたではないか。なにもわかっておらぬようだな。あの場においては貴様がこの我と敵対することは()()()()()()()。むしろこの我と全力で相対して尚意識を手放さぬその肝は褒めてやろう。」

 

その時、相変わらずの厳しい表情だったが、一瞬英雄王は顔に綻びを浮かべたのだった。

 

それは、ひな鳥が初めて飛んだ様子を見る親鳥のようでもあり、園の演劇で見事に役目を果たした幼い娘を見ている父親のようでもあった。

 

すなわち、試練を突破した少女に安堵したのだ。

 

少女は赦され、王は綻ぶ。

樹海は遂に晴れ、現実にへと帰る。

しかし、その心は未だに曇りだった。

 

 

 

 

 

変身が解けた二人の少女は草むらに横たわっていた。大橋の近くにあるその公園では曇があり、そして未だに雨も降り続ける。

 

しかし、少女は雨に対して不快に感じることはない。水は弾かれ、肌が蒸れること能わず。すなわち、英雄王の粋な計らいだった。

 

雨は降り続ける。

 

世界は嘆きを続ける。

 

二人の少女は戦いの疲労故に体を動かそうという気持ちにはならなかった。

 

しかし、幾時経とうと彼女たちは立ち上がることをしない。

 

幻想的な戦いを終えた後、現実的な考え方をすれば

 

いや、彼女たちは...

 

「...」

 

安芸先生が無言で近づく。英雄王とはお互いに視線のみを交わし、歩みを続け、英雄王は霊体化を行う。

 

「...立てるかしら。」

 

「「はい...。」」

 

先生がポツリと呟いた言葉に少女たちは答える。

 

 

 

 

 

「...」

 

静寂が車内を包む。

 

樹海にて英雄王と和解してにも関わらず、須美は暗い気持ちであった。英雄王がいない今、それは顕著に現れる。

 

樹海にて英雄王と和やかに談笑していた関わらず、園子は持ち前の明るさを発揮しなかった。英雄王がいない今、それは顕著に現れる。

 

「...あのね...!」

 

安芸先生が声を張り上げ、静寂に挑むも、敵わず。

 

「...辛い中、お役目ありがとう。」

 

「...いえ...」

 

小さな声が響く。

しかし、未だ破れず(敗れず)

 

「...こんな、辛い中、頑張ってお勤めを果たして...二人は、まさしく...勇者だわ。」

 

「先生...」

 

「何かしら...?」

 

故にある挑む精神は、変化を生む。

 

「私たち二人だけじゃないよ、ミノさんが...ミノさんが一番頑張ったんだよ!だから、だから...私たち三人が勇者なんだよ!!」

 

園子が泣き伏し、須美も閉じた瞼から雫をこぼす。(非現実)から樹海(幻想)へ、そして自身(現実)という道を渡った彼女らは何かに洗い流されたようだった。

 

勇者たちは思い出(執着)と決別し、新たな血肉(決意)を得た。

 

「そうね。訂正するわ。三人とも...勇者だわ。」

 

雨は未だに降り続ける。止む日は誰も知らない。




まさか5800文字を一本にまとめる日がくるとは思わなかった私です。

そんなこんなで乙女座戦ですが、私の中ではバーテックスのお笑い担当というイメージしかないので、早急に退場してもらいました。内容的理由としては英雄王の強さがありますが、前回と比べて慢心がかなり抜けてます。完全ではないけど。

ちなみにバーテックスには原作由来の能力の他に+αの能力をつけてます。

そのっちのセリフは変更されてますが、それは私の気分です。伏線でも何でもないです。

現在更新停止中の「郡千景は魔術師である」の千景ちゃんの設定を練っていて、あとは詠唱を残すのみ。出来れば鉄心エンドは避けたいです。ちなみにこの作品との関連性はあるので、よんでみてください。

では、

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