強さの次元が違うんだが、一体どうやって過ごそうか 作:黄金聖闘士
河川敷からの帰り、家の前まで来ると妙な感じがした。辺りに人の気配が全くない。治安が悪い親不孝通りとはいえ、人は住んでいる。それが全くしないという事は、明らかに不自然だ。
「何だ一体。まるで、結界の中に俺一人が閉じ込められたみたいな、この妙な感じは」
その時、近くのビルの上から銃声がした。ダン、ダン。二発の銃弾が俺に向かって飛んでくる。
「よっと」
だが俺は素早くその場から一歩下がり銃弾を避けた。普段の修行を思えば、こんな銃の弾の速度など、止まって見える。
「上手く避けたなぁ、モブ野郎」
上を見上げると、一人の男が銃を逆手に構えて立っていた。その左右にはそれぞれ黒いコートを着た女の子と、黒髪の忍者のような恰好をした女の子が立っていた。
「なんだお前は。こっちは襲われるような覚えはまるで無いんだが」
「黙れモブ野郎、お前が転生者だってことは魂の波長で分かってるんだよ」
驚いた。この世界に、俺以外にも転生している奴がいたなんて。
「だったら尚更だ。何で俺を襲う、同じ境遇の者同士だろう」
「うるせえ、この世界のオリ主は俺なんだよ。それ以外の奴が生きててたまるか。今、この場で始末してやる」
どうやら全く話が通じない奴の様だ。適当にあしらって逃げようか。
「行くぞこらぁ」
そいつと二人の女の子がこっちに向かってビルから襲ってきた。銃弾を放ちながら頭上から、飛び降りてくる。ダン、ダン、ダン。何発もの銃弾がこちらに向かってくる。一つ一つを見切り、その場で銃弾を避ける。
「チッ!当たりやがれモブ野郎」
「当たるわけないだろう、そんな攻撃に」
「だったかこれならどうだ、椿」
そいつが叫ぶと、黒髪の女の子の方が光り、鎖鎌になった。そして、男が銃を両方宙に放ると、それがそれぞれ金髪の女の子になった。
「リズ、パティ、お前らは援護だ。マカ、お前は盾になれ」
なんて無茶苦茶な命令であろうか。仲間のうちの一人を盾にしながら突っ込んでくるなど、正気ではない。だが、その子たちは誰も文句を言う事もなく命令に従っている。よく見ると、目が暗くよどんでおり、意識がはっきりとしていない。
「お前、この子たちに何をしたんだ!」
「ああ、武器に余計な感情は必要ねえからな。何にも考えることが出来ないように、魂を無理やり押さえつけてるんだよ」
そいつはそういいながら、鎖鎌を振るってくる。魂を無理やり押さえつける。そんな芸当が出来る奴が、師匠以外にも居たのか。そいつは自慢がしたいのか、こっちが何も聞いていないのにもかかわらず、どんどん喋ってくれる。
「俺は人の魂を食らう事で強くなれる。これまで九十九人の魂を食らってやった。お前で百人目だ。ありがたく思うんだな」
「何だと」
こいつ今何と言った。人の魂を食らっただと。それも九十九人もの大量の魂だと。
「お前、人の命を何だと思ってる」
「そんなの知るか、名前もねえモブの魂を食らって何が悪い。俺の力になれるんだ。逆に感謝してほしいくらいだぜ」
「こいつ」
逃げようと思ったが、こいつの話を聞き我慢が出来なくなった。
「そろそろ決めるか、リズ、パティ」
後ろで銃に変身し互いに撃っていた二人が、人間に戻ってこちらに突っ込んできた。
「トラップ☆スター!」
奴の鎖が広がり、星形になる。そして、俺はその中に閉じ込められていた。
「行け、リズ、パティ、あいつを抑えろ」
その二人が突っ込んでくる。俺が逃げる前にその二人に接近され、しがみつかれた。間近で見ると、本当に感情がない眼をしているのが分かった。
「トラップ☆スター、発動」
そして、鎖が縮まり俺はその二人ともども、鎖でぐるぐる巻きにされた。
「ヒャッハー、捕まえたぞモブ野郎、これで逃げられねえな。これでラストだ、マカ!」
黒いコートの少女が今度は大鎌に変身した。それを両手で持ちこちらに歩み寄って来る。
「このままやれば、この二人も、鎖の子も一緒に斬っちまうぞ、良いのか」
「あぁ、知るかそんなもん。こいつらはただの武器だ、修理もできる。いちいちそんなことにかまってられっか」
「お前…」
こいつは本当に下種野郎だ。今まで生きてきて、こんな反吐が出るような奴にはあった事がない。俺の中で怒りがふつふつと湧いてくる。
「行くぜ、魂の強制共鳴」
その言葉と共に、鎌が三日月になり大きくなる。
「死ね、モブ野郎ー」
そして振り下ろしてきた。
「アナザーディメンション」
だが、その鎌は空を切った。
「何だ、やろう何処に消えた」
「後ろだバカ野郎」
「何、がはっ!」
俺は後ろから奴の顔面を殴りつけた。鎌が手から離れ、地面に転がる。
「チックショー、モブ野郎の分際で、オリ主である俺を傷つけやがって」
「黙れ、お前は生きていてはいけない人間だ」
俺は、小宇宙を高める。そして、死の燐光「積尸気」に変換し指先に溜める。
「お前が食った魂事成仏しやがれ、積尸気冥界波!」
積尸気冥界波を奴に放つ。奴の体から大量の魂が飛び出し、成仏していく。
「な、何だこりゃあ!俺の食った魂が、力が消えていく」
「お前も黄泉比良坂に落ちやがれ」
「ぐあぁーー」
奴の魂も黄泉比良坂に送り肉体だけが残った。そして、俺自身にも積尸気冥界波を放つ。
「魂の一片まで火葬してやる」
そして、肉体ごと黄泉比良坂に飛んだ。
黄泉比良坂
「くそ、一体ここは何処だ」
「ここは、冥界への入り口。黄泉比良坂だ」
「め、冥界だと」
「同じ転生者として、命を軽んじるお前を生かしておく訳には行かない、これで止めだ」
「ま、待ってくれ。俺が悪かった、もう手は出さないから命だけは」
「もう遅い、火葬されちまいな、積尸気鬼蒼焔」
奴の魂を鬼蒼焔で燃やしていく。霊的なものを火種として炎上させる鬼蒼焔は魂だけとなった奴にはよく効く。あっという間に炎上した。
「ああ、魂が、俺の魂が消えていく。こ、こんな所で、糞がーーーーーー!」
その言葉を最後に奴は燃え尽きた。
「これで少しは、奴の被害者も浮かばれればいいんだがな」
(ありがとう)
黄泉比良坂で聞こえるはずのない、誰かの声が聞こえた。
「ふっ、成仏しろよな」
俺は、黄泉比良坂を後にし、現世へ戻った。
「よっと。さて、この子らをどうするかな」
奴の体は魂が消えた影響でボロボロと崩れ去った。その影響か四人の女の子だが、全員倒れ伏していた。何にせよ、このままここに放っておくわけにもいかない。
「仕方ないな。アナザーディメンション」
アナザーディメンションで空間を家につなぐと、少女達を全員運び込んだ。
「さて、明日の朝には目覚めてほしいもんだが」
家に帰ってやっと落ちくことができる。今日一日色々ありすぎて、さすがに疲れた。帽子を脱ぎ、マスクを外し、眼鏡を置く。そして、俺もあっという間に眠りについた。