最初のジャイアントトードの討伐での苦い思い出から早くも数か月が経とうとしている。
あれから様々なクエストをこなし、私は今やアクセルの町でそこそこの知名度を誇っていた。
『熊殺しのユタカ』
それが今の私の異名である。
私としても甚だ遺憾であるが、どうにも熊型のモンスターを見ると反射的に殺しに行ってしまう衝動に駆られる。
この世界において熊というと一撃熊というモンスターが一般的だ。
森に棲む熊のモンスターで、一撃で人の頭を刈り取る程強靭な前足がその名の由来とされるのだが……
偶然森で出くわした時に一撃熊の剛腕をものともせずに首をへし折って倒してしまったのが運の尽き
出くわす度に一撃熊を逆に一撃で伸していく私はもれなく熊殺しの称号を得たのだ。
あれですね、女神アクアのサービスってこのことなのね。
熊にビビらないで済む身体=熊を反射的に絞め殺す身体ってことだったのね。
そしてそれを行えるだけの身体能力を持つ私は、バーサーカーでもないにも関わらず魔法を使わずとも拳のみでモンスターを倒すことで有名人となった。
ちなみに今の私の恰好は白のカッターシャツとチェックが入った赤のロングスカートを着用している。
これは東方というゲームの風見幽香というキャラの恰好を似せて作っている。
私は昔から何をするにしても形から入る性格だった。
容姿がそっくりなら、もはや恰好もそれっぽくするのは当然の事である。
植物を操るスキルで編み出した綿花モドキを使って糸から作った私の服は、鉄製の鎧よりも硬いのだ。
そしてもう一つスキルで編み出した日傘を差して歩くのが習慣となっていた。
この日傘は傘の形をしているが実のところはスキルで造り出した花である。
なので頑丈さも折り紙付きで、殴るもよし、差すもよしと万能の兵器として私の冒険に欠かせないものとなった。
これにて私はなりきり幽香モドキという生前考えられないことに興奮を覚えつつ、つつがなく冒険者ワークを楽しんでいた。
今日も初心者殺しと呼ばれるサーベルタイガーもどきを森でシバキ倒した帰りなのだが……
ゴッ!!
巨大な火柱と爆炎が町の近くで突如として降り注ぐ
「今のは爆裂魔法……またあの頭のおかしい娘のかしら?」
そう疑問に思いつつ爆心地へと歩みを進める。
ここのところ聞かなかった爆裂魔法の衝撃音が久しぶりに聞こえたので少し興味がわいたのだ。
このあたりではジャイアントトードぐらいしかでないので、何に向かって放ったのか気になる。
**このすば!**
皆さんこんにちは、僕です。カズマです。
アクアという駄女神と二人ではジャイアントトードの群れを倒すのは難しいと考えパーティーを募集したところ
めぐみんとかいうへんちくりんな名前の紅魔族の娘を臨時で招き、彼女の言う最強の魔法、爆裂魔法がいかなる魔法か見させてもらっています。
彼女の呪文の詠唱と共に広がる魔法陣と杖のもやもやが眩い光を放つとともに一匹のジャイアントトードを巨大な爆発と火炎で吹き飛ばす。
これが爆裂魔法かと興奮する。
ようやく異世界っぽい冒険ファンタジーに出くわしたと感慨深いものを覚えた。
もういっそアクアと交換してくれないだろうか。
え?アクアはどうしたって?
あの駄女神ならカエルの口の中で寝てるよ。
ズズ
っと、感心してる場合じゃなかった。
爆発の衝撃で目が覚めたのか、ジャイアントトードがまた一匹地中から出てくる。
距離が近いな。さっきの詠唱の長さを考えると離れて貰ってもう一度放ってもらおう。
「めぐみん!1回離れて……え?」
なんかの儀式だろうか。先程爆裂魔法を放っためぐみんが地面に突っ伏し、身動き一つ取らない。
その後ろからジャイアントトードが迫っている。
ちょっと~、もしも~し
敵ですよ~、寝てる場合じゃないですよ~
「我が奥義である爆裂魔法は、その絶大な威力ゆえ消費魔力もまた絶大。要約すると、限界を超える魔力を使ったので身動き一つ取れません。近くからカエルが湧き出すとか予想外です。やばいです、食われます。すいません、ちょっと助けて…うくっくぱ!?」
めぐみーーん!!
ちょっと待って待って待って!
「お、お、お、お前らーー、食われてんじゃねえええーーー!!!」
ヤバイヤバイヤバイ、そこそこ距離がある。間に合うか!?
ブン!
俺は馬鹿している馬鹿共を救うため走り出すが、俺の後ろからなにかが物凄い速さでカエル二匹に向かって走っていく。
それは元は緑色の髪の女性なのだろう、普通にしていれば美人で凛々しいであろうその顔は……
「あははは、死ね!カエルは死ね!」
どう見ても人がしてはいけないヤバい表情だ。
元々なのかはわからないが、カエルの返り血によって全身が真っ赤だし。
紅魔族より紅魔なのではなかろうか。
眼も紅いし……
「アハハハ、死ね!死ね!死ねぇえ!アッハッハッハッハ!!」
ほんと、怖い。怖いです。
「アッハッハッハッハ……」
**このすっば!**
「うっ、うぐっ、ぐすっ、生臭いよう……生臭いよう……」
「カエルの中って、臭いけどイイカンジに温いんですね……」
「知りたくなかった上にやばい知識も増えたよ。それより本当に良いんですか?ジャイアントトードの報酬を頂いてしまっても……」
「ええ構わないわ、あれはあなたたちの獲物。それを横から横取りしただけだから。それよりもごめんなさいね。ついカエルを見ると……ぐちゃぐちゃに引き裂いて、はらわたで絞め殺し……なんでもないわ、オホホホ!」
「いや、今更取り繕っても遅いから、手遅れだから。」
カズマです。先程助けてもらったユタカさんにちょっとドン引きしながらも足手まといと足手まとい(物理)をおんぶして草原から帰ってきました。
ユタカさんの恩情でジャイアントトード五頭の討伐に成功したので報酬をもらって帰ろうと思います。
それにしても一発撃てば動けなくなる優秀なはずのアークウィザードにポンコツ駄女神、笑顔でジャイアントトードを引きちぎる怪力女
俺が出会う女にまともなのはいないのか、この世界には……
「それにしても緊急時以外は爆裂魔法は禁止な。これからは他の魔法で頑張ってくれよ。「使えません」は?」
「私は爆裂魔法しか使えないんです、他には一切魔法は使えません。」
おい今なんて?
「マジなのか。」
「マジなのです。」
「……え?爆裂魔法が使えるレベルなら他の魔法だって使えるでしょ?私なんか宴会芸スキルを習得してからアークプリーストの全魔法を習得したし。」
おいこっちにもいたぞ……宴会芸スキルってなんだ?それで冒険できるのか?
「おもしろい娘達ね、あなたのパーティー。」
そうですよね!俺がおかしいんじゃなよね!
「私は爆裂魔法をこよなく愛するアークウィザード、爆発系統の魔法が好きなんじゃないんです、爆裂魔法だけが好きなのです!勿論他の魔法も覚えれば楽に冒険ができるでしょう、でもダメなのです!私は爆裂魔法しか愛せない、たとえ1日一発が限度でも…魔法を使ったあとに倒れるとしても…それでも私は爆裂魔法しか愛せない!だって私は爆裂魔法を使うためだけにアークウィザードの道を選んだのですから‼︎」
わかった、わかったから俺の背中で熱弁するな!カエルの粘液が飛び散る。
「素晴らしい、素晴らしいわ!非効率ながらもロマンを追い求める姿に私は感動したわ!」
まずい、この魔法使いはダメな系だ、よりにもよってアクアが同調しているのがその証拠だ、てか腕を強くにぎりあってるし……俺はこの二回の戦いでこの女神ちっとも使えないんじゃないかと疑っている。はっきり言ってこれ以上問題児は……。いやまて、こっちの怖そうなおねえさんなら常識的な言葉でやんわりと諭してくれ…
「あら、一つの目標に絞る。それも自分の愛することへの情熱は悪くないわ。」
こっちも駄目だったー!
「そっかー!たぶん茨の道だろうけど頑張れよ、ギルドに着いたら報酬は山分けで機会があったらどこかで会おう!」
俺はそう言ってうまく切り離そうとしたのにめぐみんは今までの力より強くしがみつき離そうとしてくれない。
「我が望みは爆裂魔法を撃つことのみ、なんなら無報酬でも良いと考えています、そう……アークウィザードの強力な力が今なら食費と雑費だけで、これはもう長期契約を交わすしかないのではないだろうか?」
えぇい、そんな宗教勧誘か新聞業者みたいな言葉で騙されんぞ
「いやいや、その強力な力は俺たちみたいな駆け出しの弱小パーティには宝の持ち腐れだ」「いえいえ、弱小でも駆け出しでも大丈夫です、私も上級職ですけどレベル6ですから、ねぇ私の手を引き剥がそうとしないでほしいです」「いやいや、1日一発しか撃てない魔法使いとかないわー」
こいっつ~!魔法使いの癖に意外な握力を……
「おい離せ!他のパーティでも捨てられた口だろ、離せって!てかダンジョンにでも潜った時には爆裂魔法なんて狭い場所じゃ使えないしいよいよ役立たずだろ!」
体を強く揺さぶっても引き剥がそうとしても取れねー!これ以上問題児を増やすと芋づる式に増えそうで嫌なんだよ!
「どこのパーティも拾ってくれないのです!荷物持ちでもなんでもします!お願いです私を捨てないで下さい!」
「いいじゃない、爆裂魔法は使いどころさえ間違わなければ大抵のモンスターは一撃よ。」
そういう問題じゃないんだよ!ってあれ?この人の服、さっきまで血まみれだったのにいつの間にか服がキレイになってる。まあ顔の血はそのままだから逆に怖さが倍増なんだが。それにしてもどうなって……
「小さい子を捨てようとしてる」
「隣には粘液まみれになってる女の子も連れている」
「あんな小さい子を弄んで捨てるなんてとんだクズ」
「ヌルヌルのプレイなんて変態だ」
「ち、違ーう!」
ユタカさんの姿に考え込んでいたらありえない話が聞こえた
気が付けば井戸端会議をしていた女たちが勝手な妄想を口にしだしていた。
俺は否定したのにいっさい取り合ってもらえない、それどころかめぐみんの目があからさまに悪い目をしているんだが…おい、まさか嘘だろ?
「どんなプレイでも大丈夫ですから、先ほどのカエルを使ったヌルヌルプレイでもムグゥ」「よしわかった!これからもよろしくな」
くそ~、負けたー!だがこんなところで悪評なんて広められたらと思うと……
「あら駄目よ、カエルのヌメヌメプレイは……ねぇ……」
コエー!怖えよ!その顔は人を殺せる顔だからやめて~
「そういえばあなた、さっきまで血まみれじゃなかった?」
お、いいぞアクア!俺も気になってたんだ。
「ほんとですね。スキルか何かなのでしょうか。」
「いいわ、教えてあげる。私はフラワーマスターのユタカ。この服は私のスキルで造り出した服よ。だからあの程度の汚れぐらい時間が経てばこの通り、キレイキレイよ。」
ほえ~、便利なスキルもあるもんだな。
「フラワーマスター?聞いたことない職業です。」
「今のところ私だけがなる新職業よ。」
「新職業ですって!?」
なんだなんだ新職業ってのは珍しいのか?
「なあアクア、新職業ってのは珍しいのか?」
「珍しいもなにも、レア中のレアよ!カズマみたいなヒキニートには一生縁のない話よ。」
おい、こいつ今なんつった。
「カエル一匹倒せない、すぐ食べられちまうような駄女神に言われたかねぇよ!!」
結局、めぐみんを新しくパーティに入れ。前途多難な未来に溜息が止まらなくなるのだった。
血まみれで カエル引き裂く 女かな
さてカズゥマさんの登場です。
カエルは犠牲になりました。